第6話 白銀の戦車


 5日ぶりのログイン。


 ひぁー仕事疲れたー。忙しくて休日しか入れないなんて、不幸だぁ。


 今回は、前回ログアウトした森の洞窟近くの木のうろの中からスタートだ。

 チラッと洞窟に目を向けるが何となく苦手意識が芽生えて行く気になれない。


 しゃーない、他のとこ探索に行くか。


 大した逡巡もなくサッと外に飛び出す。

 洞窟のある岩壁に沿って東に向かって移動を始めた。何だかんだこの方面は未開の地だ。


 猫のすばやさを活かした緩急を使って茂みから茂みへと移る。


 気分は某心の怪盗団だ。


 静かに、素早く、しなやかに、そして華麗に!


 しゅっしゅっ


 しゅしゅっ、しゅしゅっ、たまに猫パンチ!しゅしゅっ、しゅしゅっ。



 茂みに先に潜んでいる先客に挨拶がわりの猫パンチ繰り出しながら進む。




 しばらくする浅い川にたどり着いた。

 流れも緩やかでキャンプにうってつけな雰囲気だ。

 茂みから顔をにゅっと出して当たりを確認してみる。

 自慢の可愛らしいお髭感知には何も引っかからない。


 うむ、異常なーし!


 太陽であっためられた河原の石を肉球に感じながらご機嫌に川に向かう。

 覗き込んでみると、透き通った水の中にメダカサイズの小魚がいた。


 にゃふふ〜。ご飯が泳いでるにゃー!


 丁技【伝説の右手】!


 激しい水しぶきと共に小魚が宙を舞う。

 弾かれた魚達は河原に打ち上げられると、ピクピクと痙攣したあとに儚いエフェクトともに砕け散った。


 あっ…。


 まさか小魚にもHP設定がされてるなんて…。


 ふぅ…。


 ふぅ…。


 よし!私はお魚を打ち上げてない!

 さっきここに来たばっかで今からご飯とるんだ!


 悲しい記憶はさっさと忘れてしまうに限る。


 ポジティブ最高!


 それでは気を取り直して。

 微動だにせず水面を睨み続けること2,3分(多分)、ついに待ちに待ったマス(多分)がやってきて眼下で寛ぎ始める。


 ふ、我の前で気を緩めるとは命知らずめ!

 ふぬぉ!


 気合いの雄叫びを上げながら水面に飛び込むと、見事マス(多分)を捕まえる。


 我にかかればこんなこと朝飯前なのだよ!

 もう太陽傾きかけてるけどね!

 なんと言っても、動物型アバターのいいところは人型と違って少ない回数の食事でも満腹度が保てるところだよね!

 数少ない動物アバターの利点だからね!

 これくらいしてもらわないと常にサバイバルな僕たちは餓死まっしぐらだからね!


 捕まえたマス(?)を美味しくいただくと太陽が木々の向こうに隠れ始めた。


 ありゃま、もうすぐ夜か。早く今日の寝床探さないと!


 木の洞や岩などの隙間に身体を実際に収めて見て、フィットする場所探す。


 やばい、そろそろ本格的に暗くなる!

 本格的に隠密とか気にしてる場合ではなくなってきたなぁ。


 しばらく練り歩いてると、倒木と岩と植物ででいい感じにテントができているのを見つける。


 こ、ここd…


 隙間に顔を突っ込んでみると、柔らかい何かにぶつかった。


 んお?なんだこれは


 肉球でもにもにとしてみると毛皮のように柔らかい感触がする。


 ふむふむ、まるでお誂え向きのベッドじゃあないか!

 何かよくわかんないがこれを枕にすれbぎゃあああ!!


 あ…ありのまま今起こったことを話すぜ!

 おれが良さげな隙間を見つけて今夜の寝床にしようと思って顔を突っ込んだらそこに鳥みたいなダックスフンドがいたんだ!

 おれが何を言ってるのか分からないかもしれないが、おれも何が起こってるのかよく分からなかった…。

 頭がどうにかなりそうだった…催眠術とかマジックだとかそんなちゃちなもんじゃあ断じてねぇ…恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…!


 私が変な髪型のチャリオッツな心境になっていると、頭を預けようとした枕がのっそりと動いた。

 すると、闇の向こう側からダックスフンドの顔が出てきたのだ。

 なんと、私の寝床にあったのは枕じゃなくてむっちりしたダックスフンドの顔を持った鳥みたいな変な奴だった!


 え、何言ってるか分からないって?

 いやそのまんまのいみなんだってばよ。

 首から上はダックスでフンドなやろーのくせに、そっから下は全部ニワトリ見てーななりのやろーだったんだ!


 くそ、こいつ、つぶらな瞳で睨みつけてきやがる!

 どうする?倒すか?いや、相手の強さが分からないとなると迂闊な真似は…それともにげるか?いや、もうすぐ夜だ。夜になるとモンスターが活発になる。あまり得策じゃない。どうする?考えろ!考えr…






「おんどれは一体何もんじゃあ!!!!」






 しゃ、しゃべったー!!!!

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