第5話 復讐の猫
〘 キシャァァァァ!〙
開始早々断末魔でごめんなさい。
鹿太郎と引き分けた(負けてない)私は、因縁の洞窟にやってきた。
上がったステータスと前回からの慣れから以前より比較的に早いペースで進んどります。
〘 クォ!〙
隠密性と攻撃力の高い蜘蛛之助をある技術の練習台に先に倒し、蝙蝠太と万全の体制で戦いに挑む。
ライダーなキックの如く、急降下と共に足の爪を突き立てる蝙蝠太。
だが甘い!
私は、後ろに引くのではなく、あえて前進を選ぶ事でその爪の真下をくぐり抜ける形で回避をしつつ背後を取る。
空振り、慣性の法則によって体制の整わない蝙蝠太の首筋に牙を突き立てる。
うーん、不味い!
〘 ク、ァ"ァ"オ"ッ〙
気管が潰れ、息をするのもままならなくなった蝙蝠太は、聞くに耐えない声を発する。
南無南無、化けて出ませんように。
せめてもの救いとして、爪と牙を駆使し、あっという間に蝙蝠太の息の根を止める。
お、レベル上がったな。
Lv.16→19
HP38→44
MP18→22
STR30→35
DEF19→24
DEX3→3
LUC62→70
相変わらずダントツで高い運と、とダントツで低い器用値だな。
私は、意外と物理攻撃特化型らしい。ってそういや魔法とか使ったことねぇや。
あ、魔法もスキルに含まれるからな。
ふーむ、そろそろ蝙蝠男さんの広場に着いちまうんだよな。どうすっかな。ここで引き返すのも良いし、挑戦してみるのも良いが、万が一を考えるとなぁ。
とか考えているうちに着いてしまった。岩陰からコソッとのぞいてみると、やっぱりアイツが鎮ぶら、ゲフンゲフン、鎮座していた。そういや今回蝙蝠子が居ないな。
まぁ、いざとなったら逃げるも八卦だ。
よしっ!
気合を入れて境界となる薄青い膜をとおりすぎる。
その前に、インベントリを開き腹ごしらえをする。実は洞窟に向かう途中の狩りでレベル15を超えたらインベントリ機能が開放されたのだ!緑の雀さんだったモモ肉を取り出してガブッと行きます。
ふぅ……満足!味は無いがなんとなく満たされて疲れが癒えたので、いざゆかん!
膜を通り越し、恐る恐る足を踏み出したその瞬間、背筋を冷たい物が伝った気がした。目を上げると、先程まで目を閉じていた蝙蝠男と視線がぶつかる。
ゴング等鳴らなくとも試合の開始は、双方に伝わった。
動かない。
空間が凍ったような気さえした。
動かない。
動かない。
動かない。
動か
身体が中を舞った。
ぅがっ!
声にならない叫びを上げながら、俺はすっ飛ばされた。
にゃらりんぱ
見ると、出入口付近には四つん這いの獣のような格好で右手を振り抜いた姿の蝙蝠男がこちらを見ていた。
はやっ
自然と体が殴り飛ばされる衝撃を逃がすことが出来たからそこまでのダメージはないものの、いきなり1割5分ほどのたいりょくをもってかれた。
〘 我が一族と盟友の仇、打たせてもらうぞ〙
え、喋れるんかい!
ピコーン
〘ダンジョン:青廊の隠れ家のボス、シューケルとエンカウントしました。〙
おい、なんだよそのアナウンス!そんなの今まで聞いたこともねぇぞ!てかやっぱボスかよ!
蝙蝠男、もといシューケルは直立二足状態になると、ゆっくりとした動作で此方へと詰め寄る。恐らく身長にして180は優に超えている為、圧倒的な威圧感がある。
ついに、彼我の距離が1mほどとなるとシューケルは立ち止まり、こちらを見下ろす。
〘我が名はシューケル。氷結の暗翼シューケル・リクノアだ。〙
フルネーム自己紹介だと?!くっ、やるじゃないか。なら俺も名乗り返してやろう。
にゃがにゃぁかにゃにゃに、にゅにゃにゅ。
しゃべれないんだったぁ!
そうだよ、このアバター人語喋れないんだよォ!
〘ふむ、そうか〙
まさか伝わったの?あれで?
〘なんと言ったんだ?〙
やっぱダメだったね!
〘まぁ良い。侵入者よ。覚悟は良いか?〙
にゃらぁ!
お、おうとも!やってやるさぁ!
シャア!
気合いの威嚇ボイスを披露して差し上げる。これで返答にはなっただろう。
シューケルは、これに背を向け3メートルほど離れると、こちらを向き、戦闘態勢をとった。
四足の体制になり、両脚を広くと左手を体正面に置く事で重心を低くし、右手は体で隠す。ス○イダーマンみたいな感じだ
動きが読めない、隙のない体制だ。多分。
〘では、いざ尋常に〙
こちらもいつもの戦闘態勢をとる。
〘勝負!〙
来る!
先程の開幕速攻と同じ悪寒を感じ、バックステップをすると、正に電光石火を体現したシューケルの鉤爪が私の毛を掠める。
っ?!はや!
攻撃を外したシューケルは、浮遊した身体を地面を殴るという常識外の方法で制御し、俺から距離をとった。
ヒットアンドアウェイ。
単純だが、自身の強みを最大限に生かした強力な戦法だ。
今度はこちらから...と仕掛けようとすると、既にこちらに迫っていたシューケルの腕に掴まれてしまっていた。
〘さらばだ〙
シューケルがそう短く発すると、口を大きく開け、俺の頭部を噛み千切らんと迫る。
〖 伝説の右手 〗
目前まで迫ったシューケルの顎に見事に決まった俺の右手は、蝙蝠男さんの手の力を緩ませ、逃れる時間を十分に作りだした。
〘カッカッカッ!してやられたわ。貴様、丁技を使えたのか〙
あら、使えると思ってなかったのか。
この隙を逃すほど俺はバカじゃない。足元をくぐり抜け、次いでとばかりに両脚を爪で引き裂く。
〘ちょこまかと!〙
小回りでは勝てないと知るやいなや、シューケルは、伊達ではない皮膜を用いて飛び上がると天井に着地する。
〘喰らえ!〙
一瞬、シューケルの口元が青く輝く。
丁技か!
距離を取ったことから、遠距離技の可能性が高いシューケルの丁技から逃れるため、出来得る限り遠くに避難する。
〖 ハウリング 〗
〘ーーーーーーッ。〙
ぬぅあぁぁぁぁ!
シューケルの発した大音量の超音波が敏感な猫の耳を破壊する。
敗色が濃厚だと判断した俺は、揺さぶられる脳に鞭打って全力で出口へと向かう。
ガリガリと削れていく体力ゲージ。
くっ、間に合わねぇ!
残り半分ほどまで減っている体力に絶望を感じる。
そしてとうとうゲージが4割を切り黄色く表示され、3割にそして2割を切った瞬間、シューケルのスキルが止まった。
〘逃がすか!〙
来るか!クソっ一かバチか!
シューケルとの戦闘への道すがら、ずっと練習してきたあの技術。とんでもなく確率が低いがそこにかけるしかもう道は残されていない。
来いっ、来いっ!
シューケルが太く発達した腿を縮ませる。濃い筋肉の筋の陰影がここからでも確認出来るほど作り込まれた肉体から出る速度は先程も体感した通り、異次元のものだ。
そこに俺の渾身の一撃を合わせる。そうここまで練習してきたカウンターこそが現状唯一の打開策だ。
まだだ、まだだ、まだだ、まだ...今だ!
迫り来る紅い眼光と苔の明かりを鈍く反射する凶刃に反応し、全力でシューケルに向かって突撃する。
うにゃぁぁぁぉぉ!
〘クォォォォッッ!!〙
俺は天井見ていた。苔にまみれて輝く天井を。天井まで覆う青く光る不思議な苔が俺の生存を教えてくれる。
あぁ、俺助かったのか。
体力ゲージは見事に数ドット残ってるだけ。たまたま吹っ飛ばされた先がボス部屋の青膜だったから助かった。
生き残れた。まじかー、シューケル強すぎるわ。まともに入ったダメージとか1発だけじゃん。
とにもかくにも、データの初期化だけは免れたわけで。本当ラック値様々だわ。
これからどうするか。
チラッ
青い膜の向こうにはこちらを見つめる赤い瞳。
逃げよ。
すぐさま起き上がり、痛む四肢に鞭打ってその場を全力で離脱する。
〘逃がすかぁ!〙
ひぇぇぇ!こわいよぉ!
大音量で洞窟内を反響するシューケルの声に、半ばパニック状態になりつつも一目散に駆ける。
〘奴を討ち取れぇ!〙
ぎょぁぁぁぁ!
天井や壁に空いた小さな隙間から続々と顔を出す蝙蝠と蜘蛛一族。
一撃もらったら即アウトな脱出ゲームの開始だ。
〘キシャァァァァ〙
危な!ちょっ!待てや!話せば...あぁぁぁ!
話し合いは出来そうになかった。
カウンター!〖伝説の右手〗!
突っ込んでくる蜘蛛は、速度の相対効果で威力の増した
おらぁ!どんなもんだ!あっ、待ってそんなに一遍に来ないで!あぁぁぁ!
避けて避けて避け続けて、避けられない攻撃にだけカウンターを使った必死の一撃を使う。
〘クォォ〙〘キシャァ〙〘クォォォォ!〙〘クォ〙〘 キシィッ〙〘クォォゥ〙〘キシャァァァァ!〙〘キシャ!キシィッ〙〘クォォォォ〙
いぃぃぃやぁぁぁ!あ、出口だ!た、助かっ、うぐぅ!
背中に鋭い痛みが走る。
蜘蛛の鎌が当たったようだ。
あ、死んだわ。...あれ?ゲームオーバーにならない?
訝しんでよく体力ゲージを見ると、1ドットしか残っていなかったはずだが、ほぼ全回復していた。
おぉ、いつの間にレベルアップしてたか。
ともあれ、やることは変わらない...逃げるが勝ちよ!
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