第4話 はとぽっぽ

 鞭使いさんに捕獲された私は、お持ち帰りされる途中で休憩の為のログアウトをしたタイミングで命からがら逃げ出してきました。

 そして現在平原にいます。


 平原では、森と違って動物とかモンスターの姿があちらこちらに見える。それぞれ50メートルほどの間隔を保ちつつ、本物の生物のように生活している。

 時に立ち止まり、時に他を襲い、食事をしているような素振りすら見せた。


 丈のあるくさむらに身を隠しつつ、1匹の鹿太郎に接近する。

 鹿太郎は、名前の通り鹿の風貌はそのままに角が金属のような質感見せている。

 金属の角を持つ鹿はインゴットディアーという種族名があり、サービス開始から2週間たった今でも3体しか発見報告がされてない中々のレアモンスターだ。レアモンスターには金を大量に落とすやつ、経験値ザクザクなやつ、レアアイテム落とすやつといくつか種類がある。鹿太郎は、アイテム枠のモンスターだ。何が出るかはランダムだがそれなりの物がおちるらしい。


 私に使えるのかは知らないけど


 そろり、そろり


 私はサーバル。野生のサーバルちゃんだ。

 音もなく近づいて、その息の根を...止める!


 に"ゃぁぁぁー


 猛々しい咆哮と共に鹿太郎の首筋に食らいつく。


〘 クァァァン!〙


 のほほんと幸せな時間を過ごしていた鹿太郎は、首筋という急所への強襲に驚き、後脚で立ち上がり、勢いよく両足を地面に着いた。その時の振動に負けて、俺は振り落とされてしまった。


 にゃらりんぱ


 猫特有の素晴らしい身体能力で着地に成功するも、当初の目的から外れた戦況に慌てる。


 くっそー!あのまま削り倒す算段だったのに!


 鹿の首元に齧り付いたままジワジワ削っていく作戦だったが初っ端から失敗した。あの高い首元に届く攻撃方法は今のところ持ち合わせてない。作戦の再開は不可能に思われる。


〘 クォォォォ!〙


 反響した笛の音のような鳴き声でこちらを威嚇する鹿太郎。


 シャァァ!


 こちらも負けじと気合いの篭った威嚇ボイスを聞かせて差し上げる。


 ジリジリと互いに距離を縮め合いながらそれぞれの隙を探る。

 ふと視界の端をチラついた蝶の影に目を奪われると、鹿太郎はその一瞬の油断を着いて金属製の角をこちらに向けて突進してきていた。


 痛った!


 迫り来る角の隙間を縫い、なんとか鹿太郎の頭頂部にへばりつくことが出来たが、左脇への鋭い痛みと体力バーの減少が掠ったことを暗示した。


 にゃがにゃがにゃが!


 爪と牙を懸命に突き立てるも骨に阻まれ、ドット単位のダメージしか負わすことが出来ない。

 しかし、思わぬ反撃に出た私にパニックに陥った鹿太郎は、頭を振り回し、走ったりとするが、同じ轍は踏むまいと私は必死にしがみつく。


 うぉぉぉ!!早いぃー!


 何かを思いついたのか鹿太郎は何かに向かって走り始めた。


 進行方向にケツを向けている私は何を目指しているのか分からず、ただしがみついている。流れる景色を尻目に必死にその頭部で暴れ回る。


〘 クォ!〙


 覚悟の篭もった鳴き声と共に、突如として私の視界は真っ白に埋め尽くされる。

 次の瞬間には、足元から鹿太郎を見上げながら大ダメージを負っていた。


 ぐふっ、なるほど...そういうことかよ。


 鹿太郎は自身の右角が折れるのと引き換えに岩に私を叩きつけたのだ。


 うぬぅ。


 岩を伝ってズルリとすべりおちると痛む腰に鞭打ってその場を離脱する。

 恐らく脳震盪にでも陥っているであろうフラフラの鹿太郎の体力バーは、半分に減って黄色くなっていた。私の体力は、既に残り2割を切って赤く点滅している。

 ゲームとはいえ性質上死ぬことは極力避けたい。その為危ない橋は渡れないのだ。


 べ、別に負けたわけじゃないんだからね?!ただ気が乗らなかったから引いてあげたんだから!そう、戦略的撤退ってやつなんだから!勘違いするんじゃないわよ!


 ツンデレてみました。





 草原で初っ端から大敗を喫した私は体力の回復と修行がてら森に出戻りしました。


 くそー!くそー!


 敗北、もとい戦略的撤退をした私は森でモンスター枠に入らない動物達を千切っては投げて、いそいそとレベリングをしている。

 得意の隠密を生かした暗殺が主な戦術だが、時折肉弾戦を挑みプレイヤースキルを磨く。


〘 ピピっ?!〙


 たった今も巣作りの最中だった雀のような緑の鳥を仕留めたところだ。


 ふぅ、だいぶ上がったな。


 Lv.14→16

 HP32→38

 MP14→15

 STR25→28

 DEF14→20

 DEX3→4

 LUC52→55


 森修行の成果、2レベル上がり少し強くなった。


 だいぶ頑張ったなぁ。6時間ぶっ続けで狩りをしたしなぁ。


 しかし、やはりあの洞窟に比べると効率がだいぶ悪い。

 そう、レベル上げといえば因縁のあの洞窟だ。


 よし、いくか。


 奥まで行かなければボスに遭う心配はないと安易な思考で例の洞窟に舞い戻る。


 に"ぁぁご!


 もちろん道中の狩りも忘れない。

 うまうま。


〘 くるっぽー?!〙


 あ、レベル上がった。

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