第2話 脚はいいぞ、脚は
「ついに我が家にも来たぞぉ!新型TVC(Trance Virtual Connecter)機器!いやぁ待ち遠しかったなぁ…」
TVC機器というのは神経に伝達される電気信号を機械に取り込み、情報体(キャラクター)を操作するための機械である。つまりゲームの中に入り込むということを実現した神器のようなものなのだ!
私が、いや、全世界が待ちに待った新型TVCの見所はな、なんと言ってもローンチタイトルのゲームだ。ローンチタイトルとして発売された通称WWO(Wild World Online)は、世界有数の数多企業による大連盟によって開発された超★絶★大型ゲームだ。
舞台は昨今人気のオープンワールド形式だが、今までとは隔絶した広さと自由さ、そしてリアルさを誇る。広さは現代の地球の表面積とほぼ同等。リアルさに至っては、ベータテスト参加者曰く、「リアルと区別がつかなくなる」のだそうだ。
その今までの作品とは隔絶したリアルさ故に、ゲームとリアルの境目が曖昧になるのではと問題視もされた。しかし、視界に常にバーチャルワールド特有のとあるマークを表示する事で何とか発売に漕ぎ着けたそうだ。
私の家に本体とデータチップが届いたのは発売から1週間後。販売本数自体が日本では2万と少しなので早いように思えるかもしれないが、世間からは後発組として認識されている。
私は、逸る気持ちを抑えて説明書をしっかりと読み込んで装置を装着していく。
先ず首に円形の機械をを取り付けてサイズを調節し、機械の右側にある窪みと外部装置である四角い機器に接続する。その後、専用のピッチリしたスーツやら長手袋、靴を装着していき最後にヘットギアをつける。それぞれを外部装置と有線で繋ぎ、電源を付ける。
ウィーンという機械音とともに、視界に動作テストの様子が表示される。この為に用意したと言っても過言ではい高級マットレスに体を沈め、リラックスする。テストが終わると今度は接続機器の接続状況を再確認をした後「Welcome」と文字が表示されると、体が宙に浮いたような感覚に襲われる。
「Welcome to new world. 」
女性の優しげな声と共に歓迎の文言が目の前に浮かぶ。
気付くと、俺は真っ白な四角い部屋の中に立っていた。
「お、おぉ!ここが、ゲームの中なのか!」
あまりのリアルさ、自然さに呆気に取られながら目の前に浮かぶタッチスクリーンを操作する。
まず言語を日本語に設定し直し、自分の情報を打ち込んでいく。初期設定を完了し終わった頃、ゲームのダウンロードが終了しましたと表示される。
「Wild World Onlineを開始致しますか?」
迷わず画面の「はい」をタップする。
瞬間、白い部屋が緑色に輝くといつの間にか森の景色に変わっていた。
「正常な動作を確認。人物照合を開始します。既存データが見当たりません。新規データを作成します。・・・・・
初期設定を開始致します。種族を選択してください」
ピロリン♪
優しい機械音とともに半透明なキャラの擬似グラフィックが目の前に現れた。これは今選択可能な初期キャラのようだ。
左端から順に、人間、兎、ゴブリンみたいなモンスター、そして、猫!
今回のゲームは人間を選んで生産職として極めて行こうと思っていたが、まさかの初っ端から選択肢に猫が入ってました。これはもう選ぶしかないではないか!誰がなんと言おうと猫は至高だ。ということで迷わずねこたんに決定!
ポチッとな
決定ボタンを押すとなんと「キャラクタークリエイト終了」の文字が。
(え?嘘でしょ?模様とか名前とかどうすんの?)
と思っていると、いつの間にか周囲の景色が赤茶けた大地に変わっていた。
「チュートリアルを開始します」
(え?)
青と白を基調としたワンピースを着た女神の如き美貌のお姉さんがこれまたいつの間にか目の前にいらした。
私の体が通常の猫サイズになっているのでお姉さんが巨人に見える。足元に近寄ればシミ一つない綺麗な御御足と素晴らしき栄光の三角地帯が拝めそうだったが、紳士である私はそんなことはしないのである。
「このチュートリアル専用フィールドでは、ご選択になられましたキャラクターの操作方法、基本情報について説明させていただきます」
邪なことに思考を囚われ、あれよあれよという間に勝手に進むチュートリアル女神チックお姉さん。
必死に追いすがって何とか情報を処理する。
1.人外キャラと人型キャラとの意思疎通には専用のスキルやら何やらが必要。
2.人型キャラには実装されてない進化制度が既に使用可能。
3.人外専用スキル枠丁型は、多岐に渡るスキルの修得が可能。
4.四足獣は慣れないと動かすのに苦労する。
5.人間よりもアクロバッティックな動きがし易い。
聴き逃しがなければ、だいたいこんな感じだったはずである。
「では、実際に動かして見ましょう」
女神この言葉が一通り説明が終わったことを示していた。
恐る恐る1歩進んでみる。猫の歩行感覚は俺にとっては屈伸せずに両手足の指だけを地面につけている感じだ。リアルな体なら指が地面に着くはずは無いのだが、体が猫のなのだ。当たり前に着いている。不格好ながらも1歩1歩踏み締めていると。
ピコン♪
機械音と共に目の前に開かれたのは、動画付きの猫の歩き方の説明だ。
言われた通りに歩き回ること10数分、やっと自然になってきた所で、今度は走り方、その次は跳び方等、あらゆる基本的な肉体の操作感覚をレクチャーされた。
扱い方が生きるのにはそれ程苦労しないぐらいになったとき、女神が指を弾くと私の視線の先10メートル位の位置に俺とほぼ同サイズのうさぎが姿を現した。
茶色い毛皮に黒いつぶらな瞳で俺を見つめてくる。
「にゃ、にゃお〜ん!うにゃ〜に”ゃ”……」(な、何だよ。可愛いじゃねぇか!これはあれか?有名な仲間にしてもらいたそうな目ってやつか?ムフフ、良いだろう!俺の子分に((殴
可愛さに釣られて不用心に近寄った俺の顔にうさぎの飛び蹴りが突き刺さる。
こうして私の猫生活は幕を開けたのだった。
逃げ切りました。
巨大蝙蝠、別名蝙蝠男からの襲撃は、存外簡単に脱することが出来た。蝙蝠男はあの洞窟のボス設定をされているらしく、大広間から出ることが叶わなかった為、一歩外に出れば互いにフィールドを区切るバリアによって手出しはできないため、被害は皆無だった。
もちろんちゃんと安全圏から罵詈雑言を吐いてきましたとも。
その日はなんだか色々疲れた気がしたので早めに落ちた。
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