第11話 名古屋へ行こう 中
時間は計っていなかったので分からないが名古屋駅を出てすぐにホテルへ着いたと思う。たぶんここ一帯のどれかだろう。
「ここに~泊まりますよ」
そう言って先生が指差したのはビジネスホテルだった。
「ここ・・・ですか」
予想してなかったわけではないがいざ泊まるとなると少し緊張?みたいなものがする。
「はい。二人一部屋で~泊まりますよ」
「ベッドはどうするんですか?」
山上はこの状況を早くも受け入れたようでその上で質問をしている。
先輩たちは去年もここだったのか驚いた様子は見れなかった。
「ベッドは~各部屋に~二つずつ~あるので~大丈夫です」
「わかりました」
山上は納得したようだ。それを見た先生が話を進めた。
「ここで~問題になるのは~部屋割り~です。どうするかは~皆さんが~決めてください。先生は~誰でも~大丈夫です」
そういうと冬野先生はホテルの中に入っていった。たぶん、チェックインをしに行ったんだろう。
「諸君らで決めてくれ私は責任者と同室する」
ということで俺、千鶴、山上、伏田さんの四人で決めることになった。と言ってももうほとんど決まってるようなものだが。
「俺、伏田さん。山上、千鶴が妥当だろうな」
伏田さんが話を進めるのはきつそうなのでここは三人で決めて伏田さんに許可をとるみたいな感じになるだろう。
「それが妥当ね。私は賛成よ」
山上は賛成してくれた。あとは千鶴がいいかどうかだ。いいに決まってるけど。
「でもさ。それだとしゅーくん翌朝困らない?」
「え、何でだ?」
俺は千鶴の質問の意味がわからなかった。
「起きたときに誰?ってなって一騒動起こさない?ってこと」
「あ、その可能性考えてなかった」
すっかり忘れていた。そういえば中学の修学旅行でもそうだった気がする。あのときは先生が全生徒の名前と顔写真が載ってるやつを持ってきて確認したんだっけ?もう二度と行くか!と思った。
「で、山吹君。どうするのかしら?」
山上の声で現実に意識を戻した。
どうやら俺の意見を求められているようだ。
「俺はその事で色々あったからな」
「そうだったね。実際に見た訳じゃないけど中学の修学旅行が大変なことになったって聞いた」
一度そういうことがあるともう一度やろうとはなかなか思えないものだ。
「私は山吹君と同室は嫌だわ」
「まぁ、難しいよね。ひとまず伏田さんに聞いてみたら?」
なかなか決められない俺を見かねてか千鶴がそういった。このままでは仕方がないので俺は千鶴に言われるまま伏田さんに話しかけた。
「伏田さんはどうしたいですか?」
「ぼ、ぼく?僕は・・・誰でもいいです」
「翌朝俺の顔見たとき誰?ってなると思うんですよ。それでも大丈夫ですか?」
想像しづらいから答えづらいだろうがこれが一番伝わるだろう。
「え、あの、わ、分からないです。・・・・なんか、ご、ごめんなさい」
どうやら伝わらなかったようだ。例を挙げてもう一度俺は挑戦する。伏田さんにはきついだろうが部屋決めの上で重要だ。さすがにこの年だといくら幼馴染みでもおんなじ部屋で二人きりで夜を越すのは色々と問題がある。
「謝らなくても大丈夫です。強いて言うなら朝起きて知らない人が隣で寝ているって感じです」
俺の中でこれが一番いい例だ。でも、意味がわかったところで結果は変わらないだろう。俺だって朝起きて隣に知らない人がいたらびびる。というか普通に怖い。
「そ、それは無理です!」
そして、答えは俺の予想した通りだった。結局俺は頑張らなければいけないらしい(千鶴もだが)。ここでツインベッドだったらマジでどうしようか?という不安に苛まれたが今は考えないでおくことにした。
「どうだった?」
千鶴達のところにもどるやいなや千鶴がそうきいてきた。
「無理だって」
俺は千鶴たちにとっても残念な知らせを伝えた。
「当然よ。朝となりに知らない人がいたらまず通報するわ。冷静になればあなたと同室だったことに気づくと思うけど寝起きでそれはまずありえないでしょうね」
山上に容赦なく言われ(あながちというかほとんど間違いじゃないので余計にきつい)しっかりと傷ついた俺は千鶴に助けを求めるべく千鶴の方を見た。
「この場合顔を覚えてる私が同室になった方がいいんだろうけどちょっと心の準備が」
千鶴も千鶴で戸惑っているようだ。
「もう~決まりましたか?」
そんなこんなしているうち冬野先生たちが戻ってきた。
俺たちはまだ決まっていないということとその理由を一応話した。話したところでいい解決策を見つけてもらえるとは思わないが。
「もう~山吹君と~神崎さん。伏田くんと~山上さんで~いきましょう」
代わりに先生が決めてくれた。
「高校生が異性と二人きりで夜を過ごすのは倫理的に色々と問題があると思うんですけれど」
そこにはきっちり山上が反論してくれた。
「大丈夫~ですよ。二人に~そんな勇気~ありませんから」
しかし、スパッと切られてしまった。今の発言は伏田さんは分からないが男として色々傷つくところがある。まぁ、そんな気は微塵もないけど。
「あの、しゅーくんとは幼馴染みなんですけど」
だから色々とと言葉にはしてないにも千鶴は暗にそう言っていた。
「時間も~あまり~ないので~これで~決まりです」
冬野先生は聞く気がないようだ。部屋の鍵をそれぞれに渡して二時にエントランス集合というと冬野先生は行ってしまった。部長も同じ部屋なのでそれについていった。
「行っちゃったね」
「ああ、そうだな」
「まだ変えることはできるわよ」
一応山上が冬野先生だから変更も可能だと伝えてくれた。
「伏田さんはどうしたいですか?」
しかし、この変更には伏田さんの許可が必要だ。山上と同室になった伏田さんが心変わりしてるかもしれないという期待を込めて聞いてみた。
端的に言えば山上の発言で傷つく方か朝となりに見覚えのない人がいるか(絶対とは言えないが)のどっちがましか?ということだ。
「・・・・。」
どうやら伏田さんも迷っているようだ。
「あのさ、その事なんだけどしゅーくんが伏田さんより早く起きれば良くない?」
「それはつまりどういうことだ?」
さっきまでかなり真剣に考えていた千鶴が閃いたとばかりにそういった。
「しゅーくんが早く起きて紙に名前を書いてそれを首から下げとけばいいんだよ」
どうだ!といった感じで千鶴がそう提案した。
「でも、神崎さん。それでは本人かどうか分からないわ」
しかし、すぐに山上に反論されてしまった。確かに、知らない人が名札をかけているという可能性も・・・ほぼないな。
「ぼ、僕は・・・それでいいです」
ということで俺、伏田さん。千鶴、山上という部屋割りに決まった。集合時間まであまりないので俺たちは部屋に向かった。ちなみに部屋は隣同士だ。すぐに行ける距離だが山上がいるし何より壁があるというだけで大分違う。
山上や千鶴と別れ俺と伏田さんは部屋に入った。
部屋は結構狭く形は正方形だった入って右手にトイレとシャワールームがある四角い部屋があり左の方にベッドが二つくっついて並んでいて、四角い部屋のある右の壁にTVがついているという感じだった。ベッドとTVのついている壁の間に何とかスーツケースをおける広さがあったのでそこに置くことにした。というかそこ以外に置く場所がない。
これが千鶴とだったら気まずかっただろうなと思いつつひとまず荷物を整理した。あと、名札作りもやっておくことにした。
「なんかすいません。どっちがましかで選ばせてしまって」
やることが終わった俺は改めて伏田さんに謝った。
「大丈夫です。だ、誰のせいでも・・・ないんですし」
伏田さんが気にしているのかは分からないが俺は出来る限りのことをしようと決めた。
「明日は出来るだけ驚かさないようにがんばります」
「お、お願いします」
ひとまず荷物をおいたり、伏田さんによろしく言ったりが一段落着いたのでエントランスに降りていくことにした。ちょうどもうすぐで二時になるし。
「あとは~神崎さんたち~だけですね」
俺と伏田さんがエントランスへ降りてくると部長と意外なことに冬野先生がいた。失礼なのかもしれないがいつものことなので仕方がない。
少しすると千鶴たちがきた。時間ギリギリだ。
「すいません。遅れました」
「遅れてないわよ。今ちょうど二時だもの」
軽く息を弾ましているのを見ると駆け足できたのだろう。
「最後の時はそういうものなんだよ」
「何でそうなるのか私にはさっぱり分からないわ」
千鶴は常識を教えようとしていたが山上は理解できてないらしい。気遣いというかそういうものなんだが山上にはたぶん分からないんだろうな。
「みんなが~集まったので~早速~いきましょう」
冬野先生はそう言うとホテルの外へ歩き出していった。これから時間とか詳しいことは一切書かれていなかったが活動とは書かれていたので何かしらのボランティアをやるのだろう。何やるかの予想は何となくついているけど。
「千鶴たち遅かったな」
「女子は準備に時間がかかるの!」
ひとまず歩く冬野先生についていきながら俺は千鶴にそんなことを聞いた。千鶴は時間がかかると言っているが荷物を置くだけだと思うからいまいち分からなかった。
「準備じゃないわよ。神崎さんが下着の数が足りなくてスーツケースやリュックをあけてひっしに探していたのよ」
「もう、結香ちゃん。そう言うことは言わないで」
どうやらそういうことのようだ。千鶴は恥ずかしいのか顔を少し赤くしていた。まぁ、それは恥ずかしいわな。最近はあまりなかったのでなおったかと思ったがそうではないようだ。
「で、見つかったのか?」
同じ部屋になってたらやばかったなと思いながらどうなったかを聞いた。本当に同室になってなくてよかった。同じ部屋だったら俺の精神が持たなかっただろう。
「ひとまず~ここで~車を~借ります」
冬野先生がにぱにぱレンタカーの前でそう言うと事務所?的なところへあるきだした。そして、俺たちもそれについていく。どうやら車を移動手段として使うようだ。それより、冬野先生車の免許持ってたんだ。
そこにも気になったがひとまずさっきの質問の答えを聞いてからにしようと思った。ちなみに、俺たちが話しているときは部長は周りの警戒をしていて伏田さんは町並みを眺めていた。
「で、どうだったんだ?」
「見つかったわよ」
「もお、結香ちゃん余計なこと言わないで!」
どうやら見つかったらしい。よかったなと思いつつこれ以上掘り下げると色々大変そうだからこの話はここで打ち切ろうと思った。
「それでは~車に~のって~ください」
書類の記入を済ませた冬野先生が借りる車の前にいってそういった。
俺たちは言われた通りに乗っていく。
「皆さ~ん。シートベルトは~しましたか?」
そう確認されて俺は多少戸惑いながらも(いつもそんなちゃんとした注意とかがないから)「しました」と返事をした。他のみんなも各々返事をし、確認できたのか冬野先生が車を運転し始めた。
席は助手席に部長。二列目に山上と伏田さん。三列目に千鶴と俺といったかんじだ。
「冬野先生って免許持ってたんだね」
車が走りはじめてすぐに千鶴がそう話しかけてきた。どうやら千鶴も俺と同じことを思っていたようだ。
小声で耳元に話しかけてきたのは冬野先生に気づかれないためだろう。
この光景を見られたら他のことで勘違いとかをされそうだが。
「意外だな」
少し間があいたかもしれなかったが俺は率直に思ったことをいった。
「少し心配にならない?」
千鶴は少し不安な感じでそういった。
「俺は大いに心配だ。まぁ、免許とれてるんだから大丈夫だろうけどな」
「しゅーくん。それ矛盾してるよ。結局どっちなの?」
どうやら矛盾してしまったようだ。
いつもの先生を見ていると不安にはなってくるが免許とれてるならある程度は大丈夫だろと思う。ようはごっちゃになっているということだ。
「よくわからん」
「まぁ、乗っちゃったしね」
千鶴も俺も乗ってしまったから割りきっていこうということで納得した。
冬野先生はナビを見ながら(出発する前に設定した)運転していた。危ないと思うようなところは今のところないので慣れているのだろう。
「皆さ~ん。着きましたよ」
公園の駐車場に車を停めたあとは先生はそういった。
公園ということは参加するボランティアはごみ拾いなんだろうなと思いながら車から降りた。
「やっぱりこれごみ拾いだよね」
みんなが降りたのを確認して歩き始めた冬野先生についていきながら千鶴がそうきいてきた。千鶴も俺と同じことを思っているらしい。
「そうだろうな」
「ここまでごみ拾いを徹底するとは一周回って感心するわ」
山上も同じことを思っていたようで感心していた。いや、この場合は皮肉か。
少し歩くとそこそこの人が集まっているところに着いた。このボランティアの主体の人なのか冬野先生はおじいさんに声をかけにいった。
ちなみに公園は結構広く(学校付近の公園よりも全然大きい)少人数だとごみ拾いは大変だろう。
そんなことを考えていると時間になっからか全員集まったかでさっきのおじいさんがスピーカーを口の前に持っていった。
「皆さま。今日は南公園の掃除に参加してくださりありがとうございます。皆さまの自主的な参加のお陰で月一回ほどの頻度で活動ができております。来月も行いたいと思いますので飛び入りでもいいので参加してもらえるとありがたいです。それでは今日も掃除に励み気持ちのよい公園を保っていきましょう」
これで話が終わった。今ちょうど道具を配ろうとしているところだ。
おじいさんの話はとても簡潔だった。どこぞの校長よりも全然短い。
それよりもこれって地域の自主的な活動なんだな。
「これ、ボランティアというよりも地域の活動といった方があっている気がするわ」
山上も同じことを思ってたらしい。
「何が違うの?」
千鶴はよくわかんないようだ。まぁ、あんまりこれといった違いを俺も思いつかないから同じと思っても仕方がない。あながち間違いって訳でもないし。
「正式なボランティアには手続きがいるのよ。さっきのお話で飛び入りでもいいっていっていたでしょう。だから、地域住民で行う活動といった面が強いということよ」
「そうなんだ」
千鶴も驚いていたようだが俺も驚いていた。ボランティアって正式な手続き必要なんだな。大きな団体が行うのがボランティアと思っていたけど他の要素もあるらしい。
このあと道具を渡された俺たちは冬野先生が「あとは~各自で~掃除を~してくださ~い」といったのでボランティアで固まらずバラけて活動することになった。
俺はもちろん千鶴と一緒だ。何故なら終わる時間が決まっていても集まったときに他の人もいるから千鶴以外探せない。それなら最初から他のことに気をとられて俺を放置してしまわない限り見失わない千鶴が近くにいた方が先輩たちとかは見つけやすいだろう。
山上はこういうのは一人でやるのか「私はあっちの方をやってくるわ」といって勝手に歩いていった。
「よし、俺たちもここら辺をやるか」
最初の場所からまあまあ離れたところだ。
「そうだね」
千鶴もここら辺でいいようだ。
「ところでさ、やっぱりごみ拾いなんだね」
掃除を始めようと準備をしながら千鶴は「またかぁ」といった感じでそんなことをいった。
確かに、配られたものはごみ袋、トング、軍手と清掃週間でごみ拾いをしたときと同じものが配られた。
「確かに冬野先生ごみ拾い好きだよな」
冬野先生は基本こういうことはごみ拾いしかやんないんだろう。
部長に量が少ないといった感じで平和維持活動をちゃんとやれと言われないように落ちているごみを拾いながらそんなことを考えていた。
ごみは月一回のペースで掃除されているからかあまり落ちていなかった。
でも、部長にそんないいわけ通じなそうなので頑張って見つけて拾う。
時間の半分が経過した。二時間ぐらいやるらしいから一時間ぐらいか。
場所を移動しながら(ごみを効率的に拾うため)ごみ拾いをしていた俺たちはそこそこの量にもなったので作業のペースを落としていた。
休憩を挟まないのは部長に見つかったらめんどうだからだ。
「なにやってるんだろう」
ふいに千鶴がそんなことをいった。
お陰で返答が少し遅れる。
「なにがだ?」
「だって名古屋まで来てごみ拾いってなにやってるんだろうと思うじゃん」
確かに場所が観光名所とかならまだしもただの公園でごみ拾いはそう思ってしまうのも仕方がない。
実際俺も思ってるし。
そもそもの問題として今日の数時間だけしか活動しないっていうのがあり得ないんだろうけどそこに関しては観光が楽しみだし別に問題ないことにした。
「それをいったら活動がこれしかないことの方が問題だろ」
「確かに」
「だからそこに関しては割りきろう。明日は観光するらしいんだし」
「そうだね」
千鶴は納得したようだ。
この部活でやっていくのには今までちゃんと部活をやってきた人に色々と割りきってもらわないといけないらしい。
俺にに関しては部活などができなかったのでそういうのはあまりわからない。
「千鶴。ちゃんとした部活ってどんな風なの?」
なのでいっそ千鶴に聞くことにした。
練習風景だけ見ててもどういうのが普通の部活なのかわからない。
中学校は一週間で部活やめたし。
「何だろう?ひとまず大会とか何かしらの目標に向かって練習してる部活かな」
「でも、それだとこの部活もそこにはいるよ。社会で生きていけるという目標あるし」
「あとは活動内容が明確にそれに繋がっているってことかな」
「納得したわ。千鶴ありがとう」
何となくわかった。
この部活は目標に繋がることをしているかわからないし、そもそも先生がたてる活動内容が色々と問題があるからな。
「もうそろそろだよね」
千鶴にそういわれて時計を見ると集合時間5分前だった。
「そうだな。ごみもまあまあ集まったしここで終わるか」
そうして、俺らは集合場所へ歩き始めた。
集合場所場所には俺たち以外全員集まっていた。
みんな千鶴に気づいてそのあとに隣にいる俺のことに気がついたので千鶴と行動を共にしてよかったと思った。
そうしてなければ肩を叩くなりしなければいけなかっただろう。
ちょうど参加者全員が集まったのか最初と同じおじいさんがスピーカーを持って前に出てきた。
「今日は自主的な参加本当にありがとうございます。来月もこれぐらいの日にちに行います。詳しい日時や時間は順を追って伝えるのでそのときはよろしくお願いします。道具に関しては最初にもらったところに返却をしてください。改めて、今日の参加本当にありがとうございました」
最初と同じく簡潔にお話が終わった。
俺たちは話で言われたように最初に道具をもらったところへ道具返却のため並んだ。
「終わったわね。これで残すは観光だけよ」
「明日が楽しみだね」
さっきは悩んでいた千鶴だが一度割りきったからか頭のなかは観光のことで一杯のようだ。
「そうだな」
俺も観光は楽しみなのでなにも問題はない。
道具の返却が終わったら車をとめている駐車場に向かって歩き始めた。
予定表では今日はこれで終わりだ。
ビジネスホテルだから夕食とかどうするのか分からないがそこはさすがに考えているだろう。
このあと車に乗り込みホテルに戻った。
「皆さ~ん。お疲れ~様でした。このあとは~夕食を~食べに行くので~6時に~ここに~集合で~す」
ひとまず解散らしいので自分の部屋に戻ることにした。
「ねえ、しゅーくん。6時までまだ1時間ぐらいあるからさぁそっちの部屋に遊びにいっていい?」
部屋に戻ろうといたところで千鶴がそう話しかけてきた。
「伏田さんがいるからきついだろ」
コミュ障の伏田さんにとってなかなかきついことだと思う。
仲良くなりたいというのは少し変かもしれないけどお近づきになりたい。
まぁ、結局仲良くなりたいってことだな。少なくともそう思っているにはいるが手順があると思うので(確証はないので言い切れないが)それを踏んでいきたいのだ。
「でも、結香ちゃんが私の寝る部屋にしゅーくんをいれるのは嫌だって言うから」
そういえば帰りの車で千鶴と山上がなにか話していたがそれがこの内容だったのだろうか?
どっちにしろひどい言われようだ。
でも、山上だから仕方がないので極力気にしないことにした。
「ひとまず伏田さんに聞いてみるよ」
「ついでに夜もいいか聞いて。結香ちゃんこういう経験ないからさ」
「わかった」
俺は部屋に戻ろうとしていた伏田さんに話しかける。
「伏田さん。このあとと夜に千鶴と山上が部屋に来るんですけど一緒に遊びませんか?」
千鶴にお願いされたのはいっていいかの許可だけだけど一人放置される寂しさはわかっているので一応誘う。
先輩後輩の関係は俺には分からないが(そもそも知る機会がなかった)この部活ではあまり関係ないだろう。
「い、いいけど・・・・僕、そういうのはわ、わからないよ」
「大丈夫ですよ。千鶴以外はそういうの全くわからないんで」
伏田さんは了解してくれた。
そういえば俺の顔を伏田さんも忘れてるだろうから毎回初対面に感じるんだろうなぁ。
それでも俺は仲良くなれるよう頑張りたい。部活で唯一の男ということもあるけどコミュ障のお陰であまりダメージを受けることがないというのが大きい。
このあと、千鶴に結果を告げ部屋に戻って少ししたら千鶴と山上がやって来た。
山上は最初の方はあまり乗り気ではなかったようだがトランプを始めると性格上負けたくないらしくやる気になっていた。
基本的にはこの前のこともあったのでじじ抜きとUNO をやった。
千鶴がじじ抜きで負けたのはたまたまらしく毎回最下位にはならなかった。
UNO においても順位が結構変動した。
俺はそれに巻き込まれることなく2番か3番をうろうろしていた。
伏田さんも千鶴の気遣いのお陰でそこそこ楽しんでいた。ほんとによかった。
というわけで楽しく時間を過ごした俺たちはエントランスに集まりこのホテルの近くにある今夜の食事どころに向かっていた。
そして、冬野先生はなんのためらいもなく。牛丼のチェーン店に入っていった。
「今晩はここで食べるんですか?」
「そうですよ~」
お持ち帰りなのかなと思ったのか山上が質問したらここで食べていくと先生は答えた。
「名古屋に来たのに牛丼!」
千鶴は驚きそして、少しがっかりしていた。
理由は予算がギリギリだからだろうと俺は何となく予想がついたのでそれを伝えてやることにした。
「たぶん予算の関係だよ」
「そっかぁ」
これで千鶴は納得してくれただろう。
「諸君。これは毎年行っている由緒ある儀式だぞ。毎年泊まるホテルの周りにここから防御結界をはるのだ」
千鶴の落ち込んだ顔を見たからか部長もが説明をしてくれた。
残念ながら説明にはなっていないけど。
このあとカウンターに6人がならんで食べるという喋りづらくいささかシュールな夕食の時間を過ごした。
「しゅーくん。入っていい?」
お風呂を済ませた(シャワーを浴びただけだが)あと少しすると千鶴と山上が再びやって来た。
「いいですか?」
許可は夕食前に取ってあるのだが念のためもう一度伏田さんに確認するとこくんと伏田さんは頷いた。
許可もとれたのでドアを開け千鶴と山上をなかにいれた。
髪が濡れていたからシャワーはもう浴びたんだろう。
ベッドの上に座りとりあえずということで何回かUNO をした。
「私はやったことないんだけど怖い話を順番に話していくのがやりたいわ」
山上はだんだんとUNO に飽きてきたのかそんなことをいった。
「それやるの夏だろ」
「ぼ、僕もやってみたい」
他にも色々言おうと思ったが伏田さんからの思わぬ援護射撃があったのでやめることにした。
「私はあんまりやったことないけど。結香ちゃんがやりたいならやろっか」
千鶴も了承したので(今の発言で怖い話をするのは夏の恒例でないことが分かった)急遽、季節外れの怖い話大会をすることになった。
時間も10時前と悪くない時間だ。
「あ、でも私そういう話知らないから聞くだけでいい?」
千鶴がそういったので3人で話していくことにした。
千鶴以外は本を結構読みホラーにも手を出していたのでネタはそこそこある。
山上が災害時のために持ってきていたオレンジの光の懐中電灯を話す人が持つことになった。
怖い話は結構な怖さだった。俺は怖いのが不得意という訳じゃないけど伏田さんの話し方は結構な怖さがあった。
「もう時間も時間だからお開きにしましょ」
山上がそういって部屋の明かりをつけた。
11時近くになっていたので俺もそれに賛成だ。
「あれ?神崎さん。起きて」
その声に山上の方を見てみるとぐっすりと眠っている千鶴がいた。
怖い話を千鶴をとばしてやっていたので全く気づかなかった。
「ダメだわ。全然起きない」
「昔からこうなんだ」
昔千鶴は夜一度寝ると全く起きないことが多かった。どうやらそれは今も健在らしい。
「どうすればいいのかしら?あなたが私と寝る以外でなにかないかしら?」
山上は必死に考えているようだ。逆に焦りすぎて空回っている。
実際こういうところでは千鶴と寝るなんていうイベントを起こすところだろう。ラッキーと呼べるイベントなのかもしれない。
だが、実際気になりすぎて寝られないと思う。
中学校のときは女子はおろか男子とも関わったことがないのだ。そうなるのは仕方がないだろう。
なので俺も解決案を全力で探す。
「あの、部屋を交換するのはどうですか?」
「嫌だわ。山吹君に私のものをまさぐられたくないもの」
意外にもといったら失礼だろうが伏田さんからいい案が出たが即却下された。
「俺は変態か!」
ついでに俺も攻撃された。
「翌朝見たことない人が自分の荷物の近くにいるなんて耐えられないわ。私の精神を殺す気?」
さらに山上の追撃は続く。
やっぱり自虐よりも言われる方がきつい。
「今、殺されかかっている俺の精神はなんなんだ!」
「そんなの知らないわ」
何とか反論を試みたが無理そうだ。
どうでもいい何て言われたら反論のしょうがない。皮肉っても山上は気付かないだろうし、正面から言ってもまたどうでもいいと返されるだけだ。
「なら荷物ごと交換すればよくないか」
何より伏田さんが困り果てた顔をしていたので代案を出すことにした。
「その手があったわ」
山上はいかにも悔しそうな顔をしながらも荷物をまとめるべく部屋に戻っていった。
俺が気付けて自分が気付けなかったことが悔しいんだろう。
山上は1分もしないうちに戻ってきた。
「どうしたんだ?」
「部屋の交換は無理ね」
山上は結論しかのべなかった。
いや、理由言えよ。
「理由は?」
仕方ないから質問する。
「神崎さんの服が下着騒動のお陰で部屋に散らかっているのよ」
「片付ければいいだろ」
理由はいたってシンプルだった。
というかその理由で無理はなくないか?
「適当にやったら明日も同じ轍を踏むわよ」
「そこは整理してやれよ」
どうやら、整理するということは山上の頭のなかになかったらしい。
「嫌だわ。めんどくさいもの」
訂正。やりたくなかっただけのようだ。
「じゃあ、俺やるよ」
このままでは時間が無駄だし伏田さんはおろおろしはじめたのでなんとか解決に導きたい。
「あなた変態なの?いくらあなたたちが幼馴染みだとしてもそれはないわよ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
この場合一体どうすればいいのだろうか?
伏田さんはどうしたらいいのかわからずさらにおろおろしているが俺はもう代案が浮かばない。
「私の案にしたがってくれる?」
もう、なに言っても無駄かなという思いがあったので俺はOKした。
「今日は3人で寝てもらうわ」
が、それが裏目に出た。
「いけるわよ。このベッドくっついているんだから真ん中に1人寝れば行けるわ」
千鶴は片方のベッドの上で寝ているので一応は可能だ。
「千鶴と一緒に寝るのはいいのか?」
というか今の発言は今までのと矛盾してる気がする。
俺は半ば一矢報いる思いでそこをついた。
「貴方に本人に直接危害を加えれる勇気はないわ」
ということでこれで決まってしまった。
いささか不満は残るがこれ以上こじらせても無駄だろうし、何よりこれ以上反論した方がめんどくさいと思ったのでそれを受け入れた。
もう寝るだけだったのでそのまま電気を消してベッドに横になった。
(掛け布団は山上たちの部屋の千鶴が使う予定だったものを使っている)
こうして長い夜が始まった。
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