第10話 名古屋へ行こう 上

 朝が来た。いつもとなにも変わらない朝だ。違うところをあげるとするならば出掛けることぐらいだろう。

 集合時間もあまり早くないので普段の休日とほとんど同じ時間に俺は起きた。

 顔を洗ってリビングに行き朝食をとる。ダイニングにはお袋が作っておいてくれたサラダがあった。美春の分も置いてあるので美春はまだ起きていないようだ。

 パンを1枚トースターに入れた。休日の朝は俺は基本食パンだ。つまり、基本毎日俺はパンを食べていることになる。パンが焼けるのを待つ間に俺はインスタントコーヒーを作った。これもカップ麺同様お湯を注ぐだけなので俺でも作れる。さすがにブラックでは飲めないので牛乳を入れる。

 パンが焼けた。適当にジャムを塗りコーヒーと一緒にダイニングへ持っていった。リビングには誰もいない。お袋もサラダを作ったあとにまた寝たんだろう。両親は毎日働いているから休日起きるのは結構遅い。まあ、仕方がないことなんだけど。

 朝食を食べ終えた俺は洗面所で歯磨きをした。あと制汗スプレーなどの汗の臭いを押さえるものと念のためにバスタオルなどを数枚持って自分の部屋に戻った。

 これらをスーツケースにに入れて昨日出しておいた服に着替える。ジーパンとTシャツ、パーカーを着てスーツケースと肩から斜めにかけるバックを持って下に降りた。

 冷蔵庫にはいっている麦茶が入ったペットボトルを取りだし水筒に注いだ。

 水筒の蓋を閉めていると美春がリビングに入ってきた。

 「あ、お兄ちゃんもう行くの?」

 「ああ。もう少しで千鶴との待ち合わせ時間になるからな」

 「お土産よろしくね」

 喋りながらも準備を進めて玄関に行こうとするとそう美春に念押しされた。

 「了解。じゃあ、行ってくる」

 「いってらっしゃい」 

 美春に見送られて家を出た。

 外は涼しい風が吹いていて気持ちよかった。

 まずは千鶴の家に向かう。これは待ち合わせと言うより迎えにいくといった方がこの場合はあっているのだろうか?

 そんなことを考えていたらあっという間に千鶴の家に着いた。

 ピーンポーン

 「はーい」

 とりあえずインターホンを押すと陽斗が出た。陽斗もう起きてたんだな。まあ8時30分すぎだけど。

 「山吹です。千鶴を迎えに来たんだけど」

 「秋兄。分かった今呼んでくるね」

 そう言ったあとインターホンが切れた。途中ドタドタという音が聞こえたが千鶴がテンパっているのだろう。

 数分後千鶴が玄関から出てきた。

 「お待たせ」

 「朝から大変だな千鶴も」

 千鶴はそう言いながらこちらに歩いてきた。千鶴は白のTシャツに白のロングカーディガンネイビーのパンツといった服装だった。わかるのはちょくちょく美春にお買い物に付き合わされ(やることがなにもないからいいんだけど)頭にインプットされたからだ。

 小さめのリュックと紺のスーツケースを持っている。

 「どうこの服。変じゃない?」

 俺が千鶴の服装を見てそう分析していると不安になったのか千鶴から問いかけられた。

 「普通に似合ってるよ。ただなんか新鮮でさ」

 「そっか、こうやって出掛けるのって一昨年の夏以来だもんね」

 どうやら千鶴は納得してくれたようだ。ちなみに毎年海に行く行事だが去年の夏は部活の関係で千鶴はこれなかった。

 しかも、海に行くときは結構ラフな格好だったのでこういう姿を見るのははじめてだ。かわいいと思ったがそれを表に出さないように気を付ける(顔を赤らめて機能停止するのを防ぐため)。

 「とにかく、もう行くか」

 これ以上は隠しとおせるきがしなくなってきたので話題を反らす。

 「そうだね」

 なんとかばれずにすんだ。

 俺たちは駅へ向かって歩き始めた。

 15分ほどで駅に着いた。ホームで待っていると以外とすぐに電車が来た。

 電車内はそこまで混んではなく二人並んで座ることができた。

 「なんか電車乗るの久しぶりだな」

 「そうだな。俺も美春にお買い物に付き合わされる時ぐらいだし、それもほとんど自転車圏内だから電車はほとんど乗らんな」

 春休みには乗ったがその前は冬休みだ。家族や神崎家と出掛けるときも車だし、友達と遊ぶことはないから(そもそもそんな友達いなかったし)滅多に使わない。

 「そっかぁ、私は友達と遊びに行くときにたまにって感じなんだよな」

 「それでも俺よりかは頻度多いだろ」

 そんな他愛もない会話をしながら品川駅へ向かっていく。


 『次は品川ー、品川ー』

 アナウンスが入って少したったあと電車が品川駅のホームに入った。

 「着いたね」

 「ああ。よし、降りるぞ」

 そう言って俺が立ち上がると千鶴もワンテンポ遅れて立ち上がった。

 品川駅のホームからひとまず階段を上って乗り換え案内を見ようと俺は思った。品川なんて都会の駅に来ることはほぼないから見ないと100%迷うだろう。

 「おっきいね」

 一方の千鶴は駅の大きさに気をとられていてそういうことは考えていないようだった。

 「まあ、都心の駅だからな」

 「あんまり驚いてないね」

 どうやら千鶴はもっと反応が大きいと思っていたようだ。

 「それよりも道に迷わないか心配だからな」

 「ああ、そういうこと。大丈夫だよ。適当で何とかなるって」

 必ず迷う人の発言はひとまずスルーして駅の構内図か書かれているところへさっさと歩いていった。

 「あ、これ真っ直ぐで着くんだ」

 改札から出なければ一本道だった。なんか拍子抜けだ。

 「ほら、大丈夫じゃん」

 千鶴は私の言った通りじゃんと言った感じだ。というかそう言ってる。あっているんだがなぜか納得できなかった。

 「じゃあ、行こう!」

 そう言って千鶴はすたすた待ち合わせの場所へ向かって歩いていく。ここへいても仕方ないから俺も歩き始める。20分前に来た意味なかったな。あ、でも歩く時間含めたら15分前か。

 

 新幹線へ乗り換える改札に来ると山上がすでに来ていた。

 「おはよー。結香ちゃん」

 「おはよう。神崎さん。そちらの連れは山吹君でいいのかしら?」

 「ああ。でもどちらかというと俺が連れてきた側だ」

 千鶴がいたお陰で追い返されたりということはなかった。よかった千鶴と一緒に来て。

 山上の服装は黒のキャミソールにデニムのパンツ、チェックのガウンだった。スーツケースと肩から掛けているバックは黒で色合い的には山上にあっていると思うがキャミソールなんていう大胆な物を着るのは意外だった。

 「山上でもそんな服着るんだな」

 気付いたら俺はそんな言葉をこぼしていた。

 「しゅーくん。それは結香ちゃんに失礼だよ。それに似合ってるからいいじゃん」

 さすがに千鶴にたしなめられた。

 「これは姉が着ていけって押し付けられたのよ」

 山上は恥ずかしそうにそう反論してきた。嫌々着たんだろう。

 「山上から色気は感じられないからその服でもなんの問題はない」

 なので俺は大丈夫という意味を込めてそう言った。これでさっきの分を取り返したい。

 「しゅーくん。それ女性に対して失礼」

 かなり強い語調でそう言われた。といってもそういう場面今までになかったし・・・この場合どうすればいいんだ?

 山上はあまり気にしてないようだった。

 「やあ、諸君。遠征の準備はできているか?」

 3人でわいわいかどうかは分からないが話していると周りが目線を向けるぐらい大きな声で部長が叫んだ。距離が少し離れているからだろうが普通に近づいてからでいいと思う。

 よく見ると少し距離をおいて伏田さんもいた。

 「やはり諸君らは来るのが早いな」

 近くに来た部長がそう言った。部長の服装はバックを含め白一色だった。闇を晴らす光みたいな意味合いがあるのだろう。とても分かりやすい。

 「東蓮寺さん。声が大きいです。」

 部長の発言を無視して山上はそう言った。敬語は使っているが敬いは一切感じられない。東蓮寺さんは全く気に止めていないからいいんだけど。

 伏田さんは黒のTシャツにジーパンと紺のパーカーだ。

 「伏田さん。おはようございます」

 ささっと近づいてきた伏田さんに俺はそう挨拶した。

 「お、おはよう。今日はよ、よろしく」

 伏田さんもがんばって答えを返してくれた。部活で唯一の男の先輩だ。できれば仲良くなりたい。まあ、そのためにはまず俺の顔を覚えてもらいその上で毎日話しかける必要があるのだが。

 生徒は全員集まった。今は10時25分集合時間の5分前だ。

 「諸君、忘れ物はないか?」

 買ってくるなら今のうちだぞ。ということなのか部長がそう聞いてきた。いまいち実感がなかったが改めて部長なんだなと感じた。

 「大丈夫です」

 「私も大丈夫だわ」

 「あ、じゃあ私今のうちに飲み物買ってくる」

 千鶴はそう言って飲み物を買いにいった。

 先生が来るまで暇なので各自時間を潰していた。もちろん俺は読書だ。途中から千鶴も戻ってきてそのまま幾時かがたった。

 「お待たせ~しました」

 更にもう少ししてやっと冬野先生が来た。駆け足できたからか多少息が弾んでいた。時間は10時35分集合時間5分遅刻だ。

 「先生遅いです」

 先輩たちは仕方がないという感じで指摘する気配はなかった。もちろん今の指摘は山上のだ。山上が言うと思ったから俺は言わなかった。千鶴も同じ理由だろうか?

 「待ち合わせには~5分遅れて~行くものですよ」

 「いや、先生。それはデートの時です!」

 この場は山上に任せようと思っていたのに冬野先生の発言についつい反応してしまった。

 山上はバトンタッチと言わんばかりに千鶴と話始めてしまった。冬野先生だから仕方がないとは思っているけど言わずにはいられないということだったんだろう。

 「あ、そうなんですか~」

 「はい、そうです」

 冬野先生は冬野先生で悪びれもせずのほほんとしている。自由だなぁ。

 冬野先生の服装は白のワンピースだった。いつもは一応スーツを着ているので(着崩しているけど)違和感を感じる。

 「まあ、その話は置いといて~ひとまず~ホームへ~向かいましょう」

 結局まともに取り合ってもらえぬまま一同改札へと歩き出してしまった。

 冬野先生から新幹線のチケットをもらい改札を通った。

 そのあと冬野先生は駅弁を売っているお店の前に来た。

 「皆さ~ん。ここで~お昼を~買うので~自由に~選んでくださ~い。でも~一人~1つまでですよ」

 どうやらここでお昼を買うようだ。

 駅弁か、前に食べたのいつだっけ?そんなことを考えながらお弁当を見ていた。どれも美味しそうだが俺は東海道新幹線弁当にすることにした。俺はサンドイッチにしようかとも考えたがこういう機会でしか駅弁を食べることはできないと思ったのでお弁当にすることにした。

 「諸君らは何を買うかはもう決めたか?食は我らの聖なるエネルギーを増幅させる大切なものだぞ」

 いつの間にバトンタッチしたかは分からないが部長が話を進めていた。

 「お金は~私が出すので~大丈夫です」

 正確には学校から出た資金だろうがここでそんなことを言うのは野暮だろう。それよりもこんな部活にも部費が出るなんて驚きだ。メリットなんてあるのだろうか?

 「おい、山吹君。どれにするかは決まったか?」

 「え、あ、はい」

 どうやらみんな決まったようで返事をしていたようだがどうでもいいことを考えていて気づかなかった。

 「よし、じゃあ頼むぞ」

 そう言って部長がお弁当を頼んでいった。お金は冬野先生が払って各自頼んだお弁当が部長から渡された。

 俺は東海道新幹線弁当、山上は深川めし、千鶴と冬野先生は幕の内、部長は牛ダブル焼き肉重、伏田さんは焼き鳥弁当だ。

 「それでは~これから~新幹線に~乗ります」

 そう言って先生は名古屋、新大阪方面へのホームへ降りていった。

 ホームの電光掲示板にはには11時10分発ひかりの文字があった。時間まであと5分。

 「皆さ~ん。座席は~10号車の3、4なので~そこまで~移動しま~す」

 そのまま、指定席のところへ歩いていった。指定券とってたんだ。

 「しゅーくん。新幹線来たよ!」

 それからほどなくして新幹線がホームに入ってきた。

 「そうだな」

 「なんか久しぶりでワクワクする」

 千鶴あまり新幹線に乗ったことがないので(俺も全然ないが)すごく楽しそうだ。

 「私も久しぶりだわ。移動は基本車だもの」

 どうやら、山上もあまり乗ったことがないようだ。

 そんなことを話ながらも俺たちは新幹線へ乗っていった。

 「席は~どこでも~構いません」

 冬野先生がそう言ったので窓際から千鶴、山上、部長。向かい側に(座席を反転させました)俺、伏田さん、冬野先生といった感じになった。スーツケースは足元に置いたり、上にのせたりだ。

 そうこうしている内に新幹線が出発した。

 「ねえねえ、富士山見えるかな?」

 「富士山は~反対側じゃないと~見えませんよ」

 千鶴の期待がこもった質問に答えたのは冬野先生だった。というか俺もたぶん山上も新幹線に全然乗ってないから答えられない。

 「あら、そうなのね」

 「じゃあ、帰りだな。見えたらだけど」

 俺は見れたらいいなという感じにしか思っていなかったのであまり落ち込まなかった。山上は分からない。

 「え!そうなの!せっかく窓際の席にしたのにぃー」

 千鶴は露骨に落ち込んでいた。

 「帰りがあるから大丈夫だろ」

 このままにしておくのもなんだったので(かといってテンションが高すぎるのも疲れるのだが)一応フォロー的なものを入れておいた。

 「日が沈んでいなければいいんだけど」

 が、すぐに山上の発言によってパーになった。

 「おい、山上。それは余計だ」

 「あら、事実よ」

 指摘したが理解していない。他の人からもいってほしいと思ったが部長は万が一に備え体力回復に努めると言ってアイマスクと耳栓をつけて寝てしまったし、伏田さんをここに引っ張り出すのは酷な話だろう。冬野先生はあてにならないので結局俺が詳しく言うことにした。

 「そういうのはな、普通心のなかでとどめることなんだ。特に今の場合とかな」

 「あら、そうなの?でも、目の前の問題点から目を反らすとあとで痛い目を見るかもしれないわよ」

 「・・・・。」

 山上の言っていることは間違いではない。しかし、あながちあっているというわけでもない。高校に入ってやっと比較的まともな生活を送り出した俺には答えれなかった。

 「しゅーくん大丈夫だよ。名古屋についてからも観光するだろうからこんなことで落ち込んだらもったいないじゃん」

 千鶴は今の会話中に復活したようだ。 

 山上が結局何がいけなかったの?と言わんばかりに首をかしげていたが俺には対応しきれないとさっき分かったのでスルーだ。

 「ねえねえ、名古屋のどこを観光するのかな?」

 千鶴は今日の午後にあるボランティアのことをすっ飛ばしてもう明日なにするかを考えているようだ。

 「熱田神宮とかじゃないかしら?」

 「え、お寺行くの!」

 「確かに有名な場所だがまだ行くとは決まってないぞ。あと、たぶん神社」

 千鶴は山上の発言を一瞬信じかけた。なぜだ?千鶴でも知ってるぐらい有名なところだからだろうか?大学マラソンのコースになってるし。あと、プリントにも書かれていたし。

 「おーい。しゅーくん?」

 呼ばれた気がするので俺は意識を現実に戻した。 

 すると目の前に千鶴がいた。

 「話聞いてないでしょ」

 普通に驚いた。というかドキッとした。最近はそういうことがなかったから耐性がついたかもと思っていたが俺の思い違いだったようだ。

 「ああ」

 「ほら、やっぱり」

 俺が正直に答えると千鶴はそう言いながら自分の座席に座った。

 千鶴が顔を赤くした形跡は見えないのでさっきのは意識せずといった感じだろう。

 「観光するならどこに行きたいかを話していたのよ」

 ありがたいことに山上は聞いていなかったところをもう一度言ってくれた。言ってくれないと会話が進まないけど。

 「そうだな。オアシス21とかか?あとは普通に名古屋城とか」

 特にここにいきたいというのはなかったので(あるのは千鶴が観光に夢中になりすぎて俺がはぐれないかということだ)頭に浮かんだことを言った。

 「オアシス21って屋根のところが透明で水が入ってるやつ?」

 「そうだ。プリントに書かれてたやつ」

 プリントに書かれてたお陰で千鶴にも分かったようだ。

 「名古屋城はまだわかるけどオアシス21で何をするのかしら?」

 頭に浮かんだことを言ったので特に理由はないのだがちゃんとした理由がないとめんどくさくなりそうなので適当にでっち上げることにした。

 「お店があるらしいからぶらぶらするのとあと単純に見てみたいからだ」

 山上はこれで納得してくれたようだ。名古屋の観光地なんて詳しく知らないから見てみたいでも十分だと思う。

 「やっぱり名古屋にいくんだから名古屋城にいきたいよね」

 千鶴は行きたいところが一致したからかテンションが少し上がった。

 「千鶴は他にはどんなところに行きたいんだ?」

 そういえば自分の世界?に入り込んで聞いていなかった。千鶴も察してくれたようだ。

 「私はね。さっきも言ったけど名古屋城でしょ。あとは名古屋港水族館とか名古屋めしを食べるとか!」

 「名古屋がつけばなんでもみたいな感じだな」

 「だってそっちの方が名古屋に来たって感じになるじゃん」

 結局は場所どうこうというよりは名前重視のようだ。

 「それに名古屋めしって言っても色々あるぞ」

 「そうね。具体的には何が食べたいの?」

 山上も気になるってことは名古屋めしって意見はさっきはなかったのだろう。

 そう聞かれた千鶴は何を食べたいか悩んでいるようだ。いや、もしかしたら名古屋めしにどんなものがあるのか分からないだけかもしれない。

 「名古屋めしならなんでもいい!」

 「おい!」

 どうやら後者だったようだ。とにかく名古屋ならではのことならなんでもいいということか。

 山上は完全に呆れている。言葉もでないといった感じだろう。

 「山上はどこに行きたいんだ?」

 気を取り直してひとまず俺は山上にそう質問した。

 「私は騒がしいところじゃなければどこでもいいわ」 

 「観光地にそんなん求めんな!」

 山上が求めているのは静かという一点だけだった。観光地だぞ。人が集まればざわざわもする。そんな条件を満たせるのお寺か神社ぐらいだろう。

 「そう。なら私はどこにも行きたいと思うところがないってことになるわね」

 結局のところ自分から進んで行く気はないというところだろう。

 「大丈夫よ。これは部活だもの。観光地には行く気になれなくても休む気はないから」

 千鶴が行かないと思ったのか落ち込んでいたので山上は補足をした。ようは学校行事とか以外では絶対に行きたくないということだろう。

 「なら良かった。結香ちゃん。こういうのはたぶん慣れだよ。だからいつか大丈夫になるよ」

 お陰で千鶴は復活?を果たした。

 ところでいつかっていつだよ。

 「もうすぐお昼だな」

 ふと時計に目をやるともうすぐ12時になるところだった。

 「そうだね。でも、部長まだ寝てるよ」

 「もう~お昼ですか~?」

 いつの間にか寝ていたらしい冬野先生が起きたようだ。

 「もうすぐ12時です」

 「そうですか~。じゃあ~東蓮寺さんを~起こしてくださ~い」

 席的に山上が起こすことになった。伏田さんは話を聞いていたのか本を読むのをやめていた。

 「敵襲か!?」

 部長はそう言ってなかば飛び上がるようにして起きた。

 「声が大きいです。周りの迷惑なんでやめてください」

 部長の声は意外と大きく周りの視線を集めていたので山上は形だけでもと注意をした。

 「何事かと思ったぞ」

 相変わらずの部長はそんなことなど気にしていない。

 「東蓮寺さん。お昼を~食べますよ」

 「はい」

 ここで意外にも先生がたしなめてくれた。自分の立場にかかわるからだろうか?いや、私服だとどこの学校か分からないからそれはないか。結局真意をはかることはできなかった。

 各自お弁当を出してお昼だ。俺は東海道新幹線弁当を取り出してふたを開けた。中身は黒はんぺんや味噌かつ、深川めしなど東海道新幹線沿いの名物が少しずつ入っていた。美味しそうだ。

 「しゅーくんのやつ美味しそうだね」

 「まあな」

 そう言う千鶴の幕の内弁当にも鮭の塩焼きなど入っていて結構ボリュームがあった。

 「それより千鶴のやつも結構色々入ってるな」

 「そうだね。これにして正解だったよ」

 千鶴も千鶴で自分が選んだお弁当に満足しているようだ。

 このあとは各自黙々とお弁当を味わいながら食べていった。

 俺はいつもお昼がパンと言うこともありお腹一杯になった。いろんなものも食べることができたので満足だ。

 他のみんなも満足したようだ。

 たまにはこういうのも悪くないな。

 「美味しかったぁ」

 「私も美味しかったわ。駅弁も悪くはないわね」

 山上も俺と同じことを思っていたようだ。

 「俺も美味しかった」

 俺はこう言いながらまた、食べたいなと思っていた。

 お昼を食べ終わり一段落するも各自寝たり読書したりと時間を潰し始めた。

 「名古屋まであとどんぐらい?」

 「あと1時間ぐらいだな」

 千鶴ははやく名古屋につきたいようだった。のぞみなら1時間40分ぐらいで着くらしいがそれ相応の値段がするので仕方ない。

 「もう少しかかるかぁ」

 「寝たらすぐだぞ。たぶん」

 あまりに待ち遠しそうなので俺は寝ることを提案した。寝たらすぐだ。

 「私は無理だわ。急に寝たらと言われても眠たくないもの」

 千鶴に言ったつもりだったが山上から反応が返ってきた。

 「いや、千鶴に言ったんだけど」

 「あなたと二人で起きているのは嫌だわ」

 一片の迷いもなく言い切られた。当然俺は絶賛傷心中だ。

 「私も眠くないよ。というか楽しみで眠れない」

 千鶴も寝れないらしい。でも、この場合俺は助かったのかもしれない。これで千鶴が寝てしまったらどうなるのだろうか?いや待てよ。

 「伏田さんは起きてるじゃん」

 俺はこのことに気がついた。黙々と静かに読書をしていたので位置的が隣なこともあって寝てるかわからなかった。

 「あら、そうだったわね。気付かなかったわ」

 山上は気づいていなかったようだ。

 この発言を受けて伏田さんの雰囲気が沈んでいった。

 「それは伏田さんに失礼では?」

 俺は山上が自分の過失に気づくよう促してみた。

 「気づけなかった私が悪いのだから伏田さんが落ち込んだりする理由はないはずよ」

 がダメなようだ。俺の意図を汲み取ったか静かに見ていた千鶴も苦笑いしている。

 「結香ちゃん。でも、それを口に出すのはやめよっか」

 「悪いのは私だから問題ないと思うわ」

 千鶴も千鶴でトライして見たようだがこの調子じゃ無理そうだ。

 「伏田さん。山上がなにかとすいません」

 山上に聞かれるとめんどくさいことになると言うこともあってボソッと伏田さんに謝りをいれた。

 「だ、大丈夫です。・・・いつも・・あることなんで」

 「ほんとにすいません」

 言葉では大丈夫と言っていたが本当に大丈夫だろうか?そこら辺が微妙だったがコミュ障の人にあんまり話したことない俺とこれ以上話させるのは酷かなと思ったので大丈夫ということにしておいた。一応先輩だし。

 千鶴の方を見るとありがとうと小さくジェスチャーで伝えてきた。

 「もうそろそろだね」

 話を変えるべく千鶴はそう切り出した。時計を見るとあと30分ほどで着くようだ。

 「そうだな」

 「そしたらまずは活動ね」

 俺はこの旅行の目的がボランティアだということを思い出した。観光の話をしていてすっかり忘れていた。本命はこっちなんだよな半日もやらないけど。

 「そうだった!そっちが一番の目的なんだよね。全然そんな感じしないけど」

 千鶴も同じことを思ったようだ。まぁ、まだ観光なしでずっとボランティアよりかはいいと思うが。せっかく名古屋に行くんだしな。

  

 「あと~少しで~名古屋に~つくので~各自~降りる準備を~してください」

 新幹線内ならではのアナウンスが流れたあと冬野先生がそう話した。

 お昼を食べてから寝ていた冬野先生はちょうどアナウンスが流れるタイミングで起きた。あまりにタイミングがよすぎるので俺はすごく驚いた。

 特に片付けるものとかないから鞄を背負ったり、上にのせたスーツケースを男子で力があるということで俺が下ろすはめになったりしただけだった。幸いあまり重くなかったので助かった。

 

 ドアが開いたので俺たちは順番に降りていった。

 ホームでなぜか分からないが乗ってきた新幹線を見送った。

 「ついたね」

 千鶴はやっとついたよみたいな感じだった。新幹線に乗っているときから早く着かないかなといった感じだったからそう思うのも当然か。

 「このあとは~改札を出て~ホテルに~向かいます」

 「よし、諸君。ここからは何がおこるか分からない。各自用心するように」

 冬野先生と部長はそう言うと歩き出していった。

 

 「どんなホテルなのかな?」

 ひとまず俺たちは名古屋駅の外へ向かっていた。

 「分からないわ。でも、予算的にあまりいいホテルには泊まれないと思うわ」

 先生いわく名古屋駅から徒歩五分のホテルについて俺たちは話していた。

 「そうだな。ここまで来るのにも結構お金かかるし」

 「そっかぁ。でも、ホテルにいる時間は長くないしいいや」

 「そうね。予算がどれくらいか分からないけど問題はあまりないわね」

 「そうだな」

 俺もそれに納得した。

 ホテルの問題はひとまずおいといて周りのお店の話をしながら俺たちは宿泊予定のホテルに向けて歩いていった。

 

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