第7話 千鶴の家
部活ではじめての活動があった週の土曜日夕方ごろに突然千鶴から電話がかかってきた。
「もしもし」
『もしもししゅーくん?』
「ああ。そうだけどなんのようだ?」
何か事件があったのだろうか?いや、それにしては口調が穏やかだ。千鶴だったらもっと焦っている。
『突然だけど明日暇?』
「ああ。当然暇だ」
俺にとっては何かある方が逆にまれだ。
『だよね。なら明日の午後私の家に来れる?』
「大丈夫だけど」
『わかった。あと花塚くんと結香ちゃんが来るからよろしくね』
「ああ」
『じゃあ、私の家に午後一時ね』
こうして電話が切れた。どうやら明日遊べるかの電話だったようだ。
一応この事を美春に伝えると楽しんでおいで滅多にないことなんだから。といわれた。
良かったねという雰囲気が出ていたのはこういうことが俺の場合ほとんどないからだろう。
翌日のお昼。もうそろそろしたら千鶴の家にいかなきゃなと思いながらお昼ご飯のカップ麺を食べていた。カップ麺は俺でも美味しく作れる数少ない料理だ(カップ麺を料理とするのかは分からないけど)。他にはレトルトなどがそうだ。まぁ、お湯を入れて待つだけだから美味しく作れて当然か。逆に美味しくなくなってしまう方が異様だ。栄養が偏るのでは?と思うなら小松菜なりを切ってのせたり、野菜ジュースを飲めば充分事足りる。
こうしてお昼ご飯のカップ麺と野菜ジュースを飲んだ俺は千鶴の家に行く準備をした。といっても持ち物はほとんどないけど。
そして、十二時五十分に家を出た。もっと遅くても充分間に合うのだが特にやることもないので早く行くことにした。
そして、一分たったぐらいで千鶴の家についた。まぁ、100メートルぐらいしか離れてないから当然か。
ひとまずインターホンを押すことにした。千鶴の家に行くのは春休み以来か。
ピーンポーン
「はい?」
インターホンにでたのは千鶴の弟の陽斗だった。
「千鶴に呼ばれてきたんだけど」
「あ!その声は秋兄?ちょっと待ってて今開けるから」
こうしてインターホンをが切れた。
陽斗は俺と五歳離れているので今年度から小学五年生だ。俺にとっては弟みたいな存在で小さい頃はよく遊んだりもした。今も夏とかに家族ぐるみで海とかに行くのでそのときにも遊ぶんだけど。
こうしているとドアが開いた。
「秋兄どうぞ」
「ありがとう。お邪魔します」
陽斗に続いて家に入り階段のあるリビングに向かう。千鶴の部屋は二階だ。
リビングに入ると対面式のキッチンの所に千鶴のお母さんである千代子さんがいた。俺はお邪魔するので挨拶をする。
「千代子さん。お邪魔してます」
「あら、秋ちゃんじゃない。今日は千鶴に呼ばれたんでしょ。クッキーできたら持っていくわね」
「ありがとうございます」
いつも通り千代子さんは明るく快活にこたえた。千鶴の性格の明るさは母親譲りといっていいだろう。
ちなみに千代子さんは料理が上手い。それはお菓子作りとて決して例外ではない。
休日に千鶴が一緒にお菓子を作ったりすると言っていたことから料理の上手さは千代子さんに仕込まれたんだろう。
そんなことを考えているうちに階段をのぼりきり千鶴の部屋の前まで来た。
「お姉ちゃん。秋兄が来たよ」
陽斗がそう言ってから少しして千鶴の部屋のドアが開いた。
「しゅーくんどうぞ」
「ああ」
「じゃあお姉ちゃん。他の人が来たら教えるね」
俺が千鶴の部屋に入ると陽斗はそう言ってリビングに降りていった。陽斗が案内してくれたのは俺だったからか。俺はもう千鶴の部屋がどこにあるか分かるけど。
「しゅーくん早いね。一番乗りだよ」
「まあな。まだ十分前ぐらいだからな」
俺は徒歩一分で着くんだから一番乗りになるのは比較的容易だろう。
「それにしても春休み以来だね」
「そうだな」
もちろん女子の部屋に二人きりだが相手が千鶴なので全然気にならないし、いつも通りでいられる。
「あのときは千鶴が宿題に手間取ってたから俺が来たんだっけ」
「そうだったね」
あの時は千鶴が全然理解しないから終わるまで結構時間がかかった。
「千鶴中学の内容であんなだったのに高校の授業大丈夫か?」
二週間目からちょくちょく授業が始まってきていたが今週からは全部授業になった。
「うーん。微妙かな。やっぱり高校の内容難しい」
「よく今の高校受かったよな」
「まぁ、普通のレベルだしたまたま分かるやつばっかだったから」
授業にはギリギリついていけてるようだ。
でも、ほぼ運で受かったのには驚いた。まぁ、運もひとつの実力か。
とそんな会話をしているとドアの前から「お姉ちゃん友達が来たよ」と言う陽斗の声が聞こえた。
それを聞いた千鶴が玄関に向かっていった。今は集合時間の5分前だから妥当な時間か。それにしてもどうやって場所を知ったんだろう?気になるから俺は後で聞くことにした。
待っているあいだ改めて千鶴の部屋を見てみる。相変わらず女子って感じがあまりしない部屋だ。
千鶴は昔からアイドルとかそういうものにはまらなかったし、ゲームするよりも体を動かしたいというたちだったので部屋にそういうものがないからだろう。
ファションは外に出掛けるときはある程度考えるけど基本はそこまでこだわりがないと千代子さんから聞いた。
今日も半袖Tシャツに短パンとラフなっこうだったので本当にそうなんだろう。
そんなことを思っていると千鶴が戻ってきた。どうやら来たのは花塚のようだ。
「秋也。こんにちは」
「こんにちは」
「来るの早いね」
「まぁ、徒歩一分だからな」
「近いね!」
さすがに徒歩一分は驚いたようだ。
そうしているもまた陽斗が来た。どうやら山上も来たようだ。千鶴はまた玄関へ降りていく。
「そういえば今日ってなんで急に集まることになったんだ?」
ここで俺は今日何するかを聞いていないことに気づく。
「秋也は聞いてないの?」
この疑問から花塚は知っているようだ。
「聞き忘れて」
「秋也は家近いからそんなんでも大丈夫なのか」
「ああ。走れば30秒かかんない」
なのでもし何か必要なものがあるなら三分もらえれば取りに行ける。
「今日集まったのは遊園地に行く前に一度は遊びたいって神崎さんが言ったかららしいよ」
「そういうことか。じゃあ、特に持ち物はないな」
「あ、でも秋也。家にある大勢でやる遊び道具持ってきてほしいって言ってたよ」
「まぁ、そんときは持ってくれば大丈夫」
もし、とってきてと言われたら昔千鶴、俺、美春、陽斗でやった人生ゲームを持ってこようと決めた。少し大きいけど。
「ところでどうやって千鶴の家の場所を知ったんだ?」
ここで俺はさっき保留にしていたことを聞くことにした。
「LINE に地図が添付されてたんだ」
「そうなんだ」
俺はこう答えを返しつつも花塚は帰りのときしていたけど山上とはいつ交換したのだろうかと考えていた。
相変わらず千鶴はこういうのが速い。
そんな話をしていると山上をつれた千鶴が戻ってきた。
「あら、みんな早いわね」
「そんなことないよ。僕今来たとこだし」
そんなことをいいながら山上も座った。
「今日は急だったのに来てくれてありがとう」
ここで千鶴がお礼を言った。俺的には暇な休日が充実するから全然いいんだけど。
「いや俺暇だから」
「私も今日はやることないし、家なら周りも騒がしくないからこれと言った問題はないわ」
「僕も高校入って休日にあそんだことまだないから嬉しいかな」
どうやらみんな楽しみに感じているようだ。山上に関してはこういう機会が皆無だっただろうから相当嬉しいのだろうと俺は思う。
「お姉ちゃんお茶持ってきたよ」
とそこに陽斗がお茶を4つお盆にのせて持ってきた。
「ありがとう」
そう言うと千鶴がそのお盆を受けとる。
「クッキーは今焼きはじめたから待っててね。ってお母さんからの伝言」
そう言うと陽斗は部屋から出ていった。
「可愛い弟がいるね」
「そうね。とても癒されるわ」
さっきのことがあってか話題が陽斗のことになる。どうやら二人とも可愛いと感じたらしい。
「そうだな。もう小学五年生だからあれだけど小さい頃は千鶴にベッタリだったもんな」
「そうだったね。もう三年前ぐらいだけど。それはそれでなかなか大変だったよ。お風呂にまでついてきて」
五歳離れていることもあってか千鶴が昔からよくお世話をしていたので陽斗は千鶴にいつもついていっていた。
「いいわね、弟。私には大学三年の姉がいるけれどあんまりいいもんじゃないわよ」
「それはそれで可愛いよ。いいな、僕そもそも兄弟いないからなぁ」
俺は山上がお姉さんに可愛がられているのかな?と思うと少し面白く感じた。
「花塚、兄弟いないのか?」
俺はさっきの考えを一旦中断することにした。
「うん。一人っ子だよ。秋也は?」
「俺には中2の妹がいる。名前は美春だ」
「へぇー。秋也、妹がいるんだ!」
どうやら俺に妹がいるのが意外だったようだ。山上も少しびっくりしているように見える。
「美春ちゃん可愛いよ♪料理も作れたりしてすごくしっかりしてるんだ」
ここで千鶴が「山吹くんに似て普通なのかしら?」とか山上が聞く前に美春のことについて話始めた。
「あら、そうなの。少し意外だわ」
「俺がこうなったのはたまたまだ」
「会ってみたいな」
やはり山上は予想通りのことを思っていたようだ。
「いつか会えると思うぞ」
「まぁ、今度美春ちゃんがいるときしゅーくんの家に行けばいいよ」
「うん。そうだね」
「家で遊ぶのならなら私は歓迎するわ」
二人とも同意を示した。
これでたぶん近いうちに皆が家に来ることになるだろう。
その時は美春にちゃんと許可とっとかないとな。
「じゃあ、しゅーくんにはいい忘れたけど結香ちゃん、花塚くん。何持ってきた?」
話が一段落したのを見計らって千鶴がこう聞いた。
これ聞いてなかったらなんのことか分からないな。
「ちなみに私の家にはトランプとUNO があるよ」
「僕はトランプと福笑い、ベーゴマかな」
「ベーゴマって一昔前だなぁ」
これが率直な俺の感想だった。
「お父さんがたくさん持ってて」
「へぇ、じゃあ貴方のお父さんとても強かったのね」
「そうみたい」
ルールは知っているがやったことないので難しさは分からないがすごいということは何となくわかった。
「ねぇ、なんで強いって分かるの?」
千鶴がそう聞いてきた。ルールを知らないのだろうか?
「神崎さん。ベーゴマわね。勝負して勝った人が相手のコマをもらうのよ」
山上は当たり前でしょみたいな感じで答えを返した。
「へぇ、知らなかった」
「まぁ、仕方がないわ」
「うん。少し前だから」
「なんかバカにされてる気がする」
「いや、普通知らなくてもおかしくないからバカにはされてないだろ」
俺はフォローを入れるべくそういった。
「じゃあ、しゅーくん知らなかったの?」
「いや、俺は知ってたけど」
俺は千鶴の質問の意図がわからず正直にこたえた。
「それじゃあ意味ないよ」
どうやらさっきの答えはよくなかったようだ。いったい何が良くなかったのだろうか?
「それで結香ちゃんは何を持ってきたの?」
これ以上この話を伸ばすのは無駄だと 諦めたのか千鶴は話を進めることにしたようだ。
「私はオセロと将棋よ」
そう言って山上は裏と表がそれぞれ将棋とオセロの盤になっているやつを取り出した。
「それ二人でしかできないじゃん!あと、時間かかるし」
「あら、なら二人でやればいいじゃない」
そういう問題じゃない気がする。
「結香ちゃん。待ってる二人は何してたらいいの?」
「山上さん。それどっちも結構時間かかるからやめといた方がいいと思うな」
「なんでそれにしたんだ?」
当然のように花塚や千鶴からの反対意見が出た。そこで俺はどうして持ってこようか決めたかを聞くことにした。
「それは楽しいからに決まっているじゃない」
「人数のことは?」
「考えてなかったわ」
どうやら山上の選ぶ基準に楽しい以外の要素は入っていなかったようだ。
「で、何で遊ぶ?」
「ひとまず四人いるなら大富豪とかいいと思う」
確かに大富豪は四人とかぐらいの人数がちょうどいい遊びで悪くない選択だ。ここに千鶴がいなければ。
「千鶴。大富豪のルールは分かるか?」
「バカにしないでよ。それぐらい普通に分かるよ」
「じゃあ、それで富豪か大富豪になったことは?」
「・・・ない」
どうやらルールは知っていたようだがやはり上位になったことはないらしい。
「大富豪は無理そうだね」
こうして大富豪は選択肢からきえた。
「ババ抜きなら神崎さんでも勝てるんじゃないかしら?」
「まぁ、ババ抜きなら大丈夫か」
ということで最初にババ抜きをやることにした。
千鶴が机からトランプを出してババを一枚抜いてシャッフルしみんなに配った。そして、各自がペアのカードを真ん中においていく。
じゃんけんの結果千鶴から山上、俺、花塚の順でまわっていくことになった。
最初に千鶴が花塚から一枚とった。そんな感じで最初の一周はみんなひとつペアをつくって終わった。
今の時点では誰がババを持っているか分からない。
二周目千鶴が花塚のカードを引いた。そして、そのあとババを引いてしまったみたいな感じになった。
これでババが誰のところにあるかわかった。山上も分かったようで千鶴の顔に注意しながら引こうとしている。
山上がそれに気づけるか分からないけどやり方は間違っていないだろう。
このあと、山上が一番、俺が二番目に抜けて花塚と千鶴の一騎討ちになった。
そして、当然千鶴が最下位になった。本人は頑張って耐えていたようだが隠しきれていなかったので仕方がない。
俺はこういう勝負ごとでも目立たない。この場合は二番目か三番目にしかならないだろう。現に今回のババ抜きも二番目だった。
「神崎さん。顔とかに出るから分かりやすかったわ」
どうやら千鶴の表情の変化は山上でもわかったらしい。
あ、でも山上が分からないのは悪意とかそういった目に見えないものだからこういうのは普通に分かるのだろう。
「頑張って耐えたのに」
「ああ、耐えてますって感じはすごく分かった。全然隠しきれていなかったけどな」
「次は何やる?」
ここで花塚が助け船を出すべく次に何をやるかを聞いた。確かに千鶴のこういうところは昔からだから仕方ないな。忘れてたけど小学校の時美春と陽斗と四人でやったときもいつも最下位だったしな。
「私神経衰弱がいい!」
「そうね。これなら神崎さんも最下位にはならないものね」
「俺はなんでもいいぞ」
「じゃあ、神経衰弱にしようか」
こうして次は神経衰弱をやることになった。俺はなんでもいいけどこれなら千鶴も何とかなるだろう。
さっきと同じように千鶴がトランプをさっきよりもしっかり(ババ抜きの関係で固まっているからだろう)シャッフルし適当に並べた。向きとかがバラバラなので覚えるのは大変そうだ。
じゃんけんをして今度は俺から花塚、千鶴、山上、俺の順番になった。
「何でまた最下位なの!」
全部取り終わりペアの数を数え終わったあと千鶴はそう叫んだ。
最初の方はあんまり差がなく比較的混戦状態だったのだが中盤らへんから花塚と山上が急にたくさんとるようになった。お陰で全体の七から八割は二人がとるという感じになった。
俺からしても全くの予想外だった。
「まさか花塚くんがあそこまで取るとは思わなかったわ」
「僕も山上さんがあんなに取るなんて思わなかったよ」
どうやら二人とも驚いているようだ。
「私は勉強みたいな要領で場所を覚えていっただけよ」
「え!何それ。私全部勘だよ」
「僕は暗記系だけ覚えるのが得意だから。まぁ、それだと地理ぐらいしかできないけどね」
「どうやら相手が悪かったようだな」
「何それぇ~」
どういう経緯でそうなったかを知って千鶴はまた叫んだ。こんな偶然が納得いかないんだろう。
まさか、二人ともこういうのが得意だったとは。確かにこんな状況なら俺でも納得いかないだろう。
「これじゃあトランプで遊べないんじゃないか?」
この場合どう頑張っても千鶴が最下位になる気がする。
「じじ抜きならどうかしら」
「確かにそれならどれが余るかわからないね」
じじ抜き何て思い浮かばなかった。
でも確かに最初の方に抜けれる可能性があるから千鶴でも勝てるかもしれない。俺はそう思った。
「千鶴、それなら勝てるかもしれないぞ」
「本当?さっきそんな感じで勝てなかったんだけど」
確かにさっきもこんな感じで最下位になった。でも、これなら勝機は十分あると思う。
「これならいけるかもしれないわね。さすがに神崎さんがずっとビリなのは気が引けるもの」
「それは千鶴だからか?」
「当然よ。貴方だったら気にもとめないわ」
どうやらこの気遣いは千鶴だからこそのようだ。でも、気が使えるようになっただけ成長したのだろうか?
そこまで考えて俺は意味がないと思ったので考えるのをやめた。
「まぁ、ひとまずじじ抜きやろう」
この場をおさめる意味も込めてか花塚が話を進める。
こうして、じじ抜きをやることになった。今までと同じように千鶴がシャッフルし一枚カードを抜いてからみんなに配った。ババは入ったままだが二枚あるので問題ない。
また、じゃんけんをして俺、花塚、千鶴、山上の順番に決まった。
これまで同様最初の一周は順調だ。
そこから先もあまりのカードが分からないことで千鶴がの表情が変わることはない。そもそも裏向きのまま一枚カードを抜いたので誰も余るカードを知らない。よって表情の変えようがない。このババとなるカードが分からないドキドキ感を楽しむルールが今の千鶴を助けている。
こうしてどんどん進んでいった。
そして、今花塚が一番に抜けて残り三人となっている。
ここまで来ると何となくあまりを予想できるようになってきた。残りのカード枚数は千鶴と俺が二枚、山上が三枚だ。
じじ抜きが終了した。
「また、最下位なんだけど!」
結果は俺が二番、山上が三番、千鶴が最下位だ。
そうなったのは最後の二人まで千鶴が残ってしまったことにある。二人の状態で何周かしたせいで千鶴が余るカードを知ってしまった。これによりババ抜き同様顔に出て負けた次第である。
「神崎さん最後まで残っちゃったからね」
「それはそうと山上。さっき千鶴が気の毒とか言ってたけど勝たせなかったのか?」
「勝負事で手を抜きたくないもの。全力でやるわ」
どうやら山上はそういうところで手を抜きたくないらしい。それはそれ、これはこれということだろう。
「私何でこんなに勝てないの?」
千鶴は疑問に感じているようだ。
「それは運がなく、千鶴が駆け引きを不得意としているからだ」
なのでいっそストレートに言うことにした。
「そうね。神経衰弱は抜いたとしてババ抜きとじじ抜きでは条件が揃えば神崎さんは必ず負けるわ」
そして、山上もそれに同意した。
「えぇー!」
「人によって得意不得意があるから仕方ないよ。僕だって英語とかてんでだめだし」
そして、花塚がフォローを入れる。
「私は勉強は全体的にできないよ」
しかし、勉強全般があまりできない千鶴にとってはフォローにならなかったようだ。少し自暴自棄になっている。
「でも、体育の時間の活躍は目覚ましいわよ。私そういうの全くできないもの」
ここで意外にも山上からいいフォローが入った。
あと、山上運動苦手なんだな。
「まぁ、それはそうだけど・・・」
それでひとまずおさまった。
とここで陽斗がクッキーを持ってきた。とてもいい匂いだ。形は丸く、見た感じココアとノーマルの二種類がある。
「クッキーできたから持ってきたよ」
「陽斗。ありがとな色々やってくれて」
「えへへ」
俺がそういうと陽斗は少し照れながらも嬉しそうだった。
「じゃあ、お姉ちゃんたち楽しんでね」
そういうと陽斗は部屋から出ていった。
これで千鶴は完全に落ち着いた。それどころかクッキーに舌鼓をうっているのだからさすがだ。
時間は二時とおやつの時間には少し速いがみんなでクッキーを食べることにした。
「やっぱり千代子さんのお菓子は美味しいな」
「私もはやくここまでは美味しく作れるようになりたいな」
千鶴も充分料理がうまいが千代子さんの方が美味しいのが現状だ。よって今の目標は千代子さんに追いつくことだと千鶴がいっていた。
「美味しいわ。姉が趣味で作るものとは比べ物にならないわね」
「うん。美味しい」
花塚や山上にも好評のようだ。
こうして美味しいクッキーを食べ進めていった。
クッキーを食べ終わり一息ついたところで次は何をするのかという話題になった。
「トランプは嫌だよ」
敗けが続いたからか今日はもうトランプはやりたくないようだ。
「じゃあ、ベーゴマはどう?」
「私やり方が分からないわ」
「俺もわからん」
「私も分かんない」
「簡単だから僕が教えるよ」
花塚が教えてくれるならということでベーゴマをやることになった。
花塚が持ってきた丸いかたちの台を千鶴の部屋にある机の上に置きそこの台で一番最後まで回っていた人が勝ちで弾き出されたり止まったりしたら負けというルールらしい。複数人でやるから全員でできる。
「コマにも色々種類があるけどみんな初心者だから丸六か角六がいいと思う。ちなみに丸六が持久力、角六が攻撃力重視だよ」
それを聞いてベーゴマにも色々種類があるんだなと思った。コマによって特徴が色々違うのでとても奥が深そうだ。ちなみに丸六は上面が丸く、角六は上側が六角形になっている。
「俺は丸六にするよ」
「私も丸六にするわ」
「私は角六」
こうしてそれぞれ種類を決めた。
そして、試合に入る前に回す練習をすることになった。
コマが初心者ようだったこともあってか回しやすかったがまだかろうじて回っているだけだ。
山上もうまくいってないようで回したコマがすぐふらふらしていた。
「これ意外と難しいな」
「そうね」
「最初はそんなものだよ。その内なれてくるから」
そして、一応回せるようにはなったので試合をしてみることにした。
千鶴は最初の説明を聞いてから一人でもくもくと練習していたのでどのくらいできているかは分からない。
「それじゃあ準備はいい?」
「ああ」
「大丈夫よ」
「いいよ」
「いくよ!せーの」
この花塚の掛け声にあわせてみんな一斉にコマを回す。同じ種類のコマが二つあるとどちらが自分のものか分からなくなると思ったが上面にかかれている模様が違うのでその心配はいらなかった。
勝負がついた。一番は少しだけどやったことのある花塚を差し置いて千鶴だ。見ていても一番安定感があって山上のコマは場外に飛ばされていた。
「やった!一番だぁ!」
千鶴は今日一度も勝ってないことと相まってすごく喜んでいる。運動が得意なだけあって体で覚えるものは得意なんだろう。
それにしても持久戦に強い丸六で持久力負けしたのは少し悔しい。俺は三番だ。
「強いね。初心者とは思えないよ」
この状況に花塚も驚いているようだった。
「く、悔しい」
一方山上は最下位になって悔しそうだった。千鶴と正反対でこういうのは不得意なようだ。
「もう一回やりましょ」
山上がそういってきたのでこのあと何回かまた試合をした。
結果は花塚と千鶴が一番と二番を入れ替わるだけで山上の最下位は変わらなかった。こういうときは最下位の悔しさを味わなくていいから普通も悪くないかもしれない。逆に言えば一番もとれないので嬉しい気持ちも味わえないけど。現に今日も二番目か三番目にしかなっていないし。
そして、千鶴は数回の試合で完全に角六を使いこなせるようになっていた。
「花塚くん強いね」
「まぁ、お父さんと少しやっていたから」
「山吹君にも勝てない」
花塚と千鶴はいいライバルになっていたが山上は俺にすら勝てないことでかなり落ち込んでいた。
俺は真ん中の順位にしかならないのでこういうものに対する感情が持てない。またかって感じるだけだ。
「仕方ないよ。しゅーくんはこういう勝負事でも真ん中の順位しかとらないから。じゃんけんでは違うらしいけど」
そう俺はなぜかじゃんけんの勝率だけは五分五分ではない。大勢でやるものでかつ順位が全部決まるものに対してしか通用しないのだ。よってクラスでのトーナメント式での腕相撲とかも真ん中になるというわけじゃない。
「あ!確かに。秋也これまで一位にも最下位にもなってない」
花塚はそういえばみたいな感じで驚いている。
真ん中の順位にしかならないというのはある意味ですごいのだろう。
羨ましくはないだろうけど。
「それなら仕方がないのかしら?なんかいまいち納得いかないのだけれど」
山上は納得いってないようだ。というかこれで納得できるとは俺は到底思えない。
「俺もあまり納得がいってないから安心しろ」
「本人に言われても・・・」
「でもしゅーくんのそれは一対一の時とか順位が最下位まで全部はっきりしないときとかはあまり効果はなさないよ。大勢の時でも一位にも最下位にもならないけど」
「それはそれですごいと思うよ」
「ある意味で神がかってるわね」
「なんか全然嬉しくない」
山上や花塚に言葉では誉められたがそれが良いことではないので嬉しくはない。
「当然よ。誉めてないもの」
どうやら表面だけだったようだ。
このあともみんなで楽しくわいわい過ごして四時になった。そして、少し早いがおひらきにすることになった。
「今日は楽しかったわ。こんな感じならまた誘ってほしいわ」
山上は今までこういうことがなかったからか楽しかったようだ。群れるのを嫌っている(少なくとも俺はそう思っている)のに楽しいと思えたのは千鶴と花塚がいいやつだからだろう。
「よかったな。山上今までこういう機会なかっただろ」
「山吹君も変わらないでしょ」
「俺は千鶴や陽斗と遊んでたからまだましだ」
「私から見れば五十歩百歩だよ」
山上を少しからかったら千鶴にたしなめられた。
「僕も楽しかった。遊園地楽しみだなぁ」
「そうだね」
こうして陽斗と千鶴に玄関まで見送ってもらって終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます