第5話 仮入部

 今日は丁度週の折り返しとなる水曜日だ。俺はお昼のコッペパンを食べながらそんなことを考えていた(今日は千鶴は友達と食べる日だ)。

 昨日はあのあと家に帰りすぐに寝てしまったようだ。気づいたら朝だった。お陰で記憶が飛んでいるように感じてしまう。なので昨夜は夕食をたべていない。

 普通の人だったらこんなことでここまで疲れないかもしれないが普段ほとんど他人と交流を持たない俺にはとても大変な1日だった。睡眠時間は十分にとれたので眠くはないが家に帰って朝までずっと寝てしまうのはいろんな意味で極力避けたいことだ。

 早くこの生活になれてくんないかなと思いつつ俺はお昼を食べ進めていった。

 ちなみに山上の家は俺たちと同じ方面だった。途中から山上は駅の方へ行くので全体の半分ほどの距離は一緒に帰れた。

午後の授業も無事消化しいよいよクラブの時間だ。帰りのSHR 前に千鶴にあそこにひとりで入るのはきついからしゅーくん一緒にいこ。と言われたので俺は教室の外で掃除が終わるのを待っていた。山上にしなかったのは昨日会ったばかりだからだろう。

 あと、たぶん山上に頼むと度胸がないだのなんだの言われるかもしれないというのもあるのだろう。

 そう考えながら俺は本を取り出す。クラブがはじまると読む時間が減るだろうからこういう時間に読み進めたいと思うのが俺の心情である。

 「ごめんね!待たせて」

 「掃除だから当たり前だろ」

 本を鞄にしまいながら俺は答えを返す。そして、ありのままの自分の考えを述べる。

 「あと、こういう待ち時間はいい読書時間になるから全く苦にはならないよ」

 「しゅーくんが時間潰せるものがあったならよかった」

 「ああ、だからあまり気にすんなよ」

 「うん。じゃあ、いこっか」

 こうして俺たちは部室へ向けて歩き出した。とそのとき俺はあるひとつの心配事が頭をよぎった。

 そして、俺はひとまず千鶴に杞憂じゃないかの確認をとることにした(可能性はほぼゼロだが念のためだ)。

 「俺の顔ってまだ覚えられてないよな?」

 「うん、たぶん・・・あ!」

 どうやら千鶴も気付いたようだ。その証拠にとても気の毒だね。というような様子だ。

 今になって思ったが千鶴が一緒じゃないとかなり大変なことになってただろう。本当に一緒に行く約束してよかった。

 「ありがとな。今日千鶴と一緒じゃなかったらかなりやばかった。昨日が濃かったからこの事すっかり忘れてた」

 普通なら忘れないのだ。しかし、昨日はあまりにも忙しすぎた。

 「そうだね。誘っといてよかったよ。なんか私のことが薄れてきちゃった。」

 「ところでさ、これって覚えられるまでどのくらいかかるかな?」

 「どうだろうね?このクラブみんなキャラ濃いからしゅーくんいつもより霞むよね。一対一じゃなければ。」

 「そうなんだよな~いるってことはあの部室ならわかると思うんだけど顔がな。」

 「そうだね。たぶん顔を覚えられるのは五月中旬ぐらいじゃないかな?で、見つけられるようになるには半年ぐらい?私は生まれてすぐしゅーくんと一緒に過ごしてきたからそこんところはあんまりわかんないよ」

 「そうか~そんなもんか」

 確かに小さい頃から一緒に過ごしてきた千鶴にはあまりわからないことだろう。

 そうこうしているうちに部室の前まで来た。たぶん誰ですか?という感じになるだろうがもう覚悟を決めるしかない!俺は勇気を振り絞ってドアを開けた。

 部室にはまだ山上しかいなかった。ずっと廊下にいたが気づかなかったので相当早く来たのだろうか?もしかしたら本に集中しているときに通りすぎたのかも。

 いずれにしても幸いというべきだろう。ひとりだけならそこまで傷つくことはない。

 そう思いながら部室へ入っていくと山上がこっちを見て睨んでいる(かなりの気迫だもはや殺気)。

 「貴方、この部活の人?・・・神崎さんが一緒ってことは貴方山吹君?」

 千鶴がいてよかった。とすごくかんじた。いなかったらどうなっていただろう?どっちにしろ俺はさっきの考えを撤回することにした。

 「ああ、そうだよ。人の顔くらい覚えてください」

 「それはごめんなさい。でも、貴方の顔の冴えなさも原因のひとつだと思うわ。その事は貴方が一番理解しているはずよ♪」

 何ですか?その嗜虐的な笑顔。少し怖いです。

 「それは生まれつきだから仕方がないと思うよ。」

 「確かにそうね。山吹君やっぱり貴方は普通だわ。そして、冴えない」

 なんか昨日よりも一言増えたんだけど。

 「一応その通りだけどいちいち言う必要なくないか?」

 「自覚があったならごめんなさい。てっきり無自覚だと思っていたわ」

 「これで無自覚だったらかなりヤバイだろ」

 「それぐらいはわかるのね」

 「今完全にバカにしただろ」

 「ひとまず席に座らない?しゅーくん」

 千鶴の仲裁?のお陰でいったん終結したが山上の怖さを少し感じた。出会ってすぐでこれなのにこれから先って・・・。この先は極力考えないようにしよう。

 気を取り直して席につくと丁度ドアが開いて先輩二人が入ってきた。掃除だったんだろうか?と感じたがそれを聞くことが出来るほど俺のコミュニケーション能力は高くない(山上は例外だ)。それよりもさらに来るのが遅い冬野先生の方が気になるしな。俺はそういうことにすることにした。

 「君たちは来るのが早いな!」

 「先輩が遅いだけでは?」

 山上は言うことが事実なら先輩、後輩関係ないようだ。

 「山上たぶん掃除だと思うぞ」

 「その通りだ!我はつい先程まで悪魔を祓っていた」

 なんとなくはわかっていたが東蓮寺の設定で敵は主に悪魔とかそういうもののようだ。

 結託した神は?という疑問は聞いたら延々と説明されそうなので保留だ。

 そんな会話をしている間にもう一人の先輩である伏田さんはそそくさと席に座って本を読み始めていた。コミュ障って大変だな。俺もあまり変わらないだろうけど。

 そういえばここまで千鶴がほぼしゃべってないのでどうしたんだろう?と千鶴の方を向いたらそわそわしていた。理由を聞くといろいろあって入るタイミングを見失ったらしい。

 千鶴でもそんなことがあるんだな。と俺は少し驚いた。それとも周りが特殊だからだろうか?たぶん後者だろう。

 「皆さ~ん。お待たせ~しました」

 そんな言葉を言いながら冬野先生が入ってきた。本当に何やってたんですか?

 「先生、来るのが少し遅い気がするのですが?」

 「先生にも~いろいろ~あるんで~す!」

 それを聞いた山上はあきれていた。この場合は俺も同感だ。

 「それに~各委員会に~手伝いに~行くのは~来週で~今週は~何もないので~問題~ありませ~ん」

 「先生!それだと今日くるいみないじゃないですか!」

 俺としたことが無意識に言い返してしまう。でも、さっきのことがあったから仕方ないよね?そうだよね?

 「いや、意味はある!我らは平和維持活動をしている反面悪魔たちから狙われる身だ。休日はともかく集まれるときは極力集まって安否確認をする必要がある」

 「は、はぁ」

 まさか東蓮寺さんから言い返されるとは思っていなかったので俺の返事は気の抜けたものになった。二人の反応を見てみると意味不明という感じとあきれて言葉がでないと言うふうだった。どちらがどの反応をしているかはなんとなくわかるだろう。

 伏田さんは相変わらず読書だ。

 「ところで~君は~山吹君で~あってますか?」

 行きなりの不意打ちにうろたえる俺。少し間が空いたが負けじと反論する。

 「先生!もう一週間になるんですから覚えてくださいよ!」

 「でも~先生が~はじめて~顔を見たのは~今週の~月曜日だった気が~しますよ?」

 なんか余計にダメージを喰らった気がする。ここに来てやっと千鶴がこの状況に気づく(今まで東蓮寺さんのいったことを理解しようと一人奮闘していた)。

 「先生、それはあまりにストレートすぎると思います」

 そして、すかさずフォロー。本当に優しい。

 「でも~先生は~事実を~言った~までですよ?」

 「よくそれでここまでこれましたね。先生も立派な不適合者だと思います。大丈夫だったのは先生のそのオーラのおかげではないですか?」

 俺がかわいそうになったのかあまりの惨状に目を向けられなくなったのか山上が話はじめた。この場合は絶対後者だ。

 「そうですか~?」

 演技ではない口調で(そもそもこの先生に演技はできないだろう)そういった先生にたいして俺たち3人はこの先生ダメだわ。と感じていた。言葉を交わしたわけではないが雰囲気でなんとなくわかる。

 このあとは各自の自由時間になった。やることがないから当たり前だろう。東蓮寺さんはその事に関して何か言うのかと思っていたが特にいってこなかったので安否確認ができればそれでいいようだ。

 そのまま30分の時が流れクラブ終了のチャイムが鳴った。ホントに来る意味あったのかな?

 下校時刻になった今日も3人で帰るので校門付近で待ち合わせだ。

 靴を履き変えるためにいったん二人と別れた俺はさっさと靴を履き変え校門へ向かった。いつもどおり通り俺が先につく。距離的に部室から女子の下駄箱までの距離の方が遠いので当然だろう。まぁ、2、3分の違いだが。

 校門についてあまり時間がたたないうちに千鶴たちが来た。

 「じゃあ、行くか」

 今日は俺の一言で帰り始める。いつもは千鶴の役割なのでなんか新鮮。

 会話の方は昨日一緒に帰っているので自然と今日のクラブの話になる。

 「最初は誰かわからなかったわ。私は比較的記憶がいい方だけど貴方の顔は例外のようね」

 「仕方ないだろ。いろいろと普通なんだから」

 「でもそれってカッコ悪いわけではないってことだから落ち込むことはないよ」

 「それは逆に言えばかっこよくもないってことだろ」

 「でも世の中にかっこいい人なんてあまりいないわよ?」

 「山上は俺をいじるのかフォローするのかどっちかにしろよ」

 「私はただ思ったことをいっているだけよ?」

 「あはは、そういうところが結香ちゃんって感じだね♪」

 「それ以外にないと思うのだけれど?」

 「そこは察しろよ!てか、山上ってそういうところに自覚ないのか?」

 「私にはそんなことはわからないわ」

 「これは無自覚だね」

 こういった感じて結構話が弾んだ。千鶴も関わり方を覚えてきたようで(そういうことに関しては覚えるのが早い)うまく会話に入っている。たぶんいつもと違う空気感だからたいへんだろうと思っていたが千鶴はとても楽しそうにしていた。言うことに気を使わなくていいからいつもより気楽でいいのかもしれない。

 そして、会話の内容は先生へと移っていく。

 「まぁ、山吹君の薄さや顔の覚えにくさは置いとくにしても冬野先生にはかなり大変になりそうね」

 「置いとくの!何とかしようとすら思われないのですか?」

 「あたり前じゃない。山吹君の場合は時間以外に解決法はないんだもの」

 「仕方ないよ。だから、このクラブにはいったんでしょ。それより何が大変になりそうなの?」

 脱線しかけた話を千鶴がもとに戻す。俺がなれない限り山上との会話は脱線することが多くなりそうだ。

 「神崎さんそんなこともわからないの?もしかしてバカなのかしら?」

 「おまえそんなこともわからないのか?確かに千鶴は勉強においてはバカだがこういうのは山上よりも圧倒的にうまいぞ!」

 「しゅーくんそれフォローになってないから!あと、結香ちゃんもそういうことににちゃんと気づくこと!」

 結局は二人して千鶴をいじる感じになった。俺はあってる部分を肯定しないとダメかな?と思ったがどうやらそれではフォローにならないらしい。あらためて自分のコミュニケーション能力の低さにあきれた。

 「で、何が大変か?よね。それはあの先生が社会不適合者かもしれないということ」

 「つまりは、常識人というかまともな人がいないからまとめ役がいないってことだな」

 千鶴は顧問が冬野先生だと何が大変かはわかったけどそれがどういう意味かを理解しかねていたので補足を入れた。

 「しゅーくんいちいち補足しなくていいから!私でもそれぐらいは理解してるから!」

 「見ている限り完全に理解していなかったようだけど?」

 「う、うぅ」

 そう千鶴は全く理解ができない訳ではなく5割ほどは理解しているというギリギリ救いようのあるバカなのだ。結局頭が悪いことに変わりはないけど。

 「神崎さんそういうところ意外とわかりやすいのね」

 「ゆ、結香ちゃんにも気づかれるって」

 「そこまで落ち込むことはないわ。しかし、私にもわかるって私はそこまで鈍いかしら?」

 「ああ、とんでもなく鈍い!お前自分に向けらる悪意とかも正面からじゃないと気づかれないだろ!」

 「私にはあまり悪意を向けられた記憶はないわよ?」

 そもそも悪意を向けられてないからって感じだけど山上の性格上それは絶対にないからな!気付いてないだけで!

 「結香ちゃん、その発言は肯定を意味しちゃうんだよね」

 少し控えめに言っている千鶴だがもっとビシッと言っていいと思う。

 「いいか?山上。お前は正面から向けられてないから気づいてないけど陰で絶対悪意を向けられている!」

 「なぜそこまで言い切れるの?その根拠が私にはわからないわ」

 「それは結香ちゃんの性格ゆえだよ」

 この一連の会話でなんとなくわかったが山上もある意味でバカだ。もしかしたら自分がクラブの中で一番まともかもしれない。まぁ、五十歩百歩だと思うけど。

 「まぁ、考えてもわからないからこの事は一旦棚上げにしましょう。」

 「それでいいのか?」

「ところで山吹君貴方の顔を覚える件だけどさっきも言ったけどきっと不可能よね」

 めんどくさくなったのか山上は話題を変えた。そして、さっきの話題を持ち出してきた。これ俺が傷つくやつじゃん。山上はそれを狙ったのだろうか?

「やる前から諦めるなよ!」

 「さっきも言ったけど、無理ってことは貴方が一番理解しているはよね?」

 俺はそれでも言い返さないとダメージがヤバイんだ!と心のなかで(言うと山上にさらに言われそうなので)言い返した。

「山上はいろいろと一言余計だ」

 「そうかしら?」

 「結香ちゃん、そういうのは敵を増やす原因になりかねないよ」

 本気でわからないようだ。ほんとこういうところはてんでダメだな。俺でもそれくらいはわかる。

 「千鶴でもわかることがわからないって山上もそういうところはあんまりだな」

 「しゅーくんそれバカにしてるでしょう!しゅーくんも人とあまり関わってないから結香ちゃんのこともあんまり言えないよ!」

 「貴方もボッチなんだから私とあまり変わらないはずよ!確かに貴方の方が上なのは認めるわ。でも、そこまで大差はないわよ!」

 これはふたりを敵に回す完全な悪手だったようだ。俺にも意地があるので言葉にはしないがさっきの山上にたいする考えは撤回しよう。

 「山上。お前俺の方が上だってことは認めるんだな!」

 かわりに気になったもうひとつのことを聞く山上はこういうのにこだわりそうだからちょっと意外だ。

 「それは事実だもの。貴方よりしたなんて認めたくはないけど現実から目をそらしたらなにもはじまらないでしょう」

 どうやら山上は感情よりも事実を優先させるらしい。

 「なんかすごいね!」

 「そうかしら?普段からやっていることよ」

 「悪意に気が付かないってのは目をそらしていることにならないのか?」

 「気付かないものは仕方がないわ」

 「でも、その方がいいんじゃない?知らない方がいいことなんていっぱいあるんだし」

 「千鶴熱でもあるのか?」

 「ないよ!いちいちこういうことで驚かないで!」

 「神崎さん。貴方昨日私と山吹君が仲がいいって言ったけれど今の貴方たちの方が仲良く見えるわよ。まるで夫婦みたいに」

 あーほんと山上って思ったことをド直球でいってくるよな。仲がいいのは確かだけどそれって昨日のことにたいしての仕返しだろうか?それにしては子供っぽくてあっていないから素の感想なのだろう。いや、でもやっぱり今のは仕返しだな。まぁ、実際千鶴みたいな子が付き合ってくれるなら素直に嬉しいけど。

 考えが一段落した俺はこんな言葉を真に受けてはないだろうと千鶴の方を見たら耳まで顔が赤くなっていた。昔からだけどホントにピュアだな。

 「おーい。大丈夫か?さっきの発言たぶんほとんど冗談だぞ」

 このままだといろいろと大変そうなので俺は千鶴の再起をはかる。

 「私は冗談をいってないわよ!」

 「それぐらいは空気読めよ。山上って空気も読めないのか?確かに難しいやつもあるけどこれぐらいならわかるだろ!」

 「山吹君。貴方私をバカにしてるでしょ!」

 「いったん待て。まずは千鶴を再起させるのが先だ」

 俺は山上の性格に絶望的なKYと頭の中で付け足した。

 「千鶴!ホントに大丈夫か?」

 「・・・あ、うん。大丈夫」

 「動揺しすぎだろ!耳まで赤いぞ」

 「うるさい。仕方ないじゃない!そういうの真に受けちゃうんだから!」

 「私は冗談を言ったつもりは毛頭ないわよ?」

 「あーもうめんどくさい!山上。お前その空気の読めなさどうにかならないのか?」

 「そんなのわからないわ」

 こんな感じで会話が続いていった。

 「じゃあ、私はこっちだから」

 「じゃあね♪」

 「ああ」

 こうして山上と別れた。

 そして、俺と千鶴はいつも通り二人で話始める。

 「なんかいろいろあって二日目なのに山上のことが結構わかってきた気がする。扱い方も含めて」

 「結香ちゃんはありのままを出すからね♪でも、喋ってて楽しかったよ」

 「それはいってることに悪意を含めてないからな。山上は思ったことを自分の感じたままに言うだけでからかおうとかそういうのは一切考えてないんだろうな」

 俺も感じていたが山上と話しているときは楽しいし、コミュ力のない俺でも喋りやすい。たぶんそれは思ったことを建前やお世辞抜きで話せるからだろう。

 普段から会話の中で無意識にでも気を使う必要がある千鶴には俺以上にそういうことを感じているだろう。

 「でも、だからこそ敵を増やしそうだよね」

 「そうだな。悪いところをストレートに言われて受け入れられないやつもいると思うしな」

 「実際それが高じてボッチになってるわけだしね」

 「受け入れられるやつもいるんだろうが回りの空気に逆らえるやつはそういないだろうからな。山上が少し変わる必要があるな」

 「そうだね。ところでしゅーくん。何でそんなにわかるの?ボッチだったのに」

 「一人でいると回りの様子がいろいろわかるしな。まぁ、何て言うんだ?人間観察?ってとこかな。それに普通の人とは違う経験もしてるわけだしボッチだったからこその見方って感じだな」

 「ふーん。そうなんだ。私はいろんな人に関わっているいるからわかると思ってたけどボッチでもわかるんだ!」

 「当たり前だ!俺たちのような人はそういうのを受け入れないとやっていけないだろ。山上も鈍いからなんとかなっているが早いとこそういうのに折り合いをつけさせないとな」

 「なんか今日のしゅーくん哲学的なこと言ってて少しかっこいいかも!」

 おいおいそれって普段はかっこよくないってことですか?自分がかっこいいとは思わないけどそういわれると普通に落ち込む。

 「ハイハイ。そりゃどうも」

 しかし、それを表に出すと何かしら言われそうなので顔には出さない。俺の今までのおいたちじょうこれぐらいのことは造作もないことだ。忘れられていることに比べたら全然マシ。

 「しゅーくん。そこまで嬉しそうじゃない?誉めてるのに」

 「当然だろう。さっきの発言は誉めていることにはならないだろ」

 「やっぱ気づいてる」

 どうやら千鶴は俺を試したようだ。俺の言葉ってそんなに信用ならないか?ちょっとショックだな。まぁ、中学校の時はほとんど関わりがなかったから仕方ないかもしれないけど(実際に中学校で気づいたことでもあるし)もう少し俺が傷つかないやり方はなかったんですか?千鶴だから仕方ないか。

 「何落ち込みとあわれみを込めた目でこっちを見てるの?大丈夫だよ。しゅーくん優しいから」

 「顔のことは否定しないんだな」

 「それはしゅーくんがよくわかっているでしょ。それよりも何であわれみを込めてたの?・・・・まさか私がバカなことをあわれんでるの!ひどい」

 何でわかるんだ?これが長い付き合いから来る直感か。

 「イヤーあわれんでるというよりは諦めの方が近いと思う」

 「どっちでも変わらないよ!まぁ、理由はなんとなくわかるからいいけど」

 「わかってるなら改善してくれ」

 「そのうちね。じゃあまた明日」

 「じゃあな」

 千鶴と別れた俺は少し先の家に向けて歩き始める。

 昨日ほどとまではいかないが疲れた。昨日の疲れは環境の変化が大きな要因だ。普通は二日目で慣れるなんてことないのだろうが面子が面子なので今日には結構なれてきていた。俺の考えだが皆自分のありのままを出すので打ち解けやすいんだと思う。

 それにしても今日は倒れるように寝てしまうことはないようだ。

 ひと安心と思いながら俺は家に入っていった。

 夕食の時間今日は久しぶりに俺と美春の二人だけだ。

 親がいるとあまりしゃべらないがこういうときは結構話す(話の主導権は基本美春だ)

 「で、どうだった?昨日はお兄ちゃんぶっ倒れて何も聞けなかったからいろいろ聞かせてもらうよ」

 ここまで興味を持つのは千鶴が関わっているからだろう。いやそれ以外にあり得ない。現実の妹しかも中学生だ。相談に乗ってくれるだけ普通よりもいい。

 もしかしたらそれも俺のことをかわいそうだって言うあわれみからかもしれない。まぁ、そう思ってくれるだけでも全然いいと俺は思っているが。

 どちらにしろ長くなりそうだ。

 「ああ。で、一番何が聞きたいんだ?」

 「えーと。そうだな?千鶴ちゃんちゃんと馴染めてた?」

 「うーんどうだろうな?先輩が厨二病とコミュ障だからな?」

 「それは難しいね。てか、かなり濃いねその面子」

 「ああ、その通りだ。おかげで俺の存在感がよりかすんでいる!でも、人数が少ないから顔が覚えられにくいだけだ」

 「それいいほうになんないから。それよりも、もう一人の新入部員って誰だったの?」

 女子の場合千鶴と友達になれるかもとか思ってそうなので聞かれるとは想像していたが山上のことをどう説明したらいいんだろう?いろんな意味で困る。

 「山上結香って名前の俺らと同じクラスの女子だ」

 「へぇー。で、どう?仲良くなってる?」

 「まぁ、あって二日目にしては仲良くしてるな。そもそも山上が思ったことをそのまま言うやつだから打ち解けやすいな」

 「そうなんだ!でも、仲良くできる人ができてよかった。さすがにお兄ちゃんだけだと大変だしね」

 「まぁ、そうだな。今日も三人で帰ったけど二人で帰るときよりも盛り上がったしな」

 「へぇー。お兄ちゃん女子二人と帰るなんて随分リア充に染まったね」

 なんですかそのお兄ちゃんもここまできたかみたいなかんじは。

 「染まってねえよ。そもそもそのうちの一人は千鶴だしな」

 「でも、高校生になってまで一緒に帰ってくれる異性の幼なじみはそうそういないと思うけどな?」

 「俺は恋愛感情は抱いてないからな。もし抱いてたとしてもこんな地味なやつが好意を寄せるのはおこがましいと思うし」

 「おこがましくはないと思うし相手がよければいいんじゃない?あと、恋愛感情はなくてもドキッとすることぐらいはあるでしょ?」

 「まぁ、それぐらいはあるだろ。あいつ普通に可愛いし」

 「それならまだわからないね♪」

 なんだ、その俺がまだ千鶴のことを好きになるかもしれないって言い方

 「何?俺と千鶴がくっついてほしいのか?」

 「だって、千鶴ちゃんならお兄ちゃんを任せられるでしょ♪」

 「お前は母親か!てか、俺が好きになっても千鶴がどうかはわからないだろ」

 「それはわからないよ。」

 なんだその意味ありげな笑み。とても気になるが絶対答えてくれないな。この場合は。

 「それに、これなら老後私がお兄ちゃんの世話を見なくてもすむでしょ♪」

 イラつくが我慢だ。正論だし、現に今でもいろいろ世話になってるし(主に朝食)そもそも普通よりも総合的に見れば全然いい妹だしな

 「でさ、山上さん?って人はどんな人なの?」

 行きなり話題が変わった。たぶんからかい飽きたんだろう(自分がそう思っているだけ)。

 「うーん。そうだな?山上の場合はいろいろあるからな?」

 「いろいろ?」

 「ああ、そうだな。思ったことをすぐ言うし、鈍いし、空気読めないし」

 「いろいろあるんだね」

 「まぁ、それだからこそ今までなんとかなってるようだし、打ち解けやすいしな」

 「そうだね。お兄ちゃん、千鶴ちゃんはピュアだからいろいろ真に受けちゃうと思うけどそういうときは頼むよ。おろそかにしたらマジで怒るからね。もう殺してもいいレベルだから!」

 俺今脅迫されたよね。でも、普通はこんな感じなのかな?考えてもわからないけど。

 まぁ、それにしても小さい頃から千鶴といるから美春にとってはお姉ちゃんみたいなもんなんだろうな。

 あと、何でわかったんだろ?

 「言われなくてもそうしてるから大丈夫だ。千鶴には普段からいろいろと気を遣ってもらってるしな」

 「ああ、それならよかった」

 「てか、あの中だと俺がまとめ役になるからな」

 「それは珍しいね♪」

 それには俺も同感だ。俺は普段は空気だからな。

 「そもそもあのクラブの中だと話をまとめられる人が千鶴以外いないと言ってもいいしな」

 「それほど大変な部活なんだね。千鶴ちゃん大変だな」

 ああ、大変だ。この先大丈夫かなってレベルだよ。

 「ああ。先生がもう不適合者っぽいからな」

 「あはは。それもう終わってない?他にいい顧問の先生いなかったの?」

 「あの先生以外皆破綻したらしい」

 「それは仕方ないね。まぁ、千鶴ちゃんに負担かけないように頑張ってね♪」

 こうして一方的に約束を取り付けられる形で今日が終わった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る