第4話 仮入部 


 次の日俺は少し憂鬱だった。

 昨日はああいう風に意気込みはしたがやはり初めてのクラブは緊張するものだ。

 時間もそれに合わせて長く感じられる。

 そういう機会に恵まれていない俺はそんな体験が出来ることに少し嬉しくも感じたが嫌だと思えることはどこまでいっても嫌なのだ。

 長々しく思える授業を終え放課後になった。

「千鶴。もう行けるか?」

「すぐ行くから廊下で待ってて」

 重い腰を上げて俺は廊下に出た。

 初めてのクラブは緊張するものなんだと15歳にして俺は初めて知った。

 中学の時部活やってたじゃん。と思うかもしれないがあの時はどうやったら友達を作れるかで頭がいっぱいだったからそんなことを考える余裕が無かった。

「おっ待たせ」

「よし、じゃあ行くか」

 千鶴はさっきの発言通りすぐに来た。

「もう1人の新入部員誰なんだろうね?」

「まともな奴だと…それは無いな」

 職員室まではあまり距離がないのだが千鶴は俺を気にかけてか話かけてくれた。

 多分そうだろう。いや、そうに違いない。

 新入部員に関してはまともな奴はこないだろう。

 だって、冬野先生が社会不適合者の集まりです。って言ってたし。

「どっちにしろ仲良くなれたらいいね」

「俺はまず覚えてもらうことからだけどな」

「あ、ごめん」

 千鶴はなんとか前向きにしようとしたみたいだが見事に裏目に出た。

 でも、その努力は感謝すべきだろう。

 そんなこんなの内に職員室に着いた。

「あ、神崎さ〜ん。こちらで〜す」

 ドアを開けるとつい先日冬野先生が俺をこの部活へ入れた時に使った談話ルームの隣で冬野先生が千鶴を呼んでいる。

 俺を呼んでいないのは名前がわかんないからの一択だろう。

 そんなことをいちいち気にしていては冬野先生の場合だともたないので俺は談話ルームに向かう。

 千鶴は俺の後ろからついてくる。

「やっと〜揃いましたね〜。それでは〜早速〜自己紹介を〜して下さ〜い」

 俺達が談話ルームという軽い個室に入った途端冬野先生はそう切り出した。

「まずは私から名乗るわね。私は山上結香やまがみゆいか。訳あってこの部活に入れさせられたわ。これからよろしく」

「呼び方も〜言ってください」

「そうね。基本なんでもいいわ。山上とか適当に呼んでくれて構わないから」

 例が上がったことだし俺は山上と呼ぼうと決めた。

 新入部員のことに関して俺は何となく予想出来ていた。山上という予感は何となくわかっていたが改めて現実として突きつけられると驚くものである(ちなみに談話ルームは半個室だから近づかないと中に誰がいるか見えない)。

「や、山上さんじゃん!」

 千鶴の方は驚きのあまり声が軽く上ずっていた。

「とりあえずあなた達も名乗ったらどうかしら?」

「俺は山吹秋也だ。呼び方はなんでもいい。よろしく」

 千鶴の方はもう少し時間が掛かりそうだったので俺から名乗る。急かされたしな。

 初対面から急かしてくる山上はやはり只者ではないのだろう。

「貴方が山吹君ね。平凡ね。見事なまでの普通だわ」

 訂正。山上は只者ではない。

 初対面からここまでズバズバ言う奴が普通なら社会なんて崩壊しているだろう。

 ここまでで分かったが山上は空気とか読まずに思ったことを全部話してしまう人なんだろう。

「そうだ。何事も普通が一番だ」

 俺は初対面の人にはそこまで言わない。ちゃんと常識のある人間だ。そんな感じで俺はこの局面を乗りきった。

 でもよく考えたら俺にそんな機会はなかった。

「私は神崎千鶴。呼び方は千鶴でいいよ。結香ちゃんとは同じクラスだよね?これからもよろしくね」

 ここでようやく現実に復帰した千鶴が自己紹介をした。

「ゆ、結香ちゃん?」

 山上は千鶴がいきなり距離を詰めてきたからか戸惑っているようだ。

 一連の会話から何となく山上が1人で過ごしてきたことは予想できるので仕方が無いだろう。

 千鶴も距離の詰め方上手いしな。

「と、とりあえず宜しく。確認だけどあなた達が同じ新入部員ということでいいのよね?」

「ああ」

「そうだよ」

 落ち着いたのか今までと同じ口調で山上が確認をとる。

「分かったわ。ところであなた達は友達?」

 山上はそんな質問をしてきた。

 いやいや、普通あなた達は友達ですか?なんて聞かないだろ。

「友達というか幼なじみだね」

 千鶴はそれを意に介した様子もなく山上の質問に答える。

 心構えをしていたからだろうか?気になるから後で聞いてみよう。

「山吹君にとっては勿体ないわね。平凡なあなたと違って神崎さんは可愛いわ。完全に釣り合ってないわ」

「初対面にしてはディスリすぎだろ。なんで千鶴は褒めてるのに俺にはそれがないんだ?」

「事実に決まってるからよ」

 山上は 思った事を迷わず口に出す人らしい。それ、完全に人から嫌われるタイプだよな。交友関係皆無の俺でもそれぐらい分かる。

「結花ちゃん。千鶴でいいよ?」

「遠慮しておくわ」

 一連の会話で千鶴と呼ばれていないことに気づいた千鶴が可愛いとなんの躊躇いもなく言った山上に対しての照れ隠しも込めそう言ってあげたが山上は一刀両断だった。

「やっぱり可愛い神崎さんに貴方は釣り合わないわ」

「なんで2回言った?」

「大事なことだからよ」

 必要なくね。俺はそこまで大切なことには感じなかった。というか幼なじみに釣り合ってるとか釣り合ってないとかないだろ…たぶん。

 後半自信がなくなってきたが俺はそう思った。

「千鶴が可愛いのは認めるけどついでに俺をディスって来るのは認められないんだけど」

「あら、彼女が可愛いということは認めるのね」

「まぁ、普通に可愛いからな。そこは否定できない」

「とりあえず顔が真っ赤になっている神崎さんをどうにかしてあげたら?」

 山上にそう言われて千鶴の方を見てみると顔が真っ赤になっていた。

 あんまり可愛い、可愛いと言われたからキャパオーバーしたのだろうか?

「大丈夫か?」

 とりあえず声をかける。

 すると千鶴はコクっと頷いた。

 少し時間を置くと顔の赤みは引いていった。

「しゅーくんのバカ。可愛いとか堂々と言われるとこっちが恥ずかしくなるじゃん!」

 そして、俺だけが怒られた。

「山上も言っただろ」

「男子から言われるのと女子から言われるのとでは違うの!」

 そういうものなのだろうか?

 でも、想像した限りではそうだと思う。

「ところでなんだが山上。なんで一週間休んだんだ?」

 このままこの話題を続けても千鶴から攻撃を受けるだけと思ったので話題を変えた。

 普段の俺にそんな能力はないが今回は丁度いい話題があり、相手が山上だったので何とかなった。

「それは…父親が引越しの日にち間違えたのよ。私は母が旅に出ていて父の転勤が理由で近くにある姉の家に住むことになったの。転勤が決まったのが合格発表終わってからだったから他に方法がなかったわ。別に姉と暮らす以外で嫌な理由はなかったわ。でも、父が一週間日にちを間違えて学校に来れなかったのよ」

「た、大変だったね」

 軽い苛立ちを混じえてそう語った山上のおかげで千鶴の意識はそちらへ移っていってくれたようだ。

「もうそろそろ〜いいですか〜?」

 そこへ冬野先生から声がかかった。

「はい」

 山上が返事をする。

 俺も千鶴も頷いたので先生は職員室の外へ歩き始めた。

 そして、一階の渡り廊下を渡る。

 渡り切ったすぐ右手には図書室があった。冬野先生はそこを通り過ぎ図書室の横にある階段を登って行った。

 そして、図書室の真上にある二階の空き教室の前で止まった。下駄箱を下にして上から見た時丁度左上の角に当たる部分だ。

「ここが〜部室で〜す」

 冬野先生はそう言ったあと教室のドアを開けた。

「東蓮寺さ〜ん。伏田く〜ん。新入部員を〜連れて〜来ましたよ」

 冬野先生が俺らのことを新入部員と言っている。まだ、仮入部期間だからそう決まった訳では無いはずだが俺たちの場合は拒否権がないらしい。

 そのまま先生は教室の中へ入っていく。俺たち三人もそれに続いた。

「おお。もうそんな時節か。時の流れとは早いものだな」

 そう言いながら一人の女性が近づいてきた。

「ようこそ、我らが組織へ。私はこの組織の責任者代理つまり、副隊長をしている東蓮寺弥恵とうれんじやえだ」

「そして〜その後ろにいるのが〜伏田貴仁ふしだたかひとくんで〜す」

 そう言って東蓮寺さんの後ろにいるビクビクしている男の人を紹介した。

「二人は〜2年生で〜東蓮寺さんが〜厨二病で〜伏田君が〜コミュ障で〜す」

 冬野先生はサラッと2人を説明した。要はそれなりにすごい人たちという事だ。

 伏田さんは先生に紹介されるのに合わせて軽く会釈をした。これが伏田さんなりの精一杯なんだろう。コミュ障もなかなか大変らしい。

 俺はそこまで行けないけど。

「ねぇ、しゅーくん。厨二病って何?」

 千鶴は小さい声で俺に聞いてきた。

「自分で設定決めてその設定を演じながら日常生活を送っている人のことだよ」

「へぇ、そうなんだぁ」

 俺は千鶴が理解できるよう噛み砕いて説明した。

 実物を見るのは初めてだがラノベに書かれているのと同じならそれであっているだろう。

「厨二病ってほんとに存在するのね」

 山上はそんな事をポロッと口にした。

 確かに厨二病はヤンデレとかツンデレに続いて世の中にないものだと思う。一応いるらしいけど。

「それでは新入部員の諸君。自己紹介をしてくれたまえ」

 東蓮寺さんがそう促した。

「山上結香です。よろしくお願いします」

「山吹秋也です。お願いします」

「神崎千鶴です。お願いします」

 まずは山上から俺、千鶴の順に自己紹介をしていった。

「山上君ちょっと来たまえ」

 簡単な自己紹介が終わると部長に山上が呼び出された。

 東蓮寺さんが部長と分かったのは副隊長と言っていたのと伏田さんには無理だろうというものからの判断だ。

「なんかすごいね」

「ああ」

 千鶴が少し感嘆の混じった声でそう言った。

 確かになかなかにすごい部活だと思う。

 ちなみに部室は長机が1つと教室にあるものと同じイスが5つあるだけで前にも黒板はなく教壇が置いてあるだけだ。

「山吹君。来てくれ」

 そうこうしていると今度は俺が部長から呼ばれた。

 山上が解放されるのに合わせて今度は俺が部長の所へ向かう。

「君が山吹くんか。よろしくな。これから話すことなんだが声の大きさは小さめで頼む。それでは聞こう。何故君は我が組織に入隊した?」

 どうやら個別に呼んだのはその人の入った理由を聞くためのものらしい。たぶん、この部活の伝統なんだろう。

「普通だからです」

 俺の場合はこれ以外答えようがない。

「???」

「平凡すぎて逆に日常に色々影響があるって感じです」

 部長が理解できてなかったから補足を入れる。

「例えばどんなものだ?」

「覚えてもらえないとか言った感じですね」

「ふむ、つまり隠密行動に優れているが故ということだな」

 部長の解釈はあながち間違いではないので(厨二病としての設定を除いたらだが)俺はなんとも言えなかった。

「了解した。それでは戻ってくれて構わないぞ」

 結局そのまま終わりになってしまった。

 俺は部長の中で隠密行動に優れたアサシンか潜入捜査員みたいな設定になったのだろう。

「神崎さん。ちよっと来てくれ」

 俺と入れ替わりで今度は千鶴が呼ばれた。

 千鶴の場合俺の付き添いというか監視役みたいな感じで入ったからどう説明するのか気になった。

 なので、千鶴たちの方を見ていると千鶴の顔が急に赤くなった。そして、何か抗議をしているらしい。

 小声で内容は聞こえないけど部長の設定がそれなりのものだったようだ。

「それではこの組織の活動内容を説明しよう。とりあえず席に着いてくれ」

 千鶴と話し終えた部長が話を始めた。

 千鶴はこちらに戻ってきたまだ顔は少し赤い。

 俺達は部長に言われた通り長机のところにイスを並べて座った。伏田さんも端っこの椅子に座り読書を始めた。

「コホン、それではこの組織の活動内容だが魔界から来た悪魔達の浄化などだ」

「つまり〜各委員会の〜お手伝いで〜す。ここからは〜先生が〜やるので〜座って〜いてください」

 冬野先生が部長だと説明にならないという判断をしたらしく説明役がバトンタッチした。

 千鶴の方も冬野先生が説明してくれたおかげで理解出来たらしい。

「今日は〜他にやる事が〜ないので〜質問会にしま〜す」

 こうして急遽説明会の意味合いを込めた質問会が始まった。

 冬野先生は前の教壇の方へ行き授業みたいな雰囲気だ。ちなみに冬野先生は現代文の先生だ。

 でもよく考えると説明がめんどくさいから聞かれたとこだけで済む質問会に変えたように感じられた。

 冬野先生なら十分ありえる。

「はい。そもそもなんでこの部活は出来たんですか?」

 それでも質問会という形を取ってくれたことを使って不明瞭な点を色々聞こうと思っていたら千鶴が一番最初に俺が一番気になる質問をした。

「確かにこの部活の発端は興味があるわ」

 山上も興味の湧く質問だったらしい。

「詳しいことは〜知りませんが〜現代に〜なる事で〜不適合者が〜増えたことへの〜対策〜?らしいです。7年ほど〜ここの顧問を〜していますが〜そこは〜わかんないです」

 発端はハッキリしてないらしい。ほんとよく承認されたよな。こんな部活。

「え!先生7年もこの学校にいるんですか!?」

 千鶴はそんなことより先生の教員歴に驚いたらしい。

 まぁ、でも7年なら若くて30ぐらいだしあり得ると思う。

 山上の方もその結論へ辿り着いたのかあまり驚いていない。

「はい〜。この部活が2年目に〜入る時に〜1年目だった〜私に〜変わりました」

 そこからそこに至るまでの経緯が説明された。

 内容は馴染めない人達つまり不適合者の方々をどうにかしようとしたとある先生が発足させ、その先生が手に負えなくなった事を発端とし次々に先生を変えるもみんな破綻して行ったという感じだ。

 当時新任だったにも関わらず冬野先生は他に人がいないからということで顧問を任され破綻しずに続いたのでそのまま顧問が決定したらしい。

「ほんと、大した部活だわ」

 山上は呆れ気味にそんな事を言っていた。

 確かにこの部活の凄さを改めて感じた。もう腫れ物扱いだよね?この部活。

 呆れている山上や凄いと感じている俺だがそんな俺達もその部活の一員なのだ。そう考えると少し複雑だ。

 ここからの話でこの部活の顧問だから冬野先生は解雇されないのかなとも感じた。そして、それが何となく分かる冬野先生はそれに存分にあやかっているんだろう。

 とりあえず気を取り直して次の質問だ。

「それでどんな方たちがいたんですか?」

 と思ったが山上に先を越された。

 これも気になる内容だからいいんだけど。

「そうですねぇ〜厨二病や〜コミュ障を始め〜人間不信とかぁ〜対人恐怖症ですかね〜。他にも〜バカが極まった子や〜山上さんのような子、暴走癖のある子とかが〜いました」

「そんなに多いんですか?」

 俺は素直に驚いた。不適合者も多種多様なんだな。

「でも〜山吹君?みたいな子は〜初めてで〜す」

「良かったじゃない。あなたレアよ」

「嬉しくないだろ」

 冬野先生の余計な一言から自然な流れで山上は俺をディスってくる。

 そこに悪意がない分余計にめんどくさい。

「でも、レアだよ?」

 千鶴はレアなら良くない?みたいな感じでそう言ってきたが全然よくないだろ。

 ここまで嬉しくない褒められ方を俺は今まででされたことがない。

 あ、俺褒められたことほとんどないわ…。

 よし、このことについてはもう考えるの辞めよう。

 これ以上はさらなる地雷を踏みかねないと思ったので俺はここで考えるのをやめた。

 とりあえずは質問だ。

「そんな部活の部室どうやって手に入れたんですか?」

 聞きたいこと基本2人に言われたけど場を変えるためには仕方ない。

「それなら私わかるわ」

 山上がドヤ顔で言い放った。

 勝ち誇った笑みをするほどの事かはわからないがとりあえず場の流れは変わった。

 良かったぁ。俺の家族除いての人との会話経験皆無だけど上手くいった。

「聞いてるかしら?」

 説明をはじめていたらしい山上に俺は頬をつねられた。

「痛い、痛いって。分かった話聞くから放してくれ」

 俺が懇願することでなんとか収まった。

「この部室は図書室の本置き場として使われてたの。でも、今の学校の裏にあるテニスコートを作る際に図書室の隣に本の置き場を移すことになったのよ。それでその時この部を作ろうとしていた先生がそれを手に入れたってわけなの。なんにせよ自分達の入る部活なのよ。少しは調べてきた方がいいわ」

「へぇ、そうなんだ」

 千鶴は普通に山上の説明に対して感心した。

 確かによく知ってると思う。それなら部活ができた理由知っててもいいんじゃないか?という疑問は胸にしまっておこう。

 あと、千鶴。最後の発言で俺たち馬鹿にされてるからな?

 そんなことに気づく様子もなく素直に感心している千鶴に俺はそう心の中で呟いた。

「他に〜質問は〜ありますか?」

 冬野先生は質問を募った。でも、正直もう聞きたいことないんだよな。

 基本的なことは聞いたと思うし…やっぱりもうない。

「この部活って土日もあるんですか?」

 そう思っていたら意外にもあった。

 千鶴の質問内容は確かに重要だ。部活を長年というか全くやった事がない俺には土日は何も無い日という感覚が定着している。

 お出かけならまだしも部活で土日を奪われたくはないのが俺の心情だ。あと、この部活に土日の活動とか要らなそうだし。

「ほぼ〜無いですよ〜」

「たまにならあるということですか?」

「月イチぐらいで〜課外活動を〜予定〜してま〜す」

「はぁー、良かったぁ」

 それを聞いて俺は安心した。これで土日は基本フリーだ。

 何かやることがあるのかと聞かれると特にやることは無いが土日は基本何もしない事がすることだと俺は思っている。

「どんどん〜質問を〜してくださいね」

 冬野先生はまだまだ質問を受けるつもりらしい。

 俺はもう思いつかないので山上に任せるしかない。

 そう思って山上の方を見ると山上も思いついていないらしい。

 すると、ツンツンと背中をつつかれた。

 後ろを見ると千鶴がいる。

「どうしたんだ?」

「いや、あの、部長の設定が気になったんだけどそれって聞いていいのかな?」

 千鶴は部長がどういう設定のもと動いているのか知りたいらしい。

 こういう場合は説明を求めるととんでもなく長くなるので辞めるのが吉だが他の質問もないし仕方ない。

「いいと思うぞ」

 俺はGOサインを出した。

「あのぉ、部長の設定を教えて貰えますか?」

「我の宿命を聞きたいと?よかろう。これから…」

「そこまで〜で〜す。私が〜説明するので〜座って〜いてくださ〜い」

 質問とともに部長が勢いよく立ち上がり説明をはじめようとしたが止められた。

「しかし、これは我がじ…」

「ダメで〜す」

「り、了解した」

 部長は再度抗議をするが満面の笑みになってかなり怖い先生に屈したらしい。

 いや、あれ怖いよ。だって怒ってるのに満面の笑みとか恐怖以外の何物でもないじゃん。

「ふぅ」

 横からそんな安堵の息が聞こえた。

 そっちを向くと山上がいる。向こうはこちらが見ていることに気付くと睨んできた。

「あなた正気なの?」

 そして、そのまま流れるように罵倒した。

 いや、一切悪意がないのは知ってるよ。でも、きついよね。これで話したの今日が初めてなんだよな。ありえないよ…たぶん。

「正気だけど…」

「危うく話が長引くところだったのよ」

「説明しても〜いいですかぁ〜?」

 危うく口論になりかけたところが冬野先生が笑顔でそう一言。

 山上はなにか言おうとするのをやめた。俺も最初からだけど何も言う気は無い。

 そうして説明が始まった。生徒の性質を知ることも顧問の役割の一つなのか冬野先生の話はまとまっていた。

 治す気があるのかはわからんけどな。

 内容は最強の神グシオンがいた。その神はグシオンを憎む一部の神と魔王リジェノス率いる悪魔達が結託して行われた作戦により滅ぼされてしまう。薄々そうなるだろうを感じていたグシオンはそれを見越して自分の力を複数に分けることにした。その分けられたちからの一部が自分つまり部長に宿っていてそれを悪魔達に気付かれないようにしながらもこちらの進行を目的とした悪魔に立ち向かうと言ったものだ。

 補足でこの世界自体にも各地域ごとに悪魔に対抗する軍の支部が存在するらしいということも教えてくれた。

「こんな〜感じで〜す」

 冬野先生は説明をそう締め括った。

 俺はだいたい分かったが千鶴は頭の上にハテナが浮かんでいる。千鶴が興味を持ったら後で質問されるだろう。

 山上に聞かないのは一応これでもほぼ初対面だし、思ったことをグサグサと言ってくるからだろう。そのうち慣れるのかもしれないがもうということは無い。

 そういう山上は興味無さそうだった。どうでもいいです。みたいな感じで窓の外を眺めている。

 その後は基本的に読書をしていた。質問会がお開きになって暇になったからだ。

 山上も本を読んでいた。千鶴は…本を読もうとしていたが数分で挫折していた。正確には寝ていた。

 キーン、コーン、カーン、コーン

 クラブ終了のチャイムが鳴った。

「今日は〜これで〜おしまい〜で〜す」

「諸君、また明日だ。帰路でもくれぐれも悪魔には気を付けてくれ」

 冬野 先生が終わりを告げると部長はそう言って部室を出ていった。続く伏田さんもぺこりとこちらに会釈をしたあとそそくさと部室から出ていった。

 冬野先生もそれに続いて居なくなったので部室には俺たち3人だけになった。

「帰るか」

「そうだね」

 俺達も帰りの支度をはじめる、と言っても本をしまうだけなので直ぐに終わった。

「結香ちゃん。一緒に帰らない?」

「一人で帰るから大丈夫よ」

 千鶴は山上を誘ったが見事に振られた。

「いいじゃん。3人の方が楽しいよ?」

「1人の方が気楽だわ」

 最初の方はこのように突っぱねられていたが何度もお願いする事に反論は弱くなって行った。

「分かったわ。一緒に帰りましょ」

 そして、最終的には千鶴が粘り勝ちした。

 こうして俺達は帰路についた。



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