第3話 クラブ決め
今日も今までの四日間と同じように教室で本を読んでいる。しかし、内容はいっこうにはいってこずクラブのことで頭が一杯になっている。
全然ページが進まないまま朝のSHR 開始のチャイムがなった。今日も1日がはじまる。
いつもどうり冬野先生は出席を取る。例の席は今までどうり空席だ。冬野先生によると家の事情で来るのは来週かららしい。ここまで来るとコミュ力が高くなければ俺と同じボッチは確定だろう。
他のことを考えることができたので少しは気をまぎらわすことができた。現状は変わらないままだけど。
今は昼休み今日も1人で購買で買った焼きそばパンを食べている。
午前中の授業は授業内容はをあまり覚えていない。まだそこまで難しくないのであまり問題ないがテスト勉強が少し大変になりそうだ。
授業をあまり聞いてないのはなにか他にいい案がないか考えていたからなのだがやっぱりなにも思い浮かばなかった。
クラブ紹介は6時間目だがそれまでに他の案が浮かぶとは思わない。あとは天命を待つと言ったところになるだろう。
今日は金曜日なのでこのまま1人で昼休みを終えた。
いよいよ6時間目。
クラブ紹介の時間となった。
俺は今体育館で行われるクラブ紹介がはじまるのを待っている。
体育館は校庭から見て校舎の左横にある。男子の下駄箱がある方だ。
行くためにはどちらにしろ一階に降りなければならない。前後の校舎を繋ぐ渡り廊下(壁や窓などはないが2階にも渡り廊下があるので完全に無防備ではない)のすぐ隣にあるので基本みんなそこから向かう。
ちなみにプールは体育館の前つまり校庭側にある。
いよいよクラブ紹介がはじまった。運動部から順番にサッカー部、野球部、バスケ部、バレー部、剣道部、卓球部、ハンドボール部、バド部、陸上部、テニス部、ダンス部、柔道部がアピールをしていく。
後半は文化部で美術部、技工部、手芸部、調理部、合唱部、吹奏楽部、囲碁将棋部、数研、科学研、漫研、クイズ研と続いた。
文化部のなかにはこれならなんとかなるかもとか思える雰囲気のクラブもあったがどれも俺が全然興味のないものしかなかった。そもそもこれだけじゃ全部はわからないけど。
全クラブのアピールが終わったが結局心を引かれるものはなかった。
そして、俺は周りの流れに沿って教室へ向かった。
教室についてほどなくして冬野先生が入ってきて現時点での希望するクラブのアンケートを配った。
アンケートには入りたい部活の名前を書くようにと書かれていた。考え中の人は考えている部活の名前を書くようだ。
冬野先生の話ではその紙を白紙で提出する人はほとんどいないらしい。多くて学年で5人いるかいないかとか。
俺は予定どうり白紙で提出をした。
多分来週に呼び出しをくらうことになるだろう。
部活への入部を推奨している高校だ嘘をついても確認をとられてばれるだけだろう。その時は本当のことを言おうと俺は考えた。
帰りのSHR を終えた俺は今までどうり校門付近で千鶴が来るのを待っている。多分来週からはクラブの仮入部がはじまるので別々に帰ることが多くなるだろう。
久しぶりに1人で帰るのは少し寂しくなりそうだ。
「おっ待たせ♪帰ろ」
「おお」
そして、俺達は歩き始めた。
「しゅーくん美春ちゃんの件どうだった?」
あーそういえば昨日そんなことは言ってたな。よかった早めに聞いといて。やっぱり頭から抜けていた。
「今週末はクラブがないから大丈夫だって。あと、どっちがいいいかは千鶴が決めてって言ってた」
「じゃあ土曜日の午後1時にお邪魔するって言っといて」
「ああ。伝えとく」
これで明日の午後はつぶれることが確定した。どうせ家でゆっくりするだけだから問題はないが。
「でさぁ、しゅーくんクラブのアンケートどうした?」
「昨日言ったとうり白紙で出した。多分来週に呼び出しをくらうとおもう。まぁ、月曜日辺りだろうな」
「じゃああとは神頼みだね」
「そういうことになるな」
お願いします。神様、どうかいい感じに転がりますように!
「ところで千鶴はなに部を希望したんだ?」
「あー私?私は考え中って書いたよ。まだちゃんと決めてないから」
千鶴が悩んでいるなんて珍しい。普段ならこういうことはさっさと決めてしまう。
「へぇ、千鶴にしては珍しいな考え中だなんて!千鶴基本的にすぐ決めるから」
「私にもいろいろあるの。じゃあね。明日1時にしゅーくん家に行くからよろしくね♪ちゃんと美春ちゃんにも伝えといてよ!」
「了解。じゃあまた明日な」
そう言って俺は千鶴と別れた。
リビングに入るとやっぱり美春がソファーで雑誌を読んでいた。クラブがはじまるのが来週からだから当然か。
「ただいま」
「お帰り。お兄ちゃん。で千鶴ちゃんどっちにするって言ってた?」
「明日の1時に来るって言ってた」
「了解。じゃあお兄ちゃん明日はお茶だしよろしくね♪」
やはり俺の予想は間違ってなかった。
美春の部屋も俺と同じ2階にあるので千鶴が遊びに来るときは俺は基本パシりだ。
俺は美春に普段朝食を作ってもらったりしているのでこれぐらいは仕方がないと思っているが。
「それで美春。今、飲み物とかお菓子って何がある?買ってくるけど」
「あ、それは大丈夫。今日帰りにスーパーにお買い物に行って来てその時ある程度は買ったから」
「ああ。わかった」
「でも明日なにか必要になったら頼むからよろしく♪」
やはり保険はかけるようだ。この場合だったら言われなくてもやるけど。
そうして俺は自分の部屋に入った。
翌日は約束どうり(時間に余裕を持たせて)千鶴が遊びに来た。
俺はお茶だし兼パシりとして家の近くのコンビニ(歩いて約5、6分)と美春の部屋を3往復ぐらいした。
長い時間美春の部屋にいたわけでわないので詳しくはわからないが、俺が入ったときには二人とも楽しそうに話していた。
あんなに楽しそうに話しているとなんの話題か気になるが知らない方が多分身のためだろう。
何はともあれときどき笑い声が聞こえたりして盛り上がっていたようなのでよかった。
最近会っていなくて話したいことがたくさんあったらしく(俺の憶測だけど)千鶴は5時ぐらいまでうちにいた。
美春が夕食を一緒に食べよ♪と誘っていたがそれは悪いよ。と言って千鶴は帰った。
日曜も特にこれといったことはなく夜になってしまった。
明日をなんとか乗り越えられるよう祈ったりしているうちに夜はふけていった。
今日から高校生活が始まって2週間目に突入した。
美春は今日からクラブの朝練がはじまるので先週よりも早く家を出ていった。
なので今日から俺が早く家を出る必要がなくなった。朝練のあるクラブに入らなければ、だが。
これからたまにしか美春を送ることはなくなるだろう。
テストの順位発表は昼休みに貼り出されるので今朝はなにもない。
教室についてまもなく朝のSHR がはじまるチャイムがなった。
冬野先生が入ってきて出席を取りはじめる。
先生の言ったとうり先週ずっと空席だった人は今日は出席していた。名前は
黒い髪を長く伸ばしていて顔立ちは全体的に整っている。目はキリッとしていて大人っぽく千鶴のような美少女と言うよりは美女と言った方が当てはまるだろう。
その容姿を見てこれならボッチになることはないかなと思った。
出席を取り終えた冬野先生は諸連絡をしはじめた。
「今日から~1週間の~仮入部が~はじまるので~皆さん~クラブを決める~参考にしてくださ~い」
「あと~山吹君?と山上さんは~このあと~先生のところへ~来てくださ~い。少し~お話しが~あります」
冬野先生なんで俺の名前言うとき疑問形なの。今までもそうだったけどまだ俺覚えられてない!
今までもそうだったのにやっぱり傷つく。こういうのは本当になれることができない。
山上さんも多分クラブ関係のことだろう。
朝のSHR が終わったので俺は先生のもとへ向かう。
冬野先生は先に山上さんと話していたので俺は終わるまで待つ。
どうやら終わったようなので俺は先生に話しかけた。
「冬野先生来ましたよ」
「え~と君が~山吹君?」
「そうです。ちゃんと名前と顔を一致させてください」
「でも~先生~まだ~全員を~
覚えて~ないんです」
担任ならちゃんと覚えろよ。そう思ってしまう。
「あと~山吹の~顔においては~全く~覚えれてないで~す」
やっぱり一番覚えられてない。もうこれは仕方がないか。
「で、なんで呼び出したんですか?」
これ以上この話題を続けるとさらに心が傷つきそうだったので俺は話を戻した。
「用件は~簡単で~す。放課後に~職員室に~来てください」
「わかりました。それで終わりですか?」
「はい。じゃあ~授業~頑張って下さい」
そう言って冬野先生は教室から出ていった。
今回話してわかったことはしゃべり方とは裏腹に言うことがグサッとくるということだ。
完全に油断していたせいでダメージがいつもより大きくなった。
そして昼休み
月曜日なので千鶴と一緒に食べている。順位は食べ終わってからということになった。
「しゅーくんやっぱり先生にもちゃんと覚えられてなかったね」
「ああ。しかも冬野先生見た目に反して言うことがド直球なんだよな」
「へぇ。で、なんで呼ばれたの?何となく予想はつくけど」
「多分その予想通りだろう。俺は放課後に職員室に来いとしか言われてないから」
多分放課後に話すときもいろいろと言われるだろう。
「食べ終わった?」
「ああ。一応な」
お互いお昼を片付けていく。
「じゃあ、順位見に行こっか」
そう言って席をたった千鶴と共に俺は職員室前へ向かった。
職員室は校庭側の校舎の一階にある。俺ら1年の教室の下だ。
楽しみにしながら歩いていく千鶴を見てそんなに期待できるか?と思う。
順位を見たが俺の結果は予想通りだった。
俺はいつもどうり中間ぐらいで130位から160位(1学年はだいたい300人位だ)となった。総合順位は142位。妥当な結果だろう。
千鶴は国語だけ140位とよかったものの残りの教科は230位から260位といつもの千鶴の順位だった。総合順位は187位。国語に助けられいつもよりいい結果だった。
しかし、当人である千鶴は落ち込んでいる。本人いわく半分より上の順位だと思っていたらしい。
それでも、教室に戻ってからいつもより良かったんだからそれでよし。と気持ちを切り替えていた辺りはさすが千鶴だ。
こうして昼休みが終わった。
帰りのSHR が終わり俺は職員室に向かった。
今日から仮入部がはじまるので下校の準備をしている人はクラスにはいなかった。
職員室の前まで来た俺はドアを開けて冬野先生を呼んだ。
職員室は以外と広いが構造は教室と変わらないようだ(他クラスとの壁をなくして繋げた感じ)。
冬野先生ならそこで待っているよ。と言われたので俺は職員室の1角にある。半個室になっているところへ向かった。
中は机を挟んで椅子がおいてあり、片方の椅子に冬野先生が座っていた。
俺は空いている方の椅子に座り今疑問に思っていることを質問した。
「先生はなんでここで待ってるんですか?」
「それは~山吹君の~顔が~わからない~からです。何で~山吹君は~そんなに~印象が~残らない顔を~しているのですか?」
「生まれつきですし、その発言は俺に失礼かと。」
朝話したでしょ!少しとはいえ今日のことなんだから覚えとけよ!と俺は心のなかで叫んでいた。
「で、俺を呼び出した理由は何ですか?」
「それは~クラブの~件です。今回~この学年で~この前の~アンケートを~白紙で~出したのは~君を含めて~二人でした」
俺は俺以外にもいることに少し驚いた。
「もう一人は誰ですか?」
「それは~後々~わかると~思います。ところで~山吹君は~なんで~推奨していると~知っていて~希望する~クラブを~書かなかったのですか?」
この先生はそういうことを察することができないのか!それとも単なる嫌がらせ?冬野先生ってもしかしてS !?
「推奨しているのを知ったのは昨日で、書かなかった理由はみんなに覚えられないからです」
言いたくないことを言わせられ俺は少し投げやりになった。
「あ~、確かに~そうですね!どうりで~先生も~全然~覚えられないんですね」
「先生の場合は覚えようとしてないだけでしょう!今までどうやって俺の出席をとってたんですか?」
「うっかり~忘れてました」
どうやら先生は腹黒くはないらしい。適当なだけだ
「で、先生早く話を続けてください」
「山吹君が~クラブに~入りたくない~理由は~よく~わかりました」
「じゃあ、俺はクラブに入んなくてもいいんですか?」
よし。これでなんとかクラブに入らなくてすみそうだ。
「いいえ~。でも~かわりに~ボランティア部という~部活に~はいって~もらいます」
なんなんだその部活?クラブ紹介にそんなクラブはなかったぞ!
「そんな部活あるんですか?」
「はい~♪ありますよ~。ただ~特別クラブなので~普通なら~はいれませ~ん」
「なんで俺はその部活にはいれるんてすか?」
そもそも特別クラブとは?という疑問が俺の頭のなかを占めている。
「それは~先生が~社会不適合者だと~判断したからで~す」
な、なんだと!それはひどい。先生もっとオブラートに包んで下さい。俺は心からそう願った。というか俺は社会不適合者なのか?この場合はあくまでも冬野先生の主観だが社会不適合者なんだろう。
「その言い方はちょっと直球過ぎませんか?」
「でも~この言葉が~一番~適していると~思いますよ~?」
ダメだこの先生。その時俺はそう確信した。
「で、1年で他にボランティア部にはいる人はいるんですか?」
「いますよ~。ひとりですけど~。」
「誰何ですか?」
「それは~明日~会ってからの~お楽しみで~す」
焦らすんかい。
でもこのクラブにはいるってことは常識的ではないのだろう。先生の基準がわからないからなんとも言えないが。
「あ、そういえば~山吹君の~存在を~すぐに~見つけられる~人って~いますか?」
「一応いますよ。この学校では一人だけですけど」
「それは~よかったです~」
「何でそんなこと聞くんですか?」
「それは~山吹君の~存在感が~薄いからです。山吹君の場合は~それが原因で~ボランティア部に~はいることに~なったんですから」
「俺は承諾してませんよ」
危ない危ない。うっかり流れで入部するところだった。
「なにいってるんですか~?これは~強制ですよ~!」
俺に選択権はないのか!あっても帰宅部を選ぶけど。
「だいたい~このクラブは~いってしまえば~不適合者が~社会で~生きていくための~矯正みたいな~ものなんですよ」
こ、この高校特殊過ぎるだろ!何ですか矯正って!このクラブってただ単に社会不適合者を集めるためのものでしょ!
あと先生、それを満面の笑みで言うのはどうかと思います。立場的に。
「だいたいそんなクラブあっていいんですか?」
「別に~いいんじゃないですか~?」
なにそれ適当。なんかいろいろありすぎて理解が追い付かない。
「で~、山吹君。君の存在を~見つけられる人って~誰ですか?」
「俺の幼なじみの神崎千鶴です」
「じゃあ、神崎さんにも~このクラブに~はいって~もらいましょうか」
俺がはいるのは仕方ないとしても千鶴をこのクラブにいれるのは気が引ける
「なんで千鶴にはいってもらう必要があるんですか?」
「だって~、見つけられる人がいないと~サボるかも~しれないじゃないですか~」
「先生、そんなに俺が信用できませんか?」
「確かに~それもありますが~おいていってしまうとかの~問題の方が~大きいですね♪」
やっぱ否定はしないのね。
まぁ俺のことをほぼ知らないわけだし当たり前か。そもそも知ろうとしてるか謎だけど。
「それで話は終わりですか?」
「そうですね~。じゃあ~山吹君は~入部の方向と~言うことで~いいですね?」
「まぁ一応は」
「じゃあ~神崎さんに~クラブに入ってくれるかの~確認を~とってきて~下さい」
「そんなことぐらい先生がやってくださいよ」
「あと~明日~部室へいくので~放課後に~またここに~来てくださ~い」
思いっきりスルーされた。あれ?なんで冬野先生が案内するんだ?
「明日は先生がつれてってくれるんですか?」
「そうですよ~♪先生は~一応~ボランティア部の~顧問ですから」
冬野先生が顧問だなんて不安しかない。なんかいろいろ心配。
「山吹君?今~なにか~失礼なこと~考えて~いませんでしたか?」
先生無理に笑おうとしないで。
目が笑ってないから余計に怖いから。
先生はどうやらそういうことに関しては敏感らしい。
「何もいってません」
「ほんとうに~そうですか~?」
「まぁ、いいです~」
なんとかばれなかった。この先生なんか恐い。
「じゃあ~また明日~この時間に~来てくださ~い」
「わかりました」
「あと~ちゃんと~神崎さんに~入部をしてもらって~くださいね」
「先生それぐらいは」
「よろしくで~す」
見事に遮られた。
これでどうやら話は終わりらしい。
なかば追い出される感じで職員室を出ると廊下は少し薄暗くなっていた。
外を見るとだいぶ日が傾いていた。時間を見るとあと数分でクラブの終了時間だ。
俺は結構長い時間職員室にいたらしい。
今回わかったのは冬野先生と話すと疲れる。ということだ。
あの先生ほんといろいろとめんどくさい。
そんなことを考えているうちにクラブ終了のチャイムがなった。
下駄箱は外から戻ってくる運動部の生徒で混んでいたので俺は少し離れたところで待っていた。
人が少なくなったときには5分ほど時間がたっていた。
あと10分で完全下校時間だ。
下校する文化部の生徒がちらほらとみえはじめた。
俺は靴を履き替えて校門に向かって歩き始めた。
校門を過ぎた辺りで後ろから聞きなれた声が聞こえた。
「しゅーくん待って!」
今日は別々だろうと考えていたので少し驚いた。
でも、クラブの件を聞けるのでよかったかもと思った。
「千鶴は運動部の仮入部に行ったんじゃないのか?」
「イヤー。興味本意で文化部にいってたんだ」
千鶴にしては少し意外な気がした。
「ふーん。そうなんだ」
「ところでさ。クラブのことなんだけど」
「あ、それどうなったの?」
俺まだ最後まで言ってないんだけど、まぁいいか
「ボランティア部っていう特別クラブにはいることになった」
「それどんなクラブなの?」
自分から言うのはできるだけ避けたいが千鶴に入部の有無を聞くには言わなければならないのだろう。
「簡単に言うと冬野先生から見た社会不適合者を集めたクラブ」
「それはまたすごいクラブがあるね!」
やっぱり驚くよな~。
俺は千鶴が入ってくれるか心配になってきた。
「活動内容は俺らの矯正らしいよ」
「まぁ、よかったんじゃないそれで。そこなら多分生きていけると思うよ」
やめて、そんな他人事みたいに言わないで!まぁ、他人事なんだけど。
でも、俺が誘いにくくなるから。ここから切り出すのきついから。
頼まれたことなので本当はやりたくないが、俺は覚悟を決めた。
「あの、そのクラブのことなんだけどさ。冬野先生が千鶴にも入部してほしいって」
「・・・・。」
千鶴はとても驚いた顔をしている。突然のことで反応できないといった感じだ。
当然だろう。そんな普通じゃないクラブにはいってほしいと言われたらもし俺が普通だったら同じ反応をしていると思う(普通の生活を送ったことがないから確定はできないけど)
「な、なんで私に入部してほしいの?」
この疑問が浮上してくるのは当然のことか。
「先生いわく山吹君は存在感が薄いから置いていったりすることがあると思う。と言うことらしい」
理由を聞いた千鶴は納得!という顔をしていた。
「そういうことね♪確かに高校の中でしゅーくんを見つけられるのはしゅーくんが頑張らなければ私しかいないもんね」
「で、入部してもらえるか?」
「いいよ」
一瞬聞き間違えかと思ったがどうやら入部してくれるようだ。
「頼んだ俺が言うのもなんだけど、いいのか?」
「うん。だってここで断ったらしゅーくんボッチを抜け出せないでしょ」
ありがとうございます!俺は心のなかでそう叫んだ。
ボッチから抜け出させるためなんて。
うぅ、俺は今泣きそうになっている。
「なんかいろいろとありがとう」
「イヤー、実は私もしゅーくん以外の変わった人にあってみたいと思ったから」
「ですよね」
俺のためだけとかあり得ないですよね!そんな思い上がりをするなんて俺って自意識過剰?ボッチで友達がいないのに(神崎家は別だ)自意識過剰とかどうかしてるだろ!
俺は心のなかで自分を戒めた。
ここでひとつのことに気付く。
「てか、興味本意!そんな理由でいいの!?俺がいえることじゃないけど」
「いいんだよ。そんな理由でも」
なんか納得いかないところもあるがまぁ、入部するって言ってくれてるんだからいいっか。俺はそう思うことにした。
「とにかく、入部してくれるってことでいいか?」
「うん。それでいいよ」
「わかった。じゃあ、明日放課後に冬野先生に連れてってもらうから職員室にいくから」
「あれ?冬野先生に連れてってもらうの?」
「ああ。冬野先生が顧問だからな」
「ええ!そうなの!」
千鶴にとっては意外だったらしい。それとも、あの先生の雰囲気ならそれが普通の反応なのだろうか?いや、そもそも部員が冬野先生の主観で決められてると言った時点でわかるよね?そんな疑問に気をとられ少しの沈黙が流れていた。
意識を現実に向けて千鶴の方を見るとなにかぶつぶついっていた。
「大丈夫か?千鶴」
「ああ、うん。大丈夫。あ、あのさこれで私達これからも今日みたいに一緒に帰れるね♪」
慌てた様子で取り繕った笑みを浮かべる千鶴。
それを見た俺は何を考えていたんだろうととても気になった。
そして、もうひとつの気になったことは直接聞くことにした。
「千鶴って俺と帰るのが楽しみなのか?」
「え、えーと話すのが楽しいって意味だから変な勘違いはしないでね・・・」
そこまで言うと千鶴はうつむいて黙ってしまった。
さっきの発言は本人にとってかなり恥ずかしいものだったようだ。おかげでまた顔が耳まで真っ赤になっている。
言い訳の必死さから話すことが楽しい。ということが感じられたので変な勘違いはしないが顔を赤くしながら恥じらう姿は可愛かった。(言葉の意味そのままなので変な勘違いはしないでほしい)
そのまま無言で時が流れた。
「じゃあな。クラブのことありがとな」
「うん・・・」
こうして俺は千鶴と別れた。
中学校も今日からクラブが始まったので美春はまだ帰宅していなかった。
さらに日が沈み夜になった頃に美春がお兄ちゃん夕食だよ。と言われたので俺はリビングへ向かう。
今日は親の帰りが夜遅くなるので夕食は俺と美春の二人で食べる。こういうことは多少のばらつきがあるが月に3、4回ぐらいある。
「クラブがあったのに悪いな」
「大丈夫だよ♪お兄ちゃんのつまらない料理を食べるよりかはましだから」
まさか、そういう理由だったとは。まぁ、俺の料理美味しくないけど。
「でもさ、それだったらおかずを買うとかでよくないか?」
「家で作った方が栄養とか考えれるから」
多分、自分のことを考えてだと思うが、作ってくれることに変わりはないのでこれ以上はなにも言わないでおこう。
「いただきます。」
「いただきます♪」
こうして夕食を食べ始めた。
「ところでさ、お兄ちゃん。クラブの件だけどどうなったの?」
やっぱり聞かれた。けど美春も相談にのってくれた一人なのでどうなったか聞くのは当然だろう。
てか、なんでそんな愛想の良い顔をしている質問してくるんだ?
普通にかわいいけど。
「特別クラブにはいることになった」
「それどんなクラブ?」
「顧問の先生から見て社会不適合者だと思う人を集めて、ボランティアを通して矯正していくクラブ」
「あはは。なにそれ!ある意味お兄ちゃんにぴったりかも!」
笑わないでくれ普通に傷つく。て、あれ?ピッタリってところは否定しないんだ。
俺はそれを認めている自分に驚いた。
「明日からそのクラブの仮入部に行くから。あと、1年だともう一人仮入部に来るって先生が言ってたな」
「へぇ~。もう一人お兄ちゃんみたいなのがいるんだ!明日から楽しくなりそうだね♪」
「俺みたいなやつかはわからないぞ。厨ニ病をこじらせたやつかもしれない」
言っといてなんだけど実際にいたらめんどくさそうだな。
「まぁ、そうだよね♪でも、楽しくはなるんじゃない?」
「そうかもな」
「ところでさ、千鶴ちゃんはどのクラブにするか知ってる?」
これをいったら攻められそうだ。かといってうやむやにしてもすぐにばれるだろう。
ここは正直に答えた方がいいと俺は考えた。
「顧問の先生が見つけられる人がいないと困るから千鶴にはいってもらえって」
「ええ!で、千鶴ちゃんは?」
「入ってくれるって」
「確かにお兄ちゃんは特別クラブの中だともっと薄くなって気づかれにくくなると思うし、高校のなかでお兄ちゃんをすぐに見つけられるのは千鶴ちゃんしかいないけど。はぁ~。千鶴ちゃんこの先大変そうだなぁ」
今の発言は的を射ているといっていい。
お兄ちゃんはなんで断らなかったの!というようなオーラを放ちながら少し怒った顔をしてぶつぶつなにかをいっている。
「ちゃんと感謝しなさいよ!」
そして、諦めたのか、仕方ないかと言う顔をして俺にそういってきた。
「わかった」
他のことを言うと余計に大変になりそうだったので一言で返事をした。
このあと、延々と千鶴ちゃんはお兄ちゃんの側にいてくれてありがたい。という美春の話を聞いていた。
こうして、俺にとっての変化の一日が終わった。正直いろいろありすぎていまだに頭の処理が追い付いていない。本当にいろいろありすぎだろ!
まぁ、でも明日になればきっと落ち着くだろう。
ボランティア部に対して少しの不安はあるものの、変な人が集まっているときいたからかそこまでいやとは感じていなかった。
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