第2話 新生活
次の日の入学式終え、さらに次の日のテストを終えた俺はこうして高校生活四日目を迎えていた。
俺は今いつものように教室で本を読んでいる。千鶴は今日もギリギリに来るようだ。まぁ、部活もはじまっていないから当然だと思うけど。ちなみに俺は今日も美春を送っていったので早く来ている。なぜかというと。美春が
「1日だけのなわけがないでしょ。今週1週間は乗せてってもらうからね」
と言ってきたからである。
おかげで俺は明日まで早く来なければならない。どうも美春にいいように使われているように感じるが気にしないことにしておく。
今日は校内の体力テストがある。どうせ結果はザ・平凡という感じになるだろうし、いつもどうり1人で回るだろうからそこまで興味のわくイベントではない。
そうこうしているうちに始業のチャイムがなった。
いつもどうり冬野先生が出席をとりはじめた。
今日も例の席は空席だ。昨日知ったことだがその席に座っているのは女子らしい。初日から4日間休みとかボッチがほぼ確定していると言ってもよい。
そんなことを考えた俺はその子が少し気の毒に思えてきた。
出席をとり終えた先生が今日の連絡をしはじめた。
「今日は~1日~体力テストなので~皆さんは~体操服に~着替えておいて~くださいね」
その他細かい連絡をして朝のSHR が終わった。
とそこへ千鶴がやって来た。
「おはよう♪」
「おはよう」
「しゅーくん学校に来るの早いね。何かやることでもあるの?」
「ああ、今週は美春を中学校まで乗せてかないといけないからな」
「あははは。大変だね。しゅーくんも」
千鶴は苦笑いをしながら返事をしてきた。
「こればっかりは仕方がないよ」
「そういえば私、最近美春ちゃんに会ってない気がする」
確かに俺と千鶴は高校入学までの宿題を一緒に解いたりしていたが、美春は中学校の部活があったりしたので半月ほど会ってないと思う。
「そうだな、半月は会ってないと思う」
「久しぶりに会いたいなぁ♪
いつならしゅーくんの家行っていい?」
美春と千鶴は普通に仲がいい。女子同士でなにか通じるものがあるのだろう。その様子は端から見ると姉妹?っていう感じだ。
「どうだろうな。美春も新年度でいろいろ忙しいと思うから直接聞かないとなんとも言えないな」
「そっかぁ。じゃあいつなら大丈夫か聞いてきて」
「了解。ところで千鶴は美春と何を話しているんだ?」
「それはいろいろだよ。いろいろ」
これ以上は踏み込まない方がいいと俺の中のセンサーが強く警告してきたので流すことにした。千鶴も「いろいろ」を強調させてくる辺り言いたくないことがあるのだろう。
「ふーん。いろいろ話してるんだ。ところで今日の体力テスト一緒にまわらね」
流すために話題を変えようと思ったがなにも浮かばなかったため、苦し紛れにそんなことを言ってみた。
「ええ!ああ。うん、いいよ。別に…」
さすがにこの反応には少なからず驚いた。そんな驚くこと言ったか俺?
「どうしたんだ?そんなに驚いて」
「い、いやー。しゅーくんから誘ってくるのってあんまりないから少し戸惑っただけ」
確かに俺から誘うことは思い返してみても数えるほどしかない。なんとなく納得した。
「確かにそうだな。そういえば、誘っておいてこんなこと聞くのもあれだけど体力テストって男女合同だっけ?」
「えー!そんなことも知らずに誘ったの。それマジないわー」
「すまん。千鶴が知ってるわけないよな」
「なにそれ。しゅーくん私のことバカにしてるでしょ!まぁ、知らないけど」
「バカにはしてないよ。ただ今までの経験上からね。やっぱり知らないようだし」
「うぅ」
話題をなかば強引にすり替え(こういう戦法に千鶴はめっぽう弱い)一方的に言いくるめる形になったがこれで一段落ついたので俺は確認するために席を立った。
男女合同だということがわかり一緒にまわることを約束した俺は「時間になるまでに各自で準備体操等を済ませておくように」との言いつけどうり今 校庭で準備体操をしている
10時から12時までの午前中が1年生で午後は2、3年生の順番になっている。時間外はアンケートを書いて各自自習という形になっている。みんなにとっては仲を深める時間(お喋りの時間)だと認識していることだろう。俺はいつもどうり読書かな。
そう思ったところへこちらに向かって走ってくる姿が見えた。
「おっ待たせ」
「ああ。今日はよろしくな」
体操服姿の千鶴は制服のときよりも体のラインがくっきりしていて豊満な体をより強調させている。たぶん、制服のときはブレザーを着ているからだろう。
さすがの俺も少し目のやり場に困った。
チャイムが鳴り体力テストがはじまった。
段取りをしっかり確認したのだろう。11時を過ぎた時点で俺達は残り1種目となっていた。ここまでの結果は
ハンドボール投げ20メートル
握力30キロ
反復よことび60回
上体起こし20回
長座体前屈30センチ
となっている。
残る種目は立ち幅跳び無理だと分かっているがいい記録を残したい。
しかし、そう壁を越えることはできない。結果は185センチと平均かそれ以下の数字だった。
ちなみに千鶴は俺よりも全体的に少し高い結果となった。俺の結果は男子のなかでの平均ぐらいなので、女子の中ではかなり高い方だろう。
全ての種目を終わらせた俺達は教室に戻ることにした。
教室に戻るとまだ誰もいなかった。どうやら俺達はうまくまわることが出来ただけだったらしい。
「結局しゅーくんは平均的な記録だったね。ある意味すごいと思うよ。どこまでいっても平均なの」
「それバカにしてない?まぁ、運動神経のいい千鶴からすると俺なんて全然なんだろうけどさ」
言われたくないことをつつかれ自虐的になる。自分が傷つくってわかっているのに。
「いやぁ、別にそんなふうには思ってないよ。ただ思ったことを口にしただけ」
「千鶴って昔からだけど誤解される言い方することが多いよな」
本当にそこだけは直してほしい。今は千鶴の性格でなんとかなっているが社会に出るとどうなるか不安で仕方がない。
こういうふうに幼なじみのことを本気で心配するのは昔からの仲だからだろう。
「そお?私全然自覚ないよ」
「自覚持った方がいいぞ。将来的に考えるならな」
「へぇ、しゅーくん私のこと心配してくれてるんだ」
「昔からの付き合いなんだから心配ぐらいするだろ」
「わかった。みんなの前では気を付けるね♪」
「みんなの前ではって俺の前では気を付けないのかよ!」
「だってしゅーくんとか美春ちゃんの前でもいちいち考えるのはめんどくさいんだもん。あと、ちゃんと真意?を理解してくれるしね」
真意が疑問形になっているのは不安だからだろう。大丈夫あってるはずだ。
そして、俺はさっきの発言の意味を聞く。残念ながら俺には理解できない。
「まぁ、そうだけど。ごっちゃにならないのか?」
「それは大丈夫。しゅーくんとかの前ではお気楽モードになってるから」
「は?どういうこと?」
「しゅーくんは存在感薄くて人の輪に入らないからわかんないかもしんないけどそういう集まりのなかにいるときは軽くでもキャラを作って回りの空気をに合わせるの。合わせるといっても私の場合は話題を強引に変えないってぐらいだけどね。あとは自分のキャラつまり立ち位置にあった振る舞いをすることだね。これも私の場合はほぼ素なんだけどね」
「へぇ、千鶴ってそんなことしてるんだ。端から見ても自然なのにね」
「まぁ、私はほとんど素だしね。私だってそんぐらいのことは出来るよ」
「千鶴でも知ってることを知らない俺って、少し落ち込むわ」
あんな楽しそうにしている集団にもそんなルールがあったなんて大変だな。今の俺には絶対無理だわ。そもそもそういった機会がないと思うけど。ああ、結局自虐になった。
「しゅーくんはそういう集団に入ったことないから知らなくても仕方ないと思うよ。てか、しゅーくんそれを知らなかったことよりも私が知ってて自分が知らなかったことに落ち込んでる!?」
「いや、知らなかったことにも落ち込んでるよ」
「否定はしないんだね」
「俺は基本嘘をつかないからな」
少し落ち込んだ様子の千鶴。
でも俺嘘つけないから。
このままお昼休みになったので千鶴は友達とお弁当を食べに行った(千鶴は性格とはうらはらに料理がうまい)。
俺と一緒に食べるのは月曜と火曜だと千鶴は言っていたので今日もいつもどうり1人で昼食をとった。ちなみに今日の昼食は蒸しパンだ。
午後も特になにもなく(アンケートが終わると俺の予想通りお喋りの時間になった)過ぎていった。
俺は今、今日も千鶴と一緒に帰る約束をしたので校門のところで千鶴が来るのを待っている。
明日がクラブ紹介で翌週の仮入部を経てクラブがはじまるのでここ最近は毎日千鶴と帰っている。
「おっ待たせ!さぁ、帰ろっか」
「おお」
こうして俺達は帰路に着いた。
「月曜日テストの順位発表だよ」
「ああ、そうだな」
忘れていた。月曜日は昨日受けたテストの順位発表だ。まぁ、興味ないが。
「あれ?しゅーくん反応薄いね」
「なんとなく順位が予想出来るからな」
「そっかあ。どうせ中間辺りだもんね」
納得。みたいな顔してるがやめてくれ俺傷ついちゃうから。てか、千鶴にとっても楽しみなものじゃないだろ。
「どうせ、千鶴も良くて下の上だろ。何が楽しみなんだ?」
「それはこれまでの話、今回は結構手応えあったもん」
この時点で月曜日順位を見てがっかりしている千鶴が思い浮かぶ。テスト後の千鶴はいつもこんな感じだな。
「千鶴って本当ポジティブ思考だよな」
「出来るだけポジティブに捉えた方が人生楽しいから♪」
「俺の場合はどうポジティブにとらえればいいか分からないから出来ないなぁ」
「それは仕方ないよ。状況が状況だから。ところでしゅーくんってなに部に入ろうと思ってるの?」
「なに部にもはいんないよ。もう部活はこりごりだ」
「でもしゅーくんうちの高校って生徒が部活に入ることを推奨してるんだよ。知ってた?」
初耳なんだけど。なにその制度俺にとって地獄でしかないじゃん。俺は脳が焼ききれるんじゃないかというほど考えたが結局どうしたらいいか思いつかなかった。ひとまずあとにして詳細を聞こう。
「そうなのか!俺部活に興味なかったから見過ごしてた!」
「そういうことには落ち込まないんだ!」
「当然だろ。今の状況じゃそんなことなんて二の次だよ」
そう。今の俺にとってそんなことはどうでもいい。それよりも部活に入らなければならないということの方が問題だ。何とかして解決の糸口を見つけたい。
「クラブ紹介のあとになに部を希望するかのアンケートをとるんだって。それで誰がどこに入るかの目安をつけるんじゃないかな」
「白紙で出したらどうなるのかな?」
「呼び出しくらうんじゃない。しゅーくんは存在感が薄いけどプリントとかだと意味ないから」
「だよなー。でも他に思いつかないし」
「可能性がないわけではないと思うよ。ただ限りなく0に近いけど」
「でもそれでいくしかないか」
結局は運任せか。運がいいといいなぁ俺。そういうところは普通じゃないからなんとも言えないのだ。
「まぁ、また何かあったら相談して。出来るだけ手伝うから」
「そこまでしちゃぁ悪くないか?」
「私のことは気にしなくていいのこっちもしゅーくんの将来が心配なんだから」
「わかった。また相談するなよ」
「それでよし。じゃあまた明日♪ちゃんと美春ちゃんに予定聞いといてね」
「ああ。じゃあな」
そう言って俺は千鶴と別れた。そして、これからどうしようかとクラブのことでほぼ頭を一杯にしながら俺はリビングに入って行った。
今日も美春は先に帰っていた。忘れないうちに千鶴に頼まれたことを聞いておこう(千鶴が俺に頼んだ理由はスマホが壊れていて買い換えるのが来週だからだ。ちなみにデータは残っていたので引き継げると言っていた)。
「美春、千鶴が会いたいって行ってるんだけどいつなら大丈夫?」
「ああそっか。千鶴ちゃんスマホ買い換えるの来週だったね。今週末ならクラブないから大丈夫だよ。どっちがいいかは千鶴ちゃんに聞いといて」
「ああ分かった。伝えとく」
ひとまずこれで頼まれたことは終わった。明日まで忘れないようメモしとこ。
「ところでお兄ちゃん。あんまり元気がないけど大丈夫?」
まぁ美春だから気づかれて当然か。隠すようなことでもないので俺は話すことにした。
「ああ。クラブへの入部を推奨していることを知って絶望してるだけだから大丈夫だ」
「それ大丈夫って言わないから。絶望してるのに大丈夫とか矛盾してるから。それにその問題お兄ちゃんにとって超地獄じゃん。ヤバくない?」
「さっきは大丈夫って言ったけどかなりヤバイ。てか、がちで心が死んじゃうレベル」
「やっぱりそうだよね。でどうするつもりなの?このままじゃほとんどの確率でお兄ちゃん終わるよ」
「ひとまずは明日のクラブ紹介の後にどこを希望してるかアンケートがあるからそれを白紙で出してあとは成り行きにまかせようと」
「まぁ、それが妥当だね。あとは頑張って乗り越えてね」
「ああ。聞いてくれてありがとな。あとは頑張るよ。結構萎えてるけど」
いつもはかなりあざといが相談にのってくれるところは本当にありがたい。俺は明日への覚悟を決めて今日を終えた。どうかなんとかなりますように。
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