普通も極めれば大変です
神ノ木
第1話 新生活
「存在感がないのって罪なのだろうか?」
そう嘆いている俺の名前は
普通なら新しいくはじまる高校生活を目の前に不安を抱えながらも心踊らせて
「どんな友達ができるのかなぁ」
「かわいい女の子いるかなぁ?」
「彼女とかできてリア充になったりするのかな」
何て希望的観測を言って楽しんだりするのだろう。
しかし、俺は心が傷つくのを覚悟しなければ友達を作れない。そもそも、それで友達が作れるのかもわからない。
その理由は俺が目立たないからだ。顔立ちも含めて平凡で普通なので全然覚えてもらえないし周りの存在感に埋もれて忘れられてしまうことも頻繁に起こる。迷子になっても気付いてもらえないレベルで(家族や幼なじみの千鶴は例外だけど)。
そして、俺が友達を作ろうと思わなくなった理由は小学校での出来事が原因だ。
まだ、自分のことを知らなかった俺は入学してすぐ友達を作ろうと1人の男子に声をかけた少し話をして初日にしては話が弾んだので友達になれるかもと思った。けど翌日その男子に声をかけたら
「お前、誰だっけ?」
と完全に俺のことを忘れていたのだ。当時6歳だった俺はかなりショックだった。今思い返してみても悲しくなるのだ。当時の俺にはかなりひびいた。それ以降俺は人に声をかけるのが怖くなった。これが俗に言うトラウマである。
ここからはボッチ街道まっしぐらである。帰りに千鶴や美春と一緒に帰るか千鶴と話す以外基本読書をしていてほとんど喋らなかった。そして、今に至る。
そのトラウマはほぼ乗り越えたが心が傷つくだけだとわかっていて自ら向かっていくほど俺の心は強くはないのだ。てか、顔を覚えてもらうには毎日声をかけても1ヶ月以上はかかるのだ。(妹の美春から聞いた話だが)普通の人でも無理だろう。少なくとも俺はそう考えている。
でもそんな境遇を変えようとして中学校時代にはサッカー部に入ったりもした。 俺はここで活躍すれば自ら話しかけなくても友達ができる、もし活躍できなくても1ヶ月いれば部活内なら友達を作れるのではないかと考えたのだ。
しかし、俺は自分がどこまでいっても平凡なので活躍することなどほとんど無いと言うことと、サッカー部などの部活にいるある人種のことを考えにいれていなかったのだ。それは「イケメン」だ。そいつはサッカー部のエースで勉強も出来るとても存在感の強い奴だった。
お陰で俺の試みは失敗に終わった。唯一の収穫は存在感の強い奴の周りにいるとより気づかれなくなる、ということがわかったくらいである。良かったことと言えばサボってもなにも言われなかったぐらいだ。今でも何であんな浅はかなことをしたのかわからない。
以上これまでの経験から周りが強制的に状況をつくらない限り友達ができないのである。そもそもその周りの奴らに気付かれてないから希望はないけど。
こんな人生を送っている人間が新生活に心踊らせるだろうか?
答えは否である。
俺にとって新しい生活とは居心地が悪くなるということだ。はじまってからの一ヶ月はみんなそわそわしているのでとても居づらいわかるだろうかこの気持ちが。特に何もない部屋で(自分の部屋の内装まで地味で普通)ベットに横になりながらこの嘆きは必然的なもので仕方がないのだと俺は言い聞かせた。これが半ば強制的に性格が普通でもボッチの道を歩んできたものの心情である。
今日も一日がはじまる。いつもと変わらない朝。いつもと変わらない風景。俺はいつもどおり顔を洗ってリビングへ向かった。唯一いつもと違うのは今日から新年度ということぐらいである。でもどれもいつもどおりなのでそこまで実感しなくてすんでいる。まぁいつもどうりなのは当然なのだが。
リビングに入るとそこにはいつもどうり朝食の準備をしている妹の
「おはよう」
「おはよう、お兄ちゃん。あのね、今日から新年度だから美春腕によりをかけて作ったんだ!もし残したりしたら処刑もんだからね!」
「勝手に人を殺すな」
「それはお兄ちゃんが食べなかったらでしょ」
「てか、お前俺が朝は少食だって言うこと知ってるだろ!」
「そうだっけ?」
「忘れんなよ。俺何回もお前に言ったよな」
美春の新年度という言葉を聞いて一気に現実には引き戻された。そのせいでつい口調が強くなってしまった。でも美春も俺の言ったことでどうでもいいと思ったことを流してしまうので直してほしいと思っている。まぁ、それぐらいの欠点があった方が良いのかもしれないが。
そして、もう美春は朝食を作ってしまっている。朝は少食だけど食べないと処刑まではいかなくても1ヶ月近くは朝食を作ってくれなくなるので頑張って食べることにした。
※自分で作ると不味くもなく美味しくもないただただ平凡な味にしかならないので普段は美春が担当している。
そして、いつもより頑張ってくれたことに変わりはないのでお礼を言うことにした。
「たくさん作ってくれてありがとな」
「あーお兄ちゃん。少し時間押してるからお礼は学校まで自転車に乗せてってくれるということでよろしく!」
すかさずこういうことを言うあたりはあざといなと感じる。まぁ、むちゃぶりされてるわけじゃないしまだきつくないからいいけど。それよりも交通ルールを破ることの方が心配だ。どうせ言っても流されちゃうけど。
「わかったよ」
「頼むね♪」
それを聞いた俺は仕方なく朝食にしては豪華な料理に手をつけた。どうでもいい話だが俺は朝はごはん派だ。少量しか食べないけど。
そんなこんなで頑張って朝食を食べ終えた俺はかなり満腹になって重くなった体を頑張って動かして学校に行く準備をした。
準備を終えて外に出るともうすでに美春が俺の自転車を用意して待っていた。
「学校までよろしく!」
「少しは感謝しろよ」
「わかってるって」
そんな会話をしながら俺は中学校へ向けて自転車を走らせはじめた。ちなみにここからだと中学校へ自転車通学できない。なので20分くらいかけて歩いて通学するのだ。そして、今日から俺は高校生なので自転車通学ができるようになった。自転車でも15分かかるけど(ちなみに徒歩だと30分ぐらいだ)中学校までなら10分かからず行けるのでこれから美春にしばしば頼まれるだろう。毎日ではないのは普通なら部活の朝練で俺より早く家を出るからだ。まぁ、高校と同じ方向なのであまり回り道にならないからそこまで苦にはならないけど。そんなことを考えている内に中学校が近づいてきた。
校門の近くで自転車を止めると美春は身軽に自転車を降りて荷物を持ち
「いってきまーす」
と言って走り去っていった。俺はその背中を見送ってから重い体を動かして高校へ向かった。
クラス分けの紙を見てクラスを確認した俺は教室に移動した。そして、今は自分の席に座っていつものように本を読んでいる。読む本は様々で文学作品から推理小説、ファンタジー、青春モノからラノベまでと多岐にわたっている。普段1人で学校生活を送っていたのだ。したがっていろんな本を読むのは必然的である。教室はどこにでもあるような感じで場所的に朝日が入ってくるので雰囲気も明るさもそこまで暗くない。
ただし、早く来ると眩しそうだ。本を閉じて時計を見ると始業まであと10分ぐらいある。周りを見渡してみるが同じクラスになった幼なじみの千鶴の姿はまだない。たぶん始業ギリギリに来るのだろう。
俺の幼なじみ
確定じゃないのは噂だからだ。俺から見ると明るくて一緒にいると元気になるといった感じだ。なのであの噂もあながち間違いだとは言えないと思う。ちなみに千鶴は俺のことをしゅーくんと呼んでいる。ところでこれは誰に向けて話しているんだ?
まぁ話を戻すがそもそも入学式は明日で今日は明日の入学式の練習だけなのであまり早く登校する必要はない。というかはやく登校する意味がない。俺が早く登校したのはただ単に美春を送ったからだ。そして、今日の登校はどちらかと言うと顔合わせの面が強いのだと思う。俺には関係ないけど。友達が出来る出来ないの前にそもそも作ることが出来ないし。不可能ではないんだろうけどそこまでしてやる気にもなれない。
そんなことを考えているうちに始業のチャイムがなった。千鶴の席をみてみるといつの間にか着席していた。
そして、少し遅れて教室に先生が入ってきた。
「皆さ~ん。おはようございま~す。私はこのクラスの担任の~
この先生に対する俺の第一印象は「おっとりしている」だ。見るからにそんなオーラを漂わせている。そして、そんなオーラのせいか年齢が全く読めない。まぁそんなことはどうでもいいけど。
あいさつを終えた冬野先生は周りを見渡して出席を確認しはじめた。
その間、俺は初日から休むような奴はいないだろうと考えて周りを見渡した。そしたら1席だけ空席を見つけた。それを見た俺はその席の子がボッチに一歩近づいてると感じた。そして、再び前を向くと丁度冬野先生が今日の連絡をしはじめた。それで朝のSHRが終わった。
午前中の授業を無事消化した俺は(授業は聞くだけなので楽だ)今教室で購買で買ったサンドイッチを食べていた。モチロン1人で。
そこに千鶴がやって来た。
「おはよう」
「いや、もうこんにちはだろ」
「そうだった!」
相変わらずのことに思わず少し笑ってしまう。
「千鶴、お前大丈夫か?」
「大丈夫に決まっているでしょ。ところでしゅーくん当然だと思うけど1人?」
「ああ、いつもどうり1人だ」
「じゃあ、一緒に食べていい?」
「いいけど。千鶴は友達と食べなくていいのか?」
「私でもこんなすぐにはできないよ」
「でも誘われるぐらいのことはあっただろ。千鶴のことなんだから」
「やぁ、しゅーくんのことを見てたら少し可哀想になってきてね」
「俺のことなら気にするな。いつも1人だし。それよりも千鶴の交友関係の方が大切だろ」
「でも中学校のときは完全に放置した形になっちゃったから」
「千鶴がそれを負い目に感じる必要はこれっぽっちもないよ。だいたい俺の存在感がないのが原因だし」
あんまり千鶴に気を遣わせたくないのでついつい自虐に走る。他の方法をはやく見つけたいものだ。
「まぁ、しゅーくんの存在感が薄いのが原因だから仕方がないのは分かってるけど。自分が決めたことだからいいの。だからしゅーくんの隣にいてあげるね♪」
俺はその発言に驚いた。騙される俺ではないが一応忠告をいれることにした。あくまでも忠告のためだ。
「ありがとな。あとその発言もし聞かれてたら誤解を生むかもしれないよ」
「そ、そんなわけないでしょ!しゅーくんそんな風に受け取ったの!自意識過剰なの!?」
顔を真っ赤にしながら言い返してくる千鶴、なに勘違いしてるの。ちゃんと汲み取ってくれないと自虐にはしらないといけなくなるのに!
「だいたいボッチの俺がどうして自意識過剰になるんだ。さすがあり得んだろ。あと、俺の存在感は薄いんだから、万が一千鶴の発言を聞いていても誰にいったかは覚えてないと思うぞ」
ほらまた自虐にはしった。
それを聞いた千鶴はなんとか落ち着いたらしいが、俺はやっぱり自虐発言に少なからず傷ついていた。
「からかうなんてしゅーくんひどい」
「別にからかったわけではないんだけど」
「まぁ、実害がないからいいけど」
「聞いてる?俺はからかったんじゃなくて、忠告しただけだよ?」
「あれ、そうだっけ?ならごめんね」
このあとは特になにもなく昼休み終了のチャイムがなった。
ホントにこういうところは昔から変わらないな。
今日は午前中だけなのでSHR で学校は終わりだ。
「帰り一緒に帰ろ」
「別にいいけど」
「了解。じゃあ、またあとでね♪」
別れ際そう言って千鶴は自分の席に戻っていった。
SHR を終え帰りの支度をした俺は靴を履き替えていた。下駄箱は男女で場所が違うので千鶴とは校門で落ち合う予定でいる。
ちなみにこの学校は上から見ると「口」の形をして2つある校舎を2本の渡り廊下で繋げている。下駄箱の場所は「口」の角のところにある。
校門付近で待っていると千鶴がやって来た。
「ゴメン、少し遅くなった」
「俺も来てまだ5分ぐらいしか経ってないから問題ないよ」
「はぁ、しゅーくんそういうときは何分待ったとか言わないもんなんだよ!」
「問題ないって言ったから別によくないか?」
こういうことに関しては俺はいっこうに理解することが出来ない。何てったってそもそもそういう機会自体がないからだ。
「そういうことじゃないの!そんなんだとしゅーくん彼女できないよ!」
「俺に彼女ができるわけねーだろ。俺存在感薄いんだから。気づいてすらもらえないよ」
「そうだったね。しゅーくん私以外の女の子と喋ったことないもんね」
「そうだよ。俺は男子も含めて千鶴以外と喋ったことほぼねえよ」
一連の会話で少し傷つき悲しくなった。自虐発言って怖い。というか俺は将来結婚できるか不安になった。たぶん無理だから独り身で暮らすのだろう。
「大丈夫だよ。私がこれからも話し相手になってあげるから」
急に顔を近づけてそんなことをいってくる千鶴に俺は少しドキッとしてしまった。これが今の俺の精神状態とあいまって余計に響いてくる。
「ああ、よろしく頼むわ」
おかげで俺はそんな返事しかすることができなかった。
「頼まれた!」
千鶴はそんな返事を返しながら満面の笑みを浮かべている。いい幼なじみを持ったなと俺はあらためて感じていた。
ふと周りをみわたして見ると、もう家の近くまで来ていた。
「じゃあね♪」
「ああ、また明日な」
家のある通りに出た俺は千鶴と別れた。俺と千鶴の家は100メートルほど離れている。
幼なじみだからといって家が隣だとはかぎらないのだ。といってもすぐ近くに住んでいるけど。
家に帰りリビングに入ると美春がソファーに座って雑誌を読んでいた。
「ただいま」
「お帰り。高校生活一日目どうだった。お兄ちゃん」
「周りの人は浮いてたな。俺は千鶴と話したぐらいだ」
「へぇー。千鶴ちゃんと同じクラスになったんだ。よかったねボッチにならなくて」
「なんで今だけの会話でわかるんだ?」
「やっぱりお兄ちゃんはそういうのに気づけないか。いい、お兄ちゃん!高校生活初日だよ!いくら幼なじみでもわざわざ他クラスまで行くはずないでしょ」
「確かにな。初日っていろいろ大変だし」
こういうのに気付くことができないのはやはり経験値の差なのだろうか?そういうことも分かるようになりたいと思いつつも無理だろうなと俺は思っていた。
「そういうこと。まぁ、頑張って高校生活楽しんでね♪」
こうして高校生活一日目が特になにもなく無事に終わった。
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