第五章 四節 待ってて
「あなたは化け物と戦うのよ。そして勝つの。そうすれば私たち家族は平和に生きていけるわ」
お母さんとお父さんはあたしにそう言った。
「ミーアちゃんは化け物と戦うんでしょ?がんばってね!そうすればぼくたちはいつまでも仲良しでいられるから」
学校の友だちはあたしにそう言った。
「君は素晴らしい。選ばれた者なんだ。化け物との戦争で大きな戦果を上げることを期待しているよ。そうすれば我々人間は繁栄し続けることができる」
魔法省の人たちはあたしにそう言った。
私たち、ぼくたち、我々、その中にあたしはいなかった。平和な世界にいながらあたしだけずっと檻の中だった。この時代に行く時も皆はあたしを見てくれていなかった。誰だって自分の身を気にして今の世界を維持することだけを気にして……。
ずっとずっと決められていた。決められていたから戦った。決められていたから強くなった。決められていたからこの時代に来た。決められていたから、殺した。
けれど、あたしが決めたものなんて一つもない。あたしが選んだものなんて一つもない。誰にもあたしを見てもらえず、何もあたしは選べなかった。だから、きっとあたしは、あたしを持てていなかったんだ。きっとあの世界に、あたしはどこにもいなかったんだ。
でも、ひかりとリーベは持っていいって言ってくれた。そのおかげであたしはあたしを持てたんだ。凄く嬉しかった。凄く二人のことを好きになった。
それなのに……、どうしてあたしはまだ決められた道の上を歩いているの?同じ人間を何人も何人も殺して……。
あたしはどこにもいない。どこのもない。こんなあたしなんて、大嫌いだ。
「それでも、わたしはミーアちゃんのことが好きだよ」
ひかりの声がした、気がした。
「……え?」
ゆっくりと目を開けると、ひかりとリーベが視界に入った。
「ひかり……?リーベ……?」
何……?どうしてここに……?幻覚?
「大丈夫?ミーアちゃん」
「ふぇ、あ……」
目の前にいるひかりはあの時と同じ言葉をあたしに投げかけた。そしてあたしの口からは息だか声だか分からない音が漏れる。
だんだんと意識がはっきりしてきた。あたしは今ひかりに膝枕されているみたいだ。
ゆっくりとへとへとになっている体を起こす。頭が痛んで手で押さえた。
「大丈夫ですか?ミーアさんはここで意識を失っていたんです。そこを私たちが見つけて」
倒れていたのか。また気付かないうちに死んでたのかもしれない。制服がボロボロだ。
「ミーアちゃん……。あの、ね……その……」
ひかりは何かを言おうとして言い淀む。そりゃそうか。ひかりとは半ば喧嘩別れの状態だったもんね。
「何?」
あたしは静かに尋ねた。全てが無意味だと思うと、気まずさなんてどうでもよくなっていた。
ひかりの目線は少しだけ下を向いている。だけどやがてゆっくりと顔を上げてあたしを見た。
「……ごめんね!!」
まっすぐな、まっすぐな声だった。
「……ひかり」
「わたし、ミーアちゃんの気持ち全然分かってあげられなくて……。ミーアちゃんの辛い気持ち、全然分かってあげられなくて……」
「それはあたしもだよ。……多分今も分からない」
「……でも、それでもわたしはミーアちゃんのことが好きだよ」
「!?」
ついさっき、意識がない中で聞こえた気がした言葉がひかりの口から伝えられた。
「だから、ミーアちゃんが辛いと思うことはしたくない。ミーアちゃんが化け物を倒したくないっていうなら、わたしも倒さない。何か別の方法を見つけ出そう」
「三人で考えればきっと見付かるはずです」
「え……」
あたしがついさっき抱き、捨てたはずの考えを二人は提案してきた。
諦めたはずの選択肢がまたあたしの目の前に現れた。本当は選びたかったそれを二人は差し出してくれた。手を伸ばせば届く距離に。
視界が歪んだ。たくさんの涙が一気に溢れてきた。
「み、ミーアちゃん……?」
「どうしたのですか?」
あたしは泣きながら二人に手を伸ばそうとする。
「……ありがとう。ありがとう。……でも」
「まったく……。どうして結希ひかりとリーベ・ヴァールハイトがここにいるんだい?」
でも、全部無意味なんだ。そう言おうとした瞬間、また聞き覚えのある声が聞こえた。少し離れた岩山の上に、さっきの白い少女がいた。
「なんですか?あれは、化け物、ではないですよね……?」
リーベは不可解そうな顔つきで尋ねてきた。
「……多分」
「はあ……、これだから予測がつかないというのは嫌いなんだ」
白い少女はため息交じりにそう言った。
「……予測がつかない?」
え、それはつまり……。
「ん?どうかしたのかい?」
「ねえ……、もしかして今のあたしは、決められたあたしじゃないよね?」
「え……?ああ、私の今の言葉は失言だったか」
考えてみればおかしな点がある。決められていたのは、何もあたしだけじゃない。世界の全ての出来事があらかじめ決められていたのだ。だったらあたしが何度も死ぬということ自体がおかしい。あたしの時代に向かうためにあたしは生きて計画を成功させるという決まった結果へ向かってはいても、出来事の全てが決められているんだったら結果までの過程すらも変わらないはず。それにあたしが抵抗しようとしていたのをこいつは止めようとしていた。冷静に考えれば本来そんなことをする必要なんてない。それなのにしてきたということは、今あたしは決められた世界にはいないってことだ。
「私のミスとはいえ、一言で今の状況を把握するなんて凄いね」
「……」
どうして今そうなのかは分からない。でも、今のあたしはあたしを持てている。ひかりとリーベが好きだというあたしの気持ちを持てている。さっきあたしはどこにもいないといったけれど、今は有るんだ。いるんだ、あたしが。だから……。
「ひかり」
ひかりの方を見て声を掛ける。
「ふぇ……、は、はい!」
「あたしも、ごめんね」
「へ……?」
あたしはそう一言言って、また白い少女に向き直る。そしてあたしは少し大きめのランスを四本出現させた。
「あたし、ひかりに酷いこと言ったよね。本当にごめん。でも、さっきひかりが言ってくれたこと本当に嬉しかった。あたしはひかりとずっと友だちでいたい。だからそのために、あたしはあいつを倒す!」
鎌を構え、白い少女に向かって跳躍する。それと同時にランスを撃ち込む。
「ミーアちゃん!?」
ひかりの呼ぶ声が聞こえた。でもあたしは止まらない。
「はあ、結局こうなるか……。まあ、やれるもんならやってみなよ」
白い少女はそう言うと迫っていた四本のランスを簡単に避けて地面に降り立つと、あたしに向かって迫ってくる。
あと数メートルにまで迫ると、あたしはバレないように左右に用意していた魔力を瞬時に巨大な手にして挟み込む。そしてそのまま振り上げて投げ捨てる。
いけるか……?
白い少女は派手に転がりながら飛んでいく。だけどその勢いのままバク転、体勢を立て直おし、また走って向かってきた。
「ちっ。まだ足りないか」
視界の左端から光。
「え?」
見るとひかりが翼を広げてあたしの前に背を向けて飛んでいた。そして羽を数百、数千と白い少女に飛ばして攻撃しだしたのだ。
「ひかり……?」
「ずるいよ!」
「え……、ずるい?」
「わたしだって、ミーアちゃんとずっと友だちでいたいんだよ。わたしにはよく分からないけど、こいつはミーアちゃんの敵で、ミーアちゃんはわたしと友だちでいるために戦ってるんでしょ!?だったら、だったらわたしも戦うよ!!」
「ひかり……」
あたしのいる位置からひかりの顔は見えない。だけどあたしに伝わるまっすぐな声は、言葉は、やっぱりひかりらしいなって、あたしに思わせる。
「ははっ、こんなんじゃ私を倒せないよ」
白い少女の声。見ると、ひかりの猛攻を浴びながら余裕を見せて走って来る。
「そんな……!?」
白い少女は避けようともせず、こっちに向かって走ってくる。だから降り注ぐ羽は確かに当たっているのに止まらない。そしてあっという間にあたしたちの目の前まで迫る。
「私を忘れてもらっては困りますよ」
リーベの声。それと同時に目の前に巨大化したリウスが飛び出て来て、白い少女を吹っ飛ばした。
「リーベ……」
「あれは私たち三人の敵です。三人で倒しましょう」
「……うん!」
リーベの温かくて優しい声に、やっぱりリーベらしいなって、あたしに思わせる。
「よし、それじゃあ、行くよ!」
ひかりの掛け声、それと同時にひかりは翼を大きく広げ、あたしは鎌に魔力を纏わせ、リーベはリウスと共に臨戦態勢に入った。
「いやいや、いかせないって」
吹っ飛ばされていた白い少女はすでに態勢を整え、またあたしたちに向かって走りながらそう言った。
「やあああああ!!」
「縛れ」
ひかりは光の羽をさっきよりもさらに多く飛ばす。あたしは周囲に魔力を霧散、百本もの手を出現、襲う。
「くそ……」
それでも、白い少女は止まらない。光の羽も網みたいに襲う手も隙間を縫うように走って、目の前まで迫って来る。
「今です!!」
リーベが声をあげた。
すると目の前に迫っていた白い少女に向かってリウスが鋭い爪で襲い掛かる。けれど白い少女は真上に跳躍してそれを避け、リウスの真ん中の頭を蹴り上げた。だけどそれは隙。すぐに左の頭が食らいつく。左の頭は白い少女に噛み付いたままめちゃくちゃに振り回し、投げ飛ばした。
あたしは吹っ飛ばされた白い少女に向かって黒い手を何十本も伸ばし、包み込んで捕らえる。さらに巨大な二本の手を出現させて握り潰そうと掴む。
「なっ……!?」
切り裂かれた。あたしの黒い魔力が、二本の腕が、百の手が。紙みたいに、バラバラに……。
白い少女は二本の白い剣を持っていた。その身と同じ真っ白な、輝きを放つような剣。
「はああああ!!」
それに反応したのか、ひかりはいつの間にか光の剣を出して白い少女に攻撃を仕掛ける。
ひかりは剣を両手で持ち、素早く、鋭い振りで何度も白い少女に斬り掛る。だけど白い少女は片手で剣を持っている分、力が及ばないのを利用しているのか、ひかりの攻撃を受けた時に無理に抗わず、力を体の中で循環させてもう片方の剣への攻撃に繋いでいた。こうなっていては剣が二本ある白い少女の方が有利だ。
「だったら……」
あたしはひかりと戦う白い人の背後に回り込んで
「やあああ!」
白い少女の首に向かって鎌を薙ぐ。けれどそれもやすやすと避けられる。
「くっ」
あたしはそのままひかりと一緒に白い少女に攻撃をし続ける。
ひかりが剣を薙いで光の刃をいくつも放つ。けれど白い少女はそれを軽く剣を振って捌いていく。その隙にあたしは黒い針をいくつも伸ばして攻撃を仕掛ける。だけどそれに対して白い少女は光の刃を打ち払うために剣を振った勢いで体を回転、迫っていた針も打ち払った。
だけど
「く、ぅう……」
全部の針を捌くことはできなかったのか、ところどころに傷を負って白い飛沫をあげていた。
「はああああ!!」
それにひかりは追い打ちをかけた。光の剣をさらに長く、鋭くして白い少女に突き、貫く。
「があ、あぁ……あがあ!」
白い少女が悲鳴をあげ、動きが止まった。
「ひかりさん、ミーアさん退いてください!」
リーベの声。同時にあたしたち覆う影。あたしとひかりはすぐに後ろに後退する。
その直後、白い少女を真上からリウスが襲った。土煙を上げながら前脚で踏み潰し、爪で引っ掻き、三つの頭が喰らいついて攻撃する。
だけど急にリウスは悲鳴のような咆哮をあげて動きが止まり、やがてゆっくりと後退した。
「リウスちゃん!?」
リウスの胸に大きな十字傷がついていた。そこから赤い血がごぷごぷと垂れ流れている。
「あ、ぐあぁ……。今、のはさすがにまず、い……」
土煙が晴れると白い少女がそう声をあげて出てきた。リウスの攻撃をもろに喰らったのか、体のあちこちに大きな傷がつき、首は右に折れ曲がり、左腕はぶらんと今にも引き千切れそうな感じで垂れ下がっている。それでもまだあたしに向かって足を伸ばしてくる。
あたしは鎌に魔力を纏わせ大きな黒い刃を作り出し、振りかぶって白い少女に向かって走る。
「いい加減、早く倒れろよ!」
あたしはもう、あたしじゃない何かに決められたあたしじゃない。あたしが決めたあたしが思うあたしだ。だから今のあたしを離さない。だから抗う。次元に、世界に。あたしを決める全てに、あたしは抗う!!
「はあああああああ!!」
あたしは白い少女に向かって切り付ける。瞬間、黒い刃が激しく鋭く蠢いて、宙に激しく飛び散りながら白い少女を切り刻んでいく。白い少女は体に走った大きな切り傷から白い飛沫をあげた。
そして次の瞬間、あたしは黒い魔力を爆発させる。全てを破壊し、塵すら残さないほど容赦なく滅する。間近にいたあたしは全てを吸い込んでしまう闇に染まった黒い爆風で肌や髪の毛が削がれるほどの衝撃を受け、後ろに飛ばされるように後退した。
やがて爆風がおさまるとそこにいた白い少女は跡形もなく消えていた。
「はあ、はあ……、は、あぁ……。倒した、のか?」
震える脚でなんとか立っていながらそう呟く。
「そのようですね……」
「よ、良かった……」
力が抜けてその場にへたり込む。まだ心臓がばくばくしていて手の震えも止まらない。けれど、倒した。倒したんだ。これであたしの思うあたしが持てるんだ。
「ミーアちゃん、大丈夫?」
座り込んでしまったあたしにひかりは右手を差し伸べてそう言った。
「うん、大丈夫」
あたしはそういってひかりの手を取って立ち上がった。そしてゆっくり呼吸をして二人の方を向いた。
「ひかり、リーベ、ありがとう」
あたしは自分でも驚くくらい穏やかにそう言った。
「あんなに酷いこと言ったのに、きっと今でも分かってくれてはないのに、あたしの気持ちを汲んでくれて。二人にとって化け物は、たくさんの人を目の前で殺してきた悪い奴らなのに」
ひかりの方に目を向けると、まだ解除されていない光の翼が眩しいくらいに輝いていた。
「……うん。正直に言うとミーアちゃんの気持ちは分からない。今でも目の前で殺されていった人のことを思い出すと化け物は滅ぼさなきゃって思う」
ひかりの翼があり続け、輝き続けているのはつまりそういうことなのだろう。
「でも、わたしがそう思うのと同じくらいミーアちゃんは化け物と戦いたくないんでしょ?わたし、自分の気持ちだけを押し通してミーアちゃん傷付けたくないよ」
「!?……ひかり」
ひかりの声は落ち着いているのに、その言葉にあたしは思わず息を呑んだ。
「だから、決めたの。例えこの時代の人たちの考えや思いに反してでも、わたしたちが納得できる別の方法を見つけようって」
「……ありがとう、ひかり。本当にありがとう」
また頬に熱い何かが流れた。
あたしのことを想って化け物と戦うことを止めるのは、ひかりたちにとっては手を穢す行為だ。あたしとひかりたちとではどうしようもない隔たりがある。化け物と呼ばれている人たちを殺すことがあたしの手を穢すように、倒すことを諦め戦いを止めることはひかりたちの手を穢す。それなのに二人はそれを犯してあたしに歩み寄ってくれているんだ。こんなに嬉しいことってないよ。
あたしは思わずひかりに抱き着いた。疲れ果てている体のどこにそんな力があるのかというほど強く抱きしめる。
「み、ミーアちゃん!?」
ひかりの少し華奢で可愛らしい腕や背筋がとても愛おしい。ああ、あたし、ひかりのことが本当の本当に好きなんだな……。
「あたし、ひかりのことが好きだよ」
あたしはひかりに抱き着く体をゆっくり離してそう伝えた。少し恥ずかしかったけど、まっすぐ目を見て。
「ふぇあ?……す、すき!?」
「うん、好きだよ。大好き」
ひかりに好きだと繰り返す。繰り返したいんだ。
体が熱くなるのを感じる。あたしの中からゆっくりと何かが湧き上がってくる感じがする。
「ありがとう、あたしのことをそんなに思っていてくれて。だから、これからもずっと友だちでいたい。ずっとずっと」
今後、化け物に対する考えや感情は今後もお互いに分かり合えるのかは分からない。それでも歩み寄ってくれたひかりの気持ちにあたしは応えたかった。
「うん、いいよ。わたしもミーアちゃんのことが大好き。だからわたしからも言わせて。ミーアちゃんとずっと友だちでいたい」
「うん、ずっと友だち」
ひとまず仲直りはできたと思う。
「良かったですね、ひかりさん。ミーアさんと仲直りができて」
ずっと黙っていたリーベが肩にリウスを掛けてそう声を掛けてきた。もしかしたらあたしたちのことを見守っていてくれたのかもしれない。
「うん、ありがとう、リーベちゃん」
「あたしからもありがとう。あの時、抱き締めてくれて」
「え……、いえ。私にはそうすることしかできませんでしたから」
「でも、凄く嬉しかった。だからリーベのことも大好き」
「え、私もですか!?」
あたしの言葉にリーベは顔を赤くして驚きを見せた。
「うん、あたしはひかりのこともリーベのことも大好きだ。だから二人とずっと友だちでいたい」
「わたしも!わたしもリーベちゃんのことが大好きだよ」
「あ……、その、いきなりお二人にそのようなことを言われると照れてしまいます……。私もひかりさんとミーアさんのことが大好きです。ですから、ずっと三人友だちでいましょう」
リーベはいつもの笑顔でそう言った。ひかりも笑顔だった。
ああ、嬉しい……。嬉しくて泣いちゃいそうだ。でも、嬉しいって思うなら二人と同じ笑顔がいいな。
「さて、お忘れかもしれませんがここは本来戦場の真っただ中です。続きは後にして、今は戻りましょう」
「うん」
「よし、それじゃあミーアちゃん、帰ろう。早く帰って三人で化け物と戦わない方法を見つけよ」
ひかりはまたあたしに右手を差し伸べてくれた。
「うん!」
ああ、また新しく欲しいものができた。化け物と呼ばれている人たちと戦わずにあたしたちが分かり合う。あの白い少女は無理にもほどがあると言っていた。でも、あたしはそう思わない。だってもう、あたしは決められたあたしじゃないから。だから、なんだってやってやる!
あたしはひかりの手を右手で取ろうとして、空振った。
「え……」
確かにあたしはひかりの手を取ろうとして、ひかりの手にあたしの手を重ねたはずなのに……。
見るとあたしの右手が光の塵になって消えていっていた。
「ミーアちゃん!?」
「そんな、どういうことです!?」
「分からない、どういうこと……!?」
右手から手首に、腕にかけてゆっくりと消えていく。
「あたし、消えちゃうの……?」
何がどうなって……?
「そんな!ダメだよそんなの」
「ダメって言ったって、どうすれば……」
ゆっくりと消えていく。右手だけでなく足も光の塵になって消え始めた。
なんでだろう?どうして消えるのかな?世界に抗ったからかな?
あたしは抗い抜いて、何にも定められていない、あたしの思うあたしを手に入れた。あたしの目的は半ば達成されたようなものなんだろう。でも、それでも消えるのは嫌だな。あたしは全然満ち足りてなんていない。これからもっとひかりとリーベのことが好きになることができるのにここで消えるなんて、そんなのごめんだ!
「ミーアさん、私の魔法具で……」
リーベがリウスに手をかけようとする。
「いいよ、たぶんリーベでもどうにもできないと思う」
「でも、それじゃあ、ミーアさんが……!」
「大丈夫だよ……。あたしは大丈夫……」
「大丈夫って……」
「ミーアちゃんどんどん消えていってるんだよ!大丈夫なわけ……」
リーベもひかりも不安をあらわにして焦燥に駆り立てられた表情をしている。
「あたしさ、ひかりとリーベのことが大好き。だけどこの先ずっと一緒に過ごせばもっと好きになれると思うんだ。あたしは二人のこともっと好きになりたい。だからまだここでは終わらない。また必ず戻って来るから」
「ミーアちゃん……」
「ミーアさん……」
ひかりは口元を歪めて、リーベは目に涙を浮かべて今にも泣きそうだった。
「どうしてそんな顔するのさ。もう会えないわけじゃないんだよ。あたしは絶対戻って来るから、ね?その時に必ず三人で化け物と戦わない方法を見つけるんだから。だから笑ってよ」
「だって、だって……」
ひかりが抱き付いてきた。体はまだ完全には消えてなくて、ひかりの抱き締めてくる感触や熱が伝わってきた。
「ミーアさんだって、泣いてるじゃないですか……」
リーベも抱き着いてきた。柔らかくて温かい。
「あ、れ……。あたし、泣いてるのか。どうしてかな。ごめんね。だけど約束する。あたしは絶対また戻って来るよ」
「絶対……、約束だよ」
ひかりは涙とほんのちょっと鼻水も流しながらあたしの顔を見てそう言った。
「やく、そくです……」
リーベは嗚咽交じりの声であたしの顔を見てそう言った。
「うん、約束。だから、待ってて」
あたしは今笑えているかな?分からない。もう、何も見えない……。
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