第三章 四節 開始

 空を見上げる。

 もしかしてこの上空を落ちてきたっていうのかい?そりゃ痛いわけだよ。しかも山の中だっていうのに、木の一本にも引っ掛からずに直接地面に激突ときたもんだ。おまけに結構地面硬いみたいだし。ただただ言いようがないほどに辛くて、意識が飛んでくれればどれだけ良かったか。

 なんてぶつくさと文句を言った、つもりだったのに……。

 どうして声が聞こえないんだろうね?ていうか、さっきから口を動かしている感覚すらないし。

 手で口を探ってみた。

 !?

 あれー、おかしいな。口が、ないのか?この感じは……。いや、口だけじゃなくて鼻も目も耳もない……?

 手に感じるのは、なんの凹凸もなく均一に広がった肌のさらさらとした感触だけだった。

 なんなんだいこれ……。……それに手もだ。

 私の手は、手の形をしているだけだった。通常であれば爪なり指紋なり掌線があるはずなのに今はそれがない。掌があり五本の指があるだけだった。そして何故か手は輝くような白色で塗り潰されていた。いや、手だけでなく全身だった。脚の形、腰の形、お腹の形、胸の形、肩の形。それ全てが淀みなく輝くような白一色だった。

 おかしいな……。確かに普段も肌は白いけれど、ここまでじゃない。蛍光灯じゃないんだからさ。まったく、不可解なことが多すぎるよ……。これじゃあ仕事もしにくいし……。

 私は空間に意識を浸透させた。

 ああ、これはいけないな。とてもいけないよ。急速に進んでいるね。今までにないほどだ。つまり私をいつもの姿に作り上げる時間すらないく、中途半端でもいいからとにかくなんとかしようって感じで送り込まれたのかな。いやはや、随分と強引だね。

もう一度空間に意識を浸透させる。

 久遠ミーア、か。他にもちらほら綻びはあるけど、主はこの子かな。

 ははっ。

 もちろん声には出ていない。けれど私の中で短い笑い声が響き、同時に今までにないほどの高揚を感じた。

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