第二章 四節 これから

 朝起きたらまずお風呂に入る。お気に入りのシャンプーで髪を洗い、乾かす。左の髪を三つ編みにして頭のてっぺんから右へ持っていってカチューシャみたいにする。そして鏡の前で

「うん!今日のわたしも可愛いぞ!」

 なんて最近読んだ漫画の真似をしてみる。

 うぅ、自分でやっておいて凄く恥ずかしいよ……。誰も見てないよね。

 チラリと辺りを見渡す。当たり前だけど誰もいない。

 まあ、そうだよね。ここわたしの部屋だし。誰かいたらホラーだよ。

 もう一度鏡を見る。

「よし!今日はミーアちゃんとお話しよう。昨日リーベちゃんに応援もしてもらったし大丈夫!」

 わたしはそう意気込んで部屋を出ると丁度左隣の部屋の扉も開いてミーアちゃんが出てきた。



「お、おはよう」

「おはよ……」

 そこから会話は進まない。

 朝ベッドから起き上がって、ひかりに話し掛けてみようと意気込んで身支度をしている時に隣の部屋から「うん!今日のわたしも可愛いぞ!」なんて可愛い声がいきなり聞こえたからびっくりして、その後部屋をでたら丁度ひかりも部屋を出るところだったらしく顔を合わせた。

「ひかり、あ、えと、……今日も可愛いね」

 うん、何を言っているんだ、あたしは。

「え、あ、ありがとう……。……もしかして部屋でのわたしの独り言聞こえてた?」

「ああ、割と。……ひかり、綺麗な声だから結構しっかりと聞こえた」

「あ、あれは、わたしじゃなくて!いやわたしなんだけど!最近読んだ漫画の真似してみただけで普段はやってないよ!鏡の前でポーズとって今日のわたしも可愛いぞとかやってないよ!!」

「あ、そうだったのか。……でも、その、……本当に可愛い、とは思うぞ」

 本当に何を言っているんだあたしは!?いや、確かにひかりは羨ましいって思うくらいに可愛いけど、何か違くないか!?

 どうやら不意打ちでひかりに出くわしたことと、緊張や恥ずかしさで想像以上にあたふたしているみたいだぞ。

「ふえあ!?……あ、ありがとう」

 顔を真っ赤にして照れるひかり。

「じゃあ、あたし、朝ごはんまだだから……」

「あ、ちょっと待って!」

 今までとは違う居たたまれなさでその場から去ろうとするとひかりに呼び止められる。

「朝ごはん、わたしもまだだから、……良かったら一緒にどうかな?」

「……あ、えっと……」

 何かを言おうとして、でも何を言えば良いのか分からず口がパクパクとコイのように開閉するだけだった。

「わたし、ミーアちゃんと仲良くなりたい、友だちになりたいんだ」

「!?」

『それにひかりさんはただただ純粋にミーアさんと仲良くしたいみたいですし』

 昨日リーベが言っていたことを思い出す。

「だから一緒に朝ごはん食べよ」

「……。うん」

 ひかりの柔らかくて、けれどまっすぐな誘いにまた顔を背けてしまう。けれど、ひかりが歩み寄ってくれたその距離をあたしも縮めたくてそう返事をした。

 あたしとひかりは食堂に移動した。好きなのをとって食べられるバイキング形式であたしはご飯と味噌汁、焼き魚と緑茶でひかりはフレンチトーストとサラダ、紅茶をお盆に乗せてテーブルについた。そしてどうしてあたしがひかりのことを避けていたのか聞かれたのだが……。

「そっか、それであたしのこと避けてたんだね」

「うん、ごめん。ひかりは悪くないから。あたしが勝手にあたしの苦手な人たちとひかりを重ねちゃってただけだから」

「ミーアちゃんの時代の人たちと似てるのか……。一体どんな人たちなんだろう?わたしと重ねちゃうくらいだからよっぽどわたしに似てるんだよね」

「よっぽどというか、あたしが勝手にそう思ってるだけだから」

「うーん、わたしがわらわら……。うっ、これはちょっと……」

 ひかりは渋いものを食べたみたいに顔を歪ませた。

「それはちょっと違うと思うけどね……」

「うーん、苦手な人たちと重ねちゃうってことは、やっぱりわたしのことも苦手、だよね?」

 恐る恐る、といった感じで聞かれる。

「そんなことは……」

「……あるんだね」

「ごめん……。でも!あたしもひかりと、仲良くなりたい……。だからこれから……」

 次の言葉に詰まってしまう。言い慣れない言葉に、いや、持ち慣れない想いにあたし自身が戸惑っている感じがする。

「うん、これからよろしくね、ミーアちゃん!」

 ひかりは初めて会った時と同じ笑顔で右手を差し出してきた。

「!?……うん、よろしく」

あたしは一瞬びっくりするも、ゆっくりとひかりの手を握った。

 きっとひかりは躊躇うあたしを察して、またひかりの方から距離を縮めようとしてくれたんだ。けれど、きっとこれからはあたしからも縮めていかなければならない。そんな今まで経験がないことに色々と不安もある。けれど、確かな嬉しさもあるのを感じる。

 口の端やらほっぺたやらが変に吊り上がったもんだから、妙な顔をしていないか少し心配だ。

「おや、早速仲良くなれましたか?」

 横からリーベの声がした。見るとリーベも朝ごはんをお盆に載せていた。

「あ、リーベちゃん。おはよう」

「おはようございます、ひかりさん。ミーアさんもおはようございます」

「うん、おはよう」

「それにしても私の予想よりも早くお二人は仲良くなられたのですね。少々驚きました」

「仲良く、なれたと言うか……」

「これからどんどん仲良くなるって感じかな?」

「そんな、感じ……」

 まだまだぎこちない。けれどひかりはあたしと仲良くなりたいと言ってくれた。そしてあたしも仲良く、なりたい。だからきっとこれからだ。

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