第24話 今更判明する破格のスキル

 恐らく、襲われていたのは数秒程度の時間だったんだろう。

 

 僕にとっては気の遠くなる程長く感じた激痛の時間は、部屋の奥から慌てたように駆け寄ってくるシーリアの足音で理解する。

 まさか、この騒ぎにのんびり時間を潰してやってくるような子ではない事は、一緒に過ごした二週間でわかっていたから。


「ライラちゃん! 一体何が……ケイマさん!?」


 既に血は止まっていたけど、顔や首筋に残った大量の血痕と、咳き込みながら起き上がろうとしていた僕の様子に驚いたらしく、シーリアが駆け寄って支えになってくれる。

 正直、痛みや体の疲れよりも精神的に疲弊していたから随分助かった。


「……畜生。殺りそこねた……」


 そんなやりとりをしていた僕たちの視線の先にいるライラが、そんな事を口しながら僕らと倒れている襲撃者の間に立つように後ずさって来る。

 よく見るとライラの両膝がガクガクと笑っているのが見て取れた。

 更に、ライラが手にしているマチェットナイフの長さが半分ほどになっており、さっきの攻撃で折れてしまったのだという事が判明する。


 ナイフ自体はこの部屋の効能ですぐに再生するだろうけど、問題はそこじゃなかった。


「……ナイフが折られたのか。もしかして、相手は見た目に反して軽傷って事?」


 ライラの呟きと現状を見て言った僕に対して、ライラは首を横に振る。


「いや、首は切った。切り落とすつもりが防がれて切り落とせなかったけど、それでも半分は切ったんだ。でも見ろよあれ」


 ライラの指さす先にいたのは首を切られて瀕死であるはずの襲撃者だが、一目見てライラの呟きの意味を理解する。


 さっきまであれほど出血していた血が止まり、首の傷が治りかけているのだ。


「……まさか……再生しているのか……?」

「くそっ! 想像以上の化け物だったらしい。あの早さで傷が治っちまうんじゃ、この部屋で殺り合う意味がねぇぞ」

「いや、こっちも死なないんだからメリットはあるだろ。それとも、今のうちに外に叩き出すか──」

「馬鹿っ!! 近づくなよっ!!」


 何とか立ち上がり、襲撃者に近寄ろうとする僕をライラは慌てたように後ろに突き飛ばすと、よろけた僕をシーリアが掴まえた。

 そう。文字通り捕まえられてしまった。後ろから僕の両腕ごとギュッと抱きついてくるその力は、今まで体験したことのない─それこそ骨が軋むほどに力強かった。


 それよりも再生能力か……。


 この部屋の加護を受けている僕達が再生能力を持っているのはわかるとしても、本来こんなに急激に傷が治るような種族なんているのだろうか?

 勿論、ここは異世界だしそういう種族もいるかもしれないというのはわかるのだけど、そんなオーバースペック持ちばかりの世界とか正直もう行きたくない。

 ここは、僕としてはこの部屋に入った瞬間、ハインツに一目惚れされた襲撃者が付属品認定されて再生能力を得たという説を押したいのだけど。


「馬鹿にするな。いくら俺様でもそこまで常識外れな事をするわけがねーだろ。ま、好みのタイプなのは認めるがな」


 認めるのかよ。認めちゃうのかよ。確かに綺麗な子だとは僕も思ったけど、その言葉は聞きたくなかった。


(まあ、短い時間とはいえお前とも意思疎通はそれなりにしてきてどんな奴かはわかったつもりだから一応信じるけどさ。で、今のあの子のステータスの内容とか聞いてもいい?)

「……お前、俺様の能力が相手を付属品化させないと発動しないって知ってたよな? 全く信用してないぢゃねぇか」


 好みのタイプ宣言を聞いた上で信用なんかできるわけないだろ。

 でも、今の反応で付属品化させていないらしい事は少しだけ信用する事にした。


(そうか。じゃあ改めて聞くけど、今のお前の能力でこの状況を改善できる方法ってある?)

「まあ、有るっちゃー有るけど」

(有るの!?)


 どこまで有能なんだよこいつの能力は!?

 まさか、今まで明かされていなかった第三の能力か!?


「違う。意思疎通の能力の一端に【リミット設定】ってのがある。こいつは付属品化した対象の能力を一定値以下に抑える事が出来る機能だ。例えばあの娘のステータスを獣人の姉貴の能力値以下に設定してやれば、少なくとも今よりも危険度は下がるだろう」


 すごいな【意思疎通】スキル。最早これだけで異世界無双とか出来ちゃうんじゃなかろうか。

 惜しむべきはこの能力を持っているのがこの部屋であるハインツであり、外に出られないという点だけど。


「まあ、女神様が直接与えてくれたスキルだからな。能力も破格なんだろうさ。で、どうする?」


 恐らく、襲撃者たる少女を“付属品化するか否か?”という意味だろう。

 最も、これまでの経緯と今の説明を聞いてしまっては、僕の取る行動なんて決まってしまっている。


(付属品化しよう。心情的にはなんかに引き込みたくはない相手だけど、僕らの身を守る為だ)

「わかったぜ。じゃあ早速…………げっ!」


 僕の返事を聞いて早速付属品化したのだろうが、その直後に聞こえてきたハインツの汚らしい困惑の声に思わずギョッとしてしまう。


(どうしたんだよ? 何か問題でもあったのか?)

「テメー今さりげなく俺様を罵りやがったな? いや、それはこの際どうでもいい。お前ら、その娘に襲われてよく生きてたな」


 ……何だと?


「今その娘のステータスを確認した。その娘は単純な能力値だけでもこの場にいる全員を相手にしたとしても瞬殺出来るだけの凶悪な力を持ってる。それからもう一つ」


 ハインツの報告に僕は思わず呆気にとられるが、それよりもその後に続く言葉に本気で言葉を失う事になる。


「その娘はスキル持ちだ。それも、俺様と同じ複数の【固有スキル】を含めてな」

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