第21話 樹海で目指すもの
視界を埋め尽くす木、藪、蔦、木、木、木、木…………。
見渡す限り植物や自然物満載の森の中を、ライラを先頭にして僕らは歩く。
ライラを先頭にしているのはハインツからライラの戦闘能力を聞いたから……というわけではなく、単純に進行の容易さにあった。
僕の目の前にいるライラは右手にマチェットナイフを握り、目の前を遮る蔦や藪。そして木の枝をひと振りの元に切り落としている。
正直、ボディビルダーの腕よりも太い木の枝をナイフのひと振りで切り飛ばしている様子は、見ているだけで驚異に感じた。
「それにしてもすげー切れ味だなぁ。俺こんなすげー武器使ったのは初めてだ」
「……うん。まあ、本来ならばそんな事が出来る道具じゃないんだけどね。それは」
そんな事が出来るのはお前だけだ。
思わすそんな事が口から出かかるけど、ライラの妹であるシーリアも僕の10倍の能力を持っているというし、ひょっとしたら可能かもしれない。
いや、一般的標準男性に比較しても貧弱な僕の10倍位じゃぶっとい枝を一度で切断とはいかないか。
そう考えると、ライラの力はどれほどなのかと頭が痛くなる。ハインツは恐竜とダニと表現していたけど、意外と的を得ているのかもしれない。
ともあれ、ズンズンと何の警戒心も無いように突き進むライラだが、勿論何の目的もなしに進んでいるわけではない。
彼女には一応「食べ物がある場所」と、「人間がいる場所」を嗅覚でも何でもいいから探してくれと頼んであるのだ。
それというのも、この密林に入ってからすぐにクマに似た獣と遭遇し、ライラが一刀の元にその首を切り飛ばしたのだが、どうやら本人はその獣が近づいて来ることを知っていたらしい。
どうもライラ本人としては食料=獣肉だったようで、狩った熊に似た獣をテキパキと血抜きから解体までし始めた所でその事を聞いた僕は、とりあえず植物の食料を探して欲しい事と、獣の類は出来るだけ避けて欲しいと頼んだのだ。
それから、獣には遭遇していないので、ちゃんと此方の頼みを聞いてくれたのだろう。
ちなみに、解体した獣は必要最低限の部分だけ切り分け、一度部屋に戻って置いてきた。
その時のシーリアの笑顔が少しだけ怖かったのは内緒だ。
「お、またあったぞ。多分食える」
「その多分ってセリフが不安だけど、わかった」
一度足を止め、ライラがナイフで指し示した先にぶら下がっていた梨に似た果実を持っていた鉈で3つほどもぐ。
見た目は色といい形といい本当に梨に近い。しかし、その強度はとても梨とは言えない。
見た目は梨だけど実際にはココナッツのような構造なのかは知らないけど、鉈で軽く小突いてみた感じでは石のような感触と硬い音が跳ね返ってきたので、僕が処理することは不可能だろう。
当然、この場で食そうとも思わない。本当に食べられるかわからないので、食べるのはすぐに回復することの出来る部屋に戻ってからだ。
僕がこの密林の周りで定期的に行っていた毒キノコ判別法である。
「後は……お?」
「? どうした? 他に何か見つけたのか?」
「水の音が聞こえる。後この匂いは……人? いや、違うかな……。何かよくわかんねぇ匂いがする」
頭の耳をピクピクと動かしながら、鼻をクンカクンカさせるライラ。
その様子は喜び半分、不信半分といった所で、どうにも行こうかどうしようか迷っている様子だった。
「水は特に不自由してないけど、水場の生物は興味深いな。魚とかいるかもしれない」
「魚か。いればスシってのも食えるのか?」
「素人が簡単に握れると思うなよ。まあ、似たようなのは作れるかもしれないけど……」
そもそも川魚だ。僕的には塩で焼いて食いたい。
「でも、それよりも気になるのは人? の匂いか。危険かどうかはわからないか?」
「わかるわけないだろ? それともケイマは匂いでそいつがどういう奴かがわかるのか?」
「まあ、わからないねぇ……。お前が僕の部屋に来たばかりの時に異様に臭かったのは覚えてるけど」
「…………」
僕の言葉にライラが無言でナイフを僕に向けてくる。
何だその目は! まるで僕の事を獲物か何かを見るような視線を向けるんじゃない!!
「待て。今はこんな事をしている場合ではない。それよりもこの先にいる人? をどうするかだろう?」
「……今度同じ事言ったら噛むからな」
「肝に銘じよう」
僕の言葉にやや不審げな瞳を向けたものの、どうやら見逃してくれるらしい。
ライラは再び先ほどと同じ方角に目を向けると、再度尋ねてくる。
「で、どうすんの? 行くのか? 行かないのか?」
「そうだね……。本当ならば危険は避けるべきだけど、元々ここでの目的の一つに知的生命体との接触があったのは事実だ。匂いが違うのは僕たちやライラ達との体の構造の違いとういうのも十分考えられるからね」
そこまで口にして僕は一歩を踏み出す。
ライラの横に立った僕を上目遣いに見つめる彼女に僕は頷く。
「僕のいた世界には『虎穴に入らずんば虎児を得ず』という言葉があってね。ここでリスクを恐れる愚策は打てないな」
そこで一度区切ってライラの頭に右手を置いて。
「行こう」
「わかった」
僕の言葉にライラはコクンと頷くと、僕の手をやんわりと払って歩き出す。
僕はその後ろを付いて歩きながら、腰からホルスターに入れて下げていた改造エアガンのグリップを握り締めた。
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