第二章 異世界で生活する為の近道はヒモになる事である
第19話 収入の確保は一刻も早く必要だ
「……金がないんだ……」
『んな事はわかってるんだよ。けど約束だろ? こっちだってある程度は身銭切ってんだから今更そんなこと言われても困るんだよ』
スマホ越しの健一の声を聞きながら、僕はパソコンのディスプレイに表示されたネットバンクの残高表示をみて盛大に溜息をついた。
本来であれば切り詰めれば2ヶ月は持つはずだった貯金が、あれよあれよと減っていき、気がついたら1ヶ月経たずに資金が枯渇しそうになっているのだから健一が文句を言いたくなるのも理解できる。
というか、僕が同じ立場でも文句を言うだろう。
「とにかく、収入手段は何としてでも見つけるから、最悪の場合はクレジットカードを使って欲しい。電話が終わったらカードは宅配ボックスに入れておくよ」
『……カードって。お前本当に大丈夫か? はっきり言って問題の先送りにしか聞こえねぇぞ?』
「わかってる。でも、現状ではそうするしかないでしょ」
健一に言われずともこれが問題の先送りだという事は理解していた。
でも、カード決済であれば実際の請求は2ヶ月後だ。
その間に収入手段を確立すれば何とかなる……はずだ。
『そもそも、どうして急にそんなに出費が増えたんだよ?』
「……それは……」
僕は口ごもると視線をまず部屋の中央に向けて、その後奥のキッチンに向ける。
部屋の中央では男の子用の子供服を来たライラがテレビを見ながら尻尾を振っており、奥のキッチンではエプロン姿のシーリアがちょこまかと動き回って料理をしていた。
「実は……僕と同じ境遇の子達が増えちゃって……その子達に必要最低限の物を買い与えてたら一気にお金が無くなった……」
『……ああ。だから宅配ボックスの中に女の子の服と男の子の服かっこ女の子の下着込みが入ってたのか。俺はてっきりお前が新たな趣味に目覚めたのかと思ったぞ』
「ちょっと。まさか勝手に宅配ボックスの中覗いてるの? プライバシーとかそういうの考えてくれませんかね」
『お前から送られてくる物がそもそも宅配ボックス経由じゃねーかよ。そりゃ毎日見るに決まってんだろ? 寧ろ、それを考慮してなかったお前の考えの方が恐ろしいわ』
健一の指摘に僕は「ぐぬぬ……」と唸るが、特に間違った事を言われていないだけに言い返せないのがショックだ。
しかし、そんな僕の内情はどうでもいいとばかりに健一は改めて僕の現状を心配してくる。
『それにしても新しい被害者か……。確か軟禁されてるんだよな? 家の外には出られるけど、帰れそうにないんだっけ?』
「うん。そんな感じ」
電話越しの健一の声に僕は頷く。
本来であればこの部屋は四つの世界と隣接している筈で、現在行き来可能な樹海と荒野以外の世界にもいけるはずなのだけど、部屋中のドアや窓の類を開けまくってみたけれど、樹海と荒野以外の世界への入口を見つける事が出来なかったのだ。
「ともかく、何とかして売れるものは探してみるから、もう少し待っていて欲しいんだ。もしも、お金が無くなったら、最悪その部屋引き払ってもいいからさ」
『……そうか。出来ればそうならないように祈ってるけど、無理だけはするなよ?』
「うん。ありがとう。じゃあまた」
僕は電話を切ると机に突っ伏す。
なんだが、借金取りに支払いを待ってもらっているダメ男になった気分だった。
「なあなあケイマ。もうデンワは終わったのか? 俺次はこれ食ってみてぇんだけど」
疲れ果て、机に頬を付けて突っ伏している僕に話しかけてきたのはテレビ画面を指差しているライラだった。
何となく画面に目を向けていると、何やら回転寿司の映像が流れていた。
「……お前は本当に食いっけばかりだね。ちなみに僕の国の言葉に“働かざるもの食うべからず”って言葉があってね」
「何言ってんのかわかんねぇよ。それよりも、これ食わせてくれるのか食わせてくれないのかどっちなんだよ?」
「ダメに決まっるだろ自宅警備猫が」
「何だと!? 意味はわかんねぇけど馬鹿にされてるってのはわかった!!」
「ほう!! その程度の知能はあるようでなによりですね!! 悔しかったら働いてみせろよ食っちゃ猫!」
「仕事ねぇじゃん!!」
「あるわ! びっくりするくらいあるわ! 少なくとも家事が!!」
「家事はシーリアの仕事だからな!! 俺はあいつの為に仕事を譲ってやってるんだ!」
「吃驚するくらいクズの発想じゃないか! 大体そう言う事を言ってる奴に限って何もしないんだけどね!! ニートの常套句だよね!!」
「ふかーーーーーーっ!!」
「おっ!! やるか!?」
僕は飛びかかってきたライラを受け止めると、もつれ合うようにして床に転がる。
その際椅子が倒れたりテーブルが倒れたりしていたが、ここでそんな事を気にしていたらライラにマウントを取られてしまう。
流石にこんな子供に負けるのも嫌なので、噛み付こうとしているライラの口を手でふさぎ、袖の中に手を突っ込んで脇の下をくすぐる。
するとライラが涙目になって大騒ぎして暴れるけど、またの間に膝を突っ込み、体全体でライラの体を押さえつけて暴れているのを防ぐ。
ふふ。毎日喧嘩しているのは伊達ではなく、ライラは大抵それで動けなくなってしまう。
しかし──。
「……あの。食事の前に暴れないで下さいって何度言ったらわかってくれるんですか? ホコリが立つし……お部屋のお片づけだっていつも私がしてるんですよ……?」
「「どーもすみません」」
エプロンで両手を拭きながら眉を寄せたシーリアに怒られ、僕とライラは電光石火の速さで土下座する。
偉そうな事を言っている癖に仕事をしていないという点では僕もライラと同じなので逆らうことは出来ないのだ。
ちなみに。
2人がこの部屋にやってきてもうすぐ二週間。
これがここ最近の僕達の日常だった。
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