第14話 子供の言葉は時に刃に勝る
さて、部屋──ハインツとの約束を済ませた俺は未だにベッドで横になっている獣人の少女に向けて歩く。
ハインツの話が本当ならもうとっくに怪我なり病気なり治っていてもいいはずなのだけど、未だに動いていない少女の様子に何だか嫌な予感がする。
すると、僕がベッドに向かって歩いていると、その途中のテーブルでパンを口に詰め込んでいた獣人の子供が顔を上げた。
耳をピョコンと立たせると、クリッとした瞳をこちらに向けてくる。
まだ口の中にパンが入っているらしく暫く口をモゴモゴさせていたけど、やがて大きく喉を鳴らして飲み込むと、おもむろに口を開いた。
「何だかやけにでっかい独り言を喋るオッサンだなぁ。ひょっとして危ない奴についてきちゃったのかな」
「──っ!! な、なんだってー!?」
コイツは今何と言ったのか?
僕は予想もしていなかった声に驚いて、ベッドに向かっていた足を急遽子供の方に向けなおすと、その両肩をがっしりと掴んだ。
「おい、君! 今なんて言った!? もう一回言ってみろ!!」
「ええ? だから、危ない奴だなって……」
「違う! そうじゃない! それじゃあない!!」
僕は獣人の子供の肩を前後に激しく揺する。
この子は何も分かっていない。
この状況がどれほど大変な事なのかという事を。
「この僕のどこを見たらおっさんに見えるんだ!? どう見てもお兄さんでしょ!?」
「は? どっからどう見てもおっさんじゃんか」
「ちっがぁぁぁうっ!!」
僕は頭を抱えるとそのままブリッジをするように仰け反った。
一体彼は何を言っているのだろうか。
僕はまだ21歳だ。誰に聞いた所で若者で通る年齢のはずだ!
「気持ち悪いなぁ……。やっぱり危ない奴だ」
「ヤメロ! いや、100歩譲って危険人物発言は飲み込もう。認めはしないけどそういう考えもあると認めよう。だけど!! だけどおっさんはダメだ!! それだけは僕の心にダメージが通り過ぎる!!」
「えー? だっておっさん歳いくつよ?」
「21歳だよ!! ほら! 若いだろう!?」
「いや、俺の倍生きてたら十分おっさんだよ」
「のおおおおおおおおおおう!!」
床に転がり、絶望の声を漏らす僕。
ダメだ。
ただの子供の戯言だとわかっているけど、相手が子供だからこそ強引に主張を通すことも難しい。
って言うか、そこはそう思っても口に出さないでしょ!? 普通。
まったく、どうして子供っていうのはこう思った事をすぐに口に出すのだろう?
もう少しこう、オブラートに包むことを覚えて欲しい。
いや、待てよ。
「そういや、いつの間にか言葉が通じるようになってるな」
「ん? あれ? そう言えば、おっさんやっと普通の言葉喋る気になったのか」
「おい。何だその普通の言葉ってのは。その言い方だと今まで僕が奇怪な声を発していたみたいじゃないか」
「みたい、じゃなくて実際に奇っ怪な声出してただろ。キョエーとかプギャーとかニチャアとか。正直、飯くれなかったら付いていかないくらいヤバイ奴だったから」
「なにそれ!? 日本語って異世界だとそんな風に聞こえるの!?」
びっくりだ。
というか、恐ろしすぎる。
これは、新たな住人に会った時には僕はあまり口を開かない方が良さそうだ。
「それよりも、そろそろそのおっさんてのやめてくれない? そろそろ、僕の心のキャパシティが崩壊寸前なんだけど」
「うーん。そう言われてもなぁ……。ほら、俺って嘘やごまかしってやつ? そういうの嫌いな奴だから」
「そういう事を自信たっぷりに話す10歳児。正直無いと思います」
「おい。馬鹿にすんなよ。俺はもう14歳だ。立派な大人だからな」
そうか。14歳か。それなら確かに多少は物事の判断も……。
って。
「おい!! さっきは僕の半分の年齢だって言ってたじゃないか!! いきなり嘘ついてるじゃん!!」
「シツレイな奴だな。誰も半分の年齢なんて言ってないだろ。おっさんが俺の倍生きてるって言っただけだ」
「だから! 君の倍の年齢だったら28歳でしょ!? 僕は21歳!! 7歳も違うじゃないか!!」
「7歳なんてちょっとの違いじゃないか」
「4歳差に文句を言っていたやつに言われとうないわ!!」
僕は体を起き上がらせると、少年に覆いかぶさるようにして文句を言う。
そんな俺に対して、少年は暫くジッと僕の目を覗き込んでいたけれど、しばらくして諦めたように深い息を吐いた。
何だよ。その「しょうがねぇな」ってため息は。君本当に14歳?
「じゃあ、なんて呼べばいいんだよ? 悪いけど「兄ちゃん」とは呼べねぇぞ?」
「せめて名前で呼んでよ。それだったら何の違和感もない」
どうやら目の前の少年は相当に頑固な性格らしい。
ただ、そこまで考えてここまで自己紹介すらしていないことを思い出した。
そう考えると、これは丁度良い機会だったのだろう。
「ちなみに僕の名前は木佐貫桂馬っていうんだ。そうだね、呼ぶときはキサヌキでもケイマでも好きなように呼べばいい。あと、出来れば君達の名前も教えてくれると嬉しいね」
僕の言葉に少年は少しだけ考えた素振りを見せた後、「じゃ、ケイマで」とあっさり答えると、ベッドに指差して僕の問いに答えてくれた。
「俺の名前はライラ。で、あっちで寝てるのがシーリアだ。お前変な奴だけど、飯食わしてくれたから一応お礼は言っとくよ。ありがとな。ケイマ」
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