第13話 部屋は日本男児では無いらしい

「そう言えば、さっきから俺様の事を部屋って呼んでやがるが、もっとかっこいい名前はないのか」


 さて、早速獣人の子達と話でもしようかな。と、思ったところで、部屋がとんでもなくどうでもいい事を言ってきた。

 何だよ名前って。

 たかが部屋に名前が必要なの?


「何だよ名前って。たかが部屋に名前が必要なの?」

「てめぇぶっ殺すぞ」


 やばい。声に出ていたらしい。

 明らかに不機嫌そうなというよりも完全にヤクザ顔負けのドスの効いた声で恫喝してくる部屋に咳払いしつつごまかす。


「ごほん。まあ、冗談はこれくらいにして、名前だったらあるじゃないか。クリアハイツ105号練。確か、女神様にもそう呼ばれてたよね?」

「それは俺の名前じゃねぇ! いいか、よく聞けよクソ野郎。お前が俺を呼ぶときに使う“部屋”は、てめえを呼ぶ時に使うと“人間”。“クリアハイツ105号練”は“日本人”って呼ばれるのと同義だ! こうして人格を持ち、人類を超越した俺様に名前が無いとかありえねえだろうが!!」


 うわこいつめんどくせっ!

 そもそも、コイツこそ僕の名前を呼んだ事が無い件について。


「ふんっ! どうして俺様が下等な人間の名前など呼ばなけれりゃならねんだ? テメエ何かクソ野郎で十分だ」

「おいちょっと待て。今どうして僕の心の声に応えたんだ? 僕今回は声に出してないよね? ひょっとして君エスパーかなんか?」


 いや、女神様にスキルとやらを貰った時点である意味エスパーかもしれないけど。

 その心の声にすら反応するように、部屋は得意げな声で暴露してきた。


「ふん。俺様の【意思疎通】スキルを舐めるなよ。流石に全ては無理だが、強く心に思ったものにかんしては、ある程度理解することが可能なんだよっ!」


 なんだと!? と、言う事は……。


「テメー! 今までも僕の心の声を聞いてほくそ笑んでやがったな!!」

「ああそうさ!! まさか、俺様に寄生している自称家主(笑)がまさかの変態だったとはな!! まさか生まれてこの方変態に変態呼ばわりされるとは思わなかったぜ!!」

「誰が変態だ!? 少なくとも、少女を視線で汚す奴に変態だなんだと言われたくないわ!!」

「俺様のは健全な目の保養だろうが!! こっちこそ幼女を部屋に連れ込んで息を荒げてベッドに連れてった奴に言われたくないわ!!」

「人命救助でしょ!? 俺はお前みたいに見た目で選別とかしてないから!」

「あそこおっ立ててよく言うぜ!! 僕幼女見てたら元気が出ちゃったの~ってか!? キモイわ!! 同じ空気吸っていたくねえんだけど!!」

「違うからね!? これはそう……朝立ちだから!!」

「起きてから何時間経ってんだよ!? その言い訳が既にキモいわ!!」

「うるさいな!! やましい気持ちなんかありません!! 男には意図せずに立ち上がってしまう時があるんだ!! 全く無意識にね!?」

「つまり、お前は無意識に幼女を求める変態野郎ってことだな!?」


 くっそーこの部屋本当にムカつくんだけど!!

 ああ言えばこう言う。まるでガキだ。

 いや、そう言えばコイツは自我が生まれてから大して立っていないからガキであるのは間違いないのか。


「……ともかく、これ以上不毛な言い争いはやめよう。今の議題はお前の名前だろ?」

「お? 逃げたか? 自分の特殊性癖を暴露されたからって逃げるのは男らしくねぇぜ?」

「逃げてないから! 今はそんなくだらない事よりも優先するべき事があるんだよ!!」

「おっと、そうだったな。確かに今からポイント稼いでおけばお前の望みも叶うってもんだな」


 くそう。

 無視だ無視。ここで反応したらいつまでたっても僕が変態だという事が奴の攻撃材料になってしまう。

 こういう場合はひたすら無視して興味をなくすのが最も賢いやり方だ。

 決して、僕がロリコンだからということではない。断じて。


「兎に角名前だろ。名前。僕的には部屋太郎とか、部屋助とかこう、日本男児的な名前を押したいんだけど」

「どこが日本男児だよ!? どう考えてもメンドクセーから適当に決めるか。って考えたペットの名前にしか聞こえねぇぞ!?」

「え? 日本的な名前はお嫌いですか? じゃあ、洋風にルームとかいいんじゃね?」

「部屋から離れろよ! もっとこう……いろいろあるだろ? グラン・ヴィクトリアとかバジリスクとかよー」

「お前は厨二病患者かい」


 どうも部屋は僕が考えたバリバリの日本風の名前がお嫌いらしい。

 候補として上げてきたのも横文字だし、どうにもこの部屋は日本的な情緒は持っていないようだ。


「うーん。そう言えば、女神も君の事は部屋名で呼んでたよね? 君的には「おい日本人」って呼ばれているようなものかもしれないけど、あっちがそれで認識している以上、それに近い名前にしたほうが混乱が少ないと思うんだよね」

「……ぬ。それは……」


 どうやら、散々上から目線で喋っていた部屋も、女神には強くは出られないらしい。

 言葉を詰まらせ悩んだように感じる。


 そこで、僕は女神が口にしていた部屋名を改めて口にした。


「クリアハイツ105号練か……。こうなってくると、愛称だってことにして、クリアかハイツ……うーん、ハインツ……かな。このあたりにしといたら?」


 僕の提案に部屋はしばらく唸っていたようだが、しばらくしてようやく観念したのか、不貞腐れたような声が聞こえてきた。


「その三つからなら……ハインツ……がましか。仕方ないからそれで我慢してやる」

「そう。じゃあ、これからよろしくねハインツ」


 僕は部屋──ハインツにそう告げると、ようやくベッドに横になった獣人の少女に足を向ける。

 何でこんなくだらない事でこんなに時間を取らされたのかまったくもって謎だった。

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