第11話 とりあえず意思疎通できないと始まらない

 見渡す限りの荒野に降り注ぐ太陽は、夜が明けても貧血気味で足元が覚束無い僕の体力を容赦なく奪う。

 恐らく捻挫しているであろう右足の痛みも自己主張を激しくしているため、更に進行速度を遅くする原因となっていた。


「…………」


 そんな中、僕の隣を黙って歩いている猫耳の子供。

 

 一人は昨晩僕に噛み付いたワイルドな子で、ややウェーブのかかった青いショートヘアーの中性的な容姿の猫人である。

 いや、実際にはどんな種族かは分からないが、頭に猫の耳とお尻に尻尾を生やしている以外には僕ら地球人とそれほど変わらないように見えるので、所謂獣人というやつなのだろうかと思わなくもない。


 最も、体にはボロボロの服とも言えないようなボロ布をまとっているため、実際に体がどうなっているのかはわからない。

 ひょっとしたら、服の下は恐ろしく毛深いのかもしれないけど、今見る限りでは耳と尻尾のアクセサリーを付けた小学生だ。


 見た目的には小学生の高学年くらい。十代前半くらいの顔立ちだ。

 男の子と言われればそうだろうなとも思うし、女の子と言われてもよく見ればそうかもしれないと納得出来る微妙な顔立ちをしているが、これも顔が泥だらけなので判別材料としては薄いだろう。

 

 そして、その子の背中にはもう一人同じような獣耳と尻尾を持った少女が背負われていた。

 こちらははっきり女の子とわかる顔立ちと格好をしており、薄い水色の髪はお尻に届くほどに長い。

 やはり状態はあまり良くはなく、髪も体もボロボロだったが、この子の一番問題だった所は意識が無かった事だ。


 とりあえず軽く見てみた所、呼吸はしているし心臓も動いているから生きてはいるのだろう。

 しかし、寝ているよりはもっと重大な……何かの病気のような印象を強く受けた。


 見た目的には十歳に届くか届かないかという感じだろう。少なくとも、背負っている子よりは年下だと思う。

 非常に衰弱しており、ワイルドキャットと僕は昨日の夜と、今朝出発する前に身振り手振りでコミュニケーションを試みたのだが、見事に失敗に終わった。


 余りにも伝わらないお互いの主張に、最後はお互い落胆の吐息を吐き出して、朝食を取った後に帰宅の途についた次第だった。

 ちなみに、朝食を取ったといったが、朝食を取ったのはもっぱら猫耳君のみである。

 どうやら随分とお腹を空かしていたようで、昨夜と今朝とで僕が持ってきていた携帯食料は全て猫耳君のお腹の中に消えてしまった。

 なんとか水分だけは確保したが、ほっといたら全て腹に収めてしまっただろう。


「はあ、そろそろつくけどちょっと一息入れようか」

「?」


 当然言葉は通じないのだけど、僕が足を止めたので猫耳君も合わせて足を止めると見上げてくる。

 今日はここに来るまで止まるたびに休憩していたから、また休憩を取ると思っているのだろう。


 見上げたついでに「あーん」と口を開けてきたので、そこに慎重にペットボトルを傾けてスポーツドリンクを注いでやる。

 猫耳君は少女を背負っている以上両手が使えないのでしょうがないと割り切るしかなかった。


「それにしても、見た目はコスプレした小学生だけど、所々猫の特徴があるんだよね」


 目立つところでは当然耳と尻尾だが、結構目立つ部分で瞳がある。

 昨晩テントの中で食事を与えながらジェスチャーで意思疎通を試していた時に見た猫耳君の瞳は大きな黒いものだったが、今では大部分を黄色の部分に覆われ、黒い瞳は縦に細長く絞られている。

 所謂キャットアイというやつだ。


「とりあえず、出来るだけ急いで家に戻って、猫耳少女の病気と、僕の首と足首を直してもらわないとな……。そう言えば、あの部屋で傷を治す為にはあの部屋の付属品になる必要があるんだよね。外から連れてきたこの子達は果たして付属品になるのだろうか?」


 僕はもっとスポーツドリンクくれとでも言うようにまとわりついてくる猫耳君を右手で引き剥がすと、そろそろ見えて来るであろう自宅の方角に目を向ける。


「そうなると、あの性格悪そうな部屋に交渉するしかないのか? アレと交渉するとか嫌な予感がビンビン来るんだけど、でも、なんとか付属品にしてもらわないと、そもそも会話が出来ないからなぁ……」


 背負ったリュックを「ヨイショ」と背中で位置を調整して足を踏み出す僕の歩調に合わせるように隣を歩く猫耳君の頭に目を向けながら、憂鬱な気分になってくる。


「……生活費を稼ぐ手段を探しに探索していたはずなのに、余計な出費を増やしただけのような気がする」


 最も、あの場面でこの二人を見捨てていたらこの後罪悪感で荒野の世界にはこれなくなったのかもしれないけれど。

 

 僕は痛みが増してくる首と足首。そして、水分と食料が空っぽになって軽くなってしまったリュックに今後の不安を詰めながらも、眠ったままの少女を助ける為に家までの道を出来る限り急いで戻るしかなった。


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