第4話 今は出来る事を探していこう

 玄関から外に出て酷い目にあったと言う事から、僕は窓の外に出て荒野に出ようという考えを頭の中から消し去った。

 既に足は完治して痛みも感じないといっても、部屋に入らなければ怪我が治らないこと、つまり、部屋に逃げ込む前に殺されてしまえばあっさり死んでしまう事がわかったからだ。


 それならば、外に出る前にこの部屋の中で何が出来るか考える方が建設的だ。

 何しろ、この部屋は神様から三つもすごい能力をもらった最強の部屋らしいのだから。

 ……まあ、この部屋が素直に力を貸してくれるかどうか疑問ではあるけど。


 しかしながら、僕も何も全てを部屋の能力に頼ろうとしているわけじゃない。

 少なくとも、そう考えるだけの理由があるのだ。


「さっきまではパニクってて気がつかなかったけど、この部屋普通に電気が使えるんだよね。多分、殆どのライフラインが使えるんじゃないかな?」


 考えを出来るだけ客観的にまとめる為にあえて口にしながら部屋を歩き、電気のスイッチを入れて、水を出し、ガスをつける。

 結論から言えば、全て通常通りに使う事が出来た。


「ふむ……。携帯はどうかな?」


 僕はテーブルに放り出していたスマホを手に取ると、スイッチを入れる。

 画面を確かめてみると、バッチリ電波がマックスで入っていた。


「……これはひょっとするとひょっとするなぁ……」


 実はさっき野犬もどきから逃げた時に感じていた事がある。

 あの時僕は部屋の中に逃げ込んだが、野犬もどきは入ってくることが出来なかった。

 それはつまり、あの密林の世界と、この部屋の“世界軸”が違うのではないか? という事だ。


 女神はこの部屋を4つの世界の狭間と呼んだ。

 でも、この部屋に隕石を落とした神の人数は3人。

 そして、この部屋が貰ったスキルの数も3つだ。


 なら、の世界の狭間であるというこの場所は、3人の神以外の管轄するもう1つの世界があるのではないだろうか?

 ひょっとしたらそれが元の世界かも知れないのだ。


「これは元の世界に帰れるかもしれないな」


 僕はスマホを操作すると、その中で一番着信が多い人物に電話をかけてみる。

 かけた後にスマホに耳を当てるとしっかりとした接続音が聞こえてきた。

 決して「おかけになった電話番号は~~」等という電子音は聞こえてこない。


 そして、遂に接続音が唐突に切れて、よく耳にしているはずなのにやたら懐かしく感じる友人の声が聞こえてきた。


『へーい。佐々木でーす。どうした桂馬。なんか用か?」

「うおおおっ! 健一ぃ!! 会いたかった! もとい! 声が聞けて嬉しいよ!」

『キモッ!! おい。マジで止めろ。男にんなこと言われても気持ち悪いだけだ。うおっ! マジで鳥肌立ってやがる!』

「そんな事はどうでもいいんだよ!!」

『いいわけあるかっ! 俺にそっちの趣味はねぇ!!」


 あまりの嬉しさにテンションマックスの僕に対して、友人である佐々木健一は酷い言葉を投げつけてくる。

 こっちは今とんでもない状況でやっと繋がった現実の糸を見つけて喜んでいるというのに、友達がいのないやつだ。


「僕にだってそんな趣味はないさ。けど、今の僕の心境を言葉として表したならあれしかなかったってだけで」

『は? 意味わかんねーんだけど』

「うん。僕にもわからない。でも、わからないなりに確認したい事があってね。それを頼みたくて健一に電話をしたんだよ」

『何だよ? 確認したいことって?』


 健一の返答に僕は笑う。

 この人のいい友人は何だかんだ言ってもいつも僕のお願いを聞いてくれるとても良い奴なのだ。

 それが電話の声でいつもの「頼みを聞いてくれる声」だと確信して、台所に歩きながら通話を続ける。


「まずは一点。今朝……なのかな? 時間はちょっとわからないけど、ここ最近隕石か流れ星の話がなかったかい?」

『お前また変な話題を出してくるなー。お前も電話してくるほど暇ならネットニュースかテレビでも見れ。まあ、確かに今日の昼頃に俺らの街のどこかに隕石が落ちたのかもしれないって報道はあったぜ』


 ビンゴッと思いつつ、僕は寝室に戻ってテレビをつける。

 リモコンの電源ボタンを押すと、ピッという音と共に日本のニュース番組が映された。

 どうやら、この空間が日本と繋がっている説は信憑性が高そうだ。

 ついでにパソコンも起動してみたけど、バッチリネットに繋がった。


「“空に火の玉。隕石落下か!? しかし、落下の痕跡はなし”……ね」

『ああ。それそれ。なんでも、空に火の玉が三つ現れて最初隕石じゃないかって話になったみたいだけど、落下痕がなくて、結局途中で燃え尽きたんじゃないかって話になってたかな? 特に興味がなかったからうろ覚えですまんな』

「自分の街に落ちたかもしれないのに興味が無いって……」

『しょうがないだろ? 実際に俺んちに落ちたならともかく、何処にも落なかった隕石の話なんかいつまでも引きずるかよ』

「まあ、確かにそうか」

『そうそう。だから俺は悪くねぇ』


 何が悪くないのかは分からないが、何やら尊大に言い切る健一の言葉を反芻しながら、僕は現状を考える。


 報道では隕石は落なかった、となったようだが、実際には隕石は落下して僕に直撃している。

 そして、恐らくそれで僕は大怪我を負ったか死んだかしたはずなのだ。

 それなのに、“落下痕は無い”という報道。

 そして、日本と何らかの形で繋がっているだろうこの部屋の状態と、実際に別の世界と繋がってしまっているこの部屋の現状。

 

 それを踏まえた上で健一にはやって欲しい事があったのだ。


「うんうん。確かに健一は悪くないね。そんな偉大な健一にひとつお願いがあるんだけど」

『何だよ? 気持ちわりいなぁ……』

「失礼だな。別に気持ち悪くないだろう。僕はこれから非常に大切な話を一番親しい友人であろう君にしたいというだけなのに」

「……やっぱり気持ちわりいんだけど。まあ、いいや。で、頼みってなんだよ?」


 健一の言葉に僕は内心憤慨しながらも話を続ける。

 ここで健一の心象を良くしておかないとこれからの活動に支障をきたすと思ったからだ。


「これから僕の家に遊びに来てくれないかい? その時にゼヒもう一度電話を掛けてきてほしい」


 

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