第23話

会議室に入ると、教授は大きな楕円形のテーブルにつくよう身振りで示した。テーブルには大きなスクリーンがついている。教授はこの部屋の機能をデモンストレーションした。教授がテーブルにつくと、それがスイッチとなり、床から棒のようなものが現れ、椅子の形にトランスフォームした。教授はゆったりと腰かけた。その他のメンバーも同じ方法で床から椅子を出し、席についた。

「これはクセになりそうだな」ターボが椅子に座り、テーブルの上に足をのせながら、にやりとした。

リュウの場合は、車いすが自動的に移動し、向きを調整しながらターボの隣に収まった。

「君はお父さんにそっくりだね」ペンスキー教授は眼鏡をかけ直した。そして、テーブルを挟んで反対側からリュウの顔をまじまじと見つめた。「コホン」 教授が咳払いをした。「まだ正式に自己紹介していなかったね。私の名前は、ヤコブ・ペンスキー。〈レジスタンス〉の科学者だ。そして、君のご両親からあの手紙を託された」

「教授は僕の両親を知っているんですね?」待ちきれずに、リュウがたずねた。身体に痛みが走ったが、教授の顔がもっとよく見えるように、車いすの中で、身体の位置をずらした。「両親はどこにいるんですか? ここにいるんですか? 教えてください」

「リュウ君、少し落ち着いて」教授がおだやかに言った。君の質問には、すべて答えるから。でも、あまり興奮しないでくれよ。君はまだ、完全には治っていないんだからね」

リュウの心は、はやるばかりだったが、はい、と頷いた。

「そのとおりだ。僕は君のご両親をよく知っていたよ。僕たちはずっと昔、政府の研究所で一緒に研究していたんだ。小惑星とその地球への影響についてだ。そこで、もう少しで新しい形態のエネルギーを発見できる、というところまでこぎつけた。まったく純粋なエネルギーで地球環境を破壊する懸念はまったくない。僕たちは、そのエネルギーの利用方法を考え、世界中に導入しようとしたんだが、ある日、地球上の諸政府がまったく違う目的でこのエネルギーを利用しようとしていることに気がついた。政府間の意見の相違は大きくなり、やがて、エスカレートし、あの最終戦争が勃発した。君のお父さんは、あの手紙や他の品物を一つの箱に隠して、僕に託したんだよ。その箱は、あとで君に渡すからね」 教授はここで、少し間をおいて、ため息をついた。「さて、君のご両親が生きているか、という質問だが・・・残念ながら、もうこの世にはいない。本当に残念だが、何年か前に、二人とも亡くなってしまったんだ。あのゴーハン将軍が君のご両親を殺害したんだと思う」

「どうして、両親は殺されたんですか?」

「ご両親は、GWOを倒すには、内部に潜入して、ある種のクーデターを起こすしかないと考えた。GWOの侵攻を抑えるため、スパイとして潜入して重要な情報も流してくれた。潜入中のご両親が、あるとき、GWOの本当の目的を知ってしまった。GWOの目的は、単一種の血統で地球を再生させることだ。それは、その血統以外の人類をすべて抹殺することを意味している。すべての人類を大量虐殺する計画なんだ。ご両親はこの情報を報告すると、急いで行動しなければならないと思った。ご両親はGWOから新しい血統の試作品をテストするように言われていたからだ。GWOが新しい血統の能力を確認するためのテストだ。それから間もなく、ご両親と僕との通信が途絶えた。ご両親の最後の言葉は、あの手紙に書いてあるとおりだよ。ご両親がスパイであることは、将軍が見抜いたようだ・・・君も知っているだろう、将軍がどういう人物か。それで、僕たちは、君のご両親が亡くなったと判断した」

「今、通信が途絶えたって、言いましたよね? つまり・・・両親はまだ生きている可能性もあるってことですよね? 両親が亡くなった証拠は見つかっていないんですよね?」

「リュウ君、もしも君のご両親が本当に生きているとしたら、その後、何とかして、連絡してきたとは思わないかい? ご両親は、何らかの通信手段を見つけて、自分たちの状況を伝えてきたはずだ。でも、もう七年も連絡が途絶えているんだよ」

リュウはため息をついた。教授の言うことは正しい。 父親があの手紙を送ってきたということは、両親にはもう無事に家に帰る方法がなかったということなのだ。

「聞きたいことはもっとたくさんあると思う。君の質問にはいつでも答えるからね」教授が言った。「でも、その前に、〈レジスタンス〉の他のメンバーを紹介させてくれ。彼らは、君を見つけ、脱出を計画するうえで、重要な役割を果たしてくれたんだよ」

リュウはテーブルの向かいに座っているメンバーを見た。男女各一名。リュウは頭の後ろをかきながら、考えた。メンバーって、これだけ?

「アイリのことは覚えているはずだ」教授は女子の方を指しながら言った。

「教授、わたしがCBEから飛び降りたとき、彼は床の上で意識を失っていたわ」アイリが不機嫌そうに言った。「細かいことまで、一つ一つまた説明しなきゃいけないの?」

「ああ、そうだった。君の言うとおりだ。じゃあこれが初対面みたいなものだね」教授が少し笑いながら言った。「こちらは、アイリ・マキタ。アイリは訓練将校でドロイド衛兵部隊の隊長でもある。まあ、少し短気なところもあるが、根はとてもいい子だよ」

「教授!」アイリが教授をにらみつけた。

リュウはCBEに攻撃される前、コックピットのガラスの向こうから聞えてきた声を思い出した。この声だ。直接的でぶっきらぼうな話し方。短めの髪。健康的な体つき。ボーイッシュのお手本のような子だ。アイリは腕組みをしながら、そのまま沈黙した。

教授は苦笑いをしながら、リュウとターボの方を向いた。「では、メンバーの紹介を続けよう。私の左側にいるのは、作戦のブレーン、〈レジスタンス〉のハッカー、そして、テクノロジーの専門家、ベンジャミン・ソラだ」

ベンジャミンは椅子から立ち上がり、握手を求めて、リュウの方に手を伸ばした。ベンジャミンの目は、興奮して輝いていた。まるで、憧れの人物を目の前で見るファンのようだった。

「ケンドウさん、お会いできて本当に光栄です!」ベンは大きな声で挨拶した。

リュウはベンの反応の意味がわからなかったが、リュウも少し身体を前に乗り出し、ベンの手を握った。ベンは強く握り返してきた。

「あなたはご存じないでしょうが、僕はこの瞬間をずっと待っていたんです」

「ベン、やめなさいよ。気分が悪くなってきたわ」アイリが、しらけた様子で言った。

「君がどうして、そんなに興奮しているのか知らないけど、ベン、俺は尊敬されるような人間じゃないよ」リュウは少し照れ笑いしながら言うと、ベンの手を放した。

「それは違います」すぐに、ベンが言った。「今のあなたの意見には賛成できませんね。アイリがあなたを見つけてから、僕はずっとあなたを見ていました。ですから、これだけは言えます。あなたは素晴らしい人です。それに、あなたは驚くべきスキルの持ち主です!」

「俺を見ていた?」 リュウが眉をひそめた。「どうやって? いつ?」

「〈レジスタンス〉には凄い武器があるんです。ドロイドをご覧になったでしょう。ドロイドは確かによい兵器ですが、僕に言わせれば、ちょっと退屈ですね」

「言葉を慎みなさいよ」アイリがきつい調子で言った。

「失礼。でも、僕はただ事実を言っただけなので。僕は小さな昆虫のようなロボットを使って、人間の行動を監視することができるんです。このロボットは本物そっくりで、誰が見てもロボットだとは気づきません」

「人間の行動を監視する?」リュウが聞き返した。

「ええ。ほとんどの場合は、情報収集が目的です。たとえば、あなたとあの女の子があの部屋で・・・」ベンが話し始めたが、教授が割り込んだ。

「まあ、気にしないでくれ」 教授が咳払いをした。「私たちに、GWOに対抗する能力があることは理解してもらえたと思う。そして、君がここに来てくれた今、私たちは計画をうまく続けることができると思うんだ。君のお父さんが望んでいたようにね」

リュウはターボと目を合わせた。それから、目の前に座る三人を見た。リュウは〈レジスタンス〉には大量の人員がいると思っていたが、教授の説明を聞き終わったところで、すっかり当惑してしまった。

「ちなみに、〈レジスタンス〉に他のメンバーはいないんですか?」

「いや、そういうわけでは・・・」教授が答えた。「私たちは〈レジスタンス〉の日常業務をこなすコアメンバーだ。でもGWOに所属していないすべての人間が〈レジスタンス〉のメンバーになると思ってくれ。確かにコアメンバーは少ないかもしれないが、その分は、技術で穴埋めすることができる。私たちがこうして戦いを続けられるのは、君のお父さん、お母さん、それに、君の大切なお友達のように、これまで犠牲になった多くのメンバーのおかげだ。私たちは彼らのことを決して忘れない。さて、リュウ君、君を見つけて、ここに来てもらい、力を貸してもらうために、私たちは大変な苦労を重ねてきた。そのことだけは、わかってほしい。そのうえで、君に聞いておきたいことが、一つだけある・・・」

教授はさっきまでとは別人に見えた。とても真剣で情熱的だ。「君は、私たちを、〈レジスタンス〉を助けてくれるか?」

リュウは言葉を飲み込んだ。今の状態で誰かを助けられるのか、自信がなかった。教授の意見には、すべて賛成だった。だが、何かがまだ、心に引っ掛かっていた。

すると、アンジェラの最後の言葉が蘇ってきた。 「あなたにはあなたの人生をしっかりと生きてほしい。わたしのためにも、いつかあなたの心を射止める誰かのためにも。お願い、リュウ・・・あなたは、しっかりと生きて・・・守って・・・」

何かがこみあげてきた。だが、リュウは堪えた。リュウは悟った。 これは個人的な問題ではない。みんなのためなんだ。俺は君の死を無駄にはしないよ、アンジェラ。

リュウは、車いすから勢いよく立ち上がった。

「もちろんです。やりましょう!」

「いいぞ、リュウ」ターボが拳を振り上げた。

教授も立ち上がった。輝くような笑顔で拍手をしている。ベンも大喜びだ。アイリだけは退屈そうな表情を浮かべたが、その口元は笑っていた。

「いずれ、マインド・メルドのセッションも受けてもらうことにしよう」教授が言った。「当面はアイリに君のトレーナーを務めることになる。さあ、忙しくなるぞ。何といっても、僕たちが人類の運命を握っているのだからね」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る