そんなに俺が腐って見えたかよ

 ──数日後。大学構内。


 「けんちゃん!おはよう!」


 「おう」


 ゴールデンウィーク明けでもしっかりと講義に出席している辺り、意外とこの2人は真面目ではあるのかもしれない。

 「真面目じゃわりーかよ」

 「そうだそうだ」

 

 作家として特に不都合は無い……。


 話は物語に戻る。


 「ゴールデンウィーク何してたの?バイト?」


 「ん?まぁ──そんなとこ。それより、お前だろ。ポストに手紙入れたの」

 

 「へっ?あぁ……ハハハハー」


 「親父から預かったのか?」


 「……そう。この前お父さんに会った時にけんちゃんが元気ないって話したら、引っ越してからのこと教えてくれて。それで最終兵器ってあの手紙を渡されて。でもけんちゃんに渡すの怖かったからポストに……」


 「何でこえーんだよ」


 「お父さんに余計なこと聞いてごめんなさい!」

 土下座をする勢いで、謝る祐樹。


 「……いいよ。別に」


 「へっ……?あ、そう?」

 健人が怒ってないと知り、胸に手を当て、ほっとした仕草をする。 


 「そんなに俺が腐って見えたかよ」


 「うん!」


 「即答かよっ!?」


 いつも通り、ニタニタと笑ってる祐樹の顔を見てため息をつく健人。祐樹がいつも頑張って明るく振舞っていたのは健人も分かっていた。


 「前にも言ったけど、俺は昔の自分には戻れない。なるべく人と関わらないでいる方が楽でいいんだ」


 「そっか……」

 目に見えて落ち込む様子の祐樹。健人はそれを見て、また呆れたようにため息をつく。


 「はぁ……。それでも、少しぐらいは自分の未来のこと考えてみるよ」


 「え?」


 「やりたいこととか、将来の夢とか、そういうのまだ分かんねーけど。……このままじゃダメだって自分でも分かってるし、少し自分の未来を見据えてみるよ」


 「けんちゃん!それでいいと思うよ!うん!」

 珍しくお互いの目が合って、照れくさそうに笑い合う2人。


 「まぁ、どうやったってお節介な奴らが纒わり付くしな。……お前、あいつとグルだろ。いつの間にそんな仲良くなったんだよ」


 「だ、誰のこと?」

 

 目に見えて動揺する祐樹。それを見て健人の疑問が確信に変わる。


 「はぁ……。あいつもお前と一緒でお節介が過ぎるんだよ」

 そう言うと、ポケットでくしゃくしゃになっていた紙を広げて祐樹に見せる。

 『ポストに郵便物が溜まっていますよ。夏実』


 「そもそもこの時代に手紙って、お前らどんだけアナログなんだよ」


 「だってLINEも番号も知らないし」


 「聞いてくれば教えるよ。俺を何だと思ってんだよ」


 「え?そうなの?じゃあ教え──」


 「その代わり」


 「……その代わり?」

 

 祐樹が聞き返すと、健人が慌てたように言葉を選び始める。

 「ちょっと酷いことを言ってしまって……、その──お、俺はあいつに、謝らないといけない。お、お前も手伝え!今度は俺と組むんだ」


 「えー、普通にごめんって言えばいいじゃんかー」


 「言えない事情があるんだよ。……別に、協力はしなくてもいい。上手く、謝る方法を、……教えてくれ」


 「んー、……自分で考えることだなっ!」


 「何だよ、味方じゃないのかよ」


 「それとこれとは別!」


 「よく分かんないやつだな。それより、何であいつはこんなに俺にこだわるんだよ。お前はまぁ分かるけど、初対面って言ってたし、ただ一緒のシェアハウスに住んでるってだけで、そこまで俺に干渉するか?」


 「……うーん──。それも自分で考えるんだな!じゃ、俺は寝る!」


 「おい、待てよ!お前、勝手にも程があるだろ!……ったく、本当に」


 机にうつ伏せになり目を閉じる祐樹。しかし顔はどこか幸せそうで、嬉しそうで。それを見た健人は複雑な心情だった。


 「番号はいらないみたいだな」


 「ハっ!いる!分かったよ、協力する!今後健人が失踪でもした時に連絡先知らないと俺が困る」


 「……お前、本当に俺のことどういう人間だと思ってんだよ」


 その後、祐樹に人に対しての謝り方を10通りほど伝授されたが、あまり身にはならなかった。そして、夏実が何故健人にこだわるのか。それを聞くことは出来なかった。

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