prologue

 ————生きろ。

 差し伸ばされた手——弱々しく握り返した/強く握り返された=操作も覚束ない訓練用義手×本当に血が通っていそうな柔らかい手。

 自分に向けられる眼差し=切っ先のごとき鋭さの黒瞳こくとう——生きろ——まるで睨まれているかのよう——生きろ——だがそうではなかった——生きろ。

 祈りのように/呪いにも似て——それは一瞬にして、しかしクソったれとなじるには十分すぎるほど、臭い立つ不幸に彩られた人生においては永遠に等しい光明だった。事実その瞬間、少女の将来は決定づけられていた。ゆえにその光明は未来に向かって永遠と呼ぶに相応しく、絶えざる光と、光から目を背けるかのように長く伸びる影とを彼女にもたらした。

 ————

 握り締められた手のひら/どこまでもまっすぐな眼差し——機械の身体=空虚に思えたソレへ強烈に/鮮烈に/凄烈に伝わってくる想い。

 気付けば相手の手を放しもせず、ただただ見つめ返していた。

 産み落とされた瞬間から死へと墜ちてゆくほかない、人生などという神様が仕出かしたポカミスのような時間の流れ。得るものなどなく、失うものばかりが多い濁流のなかで、それでもこの日触れた光だけは失ってなるものかという壮烈な想いが小さな胸の中で溢れかえった。

 生きてやる——焼けるように熱い闘志=生存という名の戦いの最前線へ躍り出る決意。

 今の自分=手足のすらろくにできない何かが、世界で唯一自由に抱き締めることのできる想い——それが目の前の相手に届くことを切に願う。

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