#014 サディスト女神さまに悦んじゃった!
「エレノア様! ご気分はよろしいでしょうか?」
薄汚い窓から差し込む光と、恐らくヒヨドリであろう五月蠅い鳴き声に当てられた俺は。
意識を覚醒させ、目の前の光景を焼き付けた。
「そうね……もう少し風が欲しいわね。ピューちゃん、私の奴隷として生きていきたいなら、怠惰は禁物よ」
「御意」
とある神社の本殿で。
ちょこんと正座をしてお茶をすするエレノアと、それを葉うちわで仰いでいる騎士団たち。
そしてピューちゃんと呼ばれたその人物は、あの忌々しい騎士団長である。
つかピューちゃんっていうのかよ。
まあ、恐らくエレノアが付けたあだ名だ。
そして今の俺はというと。
神棚の目の前で、天井から吊るされた固い紐で拘束されており、体全身に……というか主に尻からの痛みをジンジンと感じている。
外の明るさを考えると、恐らく今は朝といったところだ。
すると、これらの条件を組み合わせる限り、俺は昨晩中この神社の中でひたすら拷問を受けていたということになる。
微かに記憶はあるが、如何せんまだ曖昧だ。
エレノアの狂気じみた表情は、あまりにも印象が強すぎたせいで覚えているが、それは確証にはならない。
……いや、なるな。
あいつなら平気でしでかしそうだ。
すると。
「わあカルマくん! もう目覚めたんだ! じゃあ第102ラウンド目……いっちゃう?」
「いっちゃわない! いっちゃわないから! てか俺そんなに拷問されてたの!? ひ、ひどくない!?」
どうやら俺の目覚めに気付いた様子のエレノアが、一瞬で急須から鞭に持ち替えてそう言った。
それもあまりに下卑た目つきでだ。
やだ怖い。
「カルマ起きたんだ! ……それにしてもカルマ、昨晩はご愁傷様だったね」
神社の外にある鳥居付近で、小鳥たちと戯れていたカルナが物凄い速度で俺の元へと駆けつけてそう一言。
恐らくエレノアの発言で俺が起きたことに気付いたのだろうが、カルナのやつ聴覚良すぎはしないか?
そして、今の俺は昨晩の記憶がもの見事に消されている。
エレノアの不気味な表情のみ残っているが、カルナの発言を聞いた限りではやはり俺は昨晩に拷問を受けたことになるな。
そう確信を持った俺が、カルナに昨晩の出来事を聞いてみると。
「カルマったら記憶がないのね。……そうね、確かにあれは拷問だったわ。おしりを鞭で100万回ぐらい叩かれたり……ね」
そう言って。
「でも、元はと言えばカルマが悪いのよ?」
諸悪の根源は俺なのだと。
だから自業自得なのだと。
カルナは、俺に昨晩に起きた出来事を全て説明してくれた。
つまりそれらをまとめると、神パワーで無双できたことに調子に乗った俺がそのままエレノアのパンツを剥ぎ、それをすぐに返すかと思えば更にエレノアを辱め、そして終いにはエレノアの一番大事な部分を直視したと。
「え!? 俺ってばただの変態クズ野郎じゃん!」
ここに来て、俺が神……などではなく、ただの変態クズ痴漢魔だということが発覚しました。
まあでも、そうは言われてもやはり思い出せない。
それほどエレノアの拷問が凄まじかったということか。
とりあえず無理やりに納得した俺は、カルナに紐を解いてもらい。
「それはそうとして、これから王都に向かわないか?」
そう一言。
あまりにも唐突だとは思うが、現在の俺たちには食料が全く無いのだ。
それに服も当分着替えてなく、ぶっちゃけ買い換えたいし風呂にも入りたい。
すると。
「賛成よ! カルマくんのくせに良いこと言うじゃない」
役立たずの奴隷を珍しく褒めるご主人様のような目つきで、エレノアは俺の頭を撫でながらそう言った。
畜生、悔しいがなんか気持ち良い!
そして。
「ならカルマ、エレノア! 冒険者ギルドに行こう!」
元気よくそう言ったカルナに、エレノアは「さんせー!」と珍しく意気投合しているみたいだ。
確かに今の俺たちには金も食料もない。
ならば神の力で事象を書き換え、金と食料を無限生産したら良いのではないかと。
そう思って試しにしてみたのだが。
「カルマってバカなの? 神様がこの世の秩序を乱すようなこと出来るわけないじゃない。その力は飽くまで“運”をエネルギーに発動できるの。そしてこの世の中の運には限りがあるの。今のカルマにはその運が通常の人より卓越して多いってだけで、何も万能ってわけじゃないのよ?」
プークスクスと。
そんなことも考えれなかったのかと。
俺を指さして笑いながらも、物凄く丁寧な説明をしてくれるカルナ。
非常にムカつくが、わざわざ説明をしてくれたんだ。
ここは敢えて怒らないであげよう。
そう思った優しい俺は、これまで発動した能力について思い出す。
初めてこの能力を使ったのは、というか勝手に発動したのは地上界ここにくる途中でだったよな。
パラシュート、トランポリン、消し炭と化した森林。
そしてその後に、俺は意図的に能力を発動した。
地に無数の穴、降下する無数の隕石、敵軍の魔力徴収、地から湧き出る高熱のマグマ、敵軍周辺の酸素徴収。
どれもこれも、自分か限定された物にしか発動しておらずこの世の秩序は乱していないものばかりだ。
まあ、森林が破壊されて酸素が失われる……というのは多かれ少なかれ世の秩序を乱していると言えなくもないが。
でも、考えようには森が失われることで、新たに都市が建設されるなど……メリットがないこともないのだ。
そこはプラスマイナスゼロという方向で。
「つまり、金や食料には限界がある。それに直接、世の中に影響を及ぼしやすい。そうなると、人々の困惑とともに運気の乱れが生じる……というわけか」
「理解が早くて助かるわ」
カルナはにこやかな表情でそう返事をしてくれた。
確かに、ただでさえ天界は人々の運気の調整で忙しいのに、これ以上俺に仕事を増やされたら困るってものだよな。
つまり俺の能力は、“限定されたものにしか働かない”ということだ。
それは同時に、俺という“自身”に対しても働くことを意味する。
まとめると、金や食料のように、世界に何らかの影響を及ぼし秩序を乱すような事柄でなければ、どんな事象をも変えられると。
そういうことになるな。
また一つ、自分の能力に対する疑問が消えた俺はいろいろと試行錯誤をして。
『カルマ、カルナ、エレノア、これらの三人をアーカディア王国の王都へと強制移動』
そう唱えた瞬間、得体のしれないものに吸い込まれるような感覚に見舞われ。
――俺たち三人は王都へと到達していた。
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