#013 無双しちゃった!
気温は良好。
今の俺が騎士団と対峙している場所、それは王都の周辺にあるディア大森林という場所だ。
しかしながら、先程俺の立つ周辺は草木が消滅し、あまりにもみすぼらしいといった状況に変化したのである。
この大森林の約3分の1といったところだろうか?
それを俺一人が一瞬にして消し去ったのだ。
騎士団が周辺を見て首をかしげるのも無理はないだろう。
そして自然破壊と揶揄されても文句は言えまい。
「神? 貴様はバカなのか? どこかで頭でも打ったのか? ……さては、アファリアのことをまだ根に持っているのか? おいおい男が廃るぜ」
先程の俺の神発言に対し大男がそう嘲るように言い、回りの団員たちも嘲笑を隠せないでいた。
まあ確かに、今の俺は無能扱いされて最強パーティーから追放された魔術師カルマ……と、王国ではそこそこ話題になっていることだろう。
まあでも、それはそれで好都合だな。
すると。
「ねえカルマ。あの騎士団員たちちょームカつくんですけど! もう片っ端から駆除していってもいい?」
ぷんすかと、怒りに我を任せようとするカルナが一人で飛び込んでいこうとする。
「あらあら。あの子たち……私の下僕としての素質がありそうねっ!」
あまりにも不気味な笑顔で、右手に絶大なる魔力を発生させたエレノア。
あまりのエレノアの魔力の強さに、騎士団を始め大気が震え上がっているが。
「まあ待てよ二人とも。ここは俺に任せてくれ」
若干怒りの意を隠せないでいる二人の手を握り、後退させる。
すると好青年が余裕の笑みを浮かべて。
「なんだ貴様一人が戦うというのか? 確かに先程の魔力は少し驚いたが、何より貴様のかっこつけに付き合わされるそこのレディたちが可哀そうってものだな」
多少の皮肉を交えながら、余裕綽々と剣を振り回し始めた。
かっこつけと言われれば否定できない。
だが、今の俺は自分の力がどこまでコントロール出来るのか、それが知りたいのだ。
要するにはこいつらで力試しといったところだな。
そして。
「話は終わりだ。そろそろその命、散り散りにさせてもらう!」
好青年の剣を振り上げる合図とともに、そして勇猛果敢な叫び声と同時に騎士団員たちが一斉に押し寄せてきた。
少し前までの俺なら、ここで腰を引いていただろう。
己の弱さに絶望し、先の見えない孤独に、いつまでも冷酷な世間に虐げられることを良しとしていただろう。
だが、今の俺は乗り越えたんだ。
力を、そして一緒についてきてくれるという仲間を手に入れた。
怖いものなど、あるはずがない。
そして。
「「「「「死ね!!!!!」」」」」
大勢の騎士団員たちが刃を束ね、剣先に魔力を込めながら突進してくる。
もはや剣の刃先と俺の心臓との距離が分からなくなったその刹那。
俺は脳内に浮かび上がる文字の数々を、その羅列を無意識のうちに唱え始めていたのだ。
「死ぬ? 誰が? この俺がか? 笑わせるな」
この詠唱は恐らく魔力などの類のものではない。
なぜならば、術者は魔力を消費する時に熱が体内からこみ上げてくるからだ。
残念ながら今の俺は魔力皆無、ついでに熱など微塵も感じていない。
つまりは、これは神と化した俺が幸運という目に見えない超常的なものを利用して、事象を書き換えているのだ。
『地に無数の穴、降下する無数の隕石、敵軍の魔力徴収、地から湧き出る高熱のマグマ、敵軍周辺の酸素徴収』
そう唱え終えた瞬間、騎士団員全員は突如として出来た落とし穴に身動きできず、天空から無数に落下してくる恒星にひれ伏し、体内の魔力を全て奪われた後落とし穴から湧き出る高熱の液体にやられ、終いには息が出来ないといった状況に陥っていた。
「あ、ヤバい……やり過ぎたかも」
力を意識的に使うことが初めてな俺は、初回からあまりにも強力な事象の書き換えを発動させ、目の前に広がる光景を目にしてそう自負せざるを得なかったのだ。
そして力を使ってみてもう一つ気付いたことは、地上に降りる前のパラシュートやトランポリン、そして消し炭と化した森林のことだが。
恐らくあれは、まだ力の発動の仕方が感覚的に掴めていなかった俺への、ランダム的救済なのだろう。
今の俺は言葉にするだけで、物事のあらゆる事象を変えることが出来るのだ。
こ、この能力……ヤバいかも。
俺は自分のバケモノじみた能力に鳥肌が立ち、胸の奥底からこみ上げてくる興奮を隠しきれないでいた。
そして、俺は興味本位で。
『乱れる羞恥!』
オブラートにと、いろいろと考えた後で間接的に叫んでみたのだが。
何もなかったかのようにキョトンとした表情のカルナと。
下半身をやたらムズムズとさせ、普段のSっ気からは想像もできない程に顔を赤らめたエレノアが。
そして俺は自らの右手に、何やらふわふわとした感触を味わいながらそのままお日様に照らしてグーンと伸ばしてみた。
「うん、パンツだ」
うん、パンツだった。
……って、ええ!?
「ぱ、ぱんつ!?」
驚きを隠せないでいた俺は、フリルのついた純白のパンツを今一度確認しながら。
そのまま視線を、先程から妙にもじもじとしているエレノアへと向けた。
すると。
「ぱ、ぱんつ……返してよ」
恥じらいながら、女神の威厳など全くもって感じられないエレノアが、小さな声でそう言った。
返したいのはやまやまだけど、ここで素直に返したらもったいないよね。
ということで。
「三回回ってお手からのワン……だ」
いかにもエレノアがしそうな、ドSチックなことを要求してみました!
こんな機会は滅多に訪れないからな。
やっておくに越したことはないだろう。
すると、案外潔いの良いエレノアが、赤と白のラインのスカートを片手で抑えながらグルグルと三回回り。
続けて俺の元へと近づき、右手を前に差し出してきた。
そして。
「わ、わん……」
いかにも耳が癒されそうな、そんな儚げな声で犬の真似をしたエレノアに、俺はご褒美にとパンツを返してやった。
すると。
「……それではカルマくん。覚悟はよろしくて?」
憤怒と鬱憤と、憤慨と激憤と……エレノアの柔らかな微笑みの中には、数えきれないほどの怒りが感じ取られた。
そしてエレノアは綺麗な長脚を高速で振り上げ、俺の脳天にかかと落としを決めようとしたその時。
「……見えた!!!!」
現在のエレノアは俺にパンツを返してもらったものの、未だにノーパンだ。
そしてそのエレノアが脚を思いっきり振り上げたのだ。
つまりこれはどういうことを意味するのか。
「……って思ったら、おかしな方向から光が!?!?」
期待に胸を膨らませた俺だったが、なぜか物理法則をガン無視しながらエレノアのアソコを遮るように隠してきた放送禁止の光が……そんな俺の期待をぶち壊してきやがったのだ。
つまり、これはつまり。
「…………覚悟はよろしくて?」
女神というか、完全に悪魔の笑みを浮かべ始めたエレノアが、その美しい顔に見合わない動作を……音速をも超えるかかと落としを……。
俺の脳天に着弾させ。
その瞬間、俺はろうそくの灯が一瞬にして消えるように、目の前の景色が遮断された。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「もうホントにカルマったら、エレノアは悪女なの! あ・く・じょ!」
先程とは一見変わって夜を迎えた薄暗い森の中、俺は朦朧とした意識下の元でカルナの声を聞き取る。
「あれ……そういえばあの後、俺はエレノアに……」
しばらく眠っていたからか、俺は昼のことを思い出せないでいた。
すると。
「わあ、カルマくんがやっと起きた! ……それでは、今からカルマくんにはおしりぺんぺん100万回の刑を受けてもらいますねっ!」
これ以上ないぐらいの満面の笑みで、俺が目を覚ましてはそう告げるエレノア。
ど、どういうことだ!?
「カルナ、あの後……どうなったんだ?」
俺が状況を把握するべくしてカルナに聞くと。
「あの後、カルマはあの悪女にかかと落としを食らって脳内に酷いダメージを負ったの。そして死んだの」
お、俺がエレノアに殺されたのか!?
なんて恐ろしいやつなんだ。
「それで死んで一分以内にカルマと、そして騎士団員全員を生き返らせたのよ」
事実として俺は今生きている。
それは分かるのだが、なぜにあの忌々しい騎士団員たちを生き返らせたのだろうか?
あいつらはせっかく俺が殺しておいたのに。
すると。
「カルマくん! 近くに神社を見つけたの! ……ほら、神様って神社でお仕事しているイメージがあるじゃない?」
そう言いながら、俺の腕を雑に握りながら神社の中へ、勢い良く引きずり込もうとしてくるエレノア。
「無事を祈るわカルマ。私もエレノアはトラウマなの……」
両手を合わせながら、天に祈りを捧げ始めるカルナ。
「女神が天に祈り捧げてどうするんだよ! 助けてくれ……やばいっ」
エレノアに勢い良く引きずられていく俺を見たカルナは、ただただ祈りを捧げ続けるだけであった。
「さて。 ……昼間のおしおきタイムだね。カルマくんは騎士団さんよりも特別に扱ってあげるからねっ」
それってどういう意味での特別だよ!!
死ぬから!
もうしませんから許して。
――この後、記憶障害になりエレノアに絶対の忠誠を誓った騎士団員と、尻をダイナマイトの様に腫らした死にかけ寸前の俺のことは……もう語らずとも大方の予想はついているだろう。
神になった初日がこれかよ……。
いたたまれない。ホントいたたまれない。
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