#012 幸運スキルを手にし、神として地上に降臨しちゃった!

 “アーカディア王国”。


 それは勇者ライトと、第一王女であるフィリアが治めている国の名前だ。

 もちろん国王は存在しており、フィリアの父がそれに当たるのだが如何せん歳が歳なだけあって、今後の近い未来にはライトが国王を務めるのだという。

 そしてこの国アーカディアは、中世ヨーロッパ風の街並みをしており、主に王都と貧民街、その間に広がる巨大な“ディア大森林”の三つに分けられるという。


 そして今日こんにち。

 勇者ライトと王女フィリアの結婚式が開催されていた。

 王都のメインストリートでは、高級馬車に乗り国民に笑顔で手を振る新郎新婦の二人。

 華やかな街に広げられたレッドカーペットの上を、最強ギルド『アファリア』のメンバーであるアレンとレオンハート、そしてマーラが護衛に就きながら、二人を大いに祝福していたのであった。


「フィリア。僕はこの命に誓い、君を幸せにする」


「ライト。私の全てをあなたに委ねるわ」


 こうして二人は口付けを交わし、王国はより一層華やかに、そして国民による喝采で賑やかに彩られたのであった。



 ……が、しかし。



「おい見ろよあれ!」


 とある国民が、突如として遥か上空に彩られた超常的な現象に、指をさしながらそう叫んだのだ。

 周りの国民、そして王族たちは皆、固唾かたずを飲みながら息を殺すしか出来なかった。

 ある者は驚嘆で腰を抜かし、ある者はそれに向かって祈りを捧げる。

 また、ある者はそれをしっかりと目に焼き付け、ある者はそれを瞬時に報道したのである。


「僕たちの契りの日を、神様も祝福してくれたのかもな」


「それは素敵ね」


 手をつなぎながら、二人はそれをただただ眺め続けたのだ。



 ――遥か天空に、七色の色彩を放ち描かれた魔法陣を。


 そして、そこから姿を現す謎の三人の存在を――


 この瞬間、世界はまだ知る由もなかったのだ。


 今日というこの日が世界に大きな影響を及ぼし、或いは永久とわに語り継がれるようになることを。






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






「落ちるっーーーー!!!」


 俺はこれまで幾度もの死の恐怖を味わってきたが、やはり恐怖に慣れるということは一向にできそうになさそうだ。

 天界でウェヌスに地上へのゲートを開いてもらい、エレノアが強引に俺たちを引っ張り出したせいで心の準備が整ってなかったというのも一つの理由だ。


 そして俺の予想していたゲートは、普通地上に繋がっているものだと思っていたが、どうやら違ったらしい。


 なぜなら今の俺たちは、天空に開かれたゲートから物凄い速度で落下しているのだ。


「ヤバい! ホントに死ぬから! ……って、お前らだけ羽根生やすとかズルいぞ!」


 若干涙目でたくさんの空気抵抗を顔に受けながら、隣で羽根を広げて優雅に降下する女神二人を見て俺はそう叫んだ。

 羽根!

 俺も羽根が欲しい!


 このままだと死んじゃうから!


 するとカルナが純白の羽根を広げて優雅に空を駆けまわりながら。


「心配しなくても、カルマは神様になったんだから。そのくらい自分で何とかできるはずよ!」


 何の根拠もなしに、あまりにも呑気な表情でそう言った。


 確かに俺は神になったらしいけどさ。


 まだ具体的にどんなことが出来るのかが全く分からないんだよな。


 そもそも神様ってどんなことするの?


 雷落とすの?


 なにそれただの天災じゃん。


「何とかってどうしたらいいんだよ! これやばいって! 死んだらシャレにならないから!」


 俺が死を覚悟したその時。


「な、なんだ!? 何かが飛んでくるぞ!」


 俺から見て右方向から、無人のくたびれたパラシュートが……こちらに向かって飛んできたのだ。


 それも物凄い速度で。


 そして俺はそれに脚を絡ませ、なんとか速度を落とすことには成功したのだが。


「今の俺さかさまの状態なんだけど! このままだと首の骨折れちゃうよね! 絶対!」


 パラシュートで足が宙吊りになり、最悪なことに俺の真下は森林だ。


「心配なさらずとも、カルマくんは神様カミちゃんなのです! ちょーぱわーとやらで、きっと何とかなるなる!」


 薄紅色の羽根を広げて、優雅に午後のティータイムを楽しんでいるエレノアが、満面の笑みでそう一言。


 どうしろと!? 


 この俺に一体どうしろと!?


 またもや死を覚悟したその時。


 恐怖ながら真下に目を向けた時、ありえない光景を目にした。

 それは。


「え、いやいやいや、なんか森が一瞬にして消し炭と化してるんですけど!? んでもってなぜにトランポリン!?」


 一瞬にして俺の真下にある木々が刈り取られ、その上大きめのトランポリンがその凄い速度で等速直線運動を行いながら。


 奇跡的に足場を作ってくれたのである。


 ……って。


「これどんな確率だよ!! 俺ってば運が良すぎはしないか?」


 そう言葉を口にしつつ、同時に俺は天界での出来事を思い出す。

 そういえば、俺は神様訓練で心のキャパシティーを拡張され、そしてあの時は興奮しすぎていてあんまり深く考えてなかったけれど。


 今の俺って。


「なに? 今更なの? 今のカルマは歩く幸運の神様! 力や魔力はなくても、あらゆる幸運でご都合主義的なまでの力を発揮することが出来るのよ!」


 驚いたような表情で、そして同時に誇らしげな顔でカルナは核心をついた一言を放った。


 つまり。


 これってっ。



 ――俺のせいでこの世の物理法則が乱れまくってるってことじゃないか!



 先程勢いよく万有引力の法則をガン無視してきたパラシュート。

 そしてそれと同様にして『絶対時間』と『絶対空間』の概念にまでシカト決めた巨大なトランポリン。

 最後には極めつけの燃焼を必要としない森林大炎上。


 あまりにも地味で、あまりにもデタラメで桁外れなこの神の神託のうりょく。


 神様訓練の終了後にウェヌスは結局教えてくれなかったが、なんとなく彼女の言っていた『神様は結構地味』だという理由が分かった気がした。



 そして天文学的なまでの幸運の末、無事地上へと降り立った俺たちに。



「貴様ッ何者だ! ……って、アファリアの服、まさか貴様ッ!!」



 突如として全焼した森を不思議に思ったのか、およそ100人近くいる王国の紋章を付けた騎士団が。


 剣を構えて俺たち三人を取り囲んだ。


 そういえば今の俺の服装って、まだアファリアにいた時のまんまか。

 この森を抜けたら服でも買いに行くとするか。


「噂には聞いていたが、まさかアファリアの裏切り者がまだ生きていたとはな」


 騎士団の隊長らしき、合金の鎧に身を包んだ爽やか系の好青年がそう一言。

 裏切り者って……むしろ裏切られたの俺の方なんですけど!?


「ここで勇者様に報告してもよいが……それでは面白くなかろう。私たち誇り高き騎士団が、勇者様のお手を煩わせることなく葬ってやろうではないか」


 そしてどうやらこいつらは、俺たちをここで始末するらしい。


 人間が……俺たち神に向かって歯向かうとはな。いやはや大層おこがましいことこの上ない。


 そして俺は一歩。また一歩として好青年に近づいて。



「俺は神だ。まずはお前たちから、王国への見せしめとして神罰を下してやるよ」



 自らが神であること、そしてこれから始まるであろう事柄についての宣告を……神罰という名目で言い放った。

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