#004 抱きついちゃった!
大空の快適な旅行が終わり、約一時間後。
――俺は今、天界と呼ばれる不思議な空間に来ている。
天界と聞いてまず俺たち人間が想像するのは、恐らく雲の足場やら、大理石で建設された神聖な神殿など、そういった固定概念というか先入観というかステレオタイプというか……
まあ、そういった認識が強いのは確かだろう。
で。
「何の期待も裏切ることなく、俺たち人間が夢見ていた天界の真相は……大方予想通りだったと」
そう、現在俺が突っ伏しているのは真っ白な雲の上であり、そして各々の雲で作られた蛇の形を模したいびつな道が広がっていた。
まあでも、少し期待を裏切ってくれる何かが欲しかったところだけど、これはこれで無難に攻めてきた感じがまた良い。
そして大空の快適な旅行を終えた俺が、なぜ突っ伏しているのかというと。
「ホント、人間って理想が高くて呆れちゃうわ。こんな素晴らしい楽園に来れて、何か不満なわけ?」
せっせと六枚の羽根をしまいながら、カルナは呆れた表情で俺を見つめる。
そう。
全ては。
「おいカルナ。お前のせいで俺はあまりに唐突な気圧の変化に耐えられず、危うく鼓膜が破れるところだったんだぞ?」
「……と、途中から防御シールド張ってあげたじゃない。なによ、やっぱり人間は軟弱だわ」
……。
「それと、俺は急な速度の変化には弱いんだ。おかげでさっきから吐き気が…………」
――(以下略)。
「治まった?」
「う、うん。気遣いありがとう」
……って。
「そうじゃなくて、もう少し速度を下げるか、女神ならこういう最悪の場合を想定して酔い薬を持ってきているのが、普通常識じゃないのか?」
女神はこの世界で言う神様だ。
それも女の。
常に先に起こる未来を察知し、人々に笑顔で祝福を届けるのが女神の仕事じゃないのか?
それになんだカルナのやつ。
俺が人間だと知っていながら大空の素敵な観光旅行だというのを建前に、浮かれた俺を縦横無尽にひっかけまわしておいて……
悪魔だなこりゃ。
それかポンコツだ。異論は認めんぞ。
「人間の尺度で女神を図らないでほしいわ。私は優秀だもの。カルマも神様になるんだったら、私並みの広い心を持たないとね!」
えっへんと、仁王立ちでふんぞり返るカルナ。
どうしよう、ほんとにどうしよう。
今にも俺の秘められた抹殺のラストブリット(いきなり最終形態かよ)が、奴の顔面を打ち砕く勢いにある。
……のを、紳士な俺は必死にこらえる。
俺は売春夫ばいしゅんふであるお父さんの息子だ。
親が親なら子も子ということわざがあるように、俺は紳士なお父さんの遺伝子を受け継いでいるんだ。
もっと自分に自信を持てよ俺!
「じゃあ、そろそろ“アルテナ神殿”に向かうわよ。ほらほら、さっきみたいに私につかまりなさい!」
まだ本調子でない俺は、片腕一本では振り落とされることを懸念して。
「……ひゃっ、ちょっ、ちょっとカルマ! あなたどこ触……ひゃんっ」
思い切って後ろから抱きついてみました!
今まで散々な目に合わされてきたんだ。
本当ならこのくらいではまだまだ足りないところだが、優しく慈悲深い俺はこの辺で止めておくことにする。
「どうした? アルテナ神殿とやらには行かないのか? ほらほ~ら、」
どうやら全くと言っていいほど紳士ではなかった俺に、涙交じりに赤面したカルナが。
「お、おおおおおお……覚えておきなさいよっ!」
辛うじて言葉を振り絞ったカルナが羽根を広げて。
――俺たちは次なる目的地である『アルテナ神殿』へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます