第23話 最期の戦い①
安田は車を一時間近く走らせていた。凛は車の座席に寝かされていた。起き上がって自分の今いる場所を確認しようとするが、車の揺れで起き上がることが出来なかった。彼女は今どこにいるのか、これからどこへ行こうとしているのか考えることを諦めた。ただ灯りが減ってきていることと路面が悪くなっていることから山の中を走っていることだけは分かった。安田は車を停めると運転席から降りて後ろの座席のドアを開けると凛の腕を掴んで引きずり下ろした。凛は長めのパンツを履いていたので怪我をしなかったが、もし短めのパンツやスカートを履いていれば砂利が肌に食いこんで血が出ていただろう。
「ちゃんと立てよ」
凛はなんとか立ち上がると、いつ明かりが消えるか分からない電灯がチカチカと点滅していて彼女と安田の周りを照らしていた。辺りには鉄板や鉄パイプといった鉄くずが散乱し、長年の雨風で錆びてしまったクレーン車が置いてあった。
「ここはね山の中にある産業廃棄物場だよ。もう使われていないけどね」
安田は縛られて身動きが取れず話すことも出来ない凛に話しかけた。彼女は怯えながらも安田を真っ直ぐ見据えていた。
「この鉄くずもクレーン車もあとは雨風に晒されて朽ちていくだけだけで自然に帰らない。地球人はそんなものを放ったらかしにして責任を取ろうとしない。本当に生きるに値しない生物だよ」
安田は凛を見ると彼女が猿轡をしていることを思い出して、彼女の口からタオルを抜いた。
「ここに連れて来てどうするつもり? 」
「決着をつけるんだよ。彼が死ねば地球人は滅びる。僕が死ねば地球人は滅びない」
凛は恐る恐るずっと気になっていたことを口にした。
「どうしてそんなに地球人を憎むの? 」
安田の顔には嘲笑が浮かんでいた。
「そういう頭の悪い質問をする所がまずムカつく。力が弱く身体能力が高いわけでもないのに弱いもの同士で固まることでこの
「あなたの言ってることはわかる。地球人って最低な生き物かもしれない。だけどそういう地球人だけじゃないでしょ? このままじゃいけないと思って行動を起こす人もいる。自然を守ろうって差別は止めようって主張して、戦ってる人間もいる。私たちは分かり合うことだってできるはずじゃないの? 」
安田は目を見開くと凛の頬を掴んだ。
「地球人なんて皮を剥げば自分たちのことしか考えない醜い生き物だよ。二度と分かり合えるなんて生温い言葉を使うな。あいつが来る前にまずお前を殺すぞ」
安田の目には明らかな憎悪と殺意が込められていた。凛は彼の言葉が本気だと感じて口を閉ざした。彼は言い終わると掴んでいた凛の頬から手を離した。凛の頬にはくっきりと爪の跡が付いていた。安田ははっと何かに気づいたように来た道を見つめていた。
「来たぁ! 」
圭一がこちらに歩いて来たのを見ると、安田は恍惚を恍惚の声を上げた。
「凛を離せ」
圭一は睨みつけるほど真剣な表情をしていた。
「ゲームをしよう」
「ゲーム? 」
「そう。すごく単純なゲームだよ。僕を殺せたら君の勝ち。僕が死ねば彼女を解放されて計画も中止になる。君を殺せたら僕の勝ち。君を殺した後に彼女も殺す。そして計画を進行する。どう単純でしょ? 」
「駄目! 圭一逃げて」
「黙れよ。お前に聞いてんじゃねぇんだよ」
安田は凛の髪を掴むと、凛は苦しそうに呻き声を出した。
「凛! 分かった……。そのゲームに乗る」
「そう来なくちゃ! 」
安田は掴んでいた髪を離した。安田と圭一は睨み合いながら互いに間合いをはかっている。攻撃を仕掛けたのは圭一の方だった。圭一は安田に向かって拳を振り下ろしたが、その攻撃は安田に容易く受け止められた。安田は拳を受け止めた手とは逆の手で圭一を殴りつけようとした。圭一は瞬時に片方の手で攻撃を防いだが、強い力で思わずよろけてしまった。安田はその隙を見逃さず、圭一に攻撃を仕掛けた。圭一は防戦する一方で時折安田の攻撃が圭一に当たり、彼は何度か苦しそうな声を出した。安田は圭一の脇腹に強烈な蹴りを食らわせた。
「圭一! 」
圭一は安田から一旦距離を置いた。
「これで終わりじゃないよね? 」
圭一はまだ痛みが残ってるらしく脇腹を押さえている。その一方で安田はかすり傷どころか息も上がっていなかった。凛は二人の戦いを固唾を飲んで見守っていると彼女の顔にポタリと冷たいものが当たり、ふと空を見上げた。
「雨だ……」
雨は少しずつ強くなり、アスファルトの舗装が剥がれて剥き出しになったでこぼこの路面に水溜まりを作った。雨は三人を濡らしていった。圭一は脇腹を押さえていた手を離すと安田に立ち向かっていった。しかし安田は圭一の腹を目掛けて殴りつけた。圭一は後ろによろめいて地面に倒れ込み、彼の洋服は泥水で汚れてしまった。
「うぅ……」
圭一は痛みを堪えながら体を起き上がろうとした時に、殴られた時の鈍い痛みとは違う痛みを感じた。彼はその痛みを確認しようとした時にある事に気づいて、圭一はもう一度立ち上がった。彼の目には強い決意が宿っていた。
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