第21話 協力

 タクシーは凛と圭一の家に止まると、凛と愛はタクシーを降りた。二人は部屋の前に着くと、突然ドアが開いた。

「大丈夫? 」

「圭一! 」

 凛は圭一に抱きつくと我慢していた涙が流れた。圭一は凛の不安をかき消すように彼女の頭を撫でた。

「テレビだと凄い騒ぎになってる」

 三人が部屋に入るとテレビはつけっぱなしになっており、レポーターが興奮した口調で凛と愛が巻き込まれた事件を伝えていた。

「日曜日で大変賑わっているこの場所で殺人事件が起き、多数の死傷者が出ました。死傷者の一人は現場に到着した警察官です。犯人は三人組で警察が取り押さえようとしましたが抵抗したため全員射殺されました」

 レポーターがテレビの中から話し続けていた。凛はペタリとリビングに座り込んだ。

「あいつらとうとう動き出したんだ……」

「ああ」

 圭一と愛は頷いた。

「もしかしてあの人たちも宇宙人なの? 」

 凛が訊ねると圭一はうんと答えた。

「どうして! どうしてあんなことが出来るの?! どうして……」

 最後は言葉にならず、凛は嗚咽を漏らした。圭一は静かに口を開いた。

「僕たちはある計画を持って地球に来た」

「ある計画? 」

「地球人を家畜にする計画」

「なにそれ? 」

「この計画は僕たちの食糧である地球人を確保するために地球人を飼育し、生殖を管理するために考えられた」

「その計画に賛成派もいたけど反対派もいたの。地球人とは友好的に付き合うべきだって。私ももちろんこの計画には反対してたけどね」

「圭一は? 圭一はこの計画に賛成してたの? 」

「僕は……」

 凛の言葉に圭一は彼女から目を逸らして口ごもった。

「圭一は中立派だよ。どっちにも肩入れしていなかった」

 愛の言葉に凛はどこか安心したようだった。

「そうなんだ……」

「反対派は前にショッピングモールに行った時に幼稚園ぐらいの女の子がいたけど、その子が計画に反対しているトップ。でもこの前、その子は安田っていう地球人に殺された」

「安田さん……」

 安田は突然凛の前に現れた。凛は安田を信用していたが、彼は自らの探究心のために圭一を殺すように唆した。凛は安田の名前を聞くと背中が寒くなるような感覚になった。

「知ってるの? 」

「一度凛に接触してきたことがあるから」

「そうだったんだ……」

「安田さんたちがその計画のために動いているってことなんだね」

「うん」

 圭一が凛の顔をちらりと見ると、彼女の顔は怯えきっていた。

「凛、大丈夫だよ。なんとかするから」

「なんとかってどうするの? 」

 愛は聞き返した。

「地球人と友好的な態度を取ったほうがメリットがあることを伝える」

「そんなに上手くいくの? 」

 凛は不安そうに聞いた。圭一はしゃがみ、凛と目線を合わせた。

「大丈夫。約束は必ず守るから」

「うん」

 圭一の言葉に凛は安心したように微笑んだ。


 圭一は愛を見送るために二人で大通りまでの道を歩いていた。念の為に圭一は外出する時に、凛に部屋の鍵をちゃんと閉めるように言いつけた。

「さっきはありがとう」

「何が? 」

「凛に計画賛成派だったのかと聞かれた時に、中立派だって言ってくれて」

「別にいいけど。どうして答えなかったの? 」

「なんでだろうな? 凛に軽蔑されたくなかったのかもしれない」

「なんで凛に軽蔑されるのが嫌なの? 」

「わからないけど何となく嫌だったんだ」

「私にはよく分かんないや。それよりも本当にあんな安請け合いしていいの? 安田はかなりヤバいやつだよ。私たちの話を聞いてくれるはずなんてない」

「ああ……」

「分かってるのになんであんなこと言ったの? 」

「ああ言えば凛が少しでも安心できるかなと思って」

「確かに安心するかもしれないけどそれは一時的でしょ? 無駄な期待を持たせるぐらいなら無理って言った方がいいんじゃないの? 」

「そうかもしれないけど……」

 圭一には珍しく煮え切らない態度だった。

「外堀を埋めていくしかないか」

「それも上手く行くかな? 」

「分からないけどやるしかない」

「そうだね。私も手伝うよ」

「ありがとう」

「ここまでで大丈夫だよ。あとはタクシーを捕まえるから。じゃあね」

 愛はひらりと手を振った。


 桜井は凛と愛が巻き込まれた事件を捜査していた。犯行グループの名前は判明したがどうして犯行に及んだかは分からなかった。三人は年齢も性別も異なっており犯人は射殺されてしまったため、詳しい動機は不明だった。ただ一つ共通点があった。三人とも共通点は安田望というジャーナリストと接触していた。しかし接触した時間があまりにも短く繋がっているとは断言出来なかった。突然桜井のスマートフォンが鳴った。桜井は安田に関する資料に目を通しながらスマートフォンを取り出して耳に当てた。

「もしもし」

「お久しぶりです。丸川です」

 桜井は何かあったときのために名刺を圭一に渡しておいたのだ。

「何の用だ? 」

「話したいことがあって」

「手短に話せ」

「三人が街中で人を殺した事件がありましたよね。三人の犯行の動機が不明だってテレビで見ました。それのことについて話したいんです」

「動機を知っていると言うのか? 」

「はい」

 桜井は手で顎を摩った。

「分かった。場所はホームレスが殺された公園でいいか? 」

「はい。そこで待ってます」

 桜井はスマートフォンの通話を切ると勢いよく立ち上がった。






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