人が人を殺さなくなるまで



 人を殺すことが悪である理由を法は解明してくれなかった。ならば人殺しは肯定されるのか。多くの人の殺人衝動は法によって理由なく拘束されているのだろうか。


 多くの人が実際には人を殺す事なく一生を終えることは事実である。なぜ人は人を殺さないのだろうか。また、なぜ人は殺人を罪であると定義して自分を含めた人々を法によって縛り付けたのだろうか。


 生物には種の保存欲求に基づく本能が存在する。俗に三大欲求と呼ばれる睡眠欲、食欲、性欲も人間という種をできるだけ生きながらえさせ、新たな遺伝子を次の世代に受け継がせるためのものに他ならない。外敵を避け、追い払い、倒すために人間に限らず多くの動物が能力を身につけて生存競争を勝ち抜いてきた。

 だが自分たちを害する敵が必ずしも外にいるとは限らない。


 共食いという習性がある。肉食動物を飼っていた人ならば見たことがあるかもしれない。餌が足りなくなったり、縄張りを荒らされた時等自らのセーフティーゾーンを侵害した同族に攻撃を加えて捕食する行為である。このような同士討ちを回避するために人間は牧畜や農耕を発明し、食料不足のような個々のセーフティーゾーンを著しく脅かしかねない事態を回避することに概ね成功した。


 しかし食糧不足を解消したからといってまた別の理由でセーフティーゾーンを脅かされたら人々はカニバリズムに走ってしまうかもしれない。そこで考えられたのが道徳モラルである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る