第31話 要塞化
バルスタン氏族の集落に着いた次の朝、朝食を済ませた後、早速集落の防衛力強化へと取り掛かる。蛮族からの防衛を手伝うと決めたのなら自重はしない。
「先ずは外壁だと思うけど、少し広げた方が良いよね」
「……ん、その方が良いと思う」
ポーラの同意も得られた事だし、既存の防壁の更に外側に、集落を囲む防壁を築く事にする。
「僕が防壁を構築するから、ポーラは防壁の強化を頼めるかな?」
「……ん、構造を強化して固定化する」
トトトッと小さな足音が聞こえ、ルカがピョンと僕に跳びついてきた。
「シグお兄ちゃん、お仕事するの?」
「そうだよ。少しの間、セレネさんと待っててね」
「うん! ルカ大人しく待てるよ!」
「そうかぁ、偉いぞルカ」
ワシャワシャと頭を撫でると、きゃあきゃあ言って喜ぶルカ。
「セレネさん、ルカをお願い」
「ルカちゃん、お姉ちゃんと見てようね」
セレネさんにルカを渡して、僕とポーラは門から出ると、既存の防壁から100メートル離れる。
「……こんなに離れるの?」
「どうせなら僕達が居なくなっても大丈夫なように、徹底的にやろうと思ってね」
門を出てスタスタ離れて行く僕に、ポーラが不安そうに聞いてきた。
でも僕は、この集落をガチガチに強化するつもりだった。ベルグが僕の武器とローグさん達の為の装備を造り終えると去って行くのだから、彼等だけで蛮族を跳ね除けれるようにしたい。いや、蛮族が襲って来るのを戸惑う位に強化したい。
「さて、セレネさん、少し離れててね」
僕は右手の神印に魔力を流してイメージを固めると魔法を発動させる。
地響きと共に地面が立ち上がっていく。
「……………………」
「……びっくりした」
「シグお兄ちゃん、スゴーーイ!」
厚さ3メートル、高さ10メートルの外壁が、真っ直ぐに数百メートル立ち上がっていく。防壁の外側には空壕が出来上がっていた。
「こんなものかな。ポーラ、強化の方はお願いするね」
「……これ、もう城壁」
城壁と言われればそうかもしれない。厚さ3メートルの防壁の上から矢を射れるようにした。
「……シグ様はデタラメ」
「……考えたら負けね」
スタスタと歩き出す僕を追いかけるセレネさん、ポーラは出来上がった防壁の強化を始める。
集落の防壁がある場所から100メートルの位置に、突然巨大な城壁が立ち上がったのを、バルスタン氏族の人達がゾロゾロと出て来て驚き騒ぎ始めている。
◇
突然の地響きに、跳ね起きて音のした方へと駆け出したローグの目に飛び込んで来たのは、集落の防壁の外側100メートル付近に、突然現れた巨大な城壁だった。
高さ10メートルはありそうな城壁は、なだらかな丘の上にある集落と比べても十分な高さがある。3メートルはある城壁の上には、外敵を弓で狙う為の工夫も見て取れる。
「ベルグ殿、あれは……」
「ローグ、シグ殿は凄いじゃろう。儂が支えるんじゃ。凡百な輩である筈がないじゃろう」
自慢気にベルグはそう言うが、空白地帯に生きるローグ達の中に、属性印を持つ者は少数なので魔法を使える者は少ない。だからシグの土属性魔法がどれくらいの物か判断がつかない。ただ、尋常じゃない事だけは分かった。
立ち上がった城壁は、土から石へと変わり、そのままでも多少の魔法攻撃なら防ぎそうだった。
「あの城壁を更に、ポーラが強化する予定じゃから、宮廷魔術師の魔法でも防げるぞ」
「……宮廷魔術師の魔法が、どんなものかは知らないが、これで蛮族を怖れずに暮らせる」
ローグは、ドンドンと立ち上がる城壁を呆然と見続ける事しか出来なかった。
「では儂は鍛治小屋と炉を造ってしまおうかの」
立ち尽くすローグを残し、ベルグは集落の中に戻って行った。
ベルグは、炉を造るところから始める。
マジックバッグから取り出した簡易の魔力炉で、鍛治小屋と炉の材料となる耐火煉瓦を造るためだ。
ベルグのマジックバッグから煉瓦の素材が大量に出てくる。それをベルグは、土属性魔法で成形していく。
手先の器用さと、巧みな土属性魔法で、ドンドンと煉瓦が作られていく。
再起動をはたしたローグ達バルスタン氏族の男に頼み、ベルグが土属性魔法で仕上げた基礎の上に、材木で柱や梁を組んでもらう。
シグ達が昼食の為に戻って来た頃には、鍛治小屋はほぼ完成し、魔力炉も完成間近だった。
シグ達が昼食を食べる事にローグをはじめとする集落の人間は驚いていた。貴族でもなければ、一日三食食べる習慣はない。実際、ベルグやポーラ、セレネも一日二食だったが、シグと一緒に行動するようになって、シグに合わせて三食食べるようになったのだ。
◇
バルスタン氏族の集落を取り囲む防壁……いや、もう城壁って言ってもいいかな。うん、やり過ぎた。でも後悔はしてない。
一辺が500メートルの正方形の城壁は、セレネやローグさんに言わせると、たった四日で完成した。
門は北と南に二箇所作られ、頑丈な木製の門をポーラが付与魔法で強化してある。
丘の上の僅かな平地で行われていた畑作も、広がった緩やかな斜面の一部に段々畑を造り、食料が安定的に供給できるよう考えた。
「畑にしない場所で、家畜を飼ってもいいな」
「……もう言葉もないわね」
完成した防壁をチェックしていた僕に、セレネが諦めたように呟く。
セレネと呼び捨てになっているのは、本人からセレネと呼ぶようキツク言われてから、そう呼ぶようにしている。
「ベルグの方はどうかな」
「ローグさん達に渡す装備は作り終えたみたいよ。シグ君の長柄武器を打つ前に、魔力炉を馴染ませる序でらしいけどね」
僕とポーラが集落の周りを防壁で囲い、防衛力の強化をしている間に、ベルグは手早く鍛治小屋を建てると、魔力炉を造りあげ、バルスタン氏族の戦士に渡す装備を造っていた。
鋼鉄製の鏃(やじり)と槍、革鎧と円盾を戦士の人数分用意した。
特別なエンチャントはかけられていない普通の武具だけど、この空白地帯に暮らす人達にとっては、とてもじゃないけど手に入れる事が出来ない装備だ。
「さて、ベルグとどんな長柄武器にするのか相談してこようかな」
「私も行くわよ」
「ルカもーー!」
僕に抱かれているルカが両手を上げて、自分もついて行きたいと目一杯主張する。
ルカを一人には出来ないので、言われなくても連れて行くんだけどね。
セレネの防具は新しくした方がいいかもしれない。重たい金属鎧を装備できないセレネには、僕のと同じは無理だけど、龍の鱗を使うだけでも防御力は跳ね上がるだろう。
風属性と水属性の神印を持つセレネは、森の住人エルフらしく弓の扱いも上手い。あとは懐に入られた時に対処できるよう、近接武器を考えよう。
もうセレネは身内だ。僕が拒めなかったのは、僕もそれを望んでいたからだと思うから。
ルカを片手に抱いたまま、ベルグの居る鍛治小屋へと歩き出すと、ごく自然にセレネが僕と手を繋ぎ、三人で集落の中へと向かった。
家族ってこんな感じなのかな……ねぇ、母さま…………
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