『笑』

露草 はつよ

第1話『笑』

 「うううううぅぅぅ……。う゛う゛ううううっ!」


 うめき声が聞こえる。


「いきんでっ! ほら、頑張って! お母さんになるんでしょう!!」


「咲子っ! 頑張れっ!!! そうだ、いいぞ!!」


「奥さんっ! もう少し、踏ん張ってくださいっ! 今頭がっ!」


 他の音も沢山聞こえる。

 でも何を言っているのか、わからない……?

 頭が……痛い……。痛い、痛い。……でも、でも、この先に何かいいことがある気がする……。


「はぁっ!! はぁあああああっ!!」


「咲子っ!! もう少しだっ!!」


 あ、何か上の辺りがどこかへ出た。なんだかスースーする……。


「奥さんっ、頭がもう少しで全部出ますっ! そのまま私が引っ張りますからっ! もう少しですっ!」


「はああああっ!!」


「咲子っ、諦めるな!!! もうすぐで、会えるぞっ!!!」


「うんっ! ううう゛う゛う゛あっ!」

 

 すぽんっ、とどこからか引っ張り出されてしまった。

 そして息が急に苦しくなる。

 無意識に体の一部を動かすと、どこからも無く大きな音が響く。


「あああっ! あぁああっ!」


「やったぞ! 咲子!! 良くやった!!!」


「はぁ、はぁ。……私に見せて。抱かせて……」


「お疲れ様です。奥さん、よく頑張りましたね」


 どこかへと運ばれる。

 振動が収まると、いい匂いの安心するものに囲まれた。


「……かわいい。ねぇ、あなた。男の子よ」


「あぁっ、ああっ、そうだなっ!! 本当にかわいいっ。ありがとうっ! ありがとう、咲子おおおお」


「もう、泣かないで……。ほらほら、二人揃って泣いてないで」


 自分を囲う何かがゆっくりと揺れる。すると、自分が発する音が徐々に収まってゆくのを感じる。


「う゛んっ。でも、本当に可愛いなぁ。鼻の部分が咲子そっくりだ。」


「あら、目元はあなたに似てるわ」


「ははっ、じゃあ将来はイケメンになるなぁ」


「そうね。ふふ……」


 薄っすらと目を開けると、ボンヤリと世界が写った。


「あっ、ほら目が」


「おっ本当だ。うわあ、まん丸だ」


 一番最初に写った世界には、穏やかに弧を描く六つのモノがあった。

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『笑』 露草 はつよ @Tresh

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