『青』
露草 はつよ
第1話『青』
三年生最後の夏。
その言葉がこの年、この季節に入ってから周りに言われる言葉ナンバーワンだと自分は思う。
一年生の時までは他人事、二年生になってからはまだまだ先だと思っていたその夏に今自分は立っている。
小さなコートを走り回る仲間と敵。
この会場の中で、諦めの表情を浮かべる顔はどこにも見えない。この瞬間試合をしている自分たちも、ベンチで立ち上がりこちらを応援しているコーチやマネージャーたち、そして後輩や試合の途中で怪我をして足に包帯を巻きながらも必死に声を張り上げる友人、上の席で大きな声で応援をしてくれる人たちにもそんな色は一切見当たらない。
それは敵方も同じだった。
今まで準備してきたものの最大限をここで見せる時だと、頭ではわかっているのにも関わらず体の動きは鈍っていく。汗が身体中から吹き出しては、伝っていくのを感じる。
「はっ、はっ」
短く切れる息が耳についてしょうがない。仲間の声が遠くから聞こえる。
最後、最後だ。まだいけるだろう?
そう体に問いかけて、歯を食いしばり無理やり体を起こす。時間をみるともう最後の五分を切っていた。
もうここは、技術や戦略のぶつかり合いではない。意地と意地のぶつかり合いだ。
「西谷っ!!」
仲間の佐藤が呼ぶ声がして、ボールがこちらに渡る。受け止めるとパンッといい音がして手にこの三年間触れてきたボールが手に収まった。
苦しい息を耐え、走り出す。ドリブルをする手さえも力が百パー出ているように感じない。
それでも、それでもっ!
足で急ブレーキを踏み、高く高く足の力が許す限り、飛ぶっ!!
「っっっう、おらああああああああぁぁぁぁ!!」
投げたボールの行く先を目で追う。
ボールはリングにあたって一度二度跳ね……入っ……た。
足元を疎かにしていたから、着地と同時にバランスを崩し尻餅をつく。
そして、時計がゼロを表示した。
ビイイイイイイイィィィ!!!!!
サイレンが鳴り響き、会場がワッと湧く。
「優勝っ、
審判の声が歓声に紛れる事なく耳に入ると同時に、俺は雄叫びを高らかにあげた。
『青』 露草 はつよ @Tresh
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