4 布石

「座って話をしよう。……と言いたいところだが、あいにく用意がなくてね」


 永遠に続くかと思われた美丈夫と地竜の戯れは、美丈夫の一言により思ったよりも早く終わった。微妙な顔で立ち尽くすカリム達に気を使ってくれたのかもしれないが、地竜の方は撫でる手が止まったことに不満があるらしく、鋭い目がこちらへと向けられる。

 居心地の悪さはあるものの、このまま話が進まないのも困る。カリムははどうにか話を進める引っ掛かりを探すのと、純粋に地竜から目をそらしたいこともあり周囲を見渡した。


 よくよく見ても土の中とは思えない整えられた生活空間。家具や調度品は不足がないように見える。しかしそれは、ここに暮らす2人にとっては十分ということだ。乱入者ともいえるカリムたちの分まで用意されているはずもない。


「直になってしまうけどいいかな?」


 申し訳なさそうな声に視線を戻すと、声と同じ表情を浮かべて美丈夫はこちらを見つめていた。エミリアーノが「気にしなくていい」と慌てて両手を振り、カリムも押しかけたのはこちらであるし構わないと頷く。


 学校に入学する前ならともかく、今のカリムは野宿すら経験済みだ。

 二番目の兄には、お前野生に帰ってねえ? と若干引かれたくらいには慣れてしまった。もともと野山を駆け巡っていたラルスも抵抗はなく、きらびやかな見た目のわりにはサバイバルなれしているエミリアーノも問題がない。


 カリム、ラルス、エミリアーノはその場に座る。

 手に触れたカーペットは貴族出身のカリムからしても手触りがよく、同じことを思ったのかエミリアーノがかすかに目を見開いた。家具のセンスといい高級品を使い慣れた様子といい、どちらかが貴族出身なのかもしれないとカリムは思う。

 それと同時に、この中で特に貴族然とした男の事を思い出す。皆同じことを思ったらしく、視界に収まったエミリーアとラルスも同じ方向を見ていた。

 3人の視線の先には直立不動のヴェイセルがいる。腕を組み、不機嫌そうに眉を吊り上げたヴェイセルは、聞いてもいないのに声を張り上げた。


「俺は立つ!」


 予想通りの答えだと苦笑するエミリアーノに、さすがヴァンパイア。と少々呆れるラルスとカリム。座れといっても意地でも立つだろうと予想を立てるまでもない事実を前に、カリムはあっさりとヴェイセルから視線を外した。

 すると、予想外という顔でエミリアーノを見つめている美丈夫が視界に入る。


「君はいいのかい?」


 てっきり君もたつと思っていた。そう続きそうな様子に、カリムは改めてエミリアーノを見つめる。

 華やかな色彩の髪と瞳をしているが、人形にすら見える整った容姿はヴァンパイアの特徴だ。それに加えて異種双子であればかすかに感じられる魔力。美丈夫はエミリーアノもヴァンパイアだと確信している。だからこそ、迷いなく座ったことに驚いているのだろう。


「気にしないで。あっちのお坊っちゃまと違って慣れてるから」


 エミリアーノは笑みを浮かべて、やけに「お坊っちゃま」を強調した。それに一瞬だけヴェイセルが居心地悪そうな顔をする。

 この2人の関係もなかなか奇妙だとカリムは思ったが、美丈夫の方も意外なものを見た。という反応をする。それはすぐに美しい笑みに置き換えられ、初対面で他人の事情に踏み込まない。引き際をわきまえた様子は見た目だけでなく中身も大人の男性である。そうカリムに意識させるには十分だった。


「突然押しかけたことを謝罪したい。僕の名前はエミリアーノ。差し支えなければ名前を聞いても?」

「問題ないよ。僕の名前はスティーヴン」


 目を細めて美丈夫、もといスティーヴンは綺麗に笑う。それから腰に抱きついたままの地竜に視線を向けた。視線で自己紹介をうながされた男は億劫そうに目を細め、嫌そうな態度を隠しもせずにこちらへ視線を向ける。


「俺の名前はアルバート。スティーブのお嫁さんだ」


 男らしいバリトンで宣言された言葉に空気が固まる。スティーヴンの腰に抱き着いたままだというのに、やけに誇らしげなアルバートにツッコミをいれることすらできない。

 前の前でカリムたちが固まっているのが見えていないかのように、スティーヴンはアルバートの頭をなで、良くできた。そう言いながら柔らかい笑みを浮かべる。子供を誉める親にも、さらに情の深い何かにも見えるやり取り。「お嫁さん」発言同様、突っ込める度胸はカリムにはなかった。

 エミリアーノやヴェイセル、他の人間であっても突っ込むのは無理だろう。そう思ったのだが、


「嫁……? スティーヴンさんの方じゃなく?」


 すぐ隣から心底不思議そうな声がした。勢いよくカリムが顔を動かすと、声と同じく不思議そうな顔をしたラルスの姿。

 首を傾げた姿は愛らしいが、お前よく突っ込み入れられたな。と自分の嫁の度胸……いや、鈍感さにカリムは先ほどとは違う意味で固まった。


 アルバートが「そうだが」と自信満々の笑みを浮かべる。

 エミリアーノが苦笑を浮かべて、ヴェイセルが「これだから異種双子は」と眉を寄せる。

 風評被害でしかないが、何人かの同級生が脳裏に浮かんでカリムは言葉を飲み込むことにした。一般的に見て、異種双子にバカップルが多いのは事実だ。

 しかしラルスはいまだ納得がいかないようで、んー? と唸りながら眉を寄せる。

 見かねたのかスティーヴンが口を開いた。


「君たちも僕らと似たようなものに見えるけれど。君の方がお嫁さんだろ」


 そういってスティーヴンが優雅に笑いかけたのはラルス。人の嫁を誘惑するなと喉元まででかかったが、ちょっとまて。とカリムは目を見開く。


「何でわかったんだ……」


 口から出たのは先程言おうとしたものは別の言葉。カリムの反応をみて、スティーヴンは満足そうに頷いた。ほぼ確信していたようだが、確認のために聞いたのだろうと察することは出来るが、気づいた理由が分からない。


「勘のようなものだよ。同じ立場だからね」


 スティーヴンはそういって笑う。そういうものだと思考停止しそうな美しさだが、納得はいかない。その理論でいえばカリムもスティーヴンとアルバートの関係に気づけたはずだ。経験の差。ということなのだろうかとカリムは眉を寄せる。


「えっ……君たち逆だったの!?」

 カリムが考えていると、すぐ隣から驚きの声があがった。見ればエミリアーノが初めて聞いた。という驚愕の表情を浮かべて、カリムとラルスの顔を交互に見ている。


 ラルスの方が上だと思われているだろうとは思っていた。

 身長が低く、鍛えてはいるもののカリムの体型は小柄。見た目も女性的と言われるものだ。役割分担で言えば女役。そう思われるのも仕方がない。

 ラルスと付き合っていることで勘違いされ絡まれた数だって多い。見た目のわりには強い腕っぷしで撃退しているから大事ではないのだが、女役だ。そう思われるのは、ラルスにかっこよく見せたいカリムとしては嫌なことだ。

 立ったままのヴェイセルを見ても、エミリアーノほどではないが驚いた顔をしていた。やはり世間一般的には自分が下かと認識し、ため息をつく。


 そこで視線を感じた。

 視線の先にはスティーヴンが座っている。以前、大きな花嫁を腰にまとわりつかせたまま。苦笑というには整いすぎた表情を浮かべ、カリムに頷く。

 その気持ちわかるぞ。

 そういう頷きだと理解して、スティーヴンもカリムと似たような視線を浴びているのだと気付く。むしろカリムよりも絡まれる回数は多いだろう。カリムは限られた趣向の者しか引き寄せないが、スティーヴンであれば趣味趣向も関係なく、引き寄せてしまいそうな色香がある。


 あらためてスティーヴンとアルバートを見る。そうすることで世間から見た自分たちの印象を客観視できる気がした。

 スティーヴンとアルバートほど極端ではないが、まったく外れてもいないはずだ。そう思ったカリムは、スティーヴンに一方的な親近感を抱く。この人とは出来れば仲良くしたい。話もしたい。そう思い始めたところで、ラルスがああっ! と声をあげた。


「嫁って……え!? そういうことか!?」


 ピンと上をむいた耳。真っ赤になった頬を見るに、ラルスはやっと嫁。の意味に気づいたらしい。相変わらず鈍いなあ。とカリムが呆れ半分。いとおしさ半分で見つめていると、視界のはしでスティーヴンが驚いた顔をしたのがわかった。おそらくは「今気づいたのか」という意味で。

 アルバートは「なんだ犬っころ。うるさいぞ」といった様子で顔をしかめたが、スティーヴンが頭をなでると、すぐその手を体をすり寄せる。

 あれは無自覚なんだろうか。いちゃつかないと死んでしまう病気なのだろうか。と思いつつも、同時に羨ましくもカリムは思う。ラルスはあんな風に全身で甘えてくれることはまれである。人前であればなおのことだ。


「君も同じ立場で、可愛がってもらっているんだろう?」


 ラルスには微笑みかけたスティーヴンはそういいながら、アルバートをなでる。ずっと頭を撫でていた手が頭の形をなぞるように動き、耳を撫で、頬の輪郭をなぞって顎へと移動する。無邪気に甘えていたアルバートがピクリと反応し、じわじわと頬が赤くなる。

 今まで以上に見てはいけないものを見せつけられている気持ちになり、カリムは慌てて目をそらした。目をそらした先にいたラルスは直接触られているアルバートよりも真っ赤だ。


 ラルスは落ち着かなさげに視線を動かして、カリムと目が合うと涙目で眉を下げる。私以外にそういう顔見せるなとカリムは思わず、ラルスの手を引いた。

 いきなり引っ張られたことでバランスを崩したラルスの頭を強引に胸に押し付け、周囲に顔が見えないようにする。これで一安心と落ち着いたカリムとは違い、ラルスは居心地悪そうに身じろぎした。

 それでも無理やり逃げようとはしない。少し体を動かしてちょうどいい位置を見つけると、ほうっと安堵の息をはいて頭を擦り付ける。揺れるしっぽにリラックスした様子の耳。うちの嫁かわいすぎないか。とカリムが悶えていると、ゴホン。とやけに大きな咳払いが聞こえた。


 見れば、見ただけで不機嫌だとわかる顔でヴェイセルがこちらを睨み付けている。いつまでいちゃついてるつもりだ。お前ら。と副音声が聞こえてきて、カリムは顔をひきつらせた。

 怒ったヴァンパイアは怖い。顔が整っているだけに、凄みがある。

 だからこそ、下位種でありカリムよりも怒気や敵意に敏感なラルスが見ないようにとカリムは腕に力を込める。


「まーまーヴェイセル。家帰ったらステファニーと仲良くすればいいでしょ」


 隣で事の成り行きを見ていたエミリアーノがのんきな声を上げる。年上らしい余裕の表情とからかいを含んだ視線にカリムはいたたまれなくなった。

 同時に「ステファニー」という名前が気になる。聞き覚えがないのもそうだが、言い方からしてヴェイセルの恋人。

 出会ってそれほど立っていないが、ヴェイセルに恋人がいる。その想像がつかずにカリムは驚いた。

 言われた本人のヴェイセルも、眉間にさらに皺を刻んでいる。しかし、その表情は今までの不機嫌そうなものとは種類が違って見えた。どう反応していいか迷うような複雑そうな表情で、一瞬だけヴェイセルはエミリアーノから視線を逸らす。

 それから今度はわざとらしく意地悪い顔をして、エミリアーノを見つめ直した。


「お前もな」


 そういわれた瞬間にエミリアーノの動きが固まった。表情がぎこちなく動いて、視線が明後日の方向をむいている。

 エミリアーノには長年すれ違いを続けた片割がいる。詳しい話をカリムは知らないが、やっとくっついたと聞いたのはつい最近の事だ。しかしその交際は何とも微笑ましいものであるらしく、ラルスの元には「鬱陶しい」と温厚なヴィオらしからぬ手紙が届いている。


 痛い所をつかれたエミリアーノをみて、ヴェイセルはふん。と鼻をならした。

 幼馴染とはこういうものなのか。なんか微妙にすれてないかとカリムは眉を寄せる。


「それで、君たちは何の用でここに来たのかな?」


 話がひと段落したのを見計らってか、スティーヴンが話の確信を口にした。蕩けていたアルバートがきつい眼差しをこちらに向ける。スティーヴに危害を加えるようなら容赦しない。そう語るぎらついた瞳にカリムは顔をひきつらせた。


「……実は、この鉱山跡地にヴァンパイア。それと謎の大きな生き物が住み着いたから調査してほしいって依頼がきてね」

「ヴァンパイアと謎の大きな生き物」


 スティーヴンはエミリアーノの言葉を繰り返すと、ゆっくりとアルバートをみる。アルバートはスティーヴンと視線が合ったのがうれしいらしく、こちらに向けるのとはまるで違うふにゃりとした幼子のような笑みを浮かべた。


「……もしかしなくても、僕とアルのことかな?」

 エミリアーノは気まずげに頷いた。


「……なるべく目立たないようにとは思ったんだけど、無理だったか……」


 スティーヴンはそういって苦笑する。近隣に配慮しようとはスティーヴンなりにはしていたのだろう。あの咆哮やら地響きからいって、アルバートの方がしていたかは微妙なところだが、スティーヴンに言われた最低限の配慮くらいはしたのかもしれない。


「これだけ大きな穴を掘ってか?」


 ヴェイセルは納得いかないらしく部屋を見渡して眉を寄せた。

 言いたいことも分かる。いくら配慮しようとも、ここまで来た道のりや穴の入り口を思い返せば大規模な工事だったと思われる。完成してからヴェイセルの元に連絡が来た事の方がイレギュラーで、本来であれば作っている間に見つかっている案件だ。

 近隣の村は隣接しているわけではない。木々に囲まれて見えにくい場所であるということ、元鉱山という事もあり再利用の工事。そのように近隣住人が勘違いしたのだろう。結果、全ての準備が整ってから発覚したわけだ。


「スティーヴ。ここはダメだ。もっと人が来ない場所にいこう。俺が場所を探す」


 話を聞いているのか分からない調子だったアルバートが、これ幸い。といった様子でスティーヴンに語りかける。どことなく輝いた赤い瞳は、おもちゃを前にした子供にも見える。しかし、それに対してのスティーヴンの返答はよいものではなかった。


「君に任せたら、『人の国』の外の地下深くになるだろう。僕はもう少し文化的な生活がしたい」


 最後の一言は実に切実だった。

 カリムは改めて部屋の中を見る。十分に文化的に見えるが、ここまで作り上げるには相当な苦労をしたはずだ。それにいくらな内装を整えたところで、鉱山だという事実は覆らない。


 竜種はパートナーとなる相手への執着が強い。地竜は特に好きな物を地下の奥深くにしまい込む特徴があるために、竜種の中でも愛情表現過多だと言われている。見ただけで人の視線を集めるスティーヴンのような相手であれば余計に、誰の目に触れない、自分だけの空間にしまい込みたい。そういった欲求が強くなるのかもしれない。


「つまり、ここは妥協案ってことか」


 だいたいの事情を察してカリムがつぶやくと、スティーヴンはわかってくれるか。といった顔で頷いた。散々話し合って、主張をすり合わせた結果がこの場所だったのだろう。

 むすりとしたアルバートを見るに不満はあるらしいが、そこら辺はスティーヴンが上手く丸め込んだのだろうと想像できた。


「王都からも遠くないし、一目につかないし、少し歩けば小さな村はある。自給自足できなくはない。それでいて地竜が好きな洞窟に条件が近い。君たち2人にとっては最適な場所かもしれないね」


 エミリアーノも納得した様子で頷いた。

 アルバートが小さく「俺はもっと人が来ない場所がいい」と呟いたが、スティーヴンもエミリアーノも聞こえないふりをした。当然カリムとヴェイセルもだ。

 未だカリムに抱きしめられたままのラルスも、流石に空気を読んだらしく、キョロキョロと視線だけ動かしてそれぞれの様子を観察している。


「なるべく静かに過ごすように努力する。許可をくれとは言わない。その代わり見逃してはくれないかな」

「元々、放棄された場所だし、僕は出て行けとまではいかないけど……」


 そこでエミリアーノはチラリとヴェイセルを見た。

 もともとはヴェイセルが依頼された案件。ヴァンパイアへの風評被害だ。そう怒っていたのもヴェイセルである。この場で一番地位があり決定権があるのもヴェイセルだ。

 ヴェイセルはスティーヴン。それからアルバートを見つめ、眉を寄せた。


「……この地に住んでいるのが我が同族ではない。そう証明さえされれば、誰が住もうと自由だ。ここの土地の権利はとっくに放棄されている」

「ってことは、近隣の人たちを説得さえすればいいわけだね」

「どうやって?」


 未だカリムの腕の中のラルスが首を傾げた。

 その無邪気な質問にヴェイセル、エミリアーノ、スティーヴン、カリムは顔を見合わせる。怖がられる元凶であるアルバートは若干拗ねた様子でスティーヴンの腰に顔をうずめ直していた。


「……こっちでも無害だってことは言っておくけど、スティーヴンさんも良ければ、近隣の村の人に一言言ってもらえれば……」

「……近所付き合いは大切だっていうからね……」


 近所付き合いというくくりに収めていいものなのだろうか。そうカリムは思ったが、スティーヴンの見た目を改めてみれば、鉱山跡地に住んでいようと、異種双子トゥインズだろうと、その片割が地竜の大男だろうと、全て「美形である」の一言で解決しそうな気がした。

 近隣への挨拶。という流れでアルバートが嫌そうな顔をしたが、そこもうまい事説得してくれそうな気がする。


「こちら側でも安全だと伝えておくが、あまり怖がらせるようなことも控えてほしい」


 まとめとしてヴェイセルが偉そうに宣言する。アルバートに「なんだコイツ」という視線を向けられても折れない心の強さはある意味すごい。そう思いながらカリムが眺めていると、ヴェイセルはなぜかカリム、そしてラルスへ視線を動かした。


「定期的に、この仲介屋に様子を見に来させる。何かあったらこいつ等に言ってくれ」

「はあ!?」


 事件解決か。と他人事で聞いていたカリムとラルスはいきなり矛先を向けられて、素っ頓狂な声をあげた。驚きと非難をこめてヴェイセルを見るが、視線を合わせることもなくヴェイセルは入ってきた出入り口へと向かう。失礼した。という言葉を最後に部屋を出ていく後姿に迷いはない。

 あまりにの横暴すぎる態度にカリムもラルスも言葉が出ない。


 背後からはアルバートから「お前らも帰れ」と視線が突き刺さっているし、スティーヴンからは生ぬるい視線が送られてきている。見れば同情するようにも、面白がるようにも見える表情を浮かべてこちらを見る青い瞳にカリムは何も言えず、とりあえず残されたもう一人のヴァンパイアへと視線を向けた。


「2人には悪いなあと思うけど、ヴェイセルは論外だし、慣れてない人を様子見に来させて揉めても困るし……。。僕も王都にずっといるわけでもないし……」


 小さくなる声とそらされる視線。それで未来はもう決まったようなものだった。


「長い付き合いになるかもしれないな。どうぞ宜しく」

「邪魔だ。帰れ」


 スティーヴンからは面白がるような明るい言葉。アルバートからはスティーヴンがいなければ食い殺せるのに。という殺気。

 真逆ともいえる感情を同時にうけたラルスは耳をぺたんと下げ、カリムはぎこちなく頷いた。

 こうなったらきっちり仕事として、ヴェイセルに請求してやる。手当として高額請求してやる。そうカリムは固く決意する。その第一歩として、来月様子を見に来る日取りをアルバートの機嫌を伺いながら決めたのであった。


 これがスティーヴンとアルバートとの出会いであり、カリムがスティーヴンを師匠を呼ぶようになる、少し前の出来事である。



【ゲスト出演】

作者:ミカヅキ様

本編:Travelers・Link

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885514825

お借りしたキャラクター:

スティーヴン(スぺルビア)さん

アルバート(アケディア)さん


※2人がメインの番外編

「敗者と成るは獅子か熊か」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886158386


この度はゲスト出演いただき、誠にありがとうございました!

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