許容限界

 異種仲介屋。その名が聞こえ始めたのは最近の事。

 名前の通り仕事は仲介。

 ただ、異種。という名前がついていることから分かるとおり、普通の仲介屋ではない。専門として扱っているのは異なる種族同士の仲介。

 あらゆる異種族間のトラブルを緩和することを目的として、とある貴族の協力のもと起業されたのである。


 様々な種族が暮らすこの世界。

 とくに王都は近年、異種交流が盛んにおこなわれる場所となった。それにより今までは起こらなかった種族差による習慣の違い、差別意識などによるもめ事も増え続けている。

 そういったもめ事を解決し、相互理解のきっかけになるため、間に入り仲介する。それが異種仲介屋という仕事であった。


 といっても、この仕事は始まったばかり。まだ試行段階の域からは出ていない。

 仕事をしているのは2人だけ。経験も浅く、本当にうまくいくのか。と怪しむ人の方が多い現状。

 それでもかすかな期待と注目を集めているのが、その2名というのが異種双子トゥインズという、世界的に見ても珍しい存在だからに他ならなかった。


 あまり広くない応接間にて、異種仲介屋の2人。人間であるカリムと、ワーウルフのラルスは顔をしかめていた。

 カリムは実年齢よりも幼い顔立ち。一言でいうなら美青年。身長も成人男性にしては低め。左耳側だけ髪を伸ばし三つ編みにする。という特徴的な髪型をしている。

 表情は無表情が多い。容姿がいいんだから笑え。というのが周囲の意見だが、片割であり人生のパートナーであるラルス以外には表情筋が死んでいることで有名である。


 一方のラルスは成人の平均身長より少し高いくらいの、筋肉質。というほどではないがほどよくしまった体つきの青年だ。

 目つきは悪いと自他ともに認めており、口調も荒っぽく、初対面では怖い人。と誤解されることが多いのだが、ワーウルフらしく慣れれば人懐っこい性格である。

 そのひとなつっこさがたびたびカリムを苦労させているが、それは今回の事には関係ないので脇に置いておく。


 そんな2人が営む異種仲介屋に珍しくお客が訪れていた。

 始まったばかりの試行段階のため、客足がいいとは言えない。正直本職よりも繋ぎの仕事の方が儲けになる現状。ここで何とか仕事を成功させ知名度をあげた彼らにとては重要な案件。

 なのだが、それにしては2人の表情は暗かった。


 なぜなら、依頼主である親子が目の前でずっと言い合いを続けているからだ。


「だから、彼女は悪くないっていってるだろ! 何か行き違いがあったのか……とにかく俺が悪かったんだ! 謝れば許してくれる!」

「結婚直前にいきなり婚約破棄してくる女のどこがいいんだ! これだから異種族は! 何考えてるか分からない! 野蛮ときてる! 黙って人間の女にしろと言っただろう!」


 顔を赤くして至近距離で怒鳴り合う親子を見て、2人は遠い目をした。

 詳しい事情を聴き始めてすぐにこれである。怒鳴り合いを聞いていれば何となく事情は見えてきたが、とにかく落ち着いてほしい。

 人間よりはるかに聴覚がいいラルスは頭痛がしてきた。


「怒鳴り合いの喧嘩がお望みなら、ここではなく家でやって頂きたいのですが」


 いい加減に我慢が出来なくなったのか、カリムが腕を込み親子をにらみつけた。童顔ではあるが顔立ちが整っているので睨む表情は怖い。声にも温度がなく、抑揚もなく淡々と告げられるために興奮した頭には響いたのかもしれない。

 親子は気まずげに視線を合わせ、お互いに言い足りない。という表情をしつつも、とりあえずソファに座り直した。

 ラルスは内心、カリムすげぇ。と拍手した。


「改めまして自己紹介させていただきます。種族間の仲介をしております。カリムです」

「ラルスです」


 堂々と自己紹介をするカリムに続いてラルスも自己紹介をする。といっても名前を名乗るだけのなくてもいいようなものだが、そこに突っ込むものはいない。


「何となく事情は分かりましたが、もう少し冷静に。落ち着いて事情を説明して頂きたいのですが、よろしいですか?」


 また怒鳴り合い始めたらたたき出すぞ。という威圧を込めた声音に親子は少し顔を青くして頷いた。

 カリムは代々軍人を輩出した家系の出身であり、武芸を叩きこまれて育ったため見た目に反して強い。そして上流階級特有のオーラやら威圧感を兼ねそろえているため、本気で怒るとなかなかに怖い。

 それをよく知っているラルスは、結構イラついてるな。とはたから見るとのん気にカリムの様子を見つめた。


 10才からの付き合いである。そのあたりは慣れ切っている。


「まずはそうですね、いきなりお恥ずかしい所をお見せして申し訳ありません。私の名前はエドワルドと申します」

「私はヘンリーです」


 細身の柔和な印象の息子がエドワルド。

 恰幅がよく短気そうな印象をうけるのが父親のヘンリー。

 親子だというのに真逆な印象をうける2人を見て、ラルスは面白いなあ。と他人事な感想を抱く。

 カリムは特に興味がないらしく、さっさと本題に入った。


「それで、この度はどのような事情があって仲介をお求めに? あくまで冷静に、客観的に、落ち着いてお話しくださいね」


 威圧を放ちながら、一単語ごと区切って話すカリムに親子はビクリと肩を震わせた。

 その反応は見事にそろっており、やっぱり親子なんだな。とどうでもいいところでラルスは実感する。

 のんびりと親子の様子を観察するラルスに対して、カリムはさっさと終わらせたい。という苛立ちを隠しもせず、初対面に受ける印象と反応が真逆な2人に親子の方も戸惑っているのだが、ラルスとカリムが気づく様子はない。


「その、私はこの度結婚が決まっていたんです」


 そう話始めたのは息子のエドワルドだった。

 話始めた途端にヘンリーが口をはさみそうになったが、すかさずカリムが睨み付ける。

 でかいし偉そうに見えるが、見た目に反して気が小さそうだ。そうラルスは様子を見ながら思った。


「その結婚が破談になったってことでいいのか?」

 

 普通であれば聞きづらいことだが、仕事から聞かないわけにはいかずにラルスは問いかける。

 エドワルドは顔を表情を曇らせたがうなずいた。それに対してヘンリーの方は眉を吊り上げて不満げに鼻を鳴らした。


「我々に仲介を頼んだということは、相手の方は異種族ですか?」

「猫又です」

「猫又? それはよくも射止めたなあ。あいつらかなり気まぐれだろ」


 人間と番うとなると同族のワーウルフかな。と勝手に思っていたラルスは目を丸くした。

 

 異種族が多い王都において特に多いと言われているのが、ワーウルフと猫又だ。2種とも下位種であり、他の種族に比べると人との差が少ない。

 身体能力が人より高い。五感が鋭いといった差はあるが、寿命は似たような者。見た目の差も耳としっぽがあるかないかであり、その耳としっぽも自由に出し入れできる。


 ラルスもワーウルフであるが普段は耳としっぽを隠しており、ワーウルフだ。と言わなければ人間の中に溶け込むことは簡単だ。10才から「人の国」で人間と共に生きてきた。という経験もあるが、他種に比べてワーウルフ、猫又が溶け込みやすいのは事実である。


「なかなか信用してもらえるまで時間がかかりました。私の一目ぼれだったんですが、この人しかいない。って思ってしまって。とにかく付き合ってほしいって頼み込んだんですよ。今思うと、よく嫌われなかったなって思います」

「異種恋愛は感覚の差が問題ですから、押しすぎるくらいでちょうどいいですよ」


 エドワルドの話に共感できる部分があったのか、先ほどよりも落ち着いた口調でカリムは同意する。そしてなぜかラルスの方をチラリと見た。

 ラルスが何? と首をかしげると、複雑な顔をするがラルスにはカリムの意図が一切分からない。

 ラルスは五感は鋭いが精神面においては鈍感だった。


「やっぱりそうですよね。周りには異種恋愛なんて難しいから止めろ。って言われたんですけど、どうしても諦めきれなくて。ずいぶん時間をかけて、やっと恋人になって、つい最近やっと結婚の約束ができたっていうのに……」

「あのメス猫はいきなり、婚約破棄だ。って息子が用意した指輪を投げ返してきたんだ」


 ヘンリーが鼻息荒く言葉をつづけた。大事な息子の純情が踏みにじられた。そう思って激怒しているのかもしれないが、メス猫って言い方は失礼すぎるだろ。とラルスは思う。

 カリムも不快そうな顔をしたが、一々突っ込むと話が進まない。そう思ったのか話をつづけた。


「婚約を破棄された理由を調べてほしい。そういう依頼でいいんでしょうか?」

「はい」

「息子の目もさましてほしい。人間は人間と一緒にいるのが一番平和で幸福なんだ」


 すがるようにこちらを見たエドワルドの言葉をうち消すように、ヘンリーが吐き捨てる。

 考え方は人それぞれ。事情も人それぞれ。そうは思うが、あまりにも頑ななのはどうなんだろう。というかこのおっさん。俺がワーウルフだって気づいてねえのか? とラルスは顔をしかめた。

 話を脱線させると面倒なので黙っているが、カリムの機嫌がまた悪くなっている。


 落ち着け。という意味を込めて服の裾を引っ張ると、なぜか体を硬直させた。それから何かをこらえるように口をムズムズと動かし、最終的に顔を手で覆う。

 どうしたカリム。病気か。という思ってのぞき込めば、ラルスの動きを遮るようにカリムは話を切り出した。

 なぜか必死にみえてラルスは不思議に思う。


「えぇっとですね。これだけだと調べようにも手がかりがないので、破棄された経緯を詳しく教えていただきませんか」

「詳しくも何も、いきなりメス猫が怒って、指輪を投げつけてきたんだ。しかも結婚式前の身内を呼んでの親交パーティーでだぞ。無礼にもほどがある」


 その状況を想像して、ヘンリーが怒る理由にも少し納得がいった。

 結婚式前に身内に息子の嫁を紹介する。そういう名目でパーティーを開いたというのに、結果的には息子が盛大に振られるところを身内に公開することになってしまったのだ。


「だから異種族なんて反対したんだ。お前がどうしてもというから、渋々許したというのに……」


 偏見にまみれた発言ばかりだが、息子の幸せは本気で願っていたのだろう。だからこそ裏切られたことが許せない。過剰なまでの反応はそれが原因か。とラルスは理解したもののどうにもふに落ちない。


「猫又が婚約までしたってなると、軽い気持ちじゃないはずなんだけどなあ……」


 ラルスのつぶやきにその場の視線が集まった。

 どういう意味だ。というカリムからの純粋な疑問、エドワルドからのかすかに希望に期待するような目。ヘンリーからの余計なことをいって息子をこれ以上傷つけたら許さない。という鬼気迫る視線。

 それを全て受け止めて、そういえばこいつらは人間。猫又に関してもそんなに詳しくないのか。とラルスは当たり前すぎてついつい忘れそうになることを思う。


 人間と異種族というものは根本的に感覚が違う。

 ラルスは人間の感覚が分からず、カリムに教えてもらう。

 逆にカリムは異種族の感覚が分からず、ラルスに教えてもらう。

 そうしてお互いに分からない感覚を補い合う。そうすることでカリムとラルスは互いを認め合うことができているのだが、それでもすれ違いや勘違いはたびたび起こる。

 エドワルドと猫又の間に起こったのもそれだろう。とラルスは本能で察した。


「猫又って言うのは気まぐれだし、縛られるのが苦手なんだよ。契約ってなると露骨に嫌そうな顔するし、口約束だと気分優先で守らないのもよくある」

「やはり、ろくでもないじゃないか」


 ヘンリーが鼻息荒くそういって、エドワルドが表情を曇らせた。

 膝の上にのせた手を不安げになでる。指には相手からは投げ返されたという指輪を付けていた。諦められていないし、現実を受け止められてもいないのかもしれない。


「話は最後まで聞けって。

 たしかに自由だし、縛られるのも嫌いだけどな、世の中の犯しちゃいけないルールはよくわかってる。犯したら自分たちにとって不都合だって分かること。契約なんていう重要度が高いものは破らない。

 だから自由に動きにくくなる契約を極端に嫌がるし、なるべくしたがらないんだよ」

「何が言いたいんだ?」


 ヘンリーがいぶかし気な顔でラルスをみた。エドワルドも話が見えないらしく眉を寄せている。

 カリムは少し考えてからラルスが言いたいことを察した。


「婚約というのは人生において重要度が高い契約だな……」

「だろ。あいつらだって流石に婚約破棄なんて気軽に口にしない。そもそも、気軽に破棄するくらいならしないんだよ。猫又同士じゃ結婚。なんて形をとらずに、複数人相手がいたり、血のつながった親がだれか分からない。みたいなこともよくある」


 人間には理解できない感覚らしく、一同顔をしかめる。

 人間は結婚にこだわりが強い。結婚する相手は一人に絞って生涯を誓い合う。別れることもあるがせいぜい数回。猫又のように同時に何人もと付き合うのが当たり前。という感覚は分からない。


「そんな猫又が、人間の形式にのっとって結婚するって決めて、ただ一人を生涯愛する。って契約をしようとしてたんだろ。それって、お前のこと相当好きじゃなきゃ無理じゃね?」


 ラルスの言葉に下を向いていたエドワルドが顔を上げた。その瞳は驚愕で見開かれ、少しずつ実感がわいたのかじわじわと頬に赤みが増す。


「それならば、なんでメス猫は指輪を投げ返してきたんだ! エドワルドを愛しているならば、結婚式目前で婚約破棄なんてひどいことをするはずがないだろ!」


 与えられた情報と自分の目で見た現実。感情が追いつかないらしく、ヘンリーは再び怒鳴る。

 エドワルドと怒鳴り合っていたころに比べると戸惑い揺れた声。それを聞いたラルスはうるさいなんて思えなかった。


「それに関しては、聞いた話だけじゃなんとも……。そもそも何ていわれて指輪投げ返されたんだよ」

「この浮気者って……」

「はあ?」


 予想外の言葉にラルスとカリムの声が重なった。

 今までは一方的に猫又が悪く言われていたため、猫又の気まぐれさが出たのかと思ったが、浮気者。と言われたとなると話が変わってくる。


「浮気っていわれるようなことしたんですか?」


 先ほどに比べると冷めた視線でカリムがエドワルドを見た。

 だが、エドワルドは煮え切れない態度で首に手をあてる。


「そういわれても……ただパーティー会場であった女性と話していただけなんです。他の女性と話さないで。なんてこと言われたことないですし、彼女とは初対面ですし世間話をしていただけで……」

「話してただけで勘違いはされないだろ。何か勘違いされるようなことしたんじゃねえの?」


 種族関係なく女という生き物は機微に聡い。男が気付かない小さな違いに気づく事も多い。そうしたちょっとした違いに猫又は気付いて、エドワルドが浮気した。そう勘違いしたのかもしれない。


「エドワルドは本当に何もしていないぞ。パーティーに居合わせた女性の羽根の具合を見ていただけで」

「羽根!? って、もしかして翼種か!」

「それは勘違いされても仕方ないな……」


 叫びながら座っていたソファから身を乗り出すラルス。

 納得いった様子で腕を組むカリム。

 そんな2人を大げさともいえる反応を見て、ヘンリーとエドワルドは目を白黒させた。

 何がいけないんだ。そう表情で語る親子を見てカリムは苦笑する。

 これに関しては異種族と付き合っていないと分からない。ヘンリーの態度を見る限り2人とも猫又と出会うまでは異種族と疎遠だったのだろう。知らないのも無理はない。


「異種族は耳、しっぽ、羽根といった本質が出る部分を他人に触らせることを嫌がります。そのために普段は隠して人間に近い形をとっているわけです。

 特に猫又は耳やしっぽを滅多に出さない。触らせるのを極度に嫌がる種として有名です。

 触らせるのはほんの一握り。家族か恋人だけです」


 カリムの言葉にヘンリーとエドワルドはそろって目を丸くした。口をあけ、唖然としていた2人だが誤解の理由に気づいた瞬間にヘンリーは慌て、エドワルドは青くなる。


「ってことは、彼女は!」

「本人が言ってた通り、結婚式目前。家族への紹介パーティーで自分を無視して他の女と堂々と浮気する男。あんたを見てそう思ったわけだ」

「だ、だが、それならば何であの翼種は怒らなかったんだ!?」

「翼種は異種族の中でも変わり者。自分のツバサに誇りを持ってるから、積極的に触らせたがるんだよ。

 その猫又ってのは翼種の知り合いいなかったのか……知ってても許せなかったのか……。まあどっちにしろ、嫉妬されるくらいにはアンタは愛されてるってことだな」


 青くなっていたエドワルドの表情が今度は赤くなる。青くなったり赤くなったり大変だなとラルスが思っていると、勢いよく立ち上がった。

 今まで見せていた表情とはまるで違う。何かを決意した凛々しい男の顔で、エドワルドはラルスとカリムに頭を下げる。


「すみません。本来ならば依頼料を払うべきですが、早く彼女に会って誤解を解かなければ……」

「その方がいいでしょう。自分のテリトリーに戻られては人間にはどうもなりません。猫又は身軽ですから、決意を固めたら早いでしょう」


 カリムの話に頷くとエドワルドは勢いよく部屋を出ていった。慌ててヘンリーも後を追うが、必要以上についた肉が邪魔をしてなかな思うようにいかないようだ。

 止めるのも、手をだすのも野暮だとカリムとラルスは慌てていなくなった親子を見送る。


 いきなり静かになった部屋の中、ラルスとカリムは自然と顔を見合わせた。

 分かってみれば何と可愛らしい勘違いだ。必死なエドワルドの様子を見るに、このままケンカ別れにはならないだろうとラルスは胸をなでおろす。


「人間には耳もしっぽもないから、感覚が分かんねえんだなあ……」


 そういったラルスの頭には耳、おしりにしっぽが現れた。耳をぴくぴくと動かして、しっぽが左右にかすかに揺れる様子は、人がいなくなったために緊張が抜けくつろいだ様子を見せる。

 こうして種族の本質である耳やしっぽなどを自然に見せるのは、最大限の信頼の証。そう分かっているカリムの表情が緩む。


「猫又は気難しいというし、パートナーでもなかなか耳やしっぽを触らせないというからな。エドワルドは知る機会がなかったんだろうな」


 そういいながらカリムはラルスのしっぽをなでた。

 急所を触れる感覚にラルスはピクリと反応するが、嫌がりはせずに視線をカリムに向ける。


「でも、お前は私に触られてもいいだろう?」


 そういって微笑んだカリムの首にはラルスと同じ紋章がある。

 生まれた瞬間から、2人が運命で結びつけられた存在であると証明する唯一無二のもの。切っても切れない一生涯の、それこそ結婚なんてものより強い魂同士のつながりを示すもの。

 その紋章をじっとみてラルスは口を開く。


「お前の触り方はゾワゾワするからイヤ」


 いうと同時に耳としっぽを瞬時にしまい、そういえば休みの日は近所のガキと遊ぶ約束してたんだよ。と何の未練もなく立ち上がるラルス。

 しばしカリムは唖然とその姿を見送った。

 いや、さっきいい雰囲気じゃなかったか? 私の気のせいか?

 そう混乱している間に、玄関が開き、閉じる音がした。


「ら、ラルス―!」


 カリムの悲痛な叫びが室内どころか室外にも届いたが、よくあることなので誰も気にしない。もちろん慣れ切っているラルスも気にしない。


 今日も異種仲介屋は平和であった。

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