RPGっぽい異世界なう。
ノッペリと平面で構成された船体、ポリゴンCGのような多面体の艦橋、その艦橋に張り付いた八角形のフェイズドアレイ・レーダーっ!
海にそびえるミサイルと電子の要塞、イージス艦‼
垂直発射型ミサイルベイの中身があの「トマホーク」なら下手すりゃ「弾頭ハ通常ニアラズ」だぞ!
こんな木造船、幼児雑誌の付録みたいなもんだ! さっきのヘリの母艦か?
──アベさん! あの船はヤバイ! イージス艦って種類の、俺の世界の最強の戦艦です! 強さの次元が違う!
当のイージス艦、艦外スピーカーから何か言って来てる……が英語じゃないぞ⁉
ファムも驚く。
「この世界の言葉や! 停船しい、も一度言うで、停船しい、やて!」
ヒュウン、ヒュウンのサイレンが風に乗り大きく聞こえる。
でけえ! イージス艦って近くで見るとこんなにでけえのか!
もはや艦橋の窓の中で動く士官の表情まで見て取れる。悔しいけど、何を言われようと言いなりになるしか……。
ごうん、と足元の甲板が大きく揺れる。
おおう⁉
「きゃん!」
ファムが俺に掴まる。体当たりか⁉︎
あれ? でもぶつかるにはまだ距離が……。
あ! イージス艦も揺れて……⁉
なんだ? イージス艦の下! 海の中!
デカイ黒い影……潜水艦? いや! 違う!
怪……獣……!
海の表面が大きく膨らむと巨大な黒い生物が大量の海水を滴らせながら浮上した。
そのデザイン! ……見覚えあるぞ? 手が五本で全部の掌に眼がある……牛。
身長は100mくらいか。ホントにいたんだあの魔物。〆切ギリギリに書き殴った担当者のヤケクソだと思ってたよ。
巨大五腕牛はイージス艦の左舷を乱暴に掴むと
「んもぉぅっっ!」
うるさっ!
思わず耳ふさぐ大声で鳴いた。
そのまま一気にイージス艦をひっくり返すし、その船底にベジータが良くやる両手を恋人繋ぎのグーにして殴るやつで殴る。
バ、キイン!!
竜骨は完全に折れ、船体はビキン、バキンと断続的な破砕音を響かせながら真っ二つに裂け始める。
あーあ。轟沈だなありゃ。
ヒュウンヒュウン、ビィィーッビィィーッといろんな警報っぽい音が響が海水の中にくぐもって伝わる。
あまりにもあっけなくイージス艦が沈んで行く。最新鋭戦艦も怪獣にひっくり返されるのは想定外か。そういやここはそういう世界だった。
いや、あんな奴とどう戦うんだ?
──アベさん! 逃げましょう‼ とても戦える相手じゃない‼︎
「いや……大丈夫。あれは味方や、やて」
ええっ⁉ 味方っ? あの子が?
五本腕巨大牛は黒い煙のように滲むと形を変えて黒い大きな鳥になった。
鳥は優雅に洋上を舞い、ふわりと俺たちの船の甲板に降りる。
「ヒロ、紹介しよう。ウィンドウや、やて」
──初めまして鳥さん。人間のヒロです。
「案外早く再会できたわね……ヒロ」
──鳥さんがしゃべった? 言葉! 日本語? 声!
いや……ってか名前‼ お前は‼︎
鳥は再び滲むと、身長2m強のローブらしき服装の女の影に変わった。
──ウィンドウ⁉ ウェルトゥの番人、塔の管理者……あのウィンドウか⁉
「あなたたち何をしたの? ウェルトゥに。あなたたちがウェルトゥに触れた直後、ウェルトゥは消えてしまったわ。影も形もなく」──え? 消えた? ウェルトゥが? 塔から?
「塔の緊急機構が働いて、わたしは束縛を解かれた。ウェルトゥを捜し出し元通り塔に封印する為に。……何か妙な事したんでしょ?
普通じゃない願い方を」
──別に妙な事なんてしてねーよ!
ただ三人同時に命懸けてちょっとずつ違う願いを……しただけ……それが原因? もしかすると。
「やっぱり……無茶苦茶して。人の命懸けの願いってね、凄いエネルギーなのよ。三つも込めたらキャパるに決まってるじゃない。オーバーロードして座標固定の論理演算が壊れたんだわ」
──……そんなこと言われても。知らないもん。
「あなたたちを呼び戻したのはわたし」
──なにぃっ⁉︎ お前! お前のせいでっ! サマードリーム胸キュン大阪ツアーが……! 大阪ツアーが! なんてことしてくれたっ‼
「それはこっちの台詞よ! ウェルトゥは扱いを誤れば全ての世界が混ざったりほどけたりして大変なことになるのよ! 無茶した責任を取って事態の収拾に力を貸しなさい‼」──くっ……はぁい。ちぇっ。ああ! そうか! 無茶振りの人の鎧とかイケメンの馬とか……出処はお前か!
「強化の鎧ブリッツ・エイゼと持つ者をケンタウロス化する知性持つ槍シャベリン、ね」
──シャベリン? 知性持つから喋るの?
戦隊ヒーローの武器みたいなネーミングセンスだな。ヴァルキュリアスズ・シャベリンか……。相変わらずの主役要素含有率。
もうイケメン主役で一本映画撮ったら?「戦場のヴァルキュリアス」とかってタイトルで。一定数の女性ファンは付きそうじゃね?「ヴァル様♡」とか言って。
あ、ってことは槍の魔力が変身の原因なら槍を手放せば元に戻れるのかな。よかった。他人事とはいえ気になってたんだ。奴の今後の一生。人として社会復帰可能なのか、とかさ。
ゴロゴロ……。
見上げれば雨雲。
なんか暗くなってきたなぁ。きゅ、とファムが俺に寄り添って来る。……震えてる?
──どした? ファム。
「……怖い。なんか……なんかとんでもないもんが近づいてきよる」
ウィンドウも空を見上げ舌打ちする。
「……お出ましね。凄まじい魔力。伝承の通り」
──何が? 雨雲?
「ガイコツたちの親玉。かなりご立腹」
──親玉? 超でかいガイコツ?
「そんな生易しいものじゃない。古き海の悪魔。海魔ウァルセル・ウァルハァ」
──ウァルセル・ウァルハァ? ……ウィンドウがいれば平気だろ? もっかい変身して、さっきのモーモーアタックぶちかませ。
首を振る長身の影女。
「とてもかなわない」
──封印の壺とか、強力過ぎる禁呪とか、なんかないのか?
「古き悪魔の力は殆ど神と変わらない。わたしが契約してる悪魔なんてウァルハァから見たら使いっ走りよ。魔力の桁が三つ四つ違う」
──そんな……それじゃあ……。
その時、ぽーん、ぽーんと場違いな音が聞こえて来た。
なんだ? 海の方?
……‼
幼い女の子が!
海の水面に立ってる!
ぽーん、ぽーん、ぽーん……鞠をつきながら。
怖っ! なにあれ? 絶対関わっちゃダメなタイプのやつじゃん!
ぎゅうっ! とファムが抱きついてくる。
「ヒロ! もう、うちら……ダメかも知れん」
「ウァルハァだわ。弱点はある。深海の悪魔ウァルハァは乾燥と日の光に弱い。太陽神エル・エソォの神聖魔法なら効果があるはず」──ファム!
「無理や、うち……エル・エソォ様の魔法は使えへん」
──ラム姉ちゃんは⁉
「姉ちゃんも無理。太陽神様は通じ合うのが一番難しい神様やねん」
──じゃどーすんだ⁉︎ 俺たちこのままあの鞠つき少女にやられるのを待つだけなのか!
あ……鞠の音が止んでる。
少女は鞠を両手で持って水面に佇む。その足元の海面が怪しく光ると海面が盛り上がりそそり立つ。
雨雲は厚さを増し、辺りは夜中のように暗い。
そして突然、ものすごく激しい雨が降り始めた。
盛り上がった海の壁は黒々と夜空にそびえる停電のビルのよう……いや! もやっと二つの光が……あれは、眼?
黒い巨大な眼のある何か……これが海魔ウァルセル・ウァルハァ⁉
今度こそどうしようもねえっ‼
絶体絶命という正にその時、鳴り響くiPhoneのデフォルトの着信音!
誰だこの非常時に! マナーにしとけ!
「はい。ファタリです」
──いやそれ先輩の携帯! おまっ! こんな土砂降りの中!
「大丈夫よ清水君。生活防水だから」
──先輩⁉ そういや生活防水だっけ。ならいい……いや良くない! そもそも誰から? 流石に異世界から基地局は飛んできてねーだろ!
「はい、はい。えっほんまですか! はい。いえお願いします。はい。おおきにです。はい失礼します〜」
──……誰?
「太陽神エル・エソォ様。海魔は好かん、あんたとヒロは気に入った。もう一度、力貸したろやないか。480ウラーで……やて」
──480ウラー? 何の単位? いやまさか金取るの? 為替レート1ウラー何円? てか何故電話? 神様気安いなぁ……どんな神様だ!
「いくで、ヒロ!」
祈るポーズのファム。
──えっ⁉ ちょと待て! もう⁉
あ……ユニクロのジャケットが煌めく鎧に。手の海賊曲刀が輝く聖剣に。
ばさあっと、翼!
これ俺の意志とか心の準備とかこれっぽっちも関係ないんだ。寝てる時にファムが寝ぼけて祈ったら、俺布団の中で熟睡状態で聖騎士になんの?
ええいっ! もう知らん!
こうなりゃヤケだ!
──日輪の力を借りて! サンズゴッドパワー!ホーリーアップ! ソニックナイト・ヒロ‼
船の上空でポーズを決める!
しゃきぃーーーんっ!
──古き海魔ウァルセル・ウァルハァ!
罪のない船舶を徒らに沈めるその悪行!
太陽神エル・エソォに代わって成敗するっ!
一気に上昇して雨雲を抜ける。
集えこの剣に! 眩しい太陽! 輝く陽光! チャージ‼
巫女の愛と日の光とを集めたこの剣に、斬り払えない闇はない!
フィールド形成! マッハコーンモード!
エナジーウィング展開! 音速突撃!
一撃で決める‼
海魔に向けて一直線に加速する俺の脳裏に直接、ファムの心配そうな声。
『ヒロ! 姿みえへん、無事? 今どこ?』
今どこかって?
あぁ、そういやこっちに戻ってから言ってねえや。忘れてた。
声を大にして言おう! 万感の想いを込めて!
──RPGっぽい異世界なう!!
*** END ***
RPGっぽい異世界なう。 木船田ヒロマル @hiromaru712
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