マジで……? いや、マジで?


 えーと……まず眼に入ったのは、剣を振り回すガイコツ。


 遠景は碧い海。

 ギギィ、ギギギィと木の軋む重い音。

 足元は風雨に晒され年季の入った木の……甲板? 船の上?

 垂れ下がる複数のぶっといロープ。ゆったり揺れる足元。頬を打つ強い風に潮の匂い。


 新大阪駅、パイレーツフェア?


 取り敢えずそのままの体制のまま、そうっと一歩、後ろに下がって見るが……景色は変わらず。もう一歩下がろうとすると、なんか船室的な小屋の壁があるみたいでそれ以上下がれない。


 USJに来た? パイレーツオブカリビアン? いや、それは別のテーマパークだし、百歩ゆずってUSJだったとしても新幹線降りていきなりアトラクションなワケねえ。


 いやでも。


 そんなハズは。


 まさか。


 ……ウェルトゥは止まったんだろ⁉


 ガイコツたちが走って行く方に目をやると誰かが戦ってる。

 ガイコツの集団の真ん中。

 洋上の強い日差しにその刃が輝く度、骨の腕やら足やら斬り飛ばされたパーツが宙に舞う。

 身を起こし、ふ、と息を吐くその人物。


──アベさんっっ⁉︎


 やべ。つい叫んだら近くのガイコツたちがばっと振り向く。

 ガシャガシャと骨やサビサビ鎧やらをやかましく鳴らしながら数体のガイコツたちがこっち目掛けて駆けてくる。

 それに気づいたアベさん、自ら斬り飛ばし宙に舞ったガイコツの腕をキャッチすると、その手が掴んでた曲刀を

「ヒロッ!」

 こっちに投げた。


 ビィィンッ!と顔のすぐ横、背後の壁に刺さる刀。

 怖っ! けど武器は必要だ、ありがとうアベさん!


 俺は曲刀を引き抜くとファムを後ろにかばい、刀を構える……が。

 えっ、なんだこれ? 重さのバランスが……刃先側が妙に重い! 使い慣れた狩人ソードと持った感じが全然ちがう!

 構えた時の剣のポジションが収まり悪く、イマイチしっくり決まらず、マゴマゴする俺。だが勿論それを待ってくれるガイコッツではない。俺が扱いあぐねている剣を振りかざし、次々と斬りかかって来る。


 わ! ちょ! 待っ……!


なんとか切り結び防御し、隙を突いて斬りつけてみるが……斬れん! なんだこの刀っ!


 アベさんがガイコツなぎ倒しながら俺に何か叫ぶ。


「打ちつけるな、刃の曲がりで撫でるように斬れ! って!」

 撫でるように……?

「骨を断つ程の切れ味はない! 骨同士の継ぎ目を狙え! やて!」

 継ぎ目を! 撫でるっ!


 スパンッ!


 ガイコツAの腕が跳ぶ。


 なるほど、こうか⁉

 重い武器は確か……回す!


 後ろにファム。当てないように距離に気を配りつつ。


 ……行ける!

 こいつら、落ち着いてみれば動きは遅いし斬撃は大振りで一直線だし、敵わない相手じゃない!


 振った刀の勢いを殺さずカーブで流して次の攻撃に繋げる。時に手首だけ時に身体ごと。刀が円や八の字を描く。王の間のアベさんの斧のように。

 精密に骨の継ぎ目を狙い撃つ必要もない。至近に当てて上手く刃を引き斬れば、自然、最後は関節部分を断つ形に。


──おりゃあっ!


 一太刀でガイコツB、C、Dの腕が、胴が、首が両断される。

 開眼!新奥義。つむじ風!


「すごい……! ヒロ!」

 よかった。俺、ファムを護れてる。


 おっと……ちょ待て!

 団体さん⁉ 十体、いやもっと……わ! この! ちょ! ずる……いや、やばいやばい! 誰か〜! ヘルプ!


 その時、ガイコツ軍団の後ろに現れた黒い影。


 俺は我が眼を疑った。


 嘘だろ⁉ 倒したハズだ! 確かに!

 見覚えのある漆黒の鎧。棘と装飾。フルフェイスの禍々しい兜。


 キムタク! 死霊の王‼ なぜここに! 勝てねえぞ俺!


 キムタクは両手で長短二本の剣を拡げ高々と構えた。綺麗な構え。塔の時とどこか雰囲気が違う。


 ……来る!


 ガシャァンッ!


 奴の剣が、その間合いのガイコツ六体をまとめて砕いて甲板にばら撒く!


 ……え⁉

 どゆこと? キムタク、味方?


 驚く俺にキムタクは鎧のバイザーを上げた。

 あ! 無茶振りの人っ⁉


「暫くやなヒロ、やて」


──それ! 鎧! なんで⁉

「話は後や、まずこいつら片付けんで!って」

──ああそうだな、了解!


 残るは七体……いや、八体。

 俺とエレレンレン……えーと無茶振りの人とで一人あたま4体か。ギリ何とかなるか?


「きゃあっ!」


 ファムの悲鳴に振り向けば、やばい!

 背負ってた壁……船室の上から新手が!

 くそ! でもこっちも目の前の敵が……ファム!


 ガイコツが今にもファムに飛びかかろうとした時、俺はその「音」に気付いた。


 ぱかたっぱかたっと蹄の音? 馬?

 と思った瞬間、ごうっと一陣の風が彼女に迫るガイコツたちをなぎ払った。風の先端に鋭く長い槍の穂先がぎらついたのを俺は見た。

 風じゃない。

 折り返して再び槍を構えるその雄姿!

 イケメン! ヴァルキュリアス!

 騎馬によるランスチャージ!

 なんてカッコいい登場‼


 いや待て。

 あいつ……馬にまたがってるんじゃない。


 え! 何があったイケメン⁉

 お前、腰から下が馬になってるじゃん!

 ケンタウロス? ケンタウロスなの?


 一回事務所の社長とキチッと話した方がいいぞ。路線ブレてるって絶対。そんな極端なキャラ飽きられるのも早いしツブし効かねえぞ。


「話は後や……」

──はいはい、こいつら片付けてからね!


 イケメンが切り拓いてくれた活路を抜けて皆アベさんの元に集まる。群がるガイコツを千切っては投げ、投げては千切り。


──アベさん! 一体どうなってんです⁉

「すまんヒロ! どしてもお前が必要になってな」


 っと危ねえ! 話の邪魔っ!


 割って入って来たガイコツの右腕、左膝を楕円の一太刀で斬断する。崩れるガイコツ。

「腕上げたなヒロ! さすがはティクニグ・ウェルトゥ」

──いやっ! 正直ギリギリっす!

「ウェルトゥが大変なんや。それに異世界からまた妙な連中が、」

 アベさんと相対するガイコツの首が跳ぶ。

「入り込んで来とる! 大勢な!、やて」


──妙な連中? このっ! とりゃ! ガイコツたち?

「ちゃう。確信はないがあいつらは恐らくお前の……」


 アベさんの言葉を搔き消すように、空から聞き覚えのある轟音が近づいて来た。


 この音……バタタタタって。まさか!


「あいつらや」


 空! 飛んでいるのは紛れもない……。


──軍用ヘリ! 俺の世界の!

「やっぱりか。呼んで正解、やな」


 見た事あるぞあのヘリ。イラク戦争の実録映画の……なんとかホークダウンで!


 ってことはやってきた妙な連中って……米軍? 無理っ!


──アベさん、あいつら俺の世界の最強の軍隊っす! 武器も練度もハンパねえっ! ここは逃げるしか……!


【ピカドシャァァァンッ!】


 おウッ⁉ なに? 落雷⁉

 あ! ヘリが煙吹きながらクルクル落ちてく! 直撃か……。


──ファム? 君か?

「うちやない! ヒロ、見て! あそこ! なんか……飛んどる!」

──マジ? あ、ほんとだ! 遠いから微妙だけど……人? ……こっちくっぞ! やべ!


 空を滑り、ぐんぐん近づいてくるそいつ。

 ……女だ。電光のスパークを纏い、ビキニの水着みたいな服、逆立ち火花を散らす髪。

 いやどう見てもなんか尋常じゃねえ!


──なんかしんねえけどアイツやべえっ! 逃げるぞファム!

「……姉ちゃん」

──バカ、あんなんがお前の姉ちゃんなわけ……今なんつった?

「うちの姉ちゃんや! 二番目の! おーいっ! ラム姉ちゃーん!」


 ラム姉ちゃん……? マジか?

 もう……突っ込んでいいのか悪いのか。

 ファムの姉、ラムが甲板に降り立つ。ばちばちと身体や髪から放電の火花。


「ううう……うがあああっ!」


──お姉さんなんて言ったの? 挨拶?

「あかんっ! 姉ちゃん我を失いかけとる! ヒロ伏せて! ティヒ! エス・レフロゥッ‼」

 ファムの警告に全員が身を低くした次の瞬間。


 ズバァンッ!


 姉さんの両手から強烈な稲妻が迸り、周囲のガイコツを一掃した。いや……危ねえよ!


「全く、ラム姉ちゃん相変わらずやなっ!」

 ファムは足元に転がって来たガイコツの頭部を拾い上げ、天に吠えるラム姉ちゃんの後頭部へ全力投球した。


 ゴンッッ!


 倒れる姉さん。ふ、と火花もスパークも消えた。


──ファム。君の姉さん、いつもこうなのか?

「……時々な」と溜め息。

「普段は物静かな優しい姉ちゃんなんやけど……精霊降ろしをするとこうなんねん。」

──セイレイオロシ?

「そ。神様の部下、自然界の出来事に直接作用しとる精霊を自分に降ろして、その力をそのまま使う魔法」

──さっきのか。

「雷の精霊やな。あーあ、また服燃やして。これで何着目? 父上にも、つこたらあかん言われとるんに……姉ちゃん! ラム! ほらしっかりしいや!」


 ぺちぺちと姉の頬を叩くファム。はっ、と気付く姉さん。彼女はファムと一言二言、現地語で話すと俺に向き直った。


「初めまして。うちファムナの姉の、ラムだっちゃ。宜しくね、ヒロ」


 ………だっちゃ?


 姉さんの異世界人の世話係どこ出身?

 ってか日本から来た世話係何人いるんだよ! 王都神聖庁には異世界人の規定登用枠でもあるのか?


「恥ずかしいとこをお見せしたっちゃね。みんなの役に立とうと、つい……」

「もーしょうがあらへんなぁラム姉ちゃんは」


 あはは、ほほほって……そんなノリ? 怖い! 怖いぞこの姉妹!


 まあ、お陰でガイコツ軍団は殲滅できたわけだが……にしても、なぁ。顔立ちはファムに似てかわいいのに。あ、ビキニ。針金みたいなので編んであるんだ……。バーサークする前提じゃん、家出る時から。


【ドォォォンッッ‼】


 うお⁉ 俺たちの船直近に20mクラスの水柱。直後、雨のように降る海水。


 今度は何? 呪われた海賊?


 ヒュウン、ヒュウンとサイレンの音を鳴らしながら急接近して来る船影……。


 あれは……いや冗談だろ。


 どうして、ここに、こんなものまで……⁉︎

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る