友達が第ニ外国語何にしたかめっちゃ気になる。
千葉大附属病院なう。
……ここも、同じだ。
先輩はいない。
別の病院なのか?
そもそもこの辺りの病院じゃないのか?
それとも、やっぱりウェルトゥは先輩の……。
「そのツラじゃ、いなかったか」
──はい。……すんません。JR本千葉駅までいっすか?
「どーすんだ? 諦めるのか?」
──いえ、別の方法で当たってみます。
……はぁ。
***
JR本千葉駅なう。
二万二百円か。ま、そんなもんだろう。
──……ありがとうございました。色々。
「いらねえよ。代金はもう貰った」
──え、そんな、ダメですよ。いけません!
「なら花代にとっとけ。俺からだ。先輩にでっけえ花束買ってやんな」
──でも……
「人に語る話にはな、気の利いたオチがいるんだ。今回のオチをこの運賃で買うぜ」
──……だけど。
「なら一個だけ頼むわ。先輩がどうなったか分かったら、」
ビッと差し出される名刺。
「結末を教えてくんな。花を喜んだかどうかな。後日談もウケがいいんだ。俺は大槻。稲タクの大槻だ。アタマはねえしウデは弱ええが、アシがいるときゃ電話しな」
黄色い歯でニッと笑うあご髭の運転手。
俺が名刺を受け取ると、タクシーは短くクラクションを鳴らし走り去って行った。
……マンガみたいな運ちゃんだったなぁ。あんな大人、ホントにいるんだ。
***
南越谷なう。
駅からアパートへの道を自転車で帰りながら、今後のことを考える。
結局今日も収穫なし。
いや、とりあえず実家は越してるのと、市内の総合病院にはいないことは分かった。前進はしてる、と考えよう。
うーん……あとは郵便くらいか?
ここ一月で越してるなら、転送手続きがされてれば転居先に届くはず。ただ先方が返事くれなきゃそれっきりなんだよな。
あ、電話鳴ってる。って俺の部屋じゃん!
出ます出ます!
……はい。あ、はいそうです。
え? あ、病気してて。分かりました。
明日。はい。必ず。はい。すみません。はい。失礼しまーす。
大学の教務課からだ。
履修登録の締め切りが過ぎてると。
……そういやそんな手続きあったなあ。
履修登録……履修登録なー……面倒くさっ!
今それどころじゃないっつの!
でも仕方ないか。
俺、騎士だけどそれで生計が立つわけじゃねえし、本分は学業だしな。
明日は北越谷、尽教大学か。
大学……すげえ久し振りな気がする。
履修登録。書類どこやったっけ。気乗りしねえ……。
***
南越谷なう。
今日は天気悪い。
狩人生活を経て天気に敏感になったかな。
いや感覚や感じ方が、とかではなく。
単純に空を見上げたり、風の匂いを嗅いだりする回数が増えて……まあ、以前はそんなこと全くと言っていいほどしてなかったから、ちょっとでもするようになれば敏感になったことになるわけだけど。
これは降る、と天気予報も見ず確信。
はい、スマホで予報見れば済む話ではある。
区間準急なう。
やっぱり。電車の中で降り出した。
高架から見下ろす越谷の街並み。
カンカンとドップラーしながら過ぎてゆく踏切。
なんかこの景色こそ現実感がないな……。
ゲームか映画の動画をぼんやり眺めてるみたいだ。わざとらしいというか。雨とか降ってると余計に。この世界に対して、俺がズレてるんだろうが。
北越谷駅なう。
ぱらばらと降りる人波に緩く混ざりながらホームを流れる。
一度意識してしまうと、風景への違和感は一層強く。あっちにいた時と変わらない。気分はまるで異世界の迷子。
……これこの感じ、残りの一生続くのかな。いつか地に足が着いた感じになるんだろうか……アベさんやファムを忘れて?
やめよう。せんなきことだ。
南口も人はまばら。
通学時間帯だが夏休みだからな。
用意してきた傘を差し、雨のそぼ降る通りに出ながら、陽の光を薄く漏らす雲の様子に程なく止むな、と思った。
ん? 気のせいか。誰かに見られてる気がしたが。振り向いて見回すが誰もいない。感覚妄想気分ってやつ? ええい! ヤワな精神め!
ロータリーの表通りから一本入った道。
それでも数人、大学方面へ。
学生らしき人もそうでない人も。この人たち、誰一人……異世界の存在なんて信じないだろうな。この世界だけが唯一無二の盤石なものって堅く信じて一生を終えるんだろうな。ホントは違うんだぜ? 俺はこの眼で見て来たんだ。マジで。
世界は夜空の星みたいに沢山ある。
この世界なんてその内のたった一つに過ぎない。……なんて。この俺でもふと全部結局妄想なんじゃないかと今だに思う。
写真フォルダ確認するもん。アベさん、ファム、俺の写真。今のとこ、見る度にそこにある。現実だ。何もかも。
角を曲がると緩やかな登り坂。
元荒川の土手。出津橋という歩道のみの細い橋を渡れば尽教大学越ヶ谷キャンパス。
土手に沿って桜並木の遊歩道。セミの大合唱。
なんか……懐かしさすら感じる。大学。
もっかいこうして来られるなんて。
帰ってきたんだな……俺。俺に取っての日常に。
「オケ」──管弦楽部の音合わせをBGMに正門を抜け、新館の教務課へ。
職員の人に謝って履修登録の用紙を提出。
ミッションコンプリート。
学食で早めの昼メシにするか。
今日のB定なにかな? 白身魚フライ……よしとしよう。
券売機。セルフサービスの水くみ機。人の少ない学食の独特の雰囲気。
日常だ……余りにも。
よし、食ったぞ。美味かった。
帰って手紙の作成だ。
先輩のご両親の情に訴えかけて、つい返事を書いてしまうような短くも巧みな文面を考えよう。稲タクの大槻さんも話の結末を待ってる。
警備小屋の警備員さんに会釈して、雨の正門を抜ける。その時ふと、警備小屋のそばに立つ人物が目に入った。
黒い大きな傘で顔は見えない。
黒いジャケット、黒いスキニー。
バイク乗りが履くようなゴツ目のブーツ。
誰か待ってるにしてもなぜ傘差してまで外で? と違和感。
ま、俺には関係ないかと、そ知らぬ顔で通り過ぎたんだが……ちょっと離れてついて来てないか? 奴。
さっきみたいな自意識過剰かも知れん。
俺は出津橋を渡ると遊歩道を右に……ワザと駅と反対に曲がった。
この遊歩道、この先は国道まで数キロ延々住宅地と川原に挟まれていて「こっち側」に曲がる人間はまずいない。
さ、どう出る? 革ブーツ。
むう。ついて来るかそれでも。こいつ……何のつもりだ? ってか誰だ?
この道の先に住んでる純粋な北越谷住民の可能性もゼロじゃない。
が、もし違うなら……俺に何か用か? 心当たりはない。右手が剣の柄を探り空振りする。バカ。帯剣してるわけねぇっての。
体格はっきり見てねえな。そう大男って感じじゃなかったと思うが。クマゴリよりは全然小さい。怖かねえぞ。
川を見るふりをしてさりげに後方確認。
距離は20mくらいか?
雨の遊歩道には俺と奴だけ。
まどろっこしい。確かめてやる。
俺は立ち止まるとくるりと踵を返した。
奴は歩調を変えずこっちに歩み続ける。
俺は奴に向かって歩き出す。
異世界帰りなめんな。
こちとらウェルトゥの騎士だっつうの!
10m……5m……みるみる縮まる俺と奴の距離。
すれ違うか? このまま。
距離が3mを切る。その時。奴が俺の進路に立ちふさがった。俺は立ち止まる。
距離は2mないくらい。一足一刀の間合い。
俺は傘を上げて会釈すると右に寄る。
奴も同じだけ動いて再び道を塞ぐ。
左に動けば奴も左に。
やっぱ俺に何用、か。
──あの……どいてもらえませんか?「…………」
傘の向こうの人物像は見えない。勿論、その表情も。
──聞こえないのか? そこ、どけよ。
弱気は禁物だ。わざと自分の中の怒りを掻き立てる。
「…………」
一際大きな声に怒気を載せ、腹から叫ぶ。──お前に言ってるんだ。どけっつったら……【 どけぇっ‼ 】
ばっ、と音を立てて奴の傘が高く舞う。
奴は傘を投げ捨て、俺に突進して来た!
余りに意外なその顔に固まる俺。
奴がその隙を逃すはずがない。
奴はやすやすとおれに飛びつく
奴の両腕がガッチリ俺を捉える。
立ちすくみされるがままの俺。
奴が叫んだ!
「ヒロっ‼ 会いたかった……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます