まあポって名前からすりゃ幾分まともか。
竜を倒した俺の元に仲間たちが駆けて来る。
気づけば辺りはいつの間にか普通に薄暗いだけの、天井の高い広い部屋に変わっていた。
魔法腹立つ。このなんでもアリ感。まあ同じ理屈でヒーローになって危機を脱せたんだが。
息せき切って駆けて来る先頭はもちろん……あ。竪琴の人か。うーん……そこはさあ。
うわ! っちょ、僕疲れてるんでワケの分からない現地語まくし立てながら肩掴んでゆっさゆっさ揺さ、ぶり、まく、るの、やめ、てく、れま、せん?
ああもう興奮しす……唾!……唾っ! ポ、唾が顔にかかる! おめいい加減にしろよ!
……ま、でも仕方ないっちゃ仕方ないか。
目の前で連れがウルトラマンに変身してドラゴン倒しゃ、興奮もするわ。
「何がどうなったのか説明してや! って意味のことをいろんな言い方でゆっとる……うちも知りたい。一体何が起きたん?」
んー……何から話したもんか。
──えーと、まずニセファタリが現れて。
「ニセのうち⁉」
──急に抱きついてきて。
「はぁ?何それ。ヒロはされるがままやったん?」
─……本物だと思ったから。
「なんでうちが急にヒロに抱きつくん? 変と思わんやったん?」
──……すみません。思いませんでした。
「……で?」
──言葉巧みに不安を煽って来て。つい想像しちゃったんだ。ドラ……あのでかい怪物を。
「あぁ、あのンディ・レイジオみたいな?」
──……そうかどうかが微妙だが、まあ。で逃げ回る内にファタリがニセ物だと気づいて。
「……遅っ!」
──あ、それニセファタリにも言われた。
「…………」
──で、あの怪物、俺の不安から出たんだ、と思って。消そうとしたけど、意識すればする程ハッキリ大きくなるばかり。ファタリたちはくんなっつうのにどんどん近づくし。どうしよ、ってなった時……子供の頃に胸踊らせたテレビ……おとぎ話の光の巨人の事を思い出した。
光と人が重なって生まれる、正義の巨人。怪物退治の専門家。
ここで一層沢山の唾を散らしながら竪琴さんが何かわめいた。
「その巨人の名を、巨人の名を、頼む! 教えてくれ! ……やて。」
──……ウルティマン・タイガ。
「おお! ウルティマン・タイガ! ウルティマン! タイガァァ! なんて神々しい名や! 決めた! うちはこの任が終わったら、洗礼名をウルティマン・タイガに変えたる! やて」
……マジで。まあ本人がいいならいっか。
──昔、よくウルティマンごっこはしてたし、本見たりしながら何枚も絵を描いたりしたから想像するのは簡単だった。
つまりあれだ。心は弱いから、ちょっとした事で不安を膨らませがち。一度膨らんだ不安を消すのは困難。
でも、不安以上に大きな夢とか、希望とかで塗りつぶせる。夜の闇を、朝日が照らして消すように。
俺はファタリに言ったんだが、食い付いて手帳取り出しながら何か言い返して来たのは竪琴さんだった。
「今んとこもっかい言って、やて」
……始まったか。吟遊詩人としては目の前でリアル神話クラスの大バトルがあったわけだから、取材はしたいわな。
──不安は膨らみがち。でも不安より強い夢や希望で打ち消せる、って。
「……もっかい」
──不安は膨らみがち。でも不安より強い夢や希望で打ち消せる、って。
「……もっかい」
──不安は、消せる。より強く、より大きい、夢と希望で。
「……もっかい」
──ふ、あ、ん、は、け、せ、る!……ゆ、め、と、き、ぼ、う、で!
「……もっかい。」
──ちょっと待て。それほんとに竪琴さんが言ってるか?
「ううん……単にうちが何回も聞きたかっただけ」
──あのね。やめてくれる? からかうの。
溜息をつく俺の手を、ぱっと掴んで彼女は言った。
「行こうヒロ。次の階へ! ……うちもそう思う。不安がってばかりおっても、しょうがないやんな!」
──お、おう。
わ! いきなりダッシュ⁉ ちょ、ま、極端っ、コケる、コケる……!
手を引かれるまま駆け出そうとした俺が、何かを踏んづけた。
なんだこれ?
拾い上げるとそれはガチャのフィギュアみたいなサイズの、真っ二つに割れた悪魔の像だった。
こいつ、あれか。ニセファタリの正体。
…ちっちゃ! 俺こんなのに欲情してたのか。ちきしょうっ! 詐欺だ詐欺っっっ‼︎
「ヒロなんしとん、はよ行こ!」
──ああ!すぐ行くよ!
……分からんなぁ年頃の女の子は。
俺が恋してた頃の先輩と、今のファタリは恐らく同じくらいの歳だと思うが、印象としては先輩のがずっと落ち着いてた感じだな。やっぱ別人。
……アベさん。俺たちを見て笑顔で何度も頷くのやめて下さい。
このちょっとデカい、微妙に登りづらい階段、もう何段登ったろう。
次の階の試練、「光」ってどんなだろ?
ここまで頑張ったんだからボーナスステージだといいな。雲海が広がってて人の頭くらいの金貨が宙に幾つ浮いてて百枚取ると命増えるとか。
あー………しんど。
着いた! また広間と飛びか。
今何階だ? えーと、石像が五階、王が六階、闇が七で、ここが八階か。
とうとう扉の塔ウェルトゥの最後の試練、「光」の間。
いつもの扉、いつものプレート。
──書いてある文字、光、だよな?
「……うん。いよいよやね、ヒロ。ここ抜けたら扉、やで」
──ああ。泣いても笑っても最後の試練。できればみんなで笑いたい!
さあっ、行くぞ!
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