扉のカスタマーサポートに電話したい。
RPGっぽい異世界なう。
ウェルトゥもいよいよ第三の試練。
その前に食事と休憩中。「王」の間の扉の前の広間で。
ファタリはボールペンとルーズリーフがお気に入りらしく、何かと書いては笑ったりニヤニヤしたりしてる。今何時だろ。えーと昼の十二時半前か。
「それ何? あ、写真の奴!」
あ、携帯盗られた! ……壊すなよ。
「どうやって見るん?」
──カラフルな花の四角、触って。
「おぉ〜、すごい! これ全部向こうの世界の写真? あ、これうち写っとる!」
ああアベさんと撮った奴。まてよ……やばい写真とか無かったよな。
「どれがヒロの恋人?」
──んなもん無いよ。恋人いないから。
「つまらんなぁ」
──……好きだった人の写真ならあるけど。
「どれ? どの人?」
卒業後、一回だけ集まった時の写真。俺と肩寄せて微笑む先輩。
「……この人?」
──そう。
ファタリから笑顔が消える。
「……うちに似とるね」
──そうだな。俺も最初は驚いた。
「ヒロ……」
──ん?
「正直に答えてな……」
──ああ。
「ヒロがうちに……優しくしてくれるんは、うちがこの人に……ヒロが好きだった人に似とるからなん?」
──……逆だな。ファタリが先輩に似てると思ってたから、最初どうしていいか分からなかった。だから会ったばかりの頃は、ちょっと冷たい態度だったと思う。そのことはごめん。
けど今は違う。ファタリが先輩と違うってハッキリ分かった。似てないよ、全然。君は君だ。この世界の巫女、ファタリ。それを踏まえた上で、俺なりに力になりたい……護りたいと思ってる。……あれ? 答えになってないか……?
「ううん、ええよ。十分。ごめんな、変な事聞いて。へへ」
……機嫌は直ったようだ。対女子偏差値一桁の俺にあまり難しい質問しないでくれ。知恵熱出る。
「センパイさんは今?」
──さあ……しばらく連絡取ってないが。背の高いお金持ちの恋人がいるんだ。幸せに暮らしてるんじゃないかな。
「ヒロは? センパイの事、まだ好き?」
──どうだろ? 好きな気持ちが消え去ったっつったら嘘になるな。けど先輩がいない毎日にはもう慣れたよ。
「……横取りしよ、とか思わんの?」
──巫女の台詞か? それが。
前に一度……恋人といる時の先輩を見たことがあるんだが、すげー幸せそうだったんだよね。俺が見た事ないよな顔で笑って。横取りできたとしても先輩からあの笑顔が消えちゃうなら意味がない。願うのは先輩の幸せだから。
「…らやましなぁ…」
──ん? ごめん、聞き取れなかった。何?
「なんも言うとらん!」
え? 何? わ! こら、携帯を投げるな!
何、怒ってるんだ? 結構つつみ隠さず等身大の俺で答えたぞ? 割と恥ずかしい分野の事も。で怒られるって……。さっきまでニコニコしてたのに。解らんなぁ。
ファタリは怒ったかすねたかしたようで、また落書き作業に戻った。
もしかしてだけど……もしかしてだけど、彼女、俺に何か期待してるのか? 例えばそうだとして、その期待に答えていいものか? ……そら俺だってファタリは嫌いじゃない。むしろ……。
けど、あと何階かこの塔を登ったら永遠にお別れって事もありえるんだ。
そう、異世界なんだよ。ここは。言葉は通じるけど。一番いいエンディングってなんだ? 俺と彼女は向こうの世界へ。扉は閉じ、アベさん復職、騎士たちも無事帰る……かな? そうなれた時、彼女はがっかりしないだろうか。憧れの向こうの世界の現実に。あまりに平凡な俺に。
例えば。例えばだよ。二人で向こうに戻れて付き合って……一緒に暮らせたとして。時間経過と共に彼女に負担が蓄積して行くんじゃないだろうか? 俺がこの世界に来た時感じた無力感や孤立感、世界そのものから疎外されてる感じ……それらが少しずつ彼女から笑顔を奪ったりしないか? 異世界迷子の先輩、カオルのように。ストレスを抱えて、ふさぎ込みがちになったり、めそめそしたり。で「うち、元の世界に帰りたい……」とか言われて泣かれたら……俺、何もしてやれない。浮気するような甲斐性もないから一緒にはいるだろうが、そんな彼女と暮らすのは……辛いかもな。好きな相手だからこそ。
……考え過ぎかな、俺。
てか扉の制度がよくわかんないから無数のパターンについて検討しなきゃなんなくなんだよ!
『命を捧げよ……』とかもありえるわけで。『党に持ち帰り前向きに検討します。今日はこれで』って言ったら聞き届けてくれるかな? 一度起動させて、命やらないと暴走したりする?
『ダメ や! 止められへん!』
『見てみ! 異世界の怪物が…あんなに!』
『扉が壊れて穴になるのを待っとるんや! はよ閉じんと!』
みたいな。もしそうなったら……ファタリ、捧げようとするだろな、命。
アベさんには、命大事にしろって繰り返し言われたが、万一そうなったら俺が行こう。
かっこつけるわけじゃないが、なんか俺じゃね? ここに来たこと自体、事故で死んだようなもんだ。なんだかわかんないワープ装置を止める為に、ファタリが死ぬとか……。
そうなったら……俺が死んだら、アベさんやファタリは悲しんでくれるかな。
父ちゃん、母ちゃん……もしそうなったらゴメンな。俺なりに考えた結論だ。前後の状況がアレだが、命懸けていいって思える相手に会えたってのは幸せなことなんだよ、きっと。
俺は死んでも竪琴の人が歌にしてくれる……間違いなく。またこれでもかって誇張されまくってるんだろうけどな。平和になったこの世界、陽のさす窓辺でその歌を歌うファタリ……うーん。ありだな。とりあえず今想像する限りでは。男冥利に尽きる死に方ランキングでもかなり上位。ファタリが歌うラストシーンを観られないのがちと残念だが、そこ折り込んでも。よっし、覚悟完了!
あ、その前に『王の間』があるんだっけ?
忘れてた。『王がきずなと強さを試す』……だったか? こりゃガチのボス戦でしょ? 気ぃ重いな……。歴代王チームとの綱引きとか、勝ち抜き腕相撲大会とかにならないかなぁ……タバリィッス用意しとこ。出鼻、王がなんかする前に撃とう。俺が道具ザックからボウガンと弦の引き具出して準備を始めると。
「ヒロ、見てこれ」
ファタリがルーズリーフに描いた落書きを持って来た。
ぶ! 光輝く剣を持って大ジャンプしてる……これ俺? 背中に翼はえてるけど? 山のようにでかいクマゴリ真っ二つ? この字は『ギャアアース!』とかかな?
──てかファタリの絵……素朴で味があるなぁ。
幼稚園の壁に貼ってある「ぼくがわたしが みたゆめ」なんてクレヨンで描いた絵みたいだ。俺もキリッとしすぎだよ。あん時全然こんなじゃなかったじゃん。ズタボロの血まみれの死にかけでさ。
「ええやろ、別に。うちの絵なんやから。」
──まなね。キャラクター原案は竪琴の人だし。でも翼はファタリのオリジナル要素か。
「それにな……」
──何? まだなんかあんの? そろそろ機嫌直してよ。
「うちには、こういう風に見えてん。あの時のヒロ。その……かっこよかったで」
それだけ言うと、彼女は素早く元の座り位置に戻って行った。
アベさん、微笑んで何度も頷くのやめて下さい。
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