先手必勝! 石像はすぐ壊せ!
RPGっぽい異世界なう。
結局、四階の登り階段の土台部分の死角に普通に隠し扉が。
……チープ! こんなでも何階か登って一度登る流れができちゃうと、わざわざ各階の細かい探索とかしないもんな。よく出来てるじゃねえか。
扉の奥は狭い通路になっていて壁に打ち付けの鉄のハシゴが。くそう、完全にしてやられた。
──次なんだっけ?
「石像が知恵を試す、やね」
んー……。
『……汝に問う』『なんだ⁉ 石像が喋った⁉』『……今何時?』みたいなやつか?
死ぬ恐れは薄そうだが、ハマると進めない恐れあり。この世界クイズとかなら俺、お手上げだしな。あ、待てよ。知恵を試すとか言っといて動く石像が襲いかかって来るパターンもありうる。結局戦闘になるやつ。
五階。
ハシゴを登った先は、扉のある広間。
これまた普通の鉄扉。あ、扉の上に文字書いてあるプレートが。
──なんて書いてあるんだ? あれ。
「石像、って書いてるなぁ」
やっぱり? 『非常口』ではないと思ったよ。剣は抜いとくか。
アベさんも剣を抜き、慎重に扉を押し開ける。意外にスッと扉が開いて行く。音もなく。
アベさんが一瞬、構えた剣に殺気を載せたが、すぐ警戒を解いて石像の間に踏み込んで行った。ファタリは俺に掴まりっ放し。女の子にこんなに頼られることなんて今までないから嬉しいけど。頼りにならなかったらごめんね。俺がやられてる間に逃げてね。
部屋の中。
何だ? 人影! ……じゃねえや、石像か。
数、多っ! なんか十体くらいいねえ?
知恵担当の出題係みたいなでっかい一体を想像してたわ。
石像自体は思ったより小さい。多少の大小はあるが概ね俺の肩口くらいまで。様々なモンスターのデザイン。黒曜石っぽい材質。目には共通して赤い石がはまってる。足元はどの石像も共通の円筒の台座……チェスのコマの下半分みたいな。
あれだろ? 動きだすんだろ? どうせ。
綺麗に並んだ石像をちゃんと数えたら、マス目の切られた床に三列三体ずつ……九体か。
数では不利だな。我がパーティの戦闘班はアベさん、俺、竪琴の騎士、なんか若いイケメン騎士、騎士隊長の五人。誰かファタリの護衛についたら、彼我の戦力比は二倍を超える。やばい。非常にやばい。
──ファタリ、通訳して。
アベさん、こいつらなんかのはずみで動き出したりしそうな気がしません? 個人的には動き出さない内に粉々に壊したいっす。
「いや、この石像が何かの仕掛けの一部になっとったら、壊すと先に進めなくなる恐れもあるしな、もすこし調べてからや、やて」
チッ、まぁその通りか。
魔法の塔にモンスターの石像だぜ? 『……なんだ、石像か。おどかすなよ』って後ろ向いたら背後でふわぁ〜って動き出してガバッ! ってパターンだろ? 鎖があればグルグル巻きにしときたい。ないのが残念。とりあえず石像に背後は見せないぞ。じっと見といてやる!
「コルゥ、レッヒ!」
ファタリが後ろで現地語で声を上げる。
えーと確か、「ここを見ろ」とかかな。
──どした?
「ヒロ! 見てみ! 壁に字が書いてあるで!」
反射的に、つい振り向きそうに。
危ない危ない。上手いな設計者。その手に乗るかい。でも気になる。
──なんて書いてある? 読み上げてくれ。俺、こいつら見張ってるから。動くに決まってんだ。
「石像が動くかいな、ええからコッチ来てみって!」
ファタリに引っ張られ壁の金属板を見せられる。当然読めない。で、なんて? と聞こうとした瞬間、後ろで騎士が声を上げた。
しまった! 動いたか!
「こっちにもあるでって」
その後更にもう一枚同じような金属プレートが見つかり、全部で三枚。普通に考えたらこの部屋の謎を解くヒントなんだろうけども。
うーん、石像から目を離すのは癪だが、プレートの文章も気になる。
──で、それぞれなんて書いてあるんだ?
「えーと、古い文体やな……法の……人、……こうやな、『人が知りしこの世の法。万物はその法から外れず。法に力無く、法を知り、その使い方を知る者が力を得る』……なんのこっちゃ」
──全くだ。もう一つは?
「こっちも……ややこしな……道の、魔物……こうかな?『九匹の魔物が持つ真実の通り道。魔物のそれは血に染まり閉ざされる事はない。人のそれは眠りに落ちる度閉ざされる』……意味分からん」
確かに。眠る度に人が閉ざす道? 夜間通行止めの地方の山道?
──最後のは?
「んー……ちょっと待ってな。……『赤子の足、少女の足、青年の足、父の足、母の足、老婆の足が並ぶ。どの列も同じならば天に昇れよう』……かな?」
ものすごい旨い食い物出す行列のできる店? どの列も同じ? これ系苦手だなぁ。
──要するにナゾナゾだろ? ごめんファタリ、メモるからもっかい読んで。
バッグから取り出すルーズリーフにボールペン。
──……何? じろじろ見て。
「これ……あっちの世界の道具? 字書くもの? どういう仕組み?」
──後でゆっくりね。とりあえずここの謎といちゃおうぜ。
「せやな。じゃ一個目からな。言うで……」
……なんかあれだなリアル脱出ゲームみたい。いやリアル脱出リアルなんだけど。
えーとまずは『人が知りしこの世の法。万物はその法から外れず。法に力無く、法を知り、その使い方を知る者が力を得る』
んー……「科学」? でもこの世界ではむしろ「魔法」か? でも後半の『法に力無く』って下りと合致しない気がするな。どっちにしろ答えとしては抽象的な気が。
一旦保留!
次。 『九匹の魔物が持つ真実の通り道。魔物のそれは血に染まり閉ざされる事はない。人のそれは眠りに落ちる度閉ざされる』
九匹の魔物が石像なのは疑いない。魔物の血に染まる道……「修羅道」? 人の持つ道は「人道」とか? 眠ってる間は人道的じゃない……? 微妙。ピンとこない。
一旦保留!
最後。『赤子の足、少女の足、青年の足、父の足、母の足、老婆の足、が並ぶ どの列も同じならば天に昇れよう』
逆に単純に人数とか? 六人か。んー……石像の数とも合わない。どの列も同じ……世代別に列があるってこと? だとしたら、他はともかく赤子の列って? ……だめだ。
これも保留! ……みんな、どう?
俺の知らないこの世界の伝説や、一般常識がヒントの可能性も。だが騎士ズもアベさんやファタリも、みんななんのことやら……と言った表情。一番若いイケメン騎士に至っては明らかに話聞いてない。メデューサもどきの石像を突っついて「きもっ」みたいなリアクションしてる始末。おい真面目にやれや。
石像のメデューサ。メデューサとは言ってみたけど俺の知ってるメデューサと違い、頭の蛇はたった四匹。その根っこも妖女でなく太い首にでかい目玉が一つ。世界が違えど怪物のイメージは似るのな。ユングだっけ? 共通無意識とか原型とか。習ったがうろ覚え。
……やっぱ動かないのかな、石像。
いや!俺が見張ってるから動くタイミングを逃してるだけだ! 油断しないぞ! 見といてやる!
アベさん、ファタリ、騎士団長がナゾナゾの答えについてあーだこーだと現地語で相談してるのを背中に聞きつつ、改めて石像の見張り。ふ、動けまい。太古の魔術師のおっさんだか誰だかも、まさか石像が動くのを見て「はいはい、またか」としか思わない奴が来るとは計算外だろ。
に、しても石像のモンスター。あれなんかまんまギガンテスだな。
エルフらしいのもいるが怪物扱いなの?
あ、キングギドラがいる! いやまんまキングギドラじゃん! 版権取ってるのか? 当日版権か? 二面の鬼は片面笑って片面泣いてる。目が三つの蛇、デカイだけの蜘蛛……のっぺらぼうだがお腹に五個も目がある一本足……適当!
これなんか……絶対九体目に作ったな。手が五本あって足三本、それぞれの掌に目がついてる……牛。
締切ギリギリに新米がデザイン挙げて石像工房の班長に怒られてそう。
『なんで足が奇数なんだよ! ってか目、無駄に付けんなっていつも言ってるだろ?紅玉コスト考えろよバカ!』『班長のメデューサⅡだって紅玉九個も使ってるじゃないすか』『伝説通りだからいいんだよ! お前のはオリキャラだろ? 妥当性のない特徴盛り過ぎなんだよ! ああもう! 今回は時間ないからこれで行くけど、次から気ぃつけろよ!』みたいなやり取りしてそう。
アベさん達はまだ相談中。だが相談の中で沈黙の占める割合が絶賛長期化中。ヒマだな。
あーあ……若手イケメン騎士完全に寝てるよ。体育座りで。
あいつなんで今回の任務に選ばれたんだ? よっぽど志願者がいなかったのか? 力ある事務所の所属? 売り出し中? だとしたら寝てないで動け! 絵の尺の撮れ高を考えろ! 編集したら実放送時間は何分も残んないぞ! ……いや一体なんの放送時間だよアホか。
と、言いつつ俺も眠たくなって来た。
朝早かったし、起きてすぐ緊張感維持したまま無駄にダンジョンを登り続けたからな。十三階も。眼が閉じて来る。
……いかん!
ここで寝て、その間に石像が動いた日にゃ悔んでも悔やみ切れん。頬を叩いて強制覚醒。
……ってあれ?
もしかして……ナゾナゾの文章。
えーと『九匹の魔物が持つ真実の通り道。魔物のそれは血に染まり閉ざされる事はない。人のそれは眠りに落ちる度閉ざされる』
これ……「眼」か!
「血に染まり〜」は石像の赤い眼のことで、石像だから閉ざされることがあるわけない、人は寝る度に閉じる。
──ファタリ、ファタリ! 解った!
「……なるほどな、眼か。そんで? それがどういう意味なん?」
……そうね。どういう意味だろうね。もっかい石像を見渡す。
……待てよ? 五本腕の牛、九体目じゃねえ……七体目だ。
八体目が蜘蛛、メデューサⅡが九体目。
石像に付いてる眼の個数が一から九まで違う数字になってる!
あ……一つめのナゾナゾ!
『人が知りしこの世の法 万物はその法から外れず。法に力無く、法を知り その使い方を知る者が力を得る』
答えは「数」か!
じゃあ三つ目のナゾナゾは……『赤子の足、少女の足、青年の足、父の足、母の足、老婆の足が並ぶ。どの列も同じならば天に昇れよう』
足の数だ!
「十二ってこと?」
──違う。赤子は四本、老婆は杖ついてて三本だよ。ほらスフィンクスの……って知らねえか。だからえーと……十五だ。
どの列も同じってのは石像の列……3×3マスに一から九の数字、どの列も十五……数字パズルの魔方陣!
十五の魔方陣は数字の配列の語呂合わせがあったはず。確か……えーと……えーと……『ニクシと思うシチゴサン、ロクイチハチも十五なりけり』! 良かった思い出せた。
つまりこの部屋の仕掛けは
石像の眼の数の合計数をタテ・ヨコ・ナナメ全て十五にしろと。
──アベさん、騎士団長さん、手伝ってくれ。起きろ! イケメン若手! 仕事だ! 石像の配置を変えるんだ。えーと一列目はニクシだから、エルフ、メデューサⅡ、二面鬼……うおっ⁉︎ 重っもいなこれ。
よし! 最後の一体、蜘蛛の像も設置完了……疲れたぜ。腰と膝に来た。さあどうだ⁉︎
しーん……。
あれ……?
なんか間違った? 気持ち良く正解出た感覚あったんだがな。と、思った瞬間!
石像達の眼がピカーッ!
おおっ! やっぱ光ったりするのか!
すっげーダンジョンの仕掛けっぽいイベントだ! なんかなんだかんだでこんなシーン見るの十回目くらいな気がするが生だと迫力あるな……。あ、よく見ると五本腕の牛の左目だけ光が弱い。また石像工房の新入りがなんかやらかしたな。『紅玉の眼の裏にはヨウ化銀塗れって何回言わせんだ! 右目塗ってなんで流れで左目も塗らないんだよ!』とか妄想してたらグラッと床全体が。ゴゴゴゴゴ……おわわっ! せり上がる床⁉︎ 動力なに?
「すごいなぁヒロ! うちヒロは難しいこと苦手やと思てたわ。見直したで。向こうの世界でも賢くて有名やったんやない?」
──いや、そんな事は力一杯ない。
……ズズン……!
着いた? あ、上の階への階段!
石像の間クリアか。
結局最後まで動かなかったな……石像。
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