階段の幅が歩幅と合わない。
おっす! 俺はヒロ!
ひょんなことから異世界に飛ばされて腕っ節の弱い文化系ライトオタクだ!
ついに異世界同士を繋ぐ扉の塔、ウェルトゥの内部へ。塔自体が登る者を試す? やれるもんならやって見ろ! 伊達に角○スニーカーとか富士○ファンタジアとか◯撃文庫とか読んでねえってとこを見せてやる! 攻略サイトは一周目は見ない派のアドベンチャー力、今ぞ示す時!
RPGっぽい異世界なう。
空が白み始めた。
夜明けだ。いよいよウェルトゥ突入。
入口ドアは両開きの割と普通の鉄扉。
ちょっとだけ屋根がせり出してマンションのエントランスっぽくなってる。
……中もマンションじゃねえだろうな。
一応、武器を抜く。
アベさんと若い騎士が左右の扉を引く。
少し軋んだ扉は、それでも石床と時々擦れながらゆっくりと開いて行く。
全員が中を覗き込む。
薄暗い。が松明が要る程ではない。丸い窓は明かり取りとして機能してるようだ。
侵入の順序は、アベさん先頭に騎士二人、騎士団長、巫女さん、俺の順。
緊張するな、流石に。
最初は階段が心を試す……だっけ?
宝物を護る、とかでなく扉を扱う資格があるか試すってことだよな? ならそんな酷い殺人的罠とかないかも?
あ……こんな時だがなんか野生動物のウンコ踏んだ。
俺の番が来て、塔に踏み込む。
がらんとしてるな。
空気が冷たい。
広さはバスケコート二面分くらいか?
体育館ほどはない。
天井が通常の室内よりちょい高め。それがいっそがらんとした感じを強めるてる。
ファタリが隣に来て俺の左腕に掴まる。
──どした?
「……誰かに、見られとる」
思わず、ごくり、と喉を鳴らす。
気のせいじゃないか、と言ってやりたいが、確かになんか空気が違う。
あれに似てる……古い神社の敷地とかに入った時。
「……怖い」
──まあ怖いわな。俺も怖い。
あと左足の靴なんかのウンコ付いてるから当たらないようにね……ってのは黙っておこう。あ、あれ階段じゃないか?
そろりそろりと一同で階段に向かう。
俺は一度剣をしまった。
動くものの気配はない。床の砂埃は何年……下手すりゃ何十年もここを歩いた奴はいないって物語る。ファタリは怯えてあっち見てこっち見てしてる。大丈夫。安全だとは言えないが、こうしてくっついてりゃ、なんかあるときゃ俺も一緒だ。
石を磨いたような滑らかな石段。
手すりはない。アベさん先頭に一歩一歩確かめながら登る。丸い壁に沿って半螺旋に登って行く感じ。
横幅があるから壁寄りに歩けば危なくはないがステップの片側が高所からの落下なのは落ち着かない。段の幅と高さが微妙に大きく、歩きづらい。誰の足幅に合わせた設計だよこれ。
これが心を試す階段? 今、試され中なのか? 実感はない。
二階。
ここもまた……がらんとしてるな。
何もない。一階と違って床が綺麗だな。ピカピカだ。ウンコついた靴で歩くのが申し訳ない。
「どしたん」
不安げなファタリ。
──いや、下と違って床が綺麗だなと。
「多分魔法やね。太古の魔術師は床に埃を溜まらなくしたらしいで」
──マジで?
「微妙に何かの魔力の働き、感じるわ。ォレィグンフの教会も似た魔法かけてて、永遠にピカピカらしいで」
──へぇー。ォレィグンフが何か分からないけど。
この世界の魔法の感じがイマイチ掴めずにいるが、国家レベルで数人から数十人の魔法使いを抱えてるって感じ? 昔はもっと隆盛だったけど今は廃れつつある?
自分の得意分野の話をして少し落ち着いたのかファタリの怯える気持ちは少し和らいだようだ。
今だ! 彼女の一瞬の隙を突いて俺は左足の靴のウンコを階段になすった。
「……ん?」
や、ちょっと足滑った。
埃を寄せ付けない太古の魔法も、なすられたウンコを弾いたり消滅させたりする程ではないみたい。
三階。
ここも……がらーん。
ウェルトゥって空っぽの塔なんじゃね?
以前は試練の店がテナントで入ってたけど立地が悪すぎて撤退したんじゃ?
いや、何もないと思わせる罠かもしれないから慎重に行くしかないが……。
「……なんもないなぁ」
──そうだね。このまま扉まで行けたりして。
四階。
一緒。がらーん。床綺麗。階段。
まあなんか起きて欲しいわけじゃないが拍子抜けだ。もう半分近く登ったっぽい。
伝承なんてこんなもんだって。
俺が怪獣真っ二つにする勇者にされるみたいに。きもーち階段がキツかった……とかにおヒレが付いて仰々しくなってるんじゃ?
五階。
一緒。
なんだこりゃ? ピラミッドみたいに仕掛けやら何やら
けど念の為の警戒は解けないからなんか疲れる。気づけば全員武器は鞘へ。まあそりゃそうだ。なんもいない……っていうよりなんもない。これが油断を誘う罠、なのか?
一応、剣の脱落留めのストラップは外したままに。
六階から八階。
一緒。
もしかして……偽のウェルトゥ?
十階辺りの踊り場に「ハズレ」とか「次回にチャレンジ!」とか書かれてたら腹立つな。
隣でファタリが溜息をつく。
外から見た感じじゃぼちぼち最上階に辿りつきそうなもんだ。思ったよりあっさりクリアかもな、ウェルトゥ。
ついに十三階まで来たが……一緒。
いやおかしくね?
外から見た高さより高く登ってるぞ、明らかに。巫女さんがふうふう言ってる。みんなにも疲れが。
──アベさん!
一回休みませんか? ちょっと相談が……って伝えて。
上手く言えないが、なんかヤバイ気がする。このままじゃ。
十三階の真ん中にみんなで車座に。
──……変ですよ。
十三も階を登って何もないなんて。
「そうやな、塔自体の高さから見ても、てっぺんに着いてよさそなもんや」
「なにか見落としとるんやろか?」
「なんもなかったで、見落としようがあるかいな」
うーん……。
関西弁騎士団。通訳のせいだけど。
ファタリが呆れたように言う。
「せめて景色なり変わればな、まるで同じとこぐるぐる回っとるみたいやん」
……はっ!!!
まさか……何故に気づかなかった俺!
──アベさん、これ、魔法か何かで堂々巡りさせられてるんじゃ……って伝えて。
一同の顔色が変わる。
もし俺の想像通りだとしたら、今ほんとは何階?
迂闊! 「無限回廊」!
据え置き本体全盛時代から使い古されたメジャーな罠じゃん! ヒントは出てたよ!
床の埃。部屋にかかる魔法の力。足跡で仕掛けがバレないようにと、無限回廊を形成する為の魔力に気付かれたとしても、清掃魔法の魔力と紛れて不自然に思われないって寸法か。そういやそういう世界だったよここ。
アベさんが十四階へと登る階段の登り口の壁にナイフでガリガリっと傷を付ける。
さあ! 行って見よう次の階!
皆で十五階への階段のそばへ。
仮説が正しければ下の階でアベさんがつけたナイフの傷が……ないな。
あれ?
無限回廊じゃないのか?
マトモに十四階?
外から見たら低いけど塔の中は何十階もある……って魔法か?
だとしたら……あと何階登ればいいんだ?
どっ、と疲れが来て、俺はどすんと階段に座り込む。
……やっぱ一筋縄じゃいかないな、ウェルトゥ。
見つかったと思った糸口が遠のいて、みな途方に暮れる。
ん? なんか臭くね?
ふと背後の、丁度目の高さの階段を見るとなんか付いてる。
土? いや……くさっ! ウンコだこれ!序盤で俺がなすった奴……?
……ってことはやっぱり!
俺は立ち上がると一人階段を登り始める。
「ヒロ!どうする気?」
──みんなはここで待ってて。確かめたいことが。
もう走っていいな。上の階へ。
俺がウンコなすったのは確か二階。……三階か四階か五階か……何階か登ったら二階にに戻される仕掛けだ。
十五階は何もない。
十六壁……あった! 壁に傷!!!
ってことは、この階段を登ると……。
「ヒロ! なんで下から?」
驚いて目を丸くするファタリ。
みんないる。やっぱり。
……ここはウンコの二階だ。
えーと待てよ。
こっから上、三階はなんもなくて、壁に傷つけたのが四階で、現在の最高到達階か。二階、三階、四階、二階、三階、四階と三つの階をぐるぐる登らされてたんだチクショー。
──やっぱ堂々巡りっすアベさん。ここは二階っす。あれ? ……ってことは一階に戻れない? 脱出不能?
「よく気付いたなヒロ。どうしてわかった? って」
んー……なすったウンコが目印で、とは言いにくいなぁ。
──ちょっとした閃きです。
「4階や。何かないかみんなで探すで、やて」
これが……第一の試練?
もうヘトヘトだぞ。十三階まで階段で登って到達したのが四階? 早く気付いてまだ良かったけどこれ限界まで正直に登ってたとしたら確かに心折れるわ。
たち悪りぃなウェルトゥ。たち悪ぃ。
作った奴、ぜってー性格最低最悪サイヤ人だろ。
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