魔の森だったの? ここ。
そこへアベさんが来た。
巫女さんが立ち上がろうとするが、アベさんが目で制す。
慌てて涙を拭う。
アベさんと巫女さんが会話して、巫女さんが俺に向き直って咳払いを一つ。
「ほったらかしですまんかったな、大事な話がある。一緒に来てんか? やて」
おお! 通訳! そうか、これで込み入った話に混ざれる! 意思の疎通!
気が付くと騎士達は、そこかしこでかがり火を焚き、荷物からテントを出して、野営の準備を始めていた。あ、会議終わってたんだ。
俺は巫女さんとアベさんとアベ邸のダイニングへ。以下、アベさんの発言を巫女さんが通訳してくれたもののまとめ。
巫女さん軍団は魔の森にある「ウェルトゥ」を目指す。そこには「扉」がありそれを閉じる為に。
最近、異世界からの来訪者が急増し、四日程前には王宮のすぐそばに怪物が現れ、多数の死傷者が出た。これを重く見た神聖庁は事態の収拾の為、対応する部隊の派遣を決定。
その部隊は、巫女とその世話係、護衛の精鋭騎士から構成される特別部隊だが、目的地周辺「魔の森」は踏み込めば生きては帰れぬと近隣の猟師も近寄らない。
……俺そんなとこに住んでたのか。この世界のデフォルトの一般森じゃないのね……。
で、アドバイザーとしてアベさんの助力を請いに来たと。
アベさんは話を受ける事にした。
俺を同行させる事を条件に。
俺……? 扉……そうか! もしかしたら!
「そう、多分最初にして最後のチャンス……元の世界に帰れるかもしれん、って」
マジで? ここに来てまさかの帰還イベント? そうか、そのウェル……なんとかが、俺がここにやって来たトリップの根源なら……!
但し、帰れる保証はない。
扉をくぐれないかもしれないし、くぐれたとしてその先は全く別世界かもしれない。いや、扉まで辿りつけずに
「……死んでまうかもしれへん」
通訳さんが関西弁なのでアベさんまで巻き添えで関西人めいてみえるなぁ。
諸般の事情は解りました。
行きます! 絶対!
巫女さんが俺の意志を伝えると、アベさん満足げに微笑む。
「そう言うやろと思てはったって。明日朝、夜明けとともに出発するから支度してはよ寝や、やて」
──あ、一つお願いしていいですか? アベさん一緒に写真撮らせてくれませんか? 宗教上のタブーとかでなければ。
巫女さんが不思議そうな顔を。
あ、写真ってのは瞬く間に肖像画を描く仕掛けです。明日から立て込んで、そのまま帰るかもしれないし。
「……うちも混ざってええ?」
──え……まぁ、どうぞ。
「うちらどうすればいいん?」
──えと、誰かもう一人、仕掛け動かす人が必要で……。
侍女のおばさん、超おっかなビックリ俺の携帯を。表の騎士のかがり火二つ借りて、これだけ明るければ写るハズ。
パシャッ。
驚いたおばさん携帯を落とす。だーっもう! でも写真は一発で完璧な一枚が。にしてもなんだこの3ショット。あ……改めて見ると俺、なんか小汚いな。
アベさんと巫女さんにも確認してもらうと、二人とも関心して色々質問されたから、まあ分かる範囲で答えておいた。
「ほなな、お休み」
一頻り写真について喋ると、巫女さんと侍女は自分のテントに帰って行った。
アベさんは自室へ。
俺はダイニングの隅に俺用マット敷いて、その上で自分の荷作り。家鍵に革紐通して首から下げる。現世の服と財布をバッグに丸めて詰め、道具ザックとは別にする。
んー……寝る前に体拭いて顔洗って髭剃っとくか?
携帯の明かり頼りに一人川原で洗顔と体拭き。歯を磨いて、うがいしつつ見上げる夜空には今日も二つの細い月。
帰れる……きっと帰れる!
アベさんとのお別れは寂しいが親不幸はできん。
あれ……?
なんで今あの巫女さんの顔が浮かんだ……?
ちげぇよバカ! 直近に会った可愛い女の子だったから少し印象が強かっただけだよ!
冷たい水で、も一度バシャバシャと顔を洗う。いつもは冷たいだけの夜風が、今夜は頬に気持ちよかった。
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