リアルな身分の差いらなくね?
日も暮れて、暗くなって来た。
全員で夕食の支度だ。
外にありったけの台とテーブルを出して、キャンプファイヤーのように大きな焚火を焚く。
巫女さん軍団は結構な量の食糧も持参して来ていて、果物やワインっぽい酒もある豪華なメニュー。侍女の人はアベ邸の粗末な台所でも流石の手際を見せ、クマゴリも綺麗に捌かれて見るみる内に美味そうな高級料理に。
俺は椅子やテーブルは遠慮し、末席にマントしいてあぐらを搔く。
どうせ会話には混ざれないし、騎士さんたちとは……なんか壁あるってか。
日本ではない感覚だが「身分の差」みたいな?
仕事の結果は認めて貰えるが、お互いの分はお互いに越えないって暗黙の空気を感じる。……正直、居心地悪い。どうも彼らが、俺をアベさんの有能な従者、くらいに見てる雰囲気を感じる。まあ、実際そんなようななもんなんだけど。
木の削り出しのトレイに、色々をぶっこんだ大きなお椀と、お酒が注がれた小さなお椀。それらを直接地面に置いて食べる。
……旨い!
腹減ってたんだ。特に果物が旨い! 染みる旨さ。とても現実と思えない毎日だが、食って旨いと感じ、ウンコしてスッキリしたと感じる「自分が生きてる感」は現世よりはっきり、鮮やかに感じるんだよな。埼玉の文化的生活では、この感覚はあまり感じない。
食事が終わるとアベさん、騎士団、巫女さんはアベ邸に。
本題かな。やっぱりアベさんに用事か。
……何かの相談か……軍議?
俺は侍女のおばさんと片付け。どんな会議してるか気になる。しかし、しつこいようだが言葉が……。
一通り片付けも終わったが……あの人達の用件、戦いでもあるのかな?
武器グッズのメンテしとくか。この会議だか依頼だかの内容をアベさんが了承すれば、朝一出発もありえる。
何かの、戦いに向けて。
グッズは入り口入ってすぐ、メンテ道具は一番広い部屋の道具棚の箱の中だ。取りに行こっと。
アベ邸は二人で住むには広いが十人入ると手狭。……やっぱ会議中か。
狩猟グッズのザックと予備の矢弾、メンテ道具の箱を回収し、また外へ。アベさんが目線をくれる。「ほっといてすまん」みたいな感じだな。
いや仕方ないっしょ。軽く笑顔返しつつ、まあ少し寂しいのは寂しい……。
キャンプファイヤーは崩れ、一回り大きな普通の焚火に。ぱちっ、と薪が弾ける。弱い風が吹いて炭火に近くなっていた小さな炎が一段明るく輝いて、少しの間勢いを取り戻す。
……さむっ。俺の世界では夏真っ盛りのはずだけど、こっちの世界じゃ秋から冬に差し掛かるくらいの気温だ。四季とかがあるのかはよく分からないけど。
座るのにいい感じの丸太……とか中々ないんだよなー、正直。大体さ、森を歩いてて丸太に出くわしたことある? これは……太さはいいが長さが。五人は余裕で座れる。
少し長いが、この際仕方ない。
石は冷たい。火の近く座りたい。
うりゃぁぁぁぁ!
ズズズズーッ、と。
よし。どっこいせっ、と。
ふいー……。なんかこの二、三日で色々あったなぁ。
俺の剣、よく見ると傷と脂だらけで微妙に臭い。ワックスとボロ布で一度ギュッギュッとキツく拭いて研ぐ。
こっちの砥石はレンガみたいなブロックじゃない。棒ヤスリと、ガリガリ君の砥石バージョンみたいなので順に研ぐ。石の目も、俺らの世界の包丁用の砥石より大分荒い。
微風がさわさわと森の葉を揺らす音。パチパチと薪が燃える音。がりり、がりりと剣の刃こぼれにヤスリが掛かる音。
二週間前は東武線沿い行ったり来たりしながら、コンビニやファストフードで飯食ってYoutube観て暮らしてたのにな。今はRPGっぽい異世界の焚火の前で自分の剣研いでる。人生何が起きるか分かんないもんだ。
闇雲に研げばいいってもんじゃないのよ? 刃物、研いだことある? ■ 刃筋が真っ直ぐなるよう研げ具合確認しつつしないと。日本刀や包丁はどうか分からないけど、俺の剣は峰とか刃とか一律の鋼。刃先と、はじっこの尖り具合が斬れ味だから神経使う作業。腕が生半可だからな、道具はせめてベストな状態にしときたい。
あ、そーだ。家の鍵。アベ亭の俺のバッグに入れっぱなだけど、革紐でも付けて首から下げて身につけるようにしよう。例えば今、帰還の為のワープゾーンでも出現したら、迷わず飛び込めるように。でないと、帰れても鎧姿で大家さん呼ぶ羽目になる。
「隣、座ってもええ?」
うおうっ! 誰⁉︎
あ……巫女さん、えーと……
……ファタリさん⁉︎⁉︎⁉︎
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