剣と魔法と騎士と巫女

 ついに魔法まで出てきてしまったか。


 RPGっぽいなー、この異世界。

 これ、俺の持つ「RPGっぽい異世界」のイメージというか概念というか、そういうものに起因して出来た世界なんだろうか。

 に、しては……なんつーか俺の想像力や知識を超えた出来事が起きてるような気もするが、その辺どうなんだろう。うーむ……。


 RPGっぽい異世界なう、か。


 そんなことを考えながら、朽ちかけの倒木にスタックした馬車の脱出を手伝う。

 なんか、リアル騎士団も魔法少女もアベさんに敬意を払ってるっぽい。

 あ! ……なんか急な疎外感。なんせどんな会話がなされてるのか俺だけわかんない。

 ってか、こいつら荷物多いな。そりゃ馬車もスタックするわ。軽い引越しぐらいの量あるぞ。あー、身体がカマキリの体液臭い。鬱。

 なるほど。荷物の箱の上に四角いリングの金具が付いてて、棒を通して二人で担げるようになってる。体液を手拭いで拭き取って、手伝おうとしたら若い騎士に遮られて断られた。

 ……なんか感じ悪いな。汚い狩人見習いなんかに触らせられないってことですか?

 あ、クマゴリラと狩りグッズ置きっぱなだ。

 騎士達は互いに声かけながら移動準備中。魔法少女とアベさんと侍女の人は少し離れた場所でなんか話してる。

 とりあえずグッズ袋とクマゴリラの手足がぶら下がる竿は取って来たが、手持ち無沙汰は否めない。

 なんか……面白くない。

 クマゴリラぶら下げて、パーティーのしんがりをとぼとぼ歩く。

 文系オタク男子としては、先の対巨大生物戦闘で目覚ましい活躍だったと思うのだがどうか?

 誰もそこに触れてくれない……むしろあの魔法少女が奇跡の力で倒したみたいな解釈ですか?

 舌打ち。

 いや、凄えのは認めるし実際助かりましたよ?

 でもね、貴方が悠長に盆踊り的な魔法の前フリができたのは誰の功績ですか? と。

 騎士の方々も装備ばかり煌びやかで不甲斐なくないですか? と。


 あ、いかん。

 疲れと空腹と急展開のストレスで愚痴っぽい。セルフコントロール、セルフコントロール……ふう。



 アベ邸前で一同会して改めて挨拶、みたいな感じに。

 俺はアベさんの斜め後ろに一歩退がって控える。

 隊長らしき騎士さん以下、八人の騎士と二人の女子がアベさんに膝を折ってかしづく。


 ……アベさん、思ってたより偉い人? 亡国の王子かなんか? なんでそんな人がこんな場末の狩人なんかしてんの?


 アベさんはやめてくれ、みたいな感じで隊長の肩に触れ自分もひざまづく。なんかしゃべってる……内容が解ればなぁ。

「……大佐!」「大佐はよせ。俺はもう軍人ではない」みたいなことかな? ふと魔法少女みるとローブ? のフードを被ってる。そのせいで顔はよく見えない。被った状態が正装ってことか。

 魔法を使ってたから「魔法少女」って書いたが、改めてよく見ると神職っぽいな。ローブの胸にアベ邸の祭壇と同じマークが縫い取られてる。全体に白いし僧侶か巫女さんって感じ? 騎士団はこの人の護衛ってことか。

 ……カマキリ退治に来たわけじゃなさそうだな。アベさんに頼み事かな?


 隊長が騎士一人一人をアベさんに紹介する。

 なんか若い騎士達「自分、アベさんに会えて感激っす!」みたいなリアクション。めっちゃ握手とかして。アベさん微妙に複雑げな表情だな。で侍女と巫女さんが紹介されて、巫女さんがフードを脱ぐ。初めてきちんと顔が見える。


 ⁉︎


 ウソだろ……。


 ……あのう、ぶっちゃけていいですか?

 ここまでガンバって来ましたが、やっぱこの世界、俺の妄想か夢だと思います。こんなこと第三者に見られるサイトに書き込むのはのばばかられることこの上ないんですが、実際そうだから。


 巫女さんの顔立ち、俺の高校時代の初恋の先輩にソックリなんすよ……。


 他人の空似なんてレベルじゃない。

 髪の色が明るい茶色で、瞳が蒼い以外は、俺の記憶の中の、俺が高校に好きだった人、崎守もなみ先輩と完全に一致する。


 ……どうしろと?

 もう……瀕死で妄想中ならいっそ殺せ!

 微妙に現実が混ざった奇妙な夢をダラダラ何日も見せてんじゃねえ!

 …って気持ちだけど、誰にキレていいのか解らんし。

 そんな風に他の人には百、理解できない葛藤しつつ、まじまじ巫女さん見てたら、目が合ってニコッとされた。

 笑顔……これまた似てる!

 が、それが俺にはすごく、違和感というかストレスというか……過去の思い出と、今の異常な状況と、好きな人だが違うみたいな色々がぐちゃ混ざりに……。


 はい、片思いでした。

 気持ち伝えないまま、先輩に彼氏できました。そのまま卒業でお別れです。

 ……で、異世界でそっくりさんに会って俺はどういう感情になればいいんだ?

 少なくとも嬉しくはないぞ。向けられた笑顔にもビクッとした挙句無愛想な会釈で返す。これが限界。なんか申し訳ない。巫女さんはなんも悪くはないんだけど。


 アベさんが一同に俺を紹介する。

 一応深めにお辞儀。

 アベさんの俺紹介コメントは意外に長く、騎士達が時折「ほう!」とか「おぉ!」とか感嘆っぽい反応。

 ……アベさん、どういう紹介を?

 俺の実像より話だいぶ盛ってませんか?

 紹介後、騎士達に握手求められたりしてますが?

 そしておずおずと巫女さんが近づいて来て優雅に挨拶。

 むう、近くで見ても似てるぜぃ……。

 とか思ってたら巫女さんが意外過ぎる発言を。


「ウチ王都で尼さんやっとります。ファタリいいますねん。ヒロ、やんなぁ? よろしゅうたのんます。」


 …………。


 ………………。


 ……………………。


 えーと。これドッキリですか? ドッキリだろ。 モニタリング? カメラどこ⁉︎


 知恵袋

 埼玉県在住、文系の大学生です。今、異世界なのですが出会った魔法少女が初恋の先輩に瓜二つで、オマケに関西弁で話かけてきます。どうしたらよいでしょうか?

 どうゆーことだってばさ⁉︎ 妄想の中なんだろうけど気ぃ狂いそうだぞぅ。


 トントン。アベさんに肘で小突かれて我に帰る。

 慌てて会釈。


──えと……さっきはありがとうございました。助けて貰って。アベェさんの居候、ヒロです。


……通じる、のか?


「硬くならんといて。言葉、びっくりするやろ?」

──ええ、それはもう。

「まあ話は後でゆっくり。大阪の話も聞きたいし」


 あーもう! 夢なんだろ夢!


 どうせアレだろ。あのデカいカマキリとかもフロイト的に「抑圧された性欲です」みたいなことだろ?

 それを乗り越えて恋愛トラウマの対象に出会う、みたいなさ!

 いいって!

 この期に及んで高校の頃の心の傷とか乗り越えられなくていいから! 常識的な普通の世界に戻りてえ! 今すぐ!


 ……こんな訳わかんない世界に飛ばされて、もう大概の事には驚かないと思ってたが。驚き過ぎて頭ぼーっとする。

 荷物をまとめ、皆がぞろぞろアベ邸に入って行く。

 立ち尽くす俺の背中をぽん、と叩いてアベさんが先に行く。ああ、クマゴリ運ばなきゃ。


 どういうイベントだこりゃ?

 俺の元の世界への帰還フラグとかと関係あるのか? ……あってくれ。

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