トンネル効果ってヒトにも起きんの?

 今日は鱗イノシシの精肉→樽詰め作業。


 イノシシは肉の量が多く、なんだかんだで丸々二樽分採れた。運ぶの重かったけどその甲斐はあった。

 夕食後、アベさんに声掛けて俺の境遇を説明しようと試みる。

 スマホや筆記用具や髭剃り見せて。

 ルーズリーフに二つの世界のイラスト描いて、俺の自画像描いて、矢印描いて……身振り手振り含めてなんとか解ってもらおうと必死。

 俺の世界のグッズの色々、アベさん興味深げに調べて、要領を得ない俺の説明も真剣に聴いてくれた。で、一通り聴き終わるとらアベさんの本棚から一冊の古い分厚い本を持って来て、ある頁を開いた。

 ……そこには全然読めない文字と宗教画みたいな挿し絵。


 驚いた。


 世界の成り立ちを描いてるっぽいその絵。


 暗闇の中、浮島のように毛色の違う様々な宇宙が浮いてる。惑星じゃない。シャボン玉のように大小の宇宙。

 これってインフレーション理論でいうところのチャイルドユニバース……だったっけ?

 この世界の宗教観の宇宙ってホーキング宇宙論に近いものなのか?

 驚くことは続く。

 俺がルーズリーフに描いた俺自身のディフォルメイラスト、アベさんその部分だけちぎってその宗教画の上に……その部分に描かれた小さな宇宙。

 これ! 四角いビルが描いてある! 俺の宇宙! ってか世界?

 アベさんそこから俺絵の描かれた紙片をつつつっとずらして別の宇宙へ。

 解ってくれた……!

 ってか過去にも似たような事があってるのか?

 転落者は俺が初めてじゃないってことか。

……どおりで。だとしたら納得が行く。アベさんからしたら俺なんてすげえワケわかんない奴だろうに、親切にしてくれてたのは、最初から異世界からの迷子だって解ってくれてたからなのか……。

 アベさん更に紙に何か描き始めた。カマキリ! 目玉ヘドロ! ちぎってまた別々の宇宙の上に。そしてそこから図の中心の宇宙に指でずらした。

 なるほど……あいつらも別の宇宙からの来訪者ってわけか。なんちゅう世界だ、ここは。

 俺が俺の身の上に起きたことの不思議さに唸っていると、アベさん、絵の俺にまた指を置き、元の宇宙へ戻した。

 意図が分からずアベさんの顔見るとちょっと微笑んで一言、で肩をぽん、と叩かれた。


「きっと帰れるよ」みたいなことだと思う。


 ……不覚にも涙が。

 アベさん、ありがとう。チャンスがあったら一緒に写真撮って下さい。帰れようと帰れまいと貴方の事は一生忘れません!



 これで帰還方法さえ判れば、心おきなく帰還できる。

 でも帰還方法って?

 トリップってランダムっぽいよな?

 更に「北千住に異世界の騎士が現れた」なんてニュースを聞かないことを思うと、世界間の移動って可逆なのかな?

 高いとこから低いとこに移動するように一方通行?


 ……判らん。


 この世界の宗教の偉い人とかと話できたら何か判る……のか?

 例えば先々そういう人と会える機会があったとしても、いかんせん言葉がなぁ。

 不思議なもんで、アベさんの言ってる事は雰囲気からなんとなく解るようになって来たが、込み入った話を人に質問したり到底無理。

 暫くはこの世界、長期戦かな……。

 明日も朝練。寝よう。

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