サイクロイド? クロソイド?
今日は狩りの日。
カマキリの恐怖が拭えない。
森自体が怖い。
今日、今の所、過剰にビクついてドジばかり踏んでる。つまづいてこけたり、弦引いてる途中で引き具が外れて指弾いてメチャクチャ痛い思いしたり、音立ててしまって戦車カラス逃がしちゃったり……。変に緊張して、動作や作業のリズムが微妙に狂う。
アベさんはドンマイみたいな扱いで許してくれてるがそれが一層申し訳なく……すみません、アベさん。朝練までしてもらってるのに。
そう、一つ分かった。剣は腕、手首で振るんじゃなくて体全体でその慣性を制御して「回す」って感じなんだけど、単純なまん丸じゃなくてクロソイド曲線なんだよな。サイクロイドだっけ? 次の剣の軌道をイメージしながら水滴型の曲線で剣を回すと、剣の重さがスピードに乗って、かつそのスピードを無理に殺したりせずに振り回せるっぽい。
それを覚えるための定型動作の練習ってことみたい。
アベさんは流石だ。
ボウガンで戦車カラス二羽と角兎二羽仕留める。
定点設置の罠には、鱗にびっしり覆われたイノシシみたいなのがかかっており、棘棒で一撃して首落として今、血抜き中。
そか、こういう奴には斬る剣より破砕する棘付き棍棒のが有効だわ。
大物仕留めたし、夜明けたら持ち帰って塩漬けかな。
にしてもアベさん、どういうヒトなんだろ?
元騎士は確定な気がする。
それもかなり身分の高い仕事できる騎士だったんじゃないだろうか。人に指示出したり剣技を教える立場くらいの。
気になるのは、街に出た時のリアル騎士団の目を逃れるようなそぶり。
真っ先に思い付くのは、何かの罪で追われてる指名手配犯的な?
でも悪い事する人に思えないんだがな……何かの陰謀でハメられたのか?
アベさんの剣の演武?の見事さ。
振った時の風切り音が俺の剣からするそれとまったく違う。なんつーのかな、太刀筋と刃の向きが完全に一致してるからシッ! って感じの音。俺のはふぉんふぉん鳴る。クロソイドのうねりに合わせて手首の角度を最適に調整し続ける? あの速度で?……厳しいぞ俺には。
一緒に練習するようになってはっきり分かったけど、アベさんは確実に相当鍛練してる人だ。一緒に暮らしても、自分に厳しい清廉な人物としか思えん。うーん……。
今、焚火の番中。
カマキリが怖くて時間経つのが遅ーく感じる。暗闇からヌッとあの無感情な顔と鎌が覗くんじゃないかと……。
ぶるるっ! そしてまた交代のタイミングが分からん。三時間目安? 前回それで別に怒られなかったし、今回も三時間で起こそう。
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