俺この世界の菌に免疫なくね?
……でかいなんてもんじゃねえ。
カマキリ。
昆虫のカマキリ。
俺が元いた世界の奴より気持ちグロい……茶色や緑やごちゃごちゃ混ざったマダラの色味の。でも大きさが……鹿を鎌で挟んでビルの三階くらいの高さまで持ち上げてた。
逆三角の顔は軽自動車ぐらい、全長は小さく見積もってもバス2台分はある。
思わず剣の柄に手をやるがアベさんから再度「動くな!」の合図。アベさんのあんな表情初めて。
鹿はキューキュー鳴きながらもがくが、巨大カマキリは機械的にバリバリ頭から食った。エグい。大量の血がだばだばと雨のように降る。器用に左右の鎌を使い文字通り骨まで。食い終わると鎌で顔や目玉をなでくり回し、チキチキいいながら移動し始めた。
俺とアベさんのいる方に!
太い樹は上手く避け細い樹は薙ぎ倒しながら奴が近づく。
木に身を寄せ屈んだまま息を殺す。
進行方向的におれの近くを通りそう。
勘弁してくれーっっ!
うずくまって俺は石だ、俺は石だ、って念じる。寒気がして鳥肌が立つ。猛烈に小便したくなる。唾飲みたいがなんか上手く飲めない。
木が倒れる音、ガサガサと地面を荒らす音が大音量で迫る。
こ、怖えええっっ!!!
俺が身を寄せる木に奴が後脚を掛け、木が大きく傾いだ。硬直。左手がぶるぶる震えるのを右手で押さえる。
……けどそれが最接近。
音は結構な早さで遠ざかり、森に静けさが戻った。マジかよ……シャレになんないよあれは。いやホント。
アベさん、走って来て大丈夫か? みたいな言葉かけてくれて。
辛うじて笑い返したが震えが止まらない。硬直に筋肉使い過ぎて肩、腰が痛い。
やり過ごせてよかったぁ……と思ったらポロッと涙が。で、急いでちょっと離れたとこで用を足した。いや冗談ごとじゃないよあれは。あんなのがウロウロする森だったの? ここ。
この世界の動物、全体的に元の世界のと微妙に違うけど、今まで目玉ヘドロ以外はなんか生態系の一部として理解できる範囲の、まあ進化論で括れそうな奴ばかりだったが、あんな生き物、物理的に存在可能なのか?
昆虫の甲殻で、材質としてあの巨体の重さを支えられる強度があるのか?
筋肉もそうだ。
俺の理解が正しければ、筋力は筋断面の面積に比例するから、デザインが同じなら巨大になればなるだけ見かけ上は非力になるハズ。アリが怪力なのではなく、小さいからそう見えるだけなんでしょ? けどアイツは実物大のカマキリと似たような手足の太さのバランスで、むしろパワフルにすら見えたぞ?
どうなってんだ? ……この世界。
窓から二つの三日月が並んで見える。
潮の満ち引きとかどうなってんだよ。あんだけ近くで衛星が回ってて、衛星同士なんとかの限界で自壊したりしねーのかよ。物理法則とかも微妙にズレてるのかな……俺の世界と。
んー……。ま、虫系は全体に大き目ではあったんだ。ハエとか親指の先くらいあるのが飛び回ってるし。
帰り道で見かけたアリ。
http://yfrog.com/h04nhzbj
あ、画像は添付できないんだっけ。
……まあアリも人差し指の先から第二関節くらいあるわけよ。けど、それにしても、あのサイズのカマキリって……非常識過ぎないか?
明日も朝練。そして狩り。
もう寝よう。
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